-SIDE ギゼル-
あの敗北(死)から何度も繰り返す世界に私は彼女が存在(いな)い事に絶望する。
ファレナの国を民を家族を愛した孤高の幼き私の女王はどこにもいなかった。
私はどこかで壊れてしまったのかもしれない…
巻き戻された時間は丁度サイアリーズ殿下との婚約破棄した時期だった。
彼女に対しての想いは己の中で決着が付いており特別何か思う所はなかった。
ただ、自分の伴侶だった幼い女王が生まれてない事に落胆する。
コンコン
控えめなノックの音に私は入室の許可を出した。
「ギゼル様、ユーラム様をお連れしました。」
幽世の門の出で私付きにしたドルフに
「ドルフ、有難う。君は下がってて良いよ。ユーラム君、歓迎するよ。」
礼を述べユーラムをソファーに促す。
「久しぶりだね、ギゼル君。僕を呼んだ理由を教えて貰っても良いかい?サイアリーズ殿下との婚約解消についてとは思えないけどね。」
貴族然としたユーラムの態度に私は苦笑を洩らした。
そう、彼は兄の死という出来事さえなければ自分と遜色の無い程に有能な男だ。
先を読むのも彼の得意分野でもある。
「一度、ユーラム君に聞いてみたかったんだ。この国をどう思う?」
今度は私が君という人材を確保して先回りさせて貰おう。
私の問いに彼は少し思案し
「月のない夜のようだと思うよ。」
ファレナ女王家の有り方を非難した。
彼はこの国が危ういと云う事に気付いている。
先を見通す眼を持つ性質は変わらないのだと、私は笑った。
「君はこの先、主に足る王を見つけた時どっちに付くのかな?」
私の敵に回るのか、友として傍にいるのか暗に述べれば
「主ねぇ…君はズルイね。まぁ、此処に呼ばれた時点で退路は用意されてないと気付いてたけど。良いよ、君の云う主足る王が現れるのを楽しみにしてるよ。父上はどうでも良いけど、母上やルセリナに傷一つでも付けたら敵に回るからね。」
呆れたような眼差しで私を見て了承する。
「宜しく、共犯者殿。」
差し出した手を握り返す彼もまた私と同じ共犯者。
早く君に逢いたいよ、リーシャ。
未来の伴侶を想って青年は策を弄する。
例え愚策だ、人非道と罵られようと青年は茨の道を歩みだした。
求めるは向日葵の様に笑う彼女の未来の為…
-SIDE アレニア-
リーシャ様は一人逝かれてしまった。
何度も私は繰り返す。
気付けば過去の世界に戻ってきていたのだ。
でも過去は過去でもリーシャ様が存在しない過去だったり、リーシャ様が亡くなった後であったりと絶望だけが募る。
リーシャ様であって中身はリーシャ様に似付きもしない我侭な子供に何度絶望した事だろうか…
そして18度目の逆行で、私はギゼル様も私と同じく逆行している事に気付いた。
彼もまたリーシャ様を想って逝った人だったから…
18度目が終わり19度目に入って私は真っ先にギゼル様の下へ馳せ参じた。
「また、君も戻ってきたんだね…アレニア。」
苦笑を洩らすギゼル様に
「私はリーシャ様の騎士ですから。」
誰よりもファレナの国と民と家族を愛して一人で逝ってしまった薄情な主を今度こそ捕まえたいと想うのです、と笑う。
「それは頼もしいね。」
そっと細められる双眼は私がリーシャ様の傍にいるのに相応しいか見極めているのだろう。
その視線から逃げずに私は真っ直ぐとギゼル様の眼を見詰め返した。
この男に認めて貰わなければならない。
ゴドウィンという後ろ盾が自分には必要だ。
打算で結構、私が欲しいのはリーシャ様の幸福だけ。
「君は一番最初の騎士みたいだね。歓迎するよ、アレニア殿。」
差し出された手を私は握り返した。
リーシャ様、今度こそ幸せにしてみせます。
貴女の障害になる存在を私は抹消(け)してみせます。
貴女の憂いになる存在を私は排除(け)してみせます。
だから、だから、貴女が愛した向日葵のような笑顔を魅せて下さい。
運命を繰り返す女騎士の願い。
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bkm