「そっか…一月という長い時間を一緒に過ごしてくれてありがとう。幸村君が一生懸命努力している姿が好きでした。荒れた花壇を愛しんで綺麗な花を咲かせてくれた幸村君が好きでした。無理に一月も私に付き合せてしまって御免なさい。」
ハルキを玩んだ一月という長く短い期間に彼女は俺を罵るわけでもなく謝罪と感謝の意を述べた。
そうだ!
ハルキは俺を見てくれる人だったじゃないかっ!
「一緒に過ごす時間があれば少しでも私を見て貰えるかな?って期待しちゃったの。でも、私ではダメだったね。幸村君、全国大会頑張ってね。一月だけど私は凄く楽しかった。ありがとう、さようなら。」
哀しそうに笑う彼女は、その言葉を残して走り去った。
違う!
本当に好きなのはハルキなんだっ!
と叫んで止めたいのに身体は鉛のように動かない。
「あーあ、アイツ呆気なかったね。」
ニタニタと厭らしく嗤う神野に殺意が沸いた。
「もっと壊れるかと思ったのにつまんない!」
人を何だと思っているんだ!?
「でもぉ、精市にご褒美あげるよ。」
腕を絡め胸を押し付けてきた神野の手を振り払った。
思いっ切り振り払った反動で校舎の壁に激突する神野。
「な!何すんのよっ!!私にそんな事しても良いと思ってんの?」
傲慢な言葉に吐き気がする。
「馬鹿にするなっ!」
俺は神野の胸倉を掴んでその平凡な顔を思いっ切り殴り飛ばした。
「ヒィっ、な、なんで?」
鼻血を流しながら怯えた目で俺を見る神野は訳が解らないといった態度にイラつく。
「あ、アイツは逆ハー補正で精市達の気持ちを玩んでたんだ。何で私を殴るの?殴る相手が違うわよ!」
意味の解らない言葉を吐き出す神野の首を絞めた。
死ねば良い!
こんな奴、死んでしまえば良い!
俺の自由を奪い、ハルキを傷付け、それが正当だと声高々に叫ぶ愚者(ばか)はこの世から居なくなれば良いんだ。
神野の首にギリギリと憎しみを篭めて食い込んだ手。
「幸村っ!!」
真田達の手によって引き剥がされた。
半狂乱になって喚く神野と俺を宥める真田達の声が遠い。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる…」
怨嗟の呪詛のように神野に殺意の言葉を俺は吐き続けた。
神野を殺し損ねた事は酷く残念に思う。
次の日には神野の首には俺が首を絞めた痕がなかった。
特に学校側から注意も受ける事無く日々が過ぎていく。
ただ…あの日を境に俺とハルキの接点は無くなった。
俺はハルキと接点をもう一度持ちたくて何度も機会を伺うも神の悪戯か彼女との接点を持つ事は出来ずそのまま中学卒業を迎えた。
そして俺は立海大付属高校へ進学し、ハルキは外部受験したと聞く。
数年後、俺達は大人になり同窓会で再会するも彼女の心に俺は想い出として残っているだけだった。
0時の魔法が解けたその後に残るのは?