シレネ | ナノ




幸村精市は完全に取り込んだ。

それにていも神野の自分はヒロインという妄想からどうやって現実にしてやろうかな?

お前がヒロインになれって?

無理無理。

私はモブだからね!

此処は清純派ヒロインに貢献して貰わないと。

「ハルキちゃん、英語教えてー」

エグエグと泣き付いてくる野々宮ゆいに私は笑った。

良い人材がいるじゃないか!

「仕方ないですねぇ。今日は図書室で勉強しましょうか?」

エグエグと涙目のゆいちゃんの頭を撫でた。

ふふ、王道のヒロインとして舞台に立って貰おう!

英語を教える対価だと思えば何ともないでしょう?

「ハルキちゃん、ありがとー」

ヘニョっと笑う彼女に私はクツリと嘲笑を洩らした。

今から君がヒロインだよ。

神野は怒り狂うだろうね!

あぁ、物凄く楽しみ。

私?

私はヒロインをサポートするモブだよ。

ゆいちゃんの心の欲を対価と一緒に叶えてあげようと思ってね。

あんな濃いメンバーの愛を一身にその身に受ける未来なのだから!

理不尽?

何とでもお言いなさい。

私は自分の身が一番可愛いのだから!





凄い美人な先輩と平凡そうな先輩がいた。

いつも利用している図書室の一角で補修の課題で出されたプリントを埋めようと思ったら変な二人組を見つけた。

一人は俺と同じっぽくて英語に苦戦している可愛い系の美少女。

もう一人は柳先輩みたいに淡々と教えている平凡そうな顔立ちの女の子。

先輩っぽいなぁ…。

「うぅ…ハルキちゃん、スパルタ!」

「ゆいちゃん、手を動かして問題を埋めて下さいね。スペルミスしちゃダメですよ。」

不定詞が〜と細やかに説明して行く柳先輩っぽい人に教わりながら必死でプリントを埋めている先輩に思わず笑ってしまった。

「ムッキィ!」

俺に笑われた事にムカついたんだろうプリントを握り締めている。

やっべと思っても笑って誤魔化す事しか出来なくて

「ゆいちゃん、威嚇しちゃダメですよ。そこの少年も勉強ですか?」

ニッコリと笑顔を浮かべる先輩に

「う…はい。」

渋々と頷いた。

「ダメ!ハルキちゃんは私の先生なんだから!」

まるで子猫がフーフーと威嚇する雰囲気を醸し出す先輩に

ハルキちゃんと呼ばれた先輩が呆れた顔をして

「ゆいちゃん、その発想はどうかと思いますよ?」

はぁ、と溜息を吐く。

何か新鮮な反応。

自慢じゃないけど俺や先輩達はモテる。

自分から告白しなくても言い寄って来る女は数多くいるし、アイドルグループみたいにチヤホヤされるなんて日常茶飯事だ。

でも目の前の二人はクラスの男子生徒もしくは男子の後輩程度のノリだ。

神聖視されたいわけじゃないから余計に新鮮だった。

だから

「あの、俺も勉強見て貰えますか?」

面白い二人と一緒に時間を過ごしてみたいと思って出た言葉。

美人な先輩は思いっきり顔を歪め嫌そうな顔をし、平凡な先輩はニッコリとお母さんみたいな笑顔で

「嫌(や)だ/良いですよ」

正反対な返事をした。

自己紹介を済ませハルキ先輩は、ゆい先輩を上手に丸め込んで俺を交えて勉強する事になった。

ハルキ先輩の教え方は凄く上手で大っ嫌いな英語がスラスラと解けるのに感動したっけ。

その話をゆい先輩にしたらハルキ先輩の自慢をキラキラした眼で語られた。

何か凄く可愛い人だなぁって思う。

神野も可愛いんだけど何だか違うんだ。

何だろう…

この疑問が大きな波乱の幕開けになるとは俺は予想もしてなかった。





今回のターゲットこと切原少年は上手くゆいちゃんに関心を向けてくれたようだ。

あははは、良いねぇ。

青春ってか?

神野の逆ハー補正は私の周囲であれば切欠一つで脆くなるのだよ?

強制的な愛と手順を踏んだ愛だとどっちが強いかな?

ふふふふ、神野マリア!

早く気付かないと手遅れになってしまうよ?

だってヒロインは野々宮ゆいなのだからね。

きっと切原は補正の歪みとゆいちゃんの間で揺れ動くだろうね。

壊れてしまったら?

その時は理不神が笑うだけさ。

次は誰にしようかな?



<今回のターゲットは切原少年ですのね。巡り始めたシナリオはクルクルと元・語部少女の掌で紡がれるのでしょう。ふふふ、神野マリアさん、おちおちしていらしたら喰われてしまいますわよ? 著者:語部少女>




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