神子、神子と嘆く白龍を私達は冷めた目で見ていた。
人が神を殺せば神殺しになるが、神が神を殺す事は罪にはならない。
しかし私はそれではツマラナイと感じたのだ。
簡単に死なせてやるものか!
浅墓にも無知な小娘に時空を跳躍する力を与えたのは頂けない。
“繰り返し”が神の意思で行うのならまだ許容範囲内だが、人の身の分際で“繰り返し”をするなど到底赦される事ではなかった。
だから敢えて白龍が一番苦痛だと思う殺し方にした。
「どうして?どうして神子が死ななくてはならないの?」
ポロポロと涙を流す白龍に望美の幻影が
「白龍は私に生き返って欲しいの?」
甘美な言葉を紡ぐ。
幼いといえど数百年も生きた龍なのだ。
考え方が幼いだけの神など不要。
幻影に惑わされた白龍は
「神子が生き返ってくれるなら…」
泣きながら幻影に縋った。
民が八葉がこのような未熟な神を崇めていたのかと失望の色を隠せない。
「じゃあ、白龍の逆鱗を頂戴?」
ユックリと白龍の喉元にある逆鱗に手を伸ばす望美の幻影に白龍は一瞬だけ悲しそうな顔をし
「それが神子の願いなら…」
と受け入れた。
望美に逆鱗を毟り取られた白龍が見たのは、悍ましく醜い自分が愛した白龍の神子。
これでやり直せるとハルキに勝ったのだと嘲笑(わら)う白龍の神子に絶望を抱きながら白龍は命を落とした。
《天(あめ)姫様、巧く行って良う御座いました。》
望美の幻影を作り出していた阿邪美能伊理比売命(あざみのいりびめ) は忌々しい龍を消した事に満足している。
《“繰り返し”など悍ましい力を持つのならそれなりに管理すれば良いものを頭の足りない小娘を溺愛し力を与えるなど絶望を味わって貰わねば気が済まぬと思いませぬか?》
絶望で散り散りに消えてしまった白龍をまだ赦せてないのだろう。
阿邪美能伊理比売命(あざみのいりびめ) は
《後は私にお任せ下さいませ、天(あめ)姫様。》
艶やかな笑みを浮かべて笑った。
私が承諾すると彼女は、この世界に住まう全ての存在に白龍と白龍の神子の愚かしさを“繰り返し”の記憶で見せ付けた。
もう誰も龍を神だと崇める事はないだろう。
こうして白龍とその神子はは悪神と傲慢で愚かな神子して後世に名を残す事になった。
<最愛の神子に殺されるのであれば幻影でも本望だったことでしょう。それにしても阿邪美能伊理比売命(あざみのいりびめ)は徹底してますのね。信仰心がなければ神の力もなくなり消えてしまいますわ。神としての位は無いのでしょうが… 著者:語部少女>