絶望を君へ
自分が見捨てた彼等から見捨てられる気分はどんな気持ちだい?

私を守るように白龍の神子に刃を向ける元・仲間達。

黒龍の神子も黒龍も“繰り返し”をした記憶を思い出し、罪の重さに嘆いた。

「どう、して?私は皆を助けようと思っただけなのに!!」

悲痛に叫ぶ白龍の神子に

「自分の良い様に歴史を変える事がですか?」

弁慶が嫌悪と憎悪を雑じえ突き放す。

「望美、貴女がした事は神々の怒りを買ってしまったのよ。もう応龍は存在しない。京を加護する神はいなくなってしまったわ。」

ポロポロと涙を流しながら訴える朔に

「そんな筈は無いわ!だって白龍だっているじゃない!」

見苦しい言い訳に

「いいえ、白龍は貴女の手で殺されるのよ!私が愛した黒龍も生じる事も出来ず、転生する事も許されず待つのは消滅だけ!人を世界を神々を敵に回した代償を支払わなければならないの。」

勿論、貴女の対である私にも言えることなのだけれども…

朔は悲痛な声で望美に訴えた。

対である彼女の言葉すら届かない現状に敦盛が静かに口を開く。

「お前がリズヴァーンが“繰り返し”を行う度に見捨てた世界と仲間達や神々の絶望がまだ理解出来ないのだな。」

錫杖を突き付け

「ハルキは天譲日天狭霧国禅月国狭霧尊 (あめゆずるひあめのさぎりくにゆずるつきのくにのさぎりのみこと)だ。その神であるハルキを傷付けた罪は重い。」

望美と白龍を薙ぎ払う。

外見に似合わず力は八葉の中で一番強い敦盛。

容赦の無い一撃に彼女達は意図も簡単に吹っ飛んだ。

血を流す彼女達を一瞥し

「もう時空を越える白龍の逆鱗は使わせない。」

望美が首から提げていた白龍の逆鱗を奪い錫杖で砕く。

声にならない悲鳴を上げた望美に敦盛は、その場には似つかわしくない笑みを浮かべ

「今度は私達がお前を見捨てる番だ。」

と宣言した。

誰かと助けを求める望美をその場に居る誰もが冷たい眼で見ている。

誰も助けてくれないと理解するのが嫌なのか…

それとも理解したくないのか、望美は

「嘘!うそ!ウソ!私は白龍の神子なのにどうして!?どうして誰も助けてくれないの?白龍!白龍!早く時間を戻して!!」

錯乱し喚き散らした。

何と無様な事か、こんな小娘を神子と崇めたのかと人々は怒り呆れる。

「望美、私達は罪を償わなくてはならないわ…」

静かに固い決意をした朔が望美に近付く。

望美は朔がこの状況から助けてくれると信じていた。

朔は美しく悲しい笑みを浮かべ

「貴女は私の半身であることが罪だった。私は黒龍を愛し倖せの時を過ごす事が出来たけれども黒龍の消滅を知らずに“繰り返させられていた”のね。」

グサリと短刀が望美の胸に深く刺さる。

ジワジワと止め処なく零れ落ちる血と体内から逆流するように口から血を吐いた。

何故と語る望美の瞳に朔は

「私も共に罰を背負うわ。ハルキさんに許しを乞える資格すらないけれど少しでもハルキさんの心が軽くなれば良いの。元凶である私と貴女が消えればそれで世界は救われる。」

望美を刺した短刀を抜き自分の首筋に当てて動脈を切る。

噴出した血が望美と朔を紅く彩った。

「ハルキさん、ごめん…な、さい…こく…ゅう…あい、し…る……」

血と同じく零れ落ちていく命を止める術はなく、朔が私を殺す事に怒りと疑問とハルキに対する怒りがあった。

朔の死により黒龍と朔の魂は輪廻へ戻り、瀕死になっても己の愚行を省みない望美に

「最早世界の理を狂わせた罪人が朔に触れないでくれるかな。」

景時が望美に向って銃を放つ。

深く刺された傷と銃の攻撃で瀕死の状態の望美は白龍に手を伸ばすが、白龍は目を閉じて被りを振った。

自分には何の力もないと…

その時、初めて望美は絶望を知る事になる。

知ったとしても待つのは消滅だけなのだけれども……

自らが行った“繰り返し”と同じように絶望を繰り返して消滅(し)ぬことを強要された白龍の神子。

白龍の神子が事切れて、一人誰にも分からぬように薄く笑った。



<神の威光を恰も自分の物のように振舞った愚か者には丁度良いかもしれませんわね。死を絶望を悲しみを“繰り返させられた”者達以上の苦しみを味わって頂きませんと納得いきませんわ。同等以上のモノで釣り合いが取れるのです。 著者:語部少女>



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