白龍の神子と白龍を周囲の人々は憎悪と殺意の篭った眼で見ていた。
京を見捨て一人の小娘だけを守護する神に失望した民の怒りが!
神の威光を嵩に好き勝手に絶望だけを与える血と欲望に塗れた穢れた神子に憎悪が湧いた。
静観していた神々もまた怒りに湧いた。
最古の神であるハルキを血に染めたのだ。
不老であるが不死ではない。
神殺しの手順を踏めば最古神であるハルキとて例外無く命を落とす。
そして白龍の神子がした愚行は、正に神殺しの一歩手前なのだ。
辛うじて一命を取り留めたハルキに対し
「どうして死ななかったのかしら?」
と呟いた白龍の神子に“繰り返し”を強要された存在(もの)達は武器を手に龍神の神子と白龍を取り囲んだ。
春日望美にすれば自分を守ってくれる筈の八葉がどうして武器を自分に、白龍に向けているのか理解出来ていないのだろう。
「失望した。」
九朗の切って捨てる言葉に続き
「えぇ、本当に…こんなのが龍神の神子とは、神も落ちたものですね。穢れた神子が京を救えるとでも?」
冷笑を浮かべ射抜くような眼で毒を吐く弁慶。
「自分の好きなように未来を過去を変えていくお前は何様なんだい?あぁ、白龍の神子様か…生きてる人間を馬鹿にするなっ!」
フェミニストであるヒノエが激昂した。
「春日先輩、貴女には失望しました。」
恋心を持っていたからこそ私利私欲で“繰り返し”を彼女を許せないのだろう。
男を侍らしたいと思っている望美の想いに気付いてしまったのだから失望も幻滅も彼等の中では一番大きいのではないだろうか…。
「お前は神様になったつもりか…お前が死ねば良かったのに……」
過酷な運命だったのだろうと頭で理解していても心では割り切れない。
見捨てられた世界、見捨てられた民、見捨てられた仲間を思えばこそ大事だった幼馴染が許せないと将臣が零した。
「望美ちゃんは、僕等を思ってたんじゃない。自分だけ大事だったんだね。」
悲しそうに苦しそうに望美を見る景時に朔は眼を伏せて
「私は貴女の対である事が誇らしかった。でもそれは違ったのね…今は貴女の対である事が恥ずかしいわ。」
後悔と懺悔をするように涙を流した。
望美は何処で間違ったの?
皆を救いたいと願ったのに!
と叫ぶが望美を見る彼等の眼はどこまでも冷たかった。
「ねぇ、望美…貴女はハルキさんが中心になる事を疎んでいたわ。時々冷たい眼でハルキさんを見ていたのは知っていたけれど、どうして殺そうとしたの?」
誰よりも優しい人を!
と朔が責める。
「ハルキさんは、源氏でも平家でもなかった。でも和議に尽力し、荼吉尼天を倒すのを手伝ってくれたのに!!」
黒龍の神子は嘆いた。
そして片割れである黒龍も慟哭のように白龍と白龍の神子を責めた。
朔の言葉を伝い黒龍は望美と白龍に向って攻撃を放つ。
誰も朔がした行動を咎める事は無かった。
何故なら彼女も裏切られた一人なのだから!
片割れの神子と龍の慟哭を彼女達はどう受け止めたのだろうか?
<とばっちりとは良い迷惑ですわね。黒龍とその神子は半身である彼等の咎を受けねばならないのだから!理不神?そんな事はありませんわ。何故なら何度も不審な場面を目撃しながら彼女達は見過ごしたのだから同罪でしょう。 著者;語部少女>
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bkm