-SIDE ハルキ-
たらたらと落ちる雫は紅い小さな水溜りを作った。
鉛の鈍い彩(いろ)をギラギラと煌かせ、刀身は柔らかな身体に収まっている。
身を焦がすような熱に切れてしまいそうな痛みにハルキは誰にも悟られぬように小さく嘲笑った。
コポリ
コポ
こぽ
逆流した血(あか)と悦の雑ざった吐息が唇から零れた。
ハルキ
ハルキ
ハルキ
呼ばれる名前と比例して白龍の神子の名を呼ぶ者は減っていく。
あぁ、神々が怒りを露にしているよ。
時空を何度も越えた元凶であるその逆鱗はガラクタ同様になってしまったね。
まだ神子も龍も気付かないのかい?
私が流す血に比例してお前達の力が無くなっていっていることに気付かないのだろうか?
「ハルキっ」
そろそろ器(からだ)が限界みたいだね。
呼ばれた名前に私は歪んだ笑みを零しながら眠りに落ちた。
-SIDE 敦盛-
罪を犯した龍神とその元凶である神子を葬るのが私とハルキの間で交わされた契約だった。
本当なら死を迎え、この世には存在するはずも無い私なれど、ハルキに生かされたのだ。
どうしても死にたくないと願った私の願いを彼女は聞き届けてくれた。
白龍の神子を京で見かけた時、私の胸に落ちた墨汁のように黒い気持ちに納得する。
だから私が選ばれたのだと!
白龍の神子と龍神が犯した罪とは何か理解してはいなかったが、神が神の領域である理を人が曲げたのだ。
そして一つの仮説に辿り着く。
曲げた理が自分に何らかの影響を及ぼすもので、立場を考慮すれば自ずと視えた。
自由自在に現在と他の過去を片道で行き来する白龍の神子は、その世界にいる私を含め八葉と呼ばれていた人達を兵を民を見捨てたのだ。
あんな小娘に縋って勝利を信じていた違う世界の自分に自嘲が漏れる。
白龍の神子は八葉を自分の物だと思っているのだろう。
何て滑稽な話だろうか?
ちやほやされたいだけの女が神子だとは世も末だろう。
ハルキのような最古神も規格外だが、あの女は悪い意味で規格外だ。
ハルキは、着実に八葉の中心へ収まっていく。
それは神子と龍を排除する為の布石だと言う。
ハルキに群がる害虫に辟易したが、それだけ彼女は魅力的なのだろう。
そう、鍍金で張りぼてされた白龍の神子が日本最古の神であるハルキに敵う筈が無い。
格の違いが分からない神子は愚かにもハルキを血で汚したのだ!
沸々と神子と龍に対する怒りとドス黒い気持ちが私を支配した。
倒れたハルキを腕に抱き必死にハルキの名前を呼びかける。
「敦盛さん…どうして??」
呼ぶな!
お前如きが私の名を気安く呼ぶな!
自分の味方にならない私という存在に傲慢な神子と龍は何を思ったのか…
ただ一つ言えるのは、ハルキの流した血(あか)で染まった手こそ罪の証だと言う事。
<アナタなら罪と罰ならどちらを取るのでしょうか?ふふ、神子は罪を選んだようですわ。龍はどちらを選ぶのでしょう? 著者:語部少女>