落ちぶれた神子と神
黒龍の神子は憐れだと思う。

あのような浅はかな娘が対だということに同情はするが、助けてやろうとは思わない。

何故なら黒龍も彼の少女を愛したのだから。

ただ一つ違ったのは、与えた力が許容範囲内であったというだけの事だ。

応龍になる彼が人と交わった時点でアウトではあるが。

私の隣で神子達を眺める敦盛の眼は冷やかだ。

それもそうだろう。

死の間際に私と契約した際に彼は幾度と繰り返された絶望の記憶を持つのだから!

特に白龍と白龍の神子は赦しがたい存在だろう。

「敦盛、彼女達をどう思う?」

私の問い掛けに彼は

「愚かしい。生きる者達を馬鹿にしているのか?」

憎悪と嫌悪が入り混じった声音にクツリと私は笑った。

「そうだね。落ちぶれた神子と神を拝みに行こうではないか!」



*********


幾度となく“やり直し”から戻ってきた彼女は、予定調和のように時間を進めていく。

その遣り取りを私達は二人で傍観した。

京に入り神泉苑で雨乞いの儀式があるという。

確か春日望美は此処で雨乞いの儀式を行い九郎義経を筆頭に神子としての信頼を少しずつ得るのだ。

京を守護する龍神の神格が奪われた事で、この京で一番力があるのは高龍神(たかおかみのかみ)だろう。

水神でもあれば、気位も高く少々扱い難い。

何度も“繰り返し”をさせられた鬱憤として雨乞いの儀式を邪魔ぐらいはしそうではあるが…。

白拍子が舞殿に上がり舞を舞うが今一つであった。

この程度の舞で神が満足すると思っているのだろうか?

次々に舞っていく白拍子達、しかし一向に雨は降らない。

そして白龍と黒龍の神子が呼ばれた。

黒龍の神子は舞う事を拒絶し、白龍の神子は嬉々として舞殿に上がる。

自信満々な彼女の舞が如何程なのか楽しみだ。

春日望美の舞は、正直に言えば白拍子に毛が生えた程度だった。

こんなのでよく白龍が力を貸したものだ。

呆れて物が言えない。

それでも春日望美が白龍に呼び掛け雨を降らすように願えば、白龍は望みを叶えようとした。

残念だがそんな身勝手な事をさせるわけにはいかない。

《愚かしい。実に不愉快だ!理を曲げて雨を降らせようとは神を馬鹿にしているのかっ?》

白龍の神子に届くように語り掛ければ彼女は驚いた様子で

《貴女は誰!?どうして白龍じゃないの??》

無様に調子を崩した。

《穢れた神子が、舞っても無様なだけよ。そうそうと往(い)ね!》

一方的に白龍の神子との会話を終了させる。

白龍の力目当てに舞った穢れた舞で雨を降らせようとは、ね。

余りにも愚か過ぎて笑いが込み上げた。

表情の暗い春日望美は私の声に惑わされ舞が終った後も呆然と立ち尽くしている。



********


その夜、私と敦盛は神泉苑にいた。

敦盛の笛の音に合わせて私は舞う。

理不神に押し付けられた日本最古の神である天譲日天狭霧国禅月国狭霧尊 (あめゆずるひあめのさぎりくにゆずるつきのくにのさぎりのみこと)である私の力を高める為だ。

緩やかに艶やかに桜と共に舞う姿を魅せるのは私の役目。

水神である高龍神(たかおかみのかみ)を呼び京一体に雨を降らせ浄化させるのだ。

何ちゃって神様なのだから自分でしろよと言われそうだが、舞うだけでも面倒臭いので雨を降らすのは下僕の役目というものだ。

チリン

チリン

チリン

涼やかな鈴の音に誘われて高龍神(たかおかみのかみ)が降りてくる。

《天(あめ)姫様、お呼びでしょうか?》

頭を垂れる高龍神(たかおかみのかみ)に私は

「京一体に雨を降らしておくれ。対価は神泉苑の水を使えば良い。」

雨を降らすように命じた。

高龍神(たかおかみのかみ)は

「御意」

龍となり京一体をグルリと巡ると神泉苑の清浄な水を使って雨を降らす。

2〜3日は恵みの雨が続くだろう。

私を見ている者がいる事に気付きながら敦盛を連れてこの場を去った。


どちらが清廉に見えるだろう…ねぇ、白龍の神子殿?


<過信し過ぎた力は、所詮紛い物だと気付かない神子様が元・語部少女はどのように絶望を与えるのでしょう? 著者:語部少女>



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