木花咲耶姫 | ナノ




布椎家は、まさに城でした。

お出迎えしてくれたのは、布椎闇己の姉にの布椎寧子。

横でデレっとしている健ちゃんの鳩尾にパンチを入れ挨拶をした。

「不躾で済みません。七地サクラと申します。隣にいるのが兄の健生で、後ろにいるのが江馬先輩です。本日、東京から来た劇団員の者ですが…」

先に来た三馬鹿が迷惑を掛けてませんか?

と出掛かった台詞を笑顔で飲み込んだ。

「他の方はもうお着きになってますよ。」

ニコニコと笑顔の美少女に惚れっぽい健ちゃんの顔が少し紅い。

「あ、もしかしてさっき踊っていた巫女さん?俺達、お祭りで見てたんだ!!てか、近道でもあるの?」

興奮気味に寧子に詰め寄る江馬さんに寧子は一瞬キョトンとした顔をした後、苦笑を漏らし

「私じゃないの。私の弟の闇己が舞っていたのよ。」

と答えた。

何気に寧子の両手を握っている江馬さんにセクハラと突っ込みつつ、踊っていたのが男と知ってショックを受ける二人。

そうだね、あんな美人なんだもの。

納得してない二人に

「うちは代々この辺りの神社を纏める巫女の家系なんです。今は道返神社だけですけれど。父が言うには、本来巫女って性別が不明なんですって。だから反対の装束を着けるのね。私が舞う時は男装するんですよ。」

苦笑しながら親切に説明をした。

「白拍子とかも古代巫女の流れを汲んでいるんでしたよね?」

ふと思い出して聞いてみると寧子はビックリした顔で

「よくご存知ですね。こういうのに興味があったりするんですか?」

と尋ねられた。

私は自分の生命の危機回避の為とは言えず

「昔、京都の親戚の伝で白雲神社の奉納の舞を勤めた事がありまして、それで少々知識があったので。」

苦笑いして答えた。

そうこうしている内に三馬鹿が寛いでいる部屋へ通される。

「おっそーい!何やってんのよー待ちくたびれちゃったわ!」

愚痴る戸田さん、口には出さないが雰囲気で遅いと言っている重松さんと北野。

「さっさと自分等だけで休憩して遊んでいた癖に!!」

と怒る江馬先輩に温厚な健ちゃんも同意した。

二人を宥めながら案内された部屋へ入ると壮年の男性が上座に座っていた。

彼が布椎家当主なのだろう。

よくこんなチャラい劇団モドキに宿泊を許可したなぁ…と少し呆れ関心した。

「道返神社を見学なさっておられたとか?」

健ちゃんは

「はい。凄いですね、何だかピンと張り詰めた感じがしました。」

純粋に感想を述べた。

「お父さん、この人達ってば私と闇己を間違えたのよ。それにサクラさんは白雲神社の奉納の舞を舞った事があるそうなの。」

悪戯っ子のように海潮さんに告げ口する寧子に私は引き攣り、健ちゃんと江馬さんはバツの悪そうな顔をした。

何気に意地が悪いなコイツと思ったのは致し方ないと思う。

「サクラさんの舞も見てみたいものだ。しかし闇己が女性に見えたのも無理もないこと。闇己は神がかりをしていたのですから。」

海潮さんの言葉に

「神がかり?」

その手に疎い彼等を代表して健ちゃんが質問した。

「舞というのは儀式によって入神し、普段の彼とは別人になるのですよ。そうですね、劇団の皆さんが劇をする際に化粧をして別人になるのと同じ事です。巫覡もまた変身する…そう大差ありません。」

時期布椎家の宗主である以外は唯の剣の好きな少年だという海潮さんに私は溜息を吐いた。

海潮さんは、もしかしたら布椎闇己を理解していないのかもしれない。

私が口を出す問題ではないのだけれど、このままでは危うい感じがした。

話が私を余所に盛り上がっている内に

「失礼します。」

凛とした声が響く。

「噂をすれば…入りなさい。」

スッと開かれた障子から闇を纏う青年がいた。

懐かしい感情が私の心を支配する。

「ただ今帰りました。」

美少年という言葉が似合う彼こそが布椎闇己なのだろう。

「ようこそいらっしゃいました。」

威圧感を隠す事の無い闇己の仕草に私と健ちゃんを除いた彼等がビクリと肩を震わせた。

ビビってどうする!

と突っ込みを北野に入れたい。

闇己に関しては健ちゃんがこの劇団の責任者と勘違いされているのかギロっと睨んでいた。

健ちゃんはジロジロ見たのが不愉快だったのかも?とかきっと見当違いな事を考えているのだろう。

「闇己、明日はこの辺りの史跡などを案内して差し上げなさい。」

海潮の言葉に

「しかしまだ神事が……」

異議を唱える彼に

「今日の宵宮の奉納舞でお前の役目も終った。あとはわしの神事のみだ。」

遠回しだが闇己に案内させる事で神域に立ち入らせる事がないように手配したのだろう。

北野は、それが理解出来てないのか

「僕達は大丈夫ですよ。この辺りの地図も持ってますので自分達で何とかなりますし。」

自信満々に案内を蹴った。

海潮さんの空気が固くなったのに気付かないのか?

「お気になさらず。遠方よりのお客を持て成すのは当然のこと。良いな、闇己。」

海潮さんの命令に

「……はい。では、明朝お迎えに上がりますので…失礼します。」

了承し、退出した闇己に私は幸先暗いなぁと思った。

服従の中で強い反発を示した彼が健ちゃんに鬱憤を向けるのは確定事項だ。

彼の中では健ちゃんがリーダーだと思われているのだから!




部屋割りはハッキリ言って最悪だった。

バミューダトライアングルは健在なのか!

っていうか、険悪な戸田さんと重松さんと一緒に過ごすなんて無理だよ!

良いな、健ちゃんと江馬さんは戸田さんと重松さんと一緒じゃなくて!

本当に毛布と車のキーを借りて寝るしかない。

幸い車のキーは江馬先輩が持っているから後で借りに行けば良いし、毛布を借りに行かないと!

サッサと風呂に入って私はお手伝いさんを探した。

途中、私の後ろをフヨフヨと憑いて来る幽霊に辟易しながら先に進むと

「それ以上進むな!小川が流れているぞ。兄妹揃って同じ行動を取るんだな。」

闇己が警告を発した。

てことは何かい?

もう健ちゃんに会って虐めた後だったんだね。

「アンタ、視えているんだろ?兄と違って慌てないんだな。」

闇己は珍獣でも見るような目で私を見た。

「幼少の頃から視えるから慣れたかな。それに私に害を成すことは無理だから。」

だって健ちゃんの傍にいれば勝手にどっか行っちゃうからね。

「ふぅん…」

納得したのか分からないが彼は興味が逸れたとばかりに踵を返した。

この時、闇己を引き止めて毛布の在り処を聞けば良かったと直ぐに後悔する事になる。



私の闇己への第一印象は最悪だった。




- 6 -



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -