木花咲耶姫 | ナノ




厚化粧の戸田千夏さん、冴えない感じの重松波留子さん、そして女癖の悪い健ちゃんの先輩である北野。

この三人のバミューダトライアングルは、とてもキツかった。

健ちゃんと一緒に東京へ帰れば良かったと思っても後の祭り。

レンタカーの中では北野の蘊蓄から始まり、戸田さんと重松さんの陰険勝負に正直辟易した。

布椎家に挨拶するのを口実に適当に休む事を宣言している北野に健ちゃんは

「俺がお祭りの写真を適当に撮ってきましょうか?」

な〜んて申し出てくれちゃったので、私も付いて行く事にした。

車で先に布椎家に向った三馬鹿を余所に江馬先輩が

「お人よしも程ほどにしとけよ。アイツ等が先に休んで、何で俺達が行くわけ?」

健ちゃんにブーブーと文句を言う。

尤もなお言葉だよ。

「江馬先輩もサクラも北野さんと一緒に先に行ってて良かったんですよ?俺が引き受けたんだし…」

健ちゃんの言葉に江馬先輩が

「だーかーら!あんな泥沼のバミューダトライアングルの中に居たら胃に穴が開くつーの。それにサクラちゃんがお前と一緒に来たのはお前が心配だからだろ!」

私の髪をクシャクシャと撫でズンズンと健ちゃんを置いて歩いて行った。

そうだよねぇ…

私だったら胃癌になるかなーって思うよ。

前世の記憶が無くてもさぁ。

道を進むに連れて人気が無くなっていく。

小さな山道に鳥居が立てられていた。

「なぁ…あれが地返神社?」

ポツリと呟かれた江馬先輩

「何か不気味を通り越して怖いですね。」

フヨフヨと彷徨う霊達にウンザリとしながら私は答える。

隣にいる健ちゃんも異様さを感じ取ったのか表情は固い。

しかし写真を撮りに行くと約束した手前、手ぶらで帰れる筈も無く鳥居を潜って地返神社へ向った。



多くの人が集まっているにも関わらず不気味なほど静寂。

夜店もテキ屋もない異様な祭りに二人は唖然としていた。

私も知識では知っていたが、此処までとはと溜息を吐く。

健ちゃんが近くにいた住民に

「今から何かあるんですか?」

と尋ねると

「巫女様の奉納舞があるんだよ。」

素気なく返された。

奉納舞と聞いて江馬先輩が喜びながら

「巫女さんが踊るならカメラで撮影しなくっちゃな!!」

といそいそと準備をしている。

それを見て

「神事なのに良いんですか?」

と諌める健ちゃんに

「別に構わないんだろー」

と陽気に返した。

あまりにも異質な静けさといつもなら漂う霊さえも見当たらない不自然な光景に私は健ちゃんの裾を握る。

静寂を破るように打たれた大太鼓、そして流麗に流れる笛の音に合わせて巫女が舞いを舞った。

美しいと思うと同時に怖いと思う。

彼が布椎闇己その人なのだ。

神を降ろすのではなく、禍々しい何かが念なのだろうか?

カタカタと健ちゃんの裾を握る手が震えた。

恐怖とそして少しの懐かしさに。

「おい!七地もう神事は終ったぜ。いつまで見惚れてんだよー」

陽気な江馬先輩の声に私と健ちゃんは我に返った。

きっと健ちゃんも彼の後ろにいる何かに気付いたと思う。

あのピリピリとした緊張感のある静寂なの中で撮れた写真は一枚だけだったそうだ。

こうして私達は布椎家へ赴く事になるのだが、実際目の当たりにすると何処の城だよ!

と突っ込んでしまったのは致し方ない事である。





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