集合場所には江馬先輩しかいなかった。
隣で刀を持ち歩いてゼーハーとヘバッている健ちゃんを見て
「交代で持ったら良かったのに…」
と言えば
「女の子にこんなの持たせるわけにはいかないだろ!」
と怒られた。
ここで文句を言えば、サクラは女の子なんだからとクドクドと説教されるのが落ちなのでハイハイとスルーする。
「お久しぶりです。江馬さん、夕香ちゃんは元気ですか?」
最近逢ってない年下の友人を思い浮かべた。
本来なら彼女こそが健ちゃんの妹になるはずだったのだ。
江馬先輩の妹として存在している事は嬉しいが、如何せん私に懐き過ぎた。
しかも男嫌いが激しく女子中学校に通う徹底振り。
一緒に遊びに行けば必ずナンパやスカウトされる始末で、それが嫌で段々男嫌いになったのだとか…
「サクラちゃん、綺麗になったねー!うちの夕香にも見習わせたいぐらいだよ。今度二人で遊びにでも行かない?」
社交辞令の言葉に
「江馬先輩、サクラにチョッカイ出さないで下さい。ブチのめしますよ。」
奉納する太刀で江馬さんを殴る健ちゃん。
「……相変わらずシスコンだな七地。」
殴られた頭を撫でながらブツブツと文句を言う江馬さん。
「それより北野先輩はどうしたんですか?」
サラリと話題転換する辺り健ちゃんは良い性格していると思う。
江馬さんは北野先輩と聞いて嫌そうな顔で
「女達とレンタカー借りに行ったよ。ありゃ病気だね。」
現状を忌々しく報告した。
「やっぱりあの二人連れて来ちゃったんですね。というか、よく幽霊部員だった先輩が承知しましたね。」
北野という人物に対し呆れたという顔をし、今回のアルバイトに関して江馬さんが了承した事に疑問を浮かべる健ちゃん。
「あのね、北野先輩は健ちゃんが心配だったから受けたんでしょ?あの醜い三角関係のど真ん中に健ちゃん平然としていられる?」
ビシっと指摘してやると健ちゃんはウっと心底嫌そうな顔をした。
「ま、出雲に取材って聞いてたから出雲大社とか温泉とか色々と期待してたのによー名も知らぬ辺鄙なド田舎だぜ?ガックリだよ。」
心底ガッカリした顔をする江馬さんに
「出雲は出雲でも古代出雲の取材だよ。観光地に行っても何もならないだろ?」
インテリ風の眼鏡を掛けた青年が苦笑する。
コイツが北野か…胡散臭いとしか言い様がない。
「初めまして、七地健生の妹のサクラと申します。兄がお世話になってます。」
というか兄がテメェの世話してんだろと思いつつも外面用の笑みで挨拶をした。
「ほう、綺麗な子じゃないか!18になったら僕の劇団へ来ないかい?」
値踏みするような視線から健ちゃんが私を背に隠す。
「サクラを勧誘するのは止めて頂けますか?」
普段温厚な健ちゃんの背後に夜叉が見えた。
笑顔なのに眼が笑ってない。
引き攣った顔をした北野さんは苦し紛れに
「そ、そうだね。そういえば、その刀は奉納して来いってお父さんに言われた物かい?」
話題転換をした。
健ちゃんは、刀を抱え直し
「行く先の神社が布津主神(ふつぬしのかみ)と素戔嗚尊(スサノオノミコト)を祭っていると言ったら布津主は鍛冶の神様だから丁度良いと。」
奉納して来いって言われたんですよね、とサラリと言う。
「それって年代物だったりするの?」
江馬さんの言葉に
「ええ、祖父の形見で相当古い物です。」
私が答える。
「ふーん、見てみたいなぁ。」
能天気というかKYな北野の言葉に
「ダメですよ。絶対に抜くなってキツク言われているんです。鞘は一度作り直してはいますが、中身まではどうなっているか…錆びているかもしれませんね。」
言外にお前は及びじゃないんだよと告げているのだが、馬鹿なのか
「父が見たら欲しがるだろうなぁ。骨董品を集めるのが趣味なんだよ。」
と自慢話を始めた。
健ちゃん、江馬さんと私は白い眼で北野を見たが彼は気付かない。
後に北野の彼女達と合流し、維?谷村(いふやむら)へ向う事となった。
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