鬼哭の辻
あの忌まわしい事件から一ヶ月が経過した。
闇己からの連絡は一切ない。
その事について健ちゃんがヤキモキしていたが、四十九日が済んでから電話すれば良いじゃないということで話は纏まった。
そんな矢先、昔世話になった神主さんから連絡があり奉納舞をしてくれないかと依頼の電話。
潔斎や禊など幾通りの手順を踏んで奉納の舞を治める事が面倒なことこの上なかった。
維?谷村(いふやむら)での出来事を思い出して返事を渋ってみるも他の舞い手が見つからないと泣き付かれる。
霊症に悩まされた時に色々と対処法を教えてくれた恩人でもあるので、私は仕方無く了承した。
奇しくも時を同じくして、建ちゃんも京都の親戚に会う事になったらしい。
京都の老舗旅館に婿入りした叔父は結婚して2年足らずで失踪したという。
親戚一同が集まる中でほぼ絶縁に近い健ちゃんが行けば針の筵決定だ。
正直、他の事もあるし行かせたくないのだけれど人の良い健ちゃんはバイトを休んで京都へ行く事にした。
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京都にある大豊神社での奉納舞を済ませた私は思いも因らぬ人物と遭遇する。
何で此処に闇己がいるんだ!
しかも後ろに健ちゃんが控えているじゃん。
もしかして見られた?
あの拙い奉納の舞を!
一気に沈む私の気持ちを余所に
「橘、凄く綺麗だったよ!!」
どこか興奮したように目をキラキラさせて褒めちぎる健ちゃん。
健ちゃん、身内贔屓が激しいよ。
「ズブの素人よりは上手かった。」
何て微妙な感想なんだ、闇己。
ヒクっと顔が引き攣った。
そりゃー本職の巫覡に比べればお遊戯程度の舞だろうけどさ!
もうちょっと言葉を選ぶか何も言うな!!
恨めし気に闇己を見やるとフっと鼻で笑われた。
くそう!
「そう言えば、健ちゃんは何処で泊まるの?」
京都の親戚の集まりがあるとはいえ、そこに泊まるのは…ねぇ。
建ちゃんはニコニコと
「尼辻の旅館に闇己君と泊まる事になったんだ!勿論、橘も一緒に泊まるんだよ。」
危険地帯に止まる宣言をした。
「ソーナンダ…」
何ていうか健ちゃんは危機感が無いのかもしれない。
んで、どうして出雲から京都まで出てきた闇己を見れば
「俺は奉納試合があったからな。」
シレっと答えた。
胡散臭い!
絶対にアノ夢を闇己も見ているに違いない。
私は深〜い溜息を吐いて
「闇己君、健ちゃんから目を離さないでね。」
大丈夫だとは思うけど、心配なのものは仕方ないじゃない。
闇己を盾代わりに使わせて貰おう。
イフヤ村でも事、私は許してないからね!
私は立ち話もそこそこに巫女装束から私服に着替え闇己達のもとへ行く事にした。
この後、私達は愚かで哀しい女の亡霊が起こした事件に巻き込まれることになる。
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