夫婦になった兄弟 | ナノ


▼ 60 最終話 俺達はこうやって生きていく

「えっ……? 今、夜だよな。なんで俺戻ったの?」

テントの中で向き合っていた兄が、きょとんとした顔で俺と自分を交互に確かめた。なんだか懐かしい反応だ。だが兄が驚くのも無理はない。

「あのね、ケージャが兄ちゃんと過ごせって。恋人…なんだからって」

もう一人の兄の率直な思いを俺は伝え直した。すると兄は肩の力が抜けたように、その場に座りこむ。

「なんだよ……そういうことか。あいつ……いいとこあんじゃねえか。ははっ……」

兄が下を向き、一瞬表情が見えなくなる。俺はどうしたのだろうと心配した。
すると奴の喉の奥から不気味な笑い声が漏れてきた。

「おい、兄ちゃん?」
「……くくっ。やったぞ…………勝ったぁあああーー!!」

突然雄叫びをあげた兄の口を俺は反射的に塞ぎ、そのまま寝技をしかけるようにマットの上に両肩を押し付けた。

「ばかじゃねえのか! 皆外にいるんだぞ!」
「すまん。つい心の声がな」

怒ったのに口元が緩み、嬉しさを抑えられない様子だ。
ため息を吐いていると再び兄がぶつくさ話し始めた。

「でも週一か。ふっ、あいつ月一にする勇気はなかったようだな。分かるぜ。優太に忘れられたら悲しいもんなぁ。俺なら無理」

ニヒルな顔つきで自虐し勝手に喋っているが、俺はおずおずと顔色を伺う。

「そうなの? っていうか、兄ちゃん喜びすぎだろ。ケージャが遠慮してくれたからって。前はあんなに余裕そうだったじゃん」

不思議に思い問うと、真下から物言いたげな視線が当てられた。

「余裕なわけあるかよ。あんなもん男のプライド絞り出しただけだ。ほんとは優太がもっとあいつといたいっつったらどうしよ〜って心の中で泣いてたぞ」
「ええ! そうだったの!」

仰天すると「半分嘘」と冗談ぽく笑まれた。
俺は色々考え込む。自分が思うよりももっと兄は、俺や皆のことを思って行動してくれていたのだ。

ケージャも俺のことを本気で好きでいてくれている。だから今回の件は、かなり俺達のことを考えて身を引いてくれたようなものなのだと、兄もそう感じていたようだった。

「まああれだ。勝負には負けたが優太のことでは俺の勝ち。ガキっぽいけど俺はそう受け取ることにするぜ。……ほら来て、優太」

そう言って腕を天に向けて伸ばす。俺はそこにゆっくり体を預けた。
腰にまたがり、上半身を抱き留められたまま温もりに包まれる。

自然に見つめあい、ちゅっ、ちゅっと唇を合わせる。
熱がのぼりそうになり頭を振る。

「もう寝ないとまずいよね」
「……そうだな。さっさと寝よう。福澤はイビキかいて寝てるだろうが親父はヤバい。怪しい気配を察知するかもしんねえ」

さっき散々叫んでいた兄が真面目な口調で述べた。
大人しく二人で横になり向き合う。

「兄ちゃん……」

手を伸ばして兄の手を取った。胸の前に持ってきて離れがたく思い握る。

「お、お前な。せっかく頑張って眠ろうと努める俺の男の部分を呼び覚ましてどうする」

珍しく焦りを浮かべる兄の近くにさらに寄った。

「だって好きなんだもん。兄ちゃんのこと大好き」

勇気を出して伝えると抱きしめられる。幸せが布団の中に満ちていく。
近づいた唇が重なった。秘めた時間の中で丁寧に味わうかのようなキスだ。

「俺も優太のこと大好きだぞ。っていうか愛してる。お前がいなくなったら死んじゃう」

子供みたいに大げさに言う兄の愛の言葉が、胸にまっすぐ響いてきた。

「いなくなんないよ。俺もすっごい愛してるから、兄ちゃんのこと。だからずっと一緒にいてね。兄ちゃんこそもういなくなったらダメだから。……それでも何回でも連れ戻すけど」

思わず微笑んだところをまたキスされる。兄の熱い口づけには答えが詰まっていた。
もう兄ちゃんは俺のものなんだなってひとり安心する。
その夜は手をつないで、兄と寄り添って眠った。



朝の森は鳥の鳴き声や木々の囁きに起こされる。
昨日は兄にくっついて寝たため汗ばむぐらいだったが、大自然の空気もありすっきりといい気分だった。

「おっはよう、親父に福澤! よく寝れたか? 俺はもうすやすやだぜ!」
「お、おう。なんだ啓司か? もう変わったのか。朝から元気有り余ってんなお前」

歯磨きをする親友の背を叩き、父とも挨拶を交わして楽しそうに喋っている。
兄ちゃんのやつ、朝からすごいハイテンションだ。
驚きつつも俺達は皆でまた男だけの朝ご飯を準備した。

「わあ、お父さんが炊いたご飯美味しい〜。これ後でのり弁にしてもいい? たくさんあるから」
「もちろん。優太の好きな漬物も食べるかい? お母さんが緊急用にって渡してくれたんだ」

焚火の向かいにいる父に沢庵をもらいパクパク食べる。昨日のケージャのご飯美味しかったなぁと思い出しつつ、父は一応日本食も持ってきてくれたようで遠慮なく食べた。

「啓司、昨日凄かったぜ。ケージャのやつが魚一人で何匹も獲って焼いてくれてよ、夜は美味い煙草までご馳走になっちゃった。あ、あれは夏山さん持参だったか」
「ああ、そうなんだけどケージャに詳しく葉の特徴とか聞いておいたから助かったよ。楽しかったよね、昨日」

同じテントだったからか結構和気あいあいと喋っていた父と福澤さん。
しかし別人格の活躍を聞いても、兄はやたらと上機嫌で頷いていた。

「ほーそうか。ケージャくんもいい奴だからな。皆が気に入るの、俺も分かるよ。俺の双子の弟みたいなもんだしな。っつうか義理の兄?」
「っもう何言ってんだよ兄ちゃん、意味不明だし!」

はははと乾いた笑いで兄の脇腹に突っ込む。機嫌が良すぎて油断してたのか完全に入ったのに、まるで動じていなかった。
それどころか俺ににまっと笑いかけ、突然前を向いて咳払いをする。

皆で食後のお茶を飲んでいるときのことだ。

「親父。大事な話があるんだ」
「ん。なんだい?」

突如真面目な顔で兄が切り出した。雰囲気を悟ったのか、父も焚火をいじる手を止めて兄に向き直る。俺はまさか変なこと言わないよなと注目していた。

「俺さ、卒業して働くようになったら優太と住もうと思ってるんだ。こいつが大学入るくらい。そんでずっと仲良く暮らしてくからよろしく」

さらりと言い終わるまで、兄はにこにこしていてすごい上機嫌だった。
変な雰囲気を悟られちゃまずいのに、隣の俺は肩を抱かれてもじもじしてしまった。

「はあっ!? 弟と同居だと、お前一生独身でいるつもりかっ?」
「うん」

けたたましく反応した親友に兄が即答する。兄ちゃんのやつ、皆の前でそこまで言ってしまうとはーー。

「夏山さん、いいんすかそれで! 優太はともかくこいつ長男ですよ!」
「うーん。まあ、啓司の人生だからね。僕は見守っていくつもりだよ」

予想だにしなかったことだが、父はほがらかに笑っていた。この人こそあんまり動じていない。

「僕も妻もよく話すんだよ。一番大事なのは、僕達の息子が幸せを感じて暮らしているかってことだとね。それは制度や周りから見た幸せじゃなくて、本人が感じることなんだ。一緒にいたいのが優太なら、そこに向かって頑張るしかないだろうな。……もちろん、父親としてはもう少し二人のそばにいたいって気持ちはあるけど」

眼鏡を照れくさそうに直す父の姿にじんときて、俺は思わず立ち上がり父に向かって抱きついた。

「お父さんっ。なんかお父さんと離れるの寂しいっ」
「えっ? おい優太? 兄ちゃんは?」

二人のやり取りには男達の中で笑いが起きた。
キャンプ中に兄が俺達の将来に触れてくれたことは、正直嬉しくなった。

もちろん、秘密の関係を続けていくことにはいろんな思いがある。
でも二人にとっては、それが本当の幸せだと俺達はもう知っていた。

今の俺達の姿は島での経験が与えてくれたものだ。そして兄と共にいたケージャの存在も。

目を閉じなくても蘇る、大変なこともあったけど、輝かしい日々。
あの頃の大事な思い出がすべて導いてくれた。それはこれからも明るい光となって俺達を照らし続けてくれるだろうーー。



◇◇ 


……とまあ、終わりそうでまだ少し俺達の話は続く。
二ヶ月後、俺と兄は平常通り日本で生活をしていた。季節は冬に向かっていて結構寒くなっている。

兄は大学に通い、勉強も順調らしい。
俺はというと、高校生活も大分慣れてきたし、ちょっと新しいことでも始めてみようかと思っていた。

それを夕方に大学から帰ってきた兄に伝えてみる。
冷蔵庫を漁っているガタイのいい背中に、珍しくぎゅっと抱きついてみた。

「ねえ兄ちゃん。話があるんだけど」
「なに? そんな可愛い声出して。おねだりしたいものがあるのかなー、優太くんは」

途端に甘い声を出した兄が振り向き、前からハグをされた俺は首を振る。

「違うってば。俺そろそろバイトしようかなーってさ。兄ちゃんどう思う?」

きっと賛成されると思ってワクワク聞いた俺が間違っていた。兄はとたんに「あ?」と厳しい親みたいに顔をしかめる。

「バイトぉ? お前まだ高一だろ。しなくていいじゃんそんなの。おこづかいもらってるでしょ?」
「そうだけどさ……色々ほしいものとか…」
「何がほしいの」
「うっ…」

容赦なく怪しまれる。なんでこんなに食いついてくるんだよ。
普通弟の門出を応援するんじゃないのか。

気詰まりしつつも俺はひとまずの最もらしい理由を教えた。

「ーーえ! 俺の誕生日? いやそれはすっげえ嬉しいけど、来年の五月だぞ。……でも優しいなぁ〜俺の優太は。よしよし」
「はは……」

厚い胸板に挟まれ頭を撫で回される。
しかし優しい兄はそれでも俺の提案をよしとしなかった。

「俺の誕生日なんてささやかなもんでいいから。あ、そうだ。優太の手料理とかが食べたいなぁ。大変だったら一緒に1日デートでもいいよ。いやそれはもう決まりか?」

すでに嬉しそうに計画していて俺も喜びが生まれたが、実はバイトの理由はもうちょっと先のことのためでもあるのだ。
だから内緒で食いさがった。

「俺も兄ちゃんと誕生日熱々で過ごしたい! でもやっぱバイトどうだろう〜。そういや兄ちゃんも高校でやってたよな? 俺覚えてるよ」

明るく探りを入れると今度はやけに兄が真剣な顔で俺の目をじっと見てきた。

「それはまあ、確かにな……でも長期休みの時だけだぞ? あとうちの高校許可書出さなきゃいけねえし。色々めんどくさいぞ優太」

そろそろ俺が引き下がらないことが兄にも引っかかってきたようだ。駆け引きに負けそうになり汗が出る。

押し問答を繰り返したあと、兄は軽くため息を吐いた。

「母さんとか親父に聞いた?」
「いや、まだ…」
「おっ! 俺に一番に相談してくれたのか。すげー嬉しいっ! ……じゃなくて。わかった。じゃああいつに聞いてみろ」

さらっと言われた台詞に驚く。どうやらケージャのことらしい。
珍しいこともあるんだと思いつつ、俺はさっそく腕輪を部屋に取りに行き、リビングで待っていた兄の前で取り付けた。

もう一人の兄も俺に激甘だし、きっと味方になってくれるだろうと目論んでいたのだがーー甘かった。

「……ん? ユータよ。俺はまだ全然寝たりないのだが。もう約束の日か?」
「ううん、まだ三日あるけど。ごめんね起こしちゃって。でも会えて嬉しくないの?」
「もちろん嬉しいぞ。ほらここに来い、可愛い奥さん」

瞳を柔らかくしてお気に入りのフレーズを使う兄の膝に座る。俺は恥ずかしげもなく甘えモードで経緯を伝えた。
するとケージャの眉がぴくりと反応する。

「なんだと、アルバイト? まだお前には早いのではないか。学生の本文は勉強だろう」
「ええー! 兄ちゃんもそんなこと言うのかよ。だって島では16で成人で皆働いてたよね? なんか違うこと言ってるよねケージャ」
「むっ。島と日本では皆生き方や規律も違う。俺はお前の兄が正しいと思うぞ。……というより単に、心配なだけだろうがな」

言葉尻はふっと笑みを忍ばせて述べられ、俺は思い返す。

「そうなの? 心配なのか」
「ああ。俺でも少し戸惑うことがあるからな、お前を取り巻く生活には。たとえば護衛もつけずに一人で何時間も外にいるだろう。初めは心配で気が気ではなかったぞ」

そんなこと思っててくれてたとは。
ケージャは今は理解したと言ってくれたが、三年分の記憶がない兄ももしかしていきなり高校生になっていた俺に対し、元々の心配性がさらに加速したのかもしれない。

「そっかぁ。ありがとうケージャ。言われなかったら気づかなかったよ」
「ふふ、そうだろう。それとユータ。心配というのは何もひとつではない。ケイジに直接聞いてみろ」

え、なんだろう。不思議に思っていると、ふと兄が気がかりな顔をした。

「俺からも問いがある。なぜ金が必要なのだ? 俺達の家は裕福に感じるが」
「ええっとそれは…」

一瞬慎重になりつつ、初めて明かしてみた。大丈夫かなと思ったが、いつか言う必要があるんだし。

「なにっ? 同棲生活だと。あいつめ、きちんと将来のことを考えているのだな」
「ケージャはいいの? 平気?」
「無論だ。俺が反対することはなにもない。めでたいぞ。もちろん今の家族皆揃った家も素晴らしいが、お前と二人きりになれるのは嬉しい」

瞳を細めて素直にもらされる。ひょんなことから兄の気持ちが聞けて、俺も嬉しくなった。

「じゃあありがとう。また兄ちゃんと話してみるね」
「ああ、そうするといい。またいつでも呼べ、ユータ。俺はお前とともにいるぞ。ふふっ、まるで守護霊のようにな」

いや幽霊じゃないけど。この兄はいつも俺を包み込むような特別な存在感で見守ってくれている。
とにかく頼もしい兄に相談してよかったと思った。

「聞いてきたよー兄ちゃん」
「……おおっ。どうだった? あいつの意見は」

目をキラリと光らせる兄に正直に話す。すると奴は自分の膝をぱん!と打ちならした。

「ほらぁ! わかっただろ優太。俺達の意見が重なるなんて珍しいことだぞ。じゃあこれでバイトの話はおしまいにーー」
「うん。よくわかったよ、兄ちゃん達の優しさとか心配とか。話してくれてありがとう」

頷いて認めると意外だったのか瞬きされる。

「うーん。そんなに素直な弟を見ると少し罪の意識が……というかあいつの話それほど納得できるもんだったか?」

負けず嫌いの兄が疑いの目で探ってきた。

「いや、ていうか……なんかケージャのほうがお兄さんぽいというか…つい言う事聞いちゃうみたいな…」
「はあぁ?」

やばい地雷を踏んだ。さすがに今のは駄目だと思い即反省する。

「いや違うんだよ。なんかその、兄ちゃんはもっと恋人の雰囲気が出てて。なんて言ったらいいのかなぁ」

ごまかしつつも本心を言うと兄が照れる。ほっと胸を撫で下ろした俺はさらに口走ってしまった。

「あっそうだ! 良い話もあるよ。ケージャも俺達が一緒に暮らすの賛成だって。めでたいってさ。よかったー」

はしゃいで兄の腕をぶんぶんと揺らした。

「マジか、やったぜ。でもさ……なんか話が飛躍してない? お前ら何話したの」

鋭い目が向かってきて、俺は墓穴を掘ったのかと焦った。じとっとした目にもう白状するしかなかった。

「……えっ? お前がバイトしたかったの、俺達の生活のためっ?」
「うん、そうなんだ。俺も今から何か出来ないかなって。全然足りないと思うけど…」

最近ずっとウキウキしている兄は、この前父に明かしたように、俺が大学に入って兄が社会人になる頃合いで、一緒にどんなところに住むとか生活するとか、楽しそうに話すことが多かった。

だから俺も色々想像して、嬉しくて奮起するようになったと伝えた。

「……優太ぁ!! そんなこと考えてたのかよ、なんていい子なんだお前は!」
「へへ。だって俺も楽しみだから。……でも兄ちゃんがそこまで心配するなら、短期バイトだけにしようかな」

ちらっと見上げると普段は涼やかな瞳が潤んでいく。

「うっ。弟の優しい思いを聞いたらもうしつこく反対できねえ。うるさい兄ちゃんで悪かった優太…」

なぜか謝られたので俺が兄の背をさすってなぐさめる。

「でもな、金のことなら心配すんなよ。俺も貯めてるし、大学出たらもっと頑張るしさ。こう見えてお前より七つも年上なんだぞ? まあ頭の中はまだ二十歳かもしんないけどな」

自嘲気味な言葉に二人で笑う。何歳でも兄ちゃんは俺の自慢の優しい兄だ。

「ねえねえ、でもなんでそんな心配なんだよ? ケージャも言ってたんだけど。俺ってそんなに頼りないかなぁ」

気になって尋ねると、兄は明後日の方向を見たあと、俺の目をじーっと捕らえた。

「それはなー……確かに無防備なとこは心配だけど。……お前、分かんないの? たとえばどこでバイトしたいんだよ優太は」
「えっとね、ファストフードとか?」
「そうか。なるほど……優太のかわいい制服姿!! ーーじゃなくて、そんなとこでぴちぴち高校生のお前が働いてみろ、先輩の大人のお姉さんスタッフがーーいやチャラくてすけべな野郎かもしれない、とにかく未知の世界から魔の手や誘惑がいきなり襲ってきてだなーー」

あくまで真剣に外の世界の脅威を説いてくる兄を、俺は真顔で聞いていた。

「もう、どこまで妄想してんだよ、そんなエロ漫画みたいなことあるわけないだろ!」
「いやあるだろ、島での話忘れたか? いやまあ全部俺の責任だが。……え、ていうかお前エロ漫画とか読んでんの? どんなの?」

話が飛んでるのはどっちだと俺は肩を盛大に落とした。
兄の心配性と過保護はまだまだ治らないらしい。

でもこれが兄ちゃんだし、俺達の毎日なのだ。
それがずっと続いていけばいいと思う。日々騒がしくても。

「あ〜。優太がバイト始めたら寂しい。俺こんな独占欲強いやつだったかなぁ」
「うん。強いやつだよ。ケージャに聞いてみて」
「ちょっと。冷たくないその言い方。どうやってあいつに聞くんだよ。あいつも人のこと言えねえだろう」
 
確かに。堂々巡りの会話を終わらせるために、俺は兄の両肩に手を置いた。
向き合うと背の高い男の首元が目の前にくる。

「優太……? もしかしてキスしてくれるの?」
「えっとねー。しょうがないなぁ」
「してくれたらそのままベッドに運んでやる」

後の展開にほっぺたが自然と熱くなる。
兄の余裕の顔が腹立たしい。

でもやっぱり愛しい。

背伸びして口にちゅってやったら兄は感動して立ち尽くしていた。

「ちょっと、早く運んでよ、恥ずかしいだろ!」
「よし任せとけ、今日も兄ちゃん頑張るぞ!!」

ひょいっと持ち上げて横抱きにされ、兄の部屋へと連れ去られた。
その夜限りなく多すぎる愛を俺が受けたのは、言うまでもない。



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