▼ 26 我慢出来ない ※
兄貴が俺の目の前で下着を脱ぐ。
横顔が少し赤かったように見えたが、俺にぱっとそれを渡した後、自分は髪を洗い出した。
平常心を保とうと努めつつ、渡された下着をごしごしと洗う。
だが近くにいる兄が気になって、視線が目の前の裸体をさ迷ってしまう。
「はい。出来たよ。なあ、背中洗ってあげる」
「……え? いや、大丈夫……っ」
「いいから任せて。届かないだろ?」
兄が髪を流した後、後ろに立った俺は石鹸を泡立て、背中を大きく撫でるように洗い始めた。
ああ、滑らかな肌に手のひらを這わせていると、記憶が甦ってくる。
尻の上辺りまで及んだ時、兄貴が肌を震わせた。
俺はそのまま腰を柔らかく掴み、耳元に口を近づけた。
「前は……どうする?」
「じ、自分で出来る」
「そっか。じゃあ耳の後ろ、してあげるな」
兄貴が体を洗っている間、首もとに手を差し入れ、両手で優しく泡立てる。
耳も指先で丁寧に洗っていると、段々兄の体の力が抜けていくのを感じた。
「ん、あ……ぁ」
「どうしたの? 気持ちいい?」
「……んっ……ちが……」
小さく喘ぐ声に興奮が募った俺は、手の動きを止め、後ろから上半身をぎゅっと抱き締めた。
細い肩に口づけた後、首筋にもちゅっと音を立てる。
あれだけ触れてはならないと決意を固めたはずなのに。
俺の意思はなんて脆いんだ?
けれどまるで隙だらけの兄と、こんな風に密着できたなら、何もせずにはいられなくなってしまう。
「兄貴……」
頬に添えるだけのキスをする。
兄は小さく呼吸をするだけで、嫌がる様子はない。
抱きかかえ、顎に添えた手を、もう一度ほっぺたに伸ばした。
そのまま、ゆっくりと唇に指を這わせる。
優しくなぞると兄貴は背をのけぞらせた。
胸に背中が当たり、余計に抱擁を強めてしまう。
「キスしていい…?」
尋ねながら、なぞっていた唇に、自分の口を近づけた。
自然と覆うように重ね合わせ、口づけを行う。
ぴたりと合わさった唇から、熱が伝わってくる。
想像の何倍も、もっともっと、気持ちがいい。
「ん……」
抵抗されないのをいいことに、舌を挿し入れた。
兄貴も受け入れてくれてるのか、少しだけ舌を出してくる。二人で絡め合わせて、とろけるような感覚に襲われた。
濡れた舌先を吸って、何度も絡ませる。次第に勢いが強まり、俺は兄貴の唇に吸いついて、体も押し付けていた。
腕の中に抱き締めたまま、後ろから深いキスをし、兄貴の腰にはすでに勃起してまった自身が触れている。
「はあ、兄貴……気持ち、いい……」
「……んっ、クレッド……だ、めっ……」
夢中になっていると、兄の咎める声が聞こえ、一瞬我に返る。
互いに息を切らす中、顔を半分後ろに向けたまま、見つめ合う緑の瞳が潤んでいる。
どうする、やめるべきか?
でも、まだ離したくない。
兄貴にもっと触れていたい。俺のことを感じて欲しい。
俺は兄を自分のほうに振り向かせた。
熱いシャワーの下で、再び抱き寄せる。
きつく胸に抱くと、大きな心臓の音が重なり合った。
「兄貴、気持ち良くなった…?」
後ろ髪を撫でながら、尋ねる。
兄はなんと俺の背に、自分の腕をゆっくりと回した。そして、静かに頷く。
素直な反応は想定していなかったため驚いたのだが、愚かな俺は、それで余計に我慢することが出来なくなってしまった。
「俺もすごく気持ち良かった……兄貴とキスするの、大好きだ」
そう伝えてもう一度、唇を見つめる。
赤く染まった顔を前に、再び唇を重ね合わせた。だが今度は、するべきじゃなかったかもしれない。
完全に、火がついてしまったから。
「んんっ、んぅ、んっ……!」
兄の唇を無我夢中で塞ぎ、舌で絡めとる。
後ろの壁に押さえつけて、腰を重ね合わせ、体を覆うようにしてキスをする。
合間に見つめ合い、唇をなぞった。
「兄貴、なあ教えて。寝てるとき、出しちゃうなんて、どんな夢見てたの? もしかして、えっちな夢だった?」
わざと卑猥なことを問いかける。
思った通り兄は顔が真っ赤になり、首を振って答えようとしなかった。
「駄目だよ、ちゃんと言って。どうしてイッちゃったの? ほら、今も硬くなってるよ、兄貴の……すごく可愛いね」
腰を擦りつけ、囁きながら迫る。
互いのものが勃起していて、興奮しているのが分かった。
ああ、こんなことをするつもりじゃなかったのに、俺は馬鹿だ。
兄貴の前では理性など何の役にも立たないと、何度も学んだはずなのに。
「だって、お前のせいだ……へ、変なこと夢でするから……俺も、変になっちゃって……!」
胸にドンと拳を当てられて、責められてしまう。
だが俺の鼓動はより一層うるさいぐらいに鳴り響いていく。
腕をそっと掴み、上からじっと見下ろした。
「兄貴、変になっちゃったのか…? どんなこと? 俺に何されたの、夢の中で……こうやって、兄貴のぺニス、弄ったりした?」
手のひらで優しく撫でて、押してみたりした。
さっきの妄想の中のように、兄貴が妖艶に腰を浮かせ、よじる。
ああ、中心に熱が集中して、きつくて苦しいぐらいだ。
「すごく濡れてるね、やらしいな…」
先端から指を滑らせて、上下にゆっくりと動かす。
兄は慣れていないようで、ぴくぴくと腰を震わせ、初々しい反応を見せた。
背に腕を回し愛撫を続けると、息を上げる兄が切ない表情で見上げてくる。
「……だ、だめだ、お前に触られて、感じちゃって、んぁ、おかしい俺…っ」
「全然おかしくないよ、恋人同士なんだから、こうやって擦りあって、触り合ったりも、するんだよ」
優しくなだめながら、頬に口づけを落としていく。
兄がきちんと達する事が出来るように、安心させたい。俺の願いはそれだけだ。
「気持ちいい?……イク?」
兄貴が俺の胸に掴まってきた。愛しさが込み上げ、抱き抱えながら兄のものを擦る。
「んっ、うん、もう、出る、……んあぁっ!」
叫ばれると同時に、腹に白い液が飛び散った。
互いに浅い息をつき、言葉には出来ない達成感に満たされる。
指の腹ですくい取り、感触を確かめた。舐め取って味わいたいぐらいだが、引かれるに決まっているため、どうにか抑えた。
「ごめん……俺だけ、出しちゃって……」
恥ずかしそうに言う兄をまた腕の中に閉じ込める。
どうして謝るんだろう。俺は嬉しくてしょうがないのに。
「言っただろう、兄貴。もう俺達何回もこういうことしたし、俺は兄貴がイクのすごく嬉しい。かわいくって、その度に大好きだって感じるよ」
素直な気持ちを告げて笑いかけた。
兄貴は口を開けたまま、途端に顔を赤くする。
「馬鹿だろお前……そんな恥ずかしいこと……。ていうか、それは…? どうするんだよ」
ぼそぼそと喋る兄の目線の先には、元気なままの俺自身があった。
今度は俺が赤くなり、ついまたタオルで前を隠した。
兄が驚いた表情を見せた後、気になった様子で眺めてくる。
「いいのかよ、お前のーー」
「平気だ。気にしないで。俺は兄貴のこと、気持ち良くしたかっただけだから」
頭を撫でて優しく伝える。
それは本当の気持ちだ。というか自分のをしてしまったら止まらなくなるから、最初からその考えはなかった。
あまり効果はなかったが、さっき一人で抜いていて良かったと、俺は密かに考えたのだった。
俺達はその後、浴室を出た。
二人でベッドに移るが、服は着たまま、またキスが始まった。
兄貴が掴まって俺を受け入れているところが、たまらなく可愛くて、愛しい。
もう少しだけ、このままでもいいかな?
これ以上触れようなんてことは、考えていない。
そうだ。少しずつだ。
徐々に俺に慣れてもらえればいい。
「どう、兄貴……何か思い出す?」
とろんとした目に見つめられる。息づくだけで兄貴が何も答えないでいると、少し心配になった。
「クレッド……俺……」
「……なに?」
問いながら、また我慢できずに唇を重ねる。
味わう合間に、何かを言いたげな緑の瞳に見つめられた。
「お前、弟なのに……こんなことして、いいのかな。こんなに気持ちよくて……なんかお前の顔見ると、もっとドキドキして……キス、したくなるの……変じゃない?」
兄貴がもじもじしながら、上目遣いで尋ねてくる。
俺は、あまりに甘いその台詞の破壊力に、衝撃が走った。
これは、夢を見ているのだろうか?
記憶が戻っていないのに、俺と同じように、思い始めていてくれたなんて。
感動のあまり、目の奥が熱くなってきた。
「いいんだよ、兄貴。全然いいんだ。だってそれが本当の兄貴の気持ちなんだよ、俺達たくさん、愛し合ったんだから。こうやって一緒に、気持ちよくなって、いっぱい抱き締めあって、キスして……」
「……クレッド……」
片肘をついて、潤んだ瞳をじっと見つめる。
すると兄貴は俺の腕を掴み、何やら真剣な眼差しでごくりと喉を鳴らした。
「お、俺まだ……お尻は怖い……」
突然予期せぬことをはっきりと告げられ、俺は思わず目を丸くした。
少し微笑ましく感じてしまったのは事実だが、兄貴の気持ちを考えたら当然の不安だと思う。
「何もしないよ、大丈夫。あの…さっきは我慢出来なくて色々しちゃったけど、怖いことは絶対しないから」
「い、いや、そうじゃなくて……たぶん、気持ちよくなっちゃうかもしれないから……そういうの怖い…。き、キスとかは全然平気だ」
兄貴がうつむいて一生懸命言葉を綴っている。
だが俺は一瞬、その台詞に思考が止まった。……兄貴は一体、どんな夢を見たのだろう。
もしかして、それほど淫らな夢だったのか?
聞きたくてもさっきのように馬鹿な振る舞いをしたら良くないし、聞かないほうがいいと思い、堪えた。
でも、兄貴が最後に付け足してくれた事に、俺は本当に喜んでいた。
「確かに、すごい気持ちよくなっちゃうと思う。じゃあ分かった、キスだけとか、ちょっと触り合いっこするぐらいにしよう。いい?」
抱き締めて髪を撫で、二度目の提案をしてみる。
兄貴は少し考えた後、納得してくれた。
信じられないことが起きていると、自分でも思う。
きっと兄貴は、夢の中で以前の俺達の記憶を見ているのだろう。
そして無意識のうちに、俺のほうに心と体を、預けてきてくれてるのかもしれない。
そうやって徐々に、俺のもとに帰ってきてくれるのだろうか?
だとしたら、こんなに嬉しいことはない。
「クレッド。もう寝る? 俺、また眠くなってきた……」
目を擦りながら胸元にくっついてくる。
「うん。もう寝ようか。安心して、眠っていいよ……そばにいるから。おやすみ兄貴」
おでこに唇を寄せると、兄貴はゆっくり目を閉じていく。
「分かった……俺の、そばに……いて。クレッド……」
そう呟き、いつの間にか浅い寝息を立てている。
初めて「いて欲しい」と言われたことが嬉しく、気持ちが高ぶっていく。
明日もその次の日も、いつも一緒にいる。
それが常に俺の一番の、願いなのだから。
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