セラウェ記憶喪失編 | ナノ


▼ 25 濡れたひととき ※

熟考した末、俺は兄貴を団長室にある仮眠室へと寝かせておくことにした。
広い応接間の扉の向こうには、一人用の寝台とクローゼットが置かれていて、休むことが可能だ。

兄貴の弟子のオズは任務で外出しており、白虎の居所は不明なため、家に置いておくことは心配だった。
ここならば仕事の合間に様子を見に来ることが出来るし、より安全だと思ったのだ。

「兄貴……また来るからな」

額にかかった黒髪をといて、柔らかな頬に口づけを落とした。

目覚めた時の為に、近くの小机には手紙を残しておく。
「兄貴へ。アルメアが俺の所に連れてきてくれたんだ。ここで休んでてね。また来るけど、起きたら戻っても大丈夫だよ。ーークレッド」

愛してる、と結ぼうかと思ったが、なんとなく重く思われたら…と考えて我慢をした。
本当はいつでも囁いて、伝えたい。
でも今は、少しずつだ。

そうして部屋を出て、俺は再び仕事へと戻ったのだった。




領内での業務や会議に出席をし、いつも通りの予定をこなしていくが、頭の中は常に兄貴のことがあった。
ちゃんと目を覚ましただろうか、手紙を読んだだろうか。

夕方頃になり、団長室へと戻る。
仮眠室の扉を開けると、なんと兄貴はまだ眠っていた。だが、さっきと体勢が変わっており、横になって丸まっている。

額に手を当てるが熱もなく、呼吸も安定していた。

「兄貴、大丈夫か……?」

問いかけても目を閉じたまま、寝息を立てている。
ふと小机に視線を移した。そして目を見開く。

そこには俺の書いたメモとペンが置いたままだった。しかし、手紙の下のほうに続きが書かれていた。
「読んだ、ありがとう。俺まだすげえ眠い。もし帰ったときまだ寝てたら、お前の部屋に持ってってくれる? 頼む。ーークレッドへ」

兄らしい文面を見て、胸がじんと暖まった。
兄貴は一度起きたのか。でも眠気が強く、治まらなかったらしい。
少し心配だ。

けれど俺の部屋に運んでもいいと書いていてくれたことは、すごく嬉しく感じた。

早く一緒に戻りたかったが、まだ書類の整理が残っていたため、しばらく団長室での業務を行う。
夜になりやっと終了したところで、帰宅の目処がついた。

側近のネイドに頼み、兄が今日は俺のところに泊まるとオズに伝えてもらう。
仮眠室に入り再び声をかけるものの、兄はまったく起きる気配を見せなかった。

「兄貴。行こうか」

横抱きにして抱え、部屋を出る。
昼頃にアルメアが連れてきてから、もうかなりの時間が経っていた。こんなことは滅多になく、段々と不安が募る。

一度は目を覚ましたのだから、病気とかではないと思うがーー。
医術師でもあるイヴァンに見てもらうべきだろうか。

考えたが、その日の夜は一番近くで、ひとまず様子を見ることにした。

領内にある部屋に戻り、兄をベッドに横たえる。
自分はまだ制服のまま、洋服棚から兄の着替えを取り出した。

家に置いてあるパジャマを取り出し、着せるのだが。

「参ったな……久しぶりだ。……ええと、ごめんな、兄貴」

つい断りを入れてから、ゆっくりと兄の服のボタンに手をかける。
恋人同士なのだから、当然のことなのに。

なぜか俺は緊張していた。久しく目にしていなかった白い肌と細身の体が、どうしても扇情的に映る。

もうひと月も触れていないなんて、考えられない。
よく耐えていると思うが、実際に服を脱がせていると、やはり邪な想像が過った。

なんとかパジャマに着替えさせ、布団をかける。
風邪を引かないように暖かくして、また頬に口を寄せる。

早く起きて欲しいな。
兄貴と話がしたい。

そう考えながら見つめていると、無性にキスがしたくなった。

昨日したばかりの、唇の感触が甦る。
すごく気持ちがよくて、兄貴も舌を絡ませてくれたし、俺の口づけに、感じているようにも見えた。

今しても、大丈夫だろうか。
きっと、平気だ。これだけ物音を立てても起きないし、もし起きたとしても、昨日約束をしたばかりなのだ。

毎日しようって。

「……兄貴……」

ぎしり、とシーツに手をつき、身を乗り出す。
顔を近づけ、角度をつけて唇に触れた。優しくはむようにした後、表面をそっと舐めとる。

もう一度触れさせて、少しだけ味わってから、重ねた唇を離した。

「……は、ぁ……」

一人だけ息が上がる中、寝ている合間に不埒な行為をしてしまったと、罪の意識が生まれた。
でもそれと同時に、どうしようもない愛おしさが募っていく。

早く恋人同士に戻りたい。
兄貴のことを、この手で抱いて、心ゆくまで愛したい。

どれだけ俺が愛しているのかを、教えたい。

頬に指先を当て、じっと眺めていると体に熱を感じ始めた。
駄目だ。これ以上は、触れるべきじゃない。段々と我慢するのが辛くなってくる。

シャワーを浴びて頭を冷やそうと思い、制服を脱いだ後、浴室に向かった。






「……っ……く、……ッ」

肩から湯が流れながら、壁に腕をつき片方の手で自身をしごく。
ぬるついた先端から竿の部分まで、上下に擦っては呼吸が上がっていく。

「……兄貴、……」

目を閉じて呟き、兄の裸体を想像した。
シーツの上で両腕を上げ、赤らんだ顔で太ももを開いている。

勃っている可愛いらしいペニスを手のひらで触ってあげると、小さな喘ぎをもらし、腹を細かく震わせる。

「はぁ、……あぁ、……もう、挿れたい……よ」

濡れそぼった桃色のくぼみを指の腹で押し、ゆっくりと中に入れる。
一本、二本と増やし中をかき混ぜると、内壁が切なく締めつけてきて、俺のガチガチに硬くなった自身を誘い始める。

「あ、あ……兄貴、すごく、やらしい、な」

鬼頭の部分を押し当て、腰を徐々に進めていく。
入ってしまったらもう、動きは止まらなくなり、太ももの裏を掴んで下半身を揺らすだけだ。

耳に届く兄の声を思い出しては、律動を深め、互いの快感を貪る。
ああ、気持ちがいい。
とろけるようで激しく締め付けてくる中にいると、全てを絞り取られてしまうようだ。

「もう出すぞ、兄貴……ッ」

ガンガン打ち付け、相手の良い所ばかりを攻め、絶頂へと導かれる。
細い体の上に覆い被さり、シーツに押さえつけて、最後の最後まで自身を奥に突き立てる。

『やあぁあぁっ、いく、イク、クレッドっ!』

甘い声で抱きつかれて、俺もぎゅうっと抱き締めた。震える腰を離さないように、あふれ出る精液を一滴残らず奥まで注ぐ。

荒い呼吸を繰り返し、兄の胸の上に突っ伏したまま……愛と快楽の海に満たされる。

まだ足りない。もっともっと、兄貴が欲しい。
そう言いたくて静かに目を開ける。

シャワーが出っぱなしで湯気の立つ浴室。
俺はまだ硬さのある自身を握ったまま、ぽとりと濡れた床に流れ出る白濁液を、ぼうっと眺めていた。

「……はぁ……は、ぁ……っ」

一度抜いただけじゃ足りないほど、興奮が治まらない。
寝室で寝ている兄には、この想いをぶつけるわけにいかないのだ。
だから余計に、苦しくて、体から熱が逃げないでいる。

「くそ…………抱きたい、よ……兄貴……」

水音で聞こえないのを良いことに、一人呟いた。
しかし、その時だった。浴室のそばで、異変が起きたのは。

ゴトッと、外から物音が聞こえた。
俺は肩をびくりと跳ねさせ、耳を澄ます。すると、明らかに人の気配が近づいてきた。

もしかして、兄貴が起きたのか?

喜びと同時に、自分の体を見つめ、急いで洗い流そうとする。
その前に冷たい水で冷やさなければ。
情けないことにまだ治まっていないし、万が一見られてしまったらまずい。

そう思ったのに、突然浴室の扉が開く音がした。

「…………クレッド? 風呂、入ってる……?」

曇りガラスの向こうに人影が見え、控えめながらもはっきりと尋ねられた。
俺は慌てて扉が開かないように手をかけた。

「う、うん、ちょっと待って。もう出るから」

不自然に焦った雰囲気が出てしまったかもしれない。
しかし聞こえてきた返事は、信じられないものだった。

「いや、俺も入っていい…?」

消えそうな声で問われた台詞に、耳を疑う。
どういうことだ。今の記憶が無くなった兄にそんなことを言われるとは、思ってなかった。

でも今は、タイミングがよくない。
止めようとしたが、浴室の扉が開かれ、俺は思わずタオルで前を隠した。

兄貴はどこかぼうっと赤らんだ顔のまま、何故か下着姿で無理矢理中に押し入ってきたのだった。
混乱して唖然と見ていると、兄貴は頭からシャワーをかぶりだした。

しかし、当然悲鳴が上がる。

「うわ! 冷てえ……!」
「え、……ごめん! 待って、今お湯にする!」

急いで温かいお湯を出し、そのまま立ち尽くした。
意味が……分からない。この状況は一体、何が起こっているんだ。

兄貴はシャワーに髪と体を濡らせたまま、恥ずかしそうに顔を上げた。

「なんでお前、水使ってんの…? 風邪引くぞ」
「……い、いやそれは……たまたまだよ、ごめんな、冷たくして」

至近距離で向かい合い、肩にそっと触れた。
すると兄がぴくりと反応する。

すごく、ドキドキする。こんなに近くで二人とも、ほぼ裸でーー。

「兄貴こそ、いきなりどうしたんだ? なんで下着……」

じろじろと見下ろすと、兄貴はさらに顔を赤くしてうつむいた。

「なんでもねえ……っ」

そう言われたが、どう見ても何でもなくは見えない為、俺は理由を尋ねた。
もしかして俺がいるから恥ずかしいのか?
いや、だとしたら一緒に風呂場に入ったりしないだろう。

物凄い早さで頭を回転させて、あるひとつの可能性が閃いた。
ないとは思ったが、念のため聞いてみる。

「ひょっとして、下着ーー」
「よ、汚しちゃったんだ。悪い。……そこで洗濯しようと思ったけど、お前中にいたから、バレたら恥ずいと思って…」

率直に告げられて、思わず目を見開いた。
けれどやはり、そうだったか。

冷静に考えれば、他にもっと良い方法があったような気もするが、兄らしいといえばそうである行動が、なんとも可愛く思えた。

鼓動が鳴り止まないまま、俺は兄貴の背中をそっと擦った。

「ええと、大丈夫だよそんなの。気にしないで。……ていうか、どっちだ? もしかして、おね」
「おしっこじゃねえ! いくつだと思ってんだ!」
「ごめん。冗談だよ。……ああ、でも全然心配いらないって。俺だってそういう事あるから」

やんわりと励ますように告げた。
まさか兄貴が俺の部屋で夢精するとは。大きな驚きとともに興奮に襲われそうになるが、今は優しく伝えて安心させるべきだ。

自分でも恥ずかしい話をすると、兄は目を丸くしていた。

「そうなんだ。お前もあるんだ……なんだ」
「まあ、男だからな。そういう経験はあるよ。ちなみに兄貴に見つかったこともある。俺ちょっとからかわれたぞ」

半分恨めしげに冗談ぽく告げると、兄は申し訳なさそうに「え、うそ。ごめんごめん」と苦笑していた。

良かった。
最初はどうなることかと思ったが、明るい感じに空気を持っていけた。
俺が自慰をしていたことも、バレていない。

そう安堵していたのだが。
こんなに身近に兄の裸を目にすると、そろそろやばくなってくる。

けれど、何故だろう、今離れたくない。
せっかくこうして、また兄貴が目覚めて、近くに来てくれたのに。

「兄貴。体洗える? 俺洗ってあげようか?」
「……はっ? 出来るに決まってんだろバカ、変態!」
「ひどいな。ちょっと言ってみただけだろ。あ、そうだ。じゃあ下着洗ってあげるから。その間に体洗いなよ」

自然な感じを装い、提案をしてみた。
邪な考えももちろん含んでいるし、駄目で元々だ。

俺はこの時間をただ終わらせたくなくて、簡単に言えば、もっと長くしたかったのだ。

兄貴は考えたあと、信じられないことに顔をこくりと頷かせた。

えーー本気か?
何を考えてるんだろう、この人は。
俺はあなたが好きなんだぞ。恋人なんだし、ずっと抱きたいと思ってるのに。

頭の中で一斉に言葉が駆け巡ったが、この機会を逃すわけがない。

こうして俺は兄貴との思わぬ時間を、得たのだった。



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