セラウェ記憶喪失編 | ナノ


▼  27 思い出せたら

『兄貴……今度、後ろからしたい…』
『……ん、あぁっ、ま、まってっ』
『ダメ…? ほら、またすぐ、気持ちよくしてあげるから』
『や、あっ、クレッド、入っちゃ…んあぁっ』

汗がはりついた背中に、弟の胸が当てられ、腰を大きく突き上げられる。
クレッドの熱により何度目か分からない絶頂を与えられては、意識を手放しそうになる。

『あっあっ、いく、いくぅ!』
『ん、いって、イキまくって兄貴、俺のペニスで、またイッてごらん』
『はぁ、んぁ、やあぁぁっ!』

ガクガク腰を揺らしながら弟の激しいピストンを受け入れている。

おいどうしちゃったんだこれ。
こんな経験はないはずなのに、夢の中の俺はクレッドの腕の中で、何度も果ててはやらしい声で叫ぶ。

そうして中も外も愛する者によって満たされ、幸せに包まれたまま、身体を大きな胸板に再び預けるのだった。




「……ああ。またやっちまった。……一人で寝てて良かったわ…」

さほど驚きもないまま、布団を剥がし、ぼうっとして起き上がる。最近自分の部屋で目を覚ます時は、下着がどろっと濡れていることが多い。
明らかに、弟との淫らな夢のせいだ。

この変な症状のおかげで、使役獣とはしばらく離れて眠ることにした。
その他にも、たまにクレッドの部屋を訪れては、そのまま泊まらせてもらうことも増えていた。

二人が恋人同士であることが分かった上で、時々キスをしたり、ベッドの上ではすでに、何度か触れ合いのようなこともしてしまっている。

兄弟なのに、正気の沙汰ではないと自分でも思うときがある。
けれど夢の中の記憶をしょっちゅう見ている俺にとっては、もう、何が普通で何がおかしいのとか、よく分からないのだ。

ただ衝動的に、弟を受け入れ、気持ちいいとしか感じない行為をし、あまつさえその事によって幸福感を得ているとは。

「はは……俺やべーわ。……何がやばいって、満たされてることがやべえ…」

震え混じりの呟きが舞う。
そうだ。これまで知り合った魔術師らに指摘されたように、これはきっともう一人のーーというか以前の自分が俺に伝えようとしているのかもしれない。

それとも欲求不満なのか?
はたまた、怒っているのだろうか?

まだ大事な弟のことを、思い出せない自分に。

ああ、いっそのこと全て思い出せたら。たぶん俺は楽になれるのだろう。
毎日のようにクレッドにドキドキし過ぎたりせず、知らなかった快感に強く翻弄されるようなことも、なくなるんじゃないか。







まあ朝から強烈な目覚めをしてしまったわけだが、その日はもちろんそれで終わりではなかった。
かなり気乗りしないイベントが待ち構えていたのである。

教会に所属している俺は、これまで通常の任務に一度だけ参加した。
危険区域の魔物討伐という、研究職が主な自分にとっては中々面倒な任務だったが、弟子とロイザの活躍により滞りなく終えた。

しかし今日のはちょっと違う。
任務というより大規模な社交パーティーというやつで、リメリア教会が主催をし、関連のある魔術師らの交流がメインとなった、若干緊張を呼ぶ集まりが開かれたのだ。

場所はうっそうとした森の中にある、聖堂つきの古めかしい豪邸だ。
警備はもちろんソラサーグ聖騎士団が担っており、他にも親交のある騎士団役員らを招待したりもしていた。

「うわ、すげっ。格上の魔術師がいっぱいだなぁ。昔の俺なら速攻門前払いだよこんなとこ。なぁオズ」
「そんな情けないこと言わないでくださいよ。今のマスターならソラサーグ団長の兄として確実に大きな顔出来るんですから。胸張ってください、ね?」
「おいそれただのコネ以外の何物でもねーじゃねえか。もっと情けなくなるだろが」
「…あっ、俺あっちの教会の方達に挨拶してこないと! じゃあマスター、適当に飲み食いしててくださいねっ。あと知らない人にはついていかないように!」
「はっ? おい待てよ、ちょ、一人にすんなって! 心細いだろっ」

レセプションからホールに入ってしばらくした時。すっかり教会の職務に染まってしまった弟子のオズが、師匠の俺を置いてどこかへ行ってしまった。

ありえない。どうせ知ってる人いねえし、身内で固まって飯食ってりゃ早く終わるだろと踏んでいたのに。こんなアウェーな場所で突然ひとりぼっちにされるとは。

魔術師嫌いのロイザはもちろん同行してなかったため、完全に暇になってしまった。

周りを見ると、上質なローブやスーツなど、思い思いに着飾ったいかにもな魔術師達が楽しそうに歓談している。

ちっ。こんな晴れやかな場所にのこのこ出てくる上位の奴らと、話なんて合うわけがない。
いくら職場が上流になろうが、昔から俺が地味な補助魔法や怪しげな禁止魔法を専門とした、しがない魔導師であることに変わりはないのだ。

「はぁ。こうなりゃタダでたらふく飯食って帰るか。おっ、高級酒もあるじゃん。ラッキー」

立食パーティーのため、目当ての御馳走テーブルに移動しようとした時だった。
斜め前から背の高い男が近づいてくる。革のジャケットに赤毛が目立つ、若い男だ。

俺はそいつを知っていたが、馴れ馴れしい性格をすでに覚えていたため、するりとかわそうとした。

「おい兄ちゃん、一人? あんた知り合いいないの? こん中に」

だがやはり上から目線の笑みで話しかけられる。
構わず酒を注ぎながら奴をじっと見ると、「おっ、それうまいよな。俺にも一杯」とグラスを差し出してきた。

「イスティフ。こんな上層パーティーに俺の知り合いがいると思うか? 弟だけだわそんなもん。お前こそどうなんだよ。俺みたいにあぶれてんじゃねえのか」
「ははっ。俺の目的はあれだから。これから知り合うんだよ、可愛い女の子とな」

赤髪の黒魔術師、イスティフはにやりと目を細め、一気に酒を煽った。
こいつとは騎士団領内で数回喋っただけだが、台詞からもわかる通り、奴の軟派的なウザさはすでに承知済みだ。

「お前は社交パーティーをなんだと思ってるんだ。まだガキのくせに…。そうだ、なぁローエンどこ? あの眼鏡の奴。あいつ連れてこいよ。もっとまともな奴だし」
「ひっでー。俺も十分まともな男子だろうが。つーかセラウェ、あんたローエンのこと結構好きだよな。でも駄目だ。あいつつまんねえもん、『この建物の結界は稀に見るほど美しく完璧だ』とか言ってどっか消えちまったしさ。だからさあ兄ちゃん、俺と一緒にナンパしない? ほら一人より二人のほうが怪しまれないし女子グループに話しかけやすいだろ? てわけでーー」

突如とんでもないことを提案し出す同僚に唖然とする。
上司も同席しているというのに、なんて不真面目な野郎なんだ。終始受け身の俺とはタイプからして違う。

首を全力で振って「するわけねえだろっ」と否定するも、年下の魔術師はどこ吹く風の様子だった。
俺の肩に腕を回し、横目で周囲を物色し始めたのである。

「んなこと言わずにさ、あんたも興味あんだろ? ほら記憶も失ったことだし、心機一転彼女でも探してみよーぜ」
「うっせー大きなお世話だ、離せこの遊び人っ」

奴に引っ張られるがままにされていると、イスティフの翡翠の瞳が突然きらりと光った。
中央のテーブルを囲む女性達に目をつけたようだ。

その中心にいた細身の女性に目を奪われる。長い艶やかな黒髪に、真っ白なケープからは清楚な同色のドレスが覗く。知的な横顔と意思の強そうな眼差しは、その場の人々の注目を浴びてすらいた。

「おっ、すげえ美人。あれは相手にされねえかもなぁ……でも一応行ってみっか、なあセラウェ」
「……あ? 冗談だろ一人で行けバカッ」

この男はマジもんの阿呆なのか。職場のパーティーでむやみに目立とうとするな頼むから。

しかし俺の願いも虚しく、女性は邪な気配を察知したのか、俺達が近づくと同時にこちらに振り返った。
真正面から大きな黒の瞳に捕らえられ、思わず息を飲む。

だが彼女は信じられないことに、俺を見て確かにはっきりと笑みを浮かべたのだ。

「あら、どなたかと思ったら、セラウェさんじゃないですか。お久しぶりですね。お元気でしたか?」

他の女性達に挨拶をし、俺達の前に進み出て声をかけてきた。
な、なんで俺を知ってるんだと素直に驚く。前の俺はこんな美人とも友達だったのかよ、どうなってんだ。

「兄ちゃんのお友達? マジかよ紹介してくれ」
「ふふ、いいですよ。ナターリエ正教会に所属するメイア・ヘイズと申します。リメリア教会の皆さんにはいつも私の父と騎士の弟がお世話になっています」
「……えっ、ヘイズ…? 父と弟って……」

俺の隣でイスティフが急に棒立ちになる。
その顔からはさきほどまでの興奮が消え失せ、若干血の気が引いているようにも見えた。

そしていきなり俺の腕をがしりと掴み、後ろに振り向かせられる。

「やべえ、司教の娘さんだわ。ばか野郎セラウェ、なんで言わねえんだよ!」
「はっ…? 俺が知るかんなこと、何も覚えてねえっつってんだろがっ」

司教ということは俺達の上司である司祭のそのまた上の上司ということだ。
全部こいつのせいだが首が飛ぶ前に早く逃げなくては。

二人で揉み合ううちに、イスティフはあろうことか素早く向き直って彼女に俺を差し出した。

「いやあ、なんかすみません、あまりに美しい人がいらっしゃったのでつい……そうだ、彼がもう少し貴方とお話したいらしいです。では僕はこれで失礼します。あ、司教にどうぞよろしく」

いかがわしい微笑みを見せながら、さっと消え去っていく若き黒魔術師。
取り残された俺は、同じく笑みを口元に浮かべる彼女にじっと見つめられたままだった。

グラスを片手に持ったまま、微動だに出来ない。
確かにこの人はこの場の華やかな人々の中でも、抜きん出た美女に思える。

「あの……俺のこと知ってるんですか? ええと、メイアさんでしたっけ……」
「はい、以前色々とお話をしたことが。セラウェさんのこと、イヴァンから聞きましたよ。なんでも数年分の記憶を失ってしまったとか」

心配気な様子で述べられ、俺は苦笑いをしながら頷き、ことの経緯を簡単に説明した。
しかし彼女は、目は笑っているものの、どこか緊張を感じさせる眼差しで俺を見ている気がした。

「まあ、いつか戻るとは思いますけどね……はは」
「そうですね……私もセラウェさんのこと気になってたんですよ。だって、あなたのことを大好きなクレッドくんが、心配ですから。彼、きっとかなり落ち込んでいるんじゃないですか?」

大きな瞳を曇らせて、俺のほうに迫られ若干腰が引けた。
クレッドくん……って呼んでる、この人。……え、俺の弟とも知り合いなのか?

いや、俺達のことを知っている話ぶりから、きっと弟のほうが親しいのかもしれない。
年も若いし、すごい美貌の持ち主だ。司教の娘で、自身の魔力も俺に勝っている。

なんとなく、クレッドの隣に並んだら、お似合いに見えるかもしれない。

「どうしたんです、セラウェさん。少し元気がないように見えますけど」
「……あ、いや。こういう場所がちょっと慣れなくて。……あの、弟のことよく知ってるんですか?」
「ええ、もちろん。もう長い付き合いですから。彼が入団した時からの友人なんです」

メイアが頬を染めたように話す。
そうだったのか。俺は弟にこんな綺麗な、魔術師の友達がいたことなんて全く知らなかった。
やっぱり俺は、早く記憶を取り戻すべきなのかもしれない。

何故かうっすら暗い気持ちになりながら、話を聞いていたのだが。
彼女からとんでもないことを聞かされた。

「今クレッドくん、騎士団の皆さんと外の警護をしてるみたいですね。元気なのかしら、早く会いたいわ。……あ、でも、ちょっと気になることがあって。お兄さん知っていますか? 彼が今付き合っている方のお話…」
「……えっ?」

唐突に出された話題に、心臓の音が速まっていく。
この人は何かを知っているのか。それって、誰のことを言ってるんだ、まさか俺のーー

とにかくペラペラと喋るべきではないと思い、俺は首を横に振った。

「いや、俺は詳しくなくて。あんまりそういう話しないんで」
「……本当に? 不思議ですね。クレッドくん、あんなに熱がこもった様子で話していたのに……まだセラウェさんに伝えてないなんて」

首を傾げた彼女だが、俺はよく分からずごまかすしかなかった。
弟と彼女は、恋愛の話をするほど親しい仲なのだろうか。
だがもし俺のことだとしたら、安易に話題に出来ないと思うんだが。

「あの、クレッドと仲が良いんですね。あいつわりとクールというか、あんまり女性とそういう、イメージ出来ないというか…はは」
「ふふ。そうですか? 確かに……でも私達、以前その……付き合っていたので、自然にそうなるというか。ちょっと恥ずかしいですけど」

メイアが照れたように瞳を細め、にこりと笑った。
対して俺は、目の前で告げられた台詞に体が固まってしまった。

付き合ってたのか? クレッドが、この人とーー。

嘘だろう? なんで?

何故か急激に頭が真っ白になり、足元がふらついた。
だってあいつ、男にも女にも興味ないって。俺だけだって言ってたのに。

心の中に去来したのは、悲しみと衝撃だった。

いや、別にそんなこと弟の勝手だろう。
この人の話によれば、だいたい過去のことだし、俺がとやかく言う資格もない。

なのに無性に、渦巻き荒れる感情だけが自分の体から切り離されていく。

「そうだったんですか。それも知らなかったなぁ、あはは。……あっ、俺少し飲み過ぎたかもしれません。じゃあこの辺で失礼します。どうぞパーティー楽しんでくださーー」
「あっ、待ってください、セラウェさん。せっかくまたお会い出来たんですし、もうちょっと。実はあなたに紹介したい人がいるんですよ。少しだけ、お時間よろしいですか?」

有無を言わさないメイアの誘いに、俺は戸惑った。
何だかよく分からないが、今すぐこの場から逃げ出したい。この人と喋らなければよかった。

男のくせに情けなくもそう思いつつ、彼女の前で言葉を濁す。
だがその後、さらなる困難が俺を襲うのだった。



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