召喚獣と僕 | ナノ


▼ 19 大丈夫 ※

任務途中ではあったが、僕らは無事に街の宿屋に泊まることができた。
赤レンガ造りの建物は温かみを感じる内装で、ふかふかのベッドに木の家具が落ち着く。
二人きりで外泊するのも初めての経験だったから、ドキドキした。

「うわぁ、美味しいこのシチュー。パンも焼きたてだよ。教会のお金でこんなもの頼んじゃっていいのかな」
「いいんだろう。あいつも『経費で落ちるから高いもの選べ』と言っていた」
「はは、確かに。ラームってば先輩の言ったことよく覚えてるね。……あっそうだ、ラームのご飯もあげないと」

僕は行儀悪くも身を乗り出し、隣の彼の口元にちゅっとキスをした。すると心なしか、ラームの頬が赤らんでいく。

「れ、レニ。嬉しいぞ。だがもっと長くがいい。それじゃ一口分だ」
「わかってるよ。今食べちゃうからちょっと待っててね」

獣に優しく言い聞かせると、嬉しそうに頷き「ゆっくり食べろ」と言ってくれた。

食事後、僕はラームに長めの魔力供給を行ったあと、二人でお風呂に入った。
部屋のカーテンの向こうはもう夜空で、明日も早いし粛々と寝支度をするつもりだった。

家と同じように入浴をした後、僕はひとまず召喚獣に出てもらい、洗面所に残る。
タオルで金髪頭を乾かしながら、じっと鏡に映る自分を見た。細く小柄で白い肌の少年。
最近は鏡を見ると、どうしても自分と成人男性のラームの姿を比較してしまう。

とくに裸のときだ。この間彼の前で破廉恥な姿を晒してしまってから、意識せざるを得なくなっていた。

「はあ……こんなところに……入らないよなぁ」

おもむろに鏡にお尻を向け、片方の尻をぐいっと掴んで広げる。
僕は恋愛経験もない16歳だが、男同士の性交がどう行われるかは知識として知っていた。

あれだけキスひとつで大騒ぎしていたのに、今や出来るか出来ないかで悩んでいる。
すべてラームを救いたいがために。

「ーーレニ? のぼせたか。そんなに長く入ってどうしたんだ」
「わああああぁッ」

突然入ってきた見上げるほどの男を扉から押し出し、僕も何食わぬ顔で続いた。

「ごめんごめん、大丈夫だよ。…あれ? どうして寝間着着てないんだよ、ラーム。風邪引いちゃうよ。……って引かないか。僕が着せてあげるね。はいしゃがんで」

ごまかしながらさっきのことが見られてませんようにと願い、宿に備え付けの服を彼の太い首にくぐらせようとした。
しかし人型の茶狼は僕の手首をそっと握り、動きを止める。

そしてそのまま、顔を傾けて僕の唇に口づけをしてきた。

「んっ……」

背を大きく屈めてキスをされる様は、魔力供給の続きというよりも恋人同士のそれみたいだった。
彼は下着を履いていたが、僕は腰にタオルを巻いただけだ。
ラームは両手で僕を軽々と持ち上げ、抱っこをしたまま後ろのベッドに座った。

その間も互いの口は離れず、体を落ち着けると舌が入り込んでくる。

「はぁ、ん……む」

僕は文句も言わず大人しくしていた。嫌じゃなかったし、彼の口づけにとても気持ちがこもっていたから。

しかし、僕の胸の部分を手のひらで触ってきたときは、びっくりして口を離した。

「ちょっ、ラーム……っ、そんなにお腹空いてるの?」

やや混乱して問いかける。
交尾をしたがるほど空腹なのかと思ったのだ。しかし彼は僕を見つめて、片手のひらをそっと頬に撫でつけた。

「腹は空くが、大丈夫だ。……ただ、レニに触れたいと思った」

切なげな蜂蜜色の瞳に、鼓動が鳴っていく。
そこにまた触れられ、やんわりと胸をもまれる。こんなことをされたのは初めてで、妙な雰囲気に汗ばんでくる。

愛撫……をされてるみたいだ。
彼は獣なのに。

「あっ……んぁ、あ……だめだよ、ここ宿だし、変なことしたら…っ」
「……変なこと? 俺がレニを可愛がることがか?」

顔を上げたラームは、自分がおかしなことを言っていると気づいていないんだ。
僕はうまく答えられず、なんと彼の唇が僕の乳首をついばむのを許してしまった。

「や、やだぁ……ばか……、んあ……舐めないで…」

日に焼けた厚みのある胸板が迫ってきて、僕は後ろにゆっくりと倒されて体ごと覆われてしまった。彼の陰に入り、大きな手が上半身を優しく這う。

腰のタオルを取られてしまい、彼は信じられないことに僕のペニスをくわえた。
当然のようにそこを舐められ、あっという間に温かい口の中に包まれて僕は身震いする。

「ばかっ、やぁっ、とって、ラーム、だめっ」

起き上がろうとしたが長い腕に阻まれてうまくいかない。
彼の優しい口の動きは、僕のそこに吸い付き果てるまで離してくれなかった。

この前、舐めても美味しいと言っていた。まさか飲みたいのか…?
考えるより前に、僕は出してしまった。

「や、んあ、あっ、いっちゃう、よぉっ」

びくびくと震える腰の真上で、長めの茶髪をかきあげる彼の姿がやけに色っぽく感じた。

「……もう! 勝手にやっちゃだめだろラーム! お仕置きするよ!」

シーツの上に足を投げ出した全裸で情けなすぎる姿だったが、ここは毅然と叱らないといけないと吠えると、彼は赤らんだ顔で膝をついていた。

「いいぞ。お仕置きしろ。だがレニのはすごく美味かった。それだけは伝えたい」
「なに言ってんだよ反省しろラームのばかっ」

さらに赤い顔の僕は珍しく言葉を荒げ、タオルで前を隠した。
自分の召喚獣にフェラチオまでされてしまうとは。
しかもラームのやつ、かなり上手かった。他と比べようもないけど。

でもすぐにハッとなる。この前の続きじゃないけど、まさか今度は僕の番なんてことにならないよな。
恐る恐る視線を彼の下着に移した主に気づいたのか、彼はその場に膝を立てて腰を落とした。

「レニ。俺のペニスを見てるな。気になるのか?」
「……う、うん。でも僕、同じことなんて出来ないよ。口に入らないもん、そんな大きいもの」
「ははっ。わかっている。そんなことは言わないから安心しろ。……ほら、来い」

また人間らしい振る舞いで笑うラームが気になった。
広げられた腕の中に入り、僕も彼を抱きしめた。

この状態で、いったい彼はどのぐらい空腹を満たせたのだろうか。

「ねえ。ラームは射精しなくていいの?」
「……それは……まだいいんだ」

まだってなんだろう。やっぱりいつかするのか。

首をかしげつつも、僕は彼の顔を見上げた。眉が太くきりっとして、瞳は大きく精悍な顔立ちをしたラーム。

どうして頑なに我慢するのか、僕は無性に気になった。

今日の昼も言っていたが、びっくりするような射精って何なんだろう。
精液がすごい色とかかな? 人間じゃないから。

「そろそろ教えてよ。僕は主なんだから大丈夫だよ。隠さないで。……そうだ、ラームは自分でしたことあるんでしょう?」
「……ある。興味があって。……レニのことを考えて、出そうになったときに……結局、我慢出来なかったんだ」

恥ずかしそうに振り返る大人の男だが、さらっと凄いことも告白された。僕のこと考えてたの?

なんだかそんな様子が、僕には愛しく思えた。
髪を撫でていると再び憂いの瞳がこちらに向く。

「俺は人間のように、定期的に出す必要はない。どちらかというと、気持ちとか、本能的なものだ。だから堪えられる。心配するな、レニ」

そうは言われるけれど、召喚獣に我慢をさせているのは嫌だ。
僕は考えた。
交尾までとは言わなくても、お互いに出し合うぐらいなら問題ないんじゃないかって。
本当に傍から見たらどうかしてるけど。

「やっぱり出しなよ、ラーム。僕がいいって言うからさ。ほら、僕はラームに少しでもお腹を満たしてほしいんだよ。……えっと、それだけじゃなくて、僕こうするの結構嫌いじゃないよ。ラームのこと好きだから」
「……ありがとう、レニ。俺もお前が大好きだぞ。でも出すときは、交尾のときだ。だからそうやって、可愛く誘うのはなしだ」

頬を染めたままの彼が顔を近づける。
すぐにキスをされてしまい、またそれが否応なく甘く深いものに変化していき、僕は口をあんぐりさせることもできなかった。



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