召喚獣と僕 | ナノ


▼ 18 体の謎

「じゃあレニ君とラーム、今日の依頼はこれね。ちょっと遠いけど、各教会に書物の配達をして、署名をもらってくるだけだから簡単な仕事だよ。頑張ってね」
「はい、ありがとうございます。オズさん!」

僕と召喚獣がお辞儀をし配達物を受け取る。ここは教会の事務局で、今から任務なのだ。
茶髪の温和な青年オズさんはセラウェさんの弟子で、この前の危ない会合にはいなかったが、僕らも仲間とみなしてもらったことにより、先輩から事情を伝えてもらっていた。

「それにしても、二人がそんなことになっちゃってたとはなぁ。あ、平気平気。俺も変わった人達の境遇には慣れてるからさ。…そうだ! 魔力供給の場所大丈夫? 今回の任務はほぼ森の中で魔物とかも現れるかもしれないから、くれぐれも気をつけるんだよ」
「ーーええ! 魔物っ!? あっはい、気をつけます、ははは」

カウンター前でこっそり、だが普通に秘密の魔力供給のことを心配されどきりとする。先輩方に恥ずかしい行為をしてると知られるなんて、やっぱり心臓に悪い。

でも今は任務に集中しないと。ラームと二人きりなんだし。
僕らは地図を携え、その場からまず転移魔法で移動をした。



ソラサーグ地方内の三つの教会をひとつずつ回る。
大木がそびえ立つ深い森に降り立った僕は、召喚獣から声をかけられた。

「レニ。俺に乗れ。森を駆け回ってやる」
「いいの? ラーム。重くない?」
「軽い。しっかり掴まるんだぞ」

彼は巨体の成人男性から、普通の狼よりもふたまわり以上大きな茶狼に変身した。
もふもふの毛並みに耳がぴんと立った、凛々しく野性的な獣の姿。

最近ラームは人型のほうを好んでいたから、久しぶりに見れて嬉しくなる。

「じゃあお願いね。地図のこの場所だよ」
「ああ、任せとけ。行くぞ!」

鞄を背負った僕が獣の背中にしがみつき、猛スピードで駆け始める。目が回るごとく緑の風景が移り変わり、僕は彼にまかせっきりでただ掴まっていた。

三十分ほどが過ぎた頃、最初の教会に到着した。
初めて行く場所には転移魔法が使えないため、今回の任務は各所にアクセス地点を作る目的もある。
そしてもうひとつは、新人の僕らの挨拶回りも含んでいる。

「よく来てくれましたね。さあ署名をしましたよ。あと二つ頑張ってください、新人の魔術師さん」
「はい、お世話様です!」

古びた教会の扉前で司祭に迎えられ、無事に配達品を渡す。まるでスタンプラリーのように印を入手し、次の場所へと向かう。
リメリア教会の自治領にある三教会は、古くから儀式や式典に際して協力関係を結び、由緒ある聖地となっているのだ。

「ラーム、次の場所はここから徒歩で五時間ぐらいの場所らしいんだ。まだいける?」
「全然イケるぞ。俺に任せろ、レニ!」
「うん! じゃあよろしくね。僕座ってるだけで悪いけど」

彼にお願いし、鬱蒼とした森の中を再びぐんぐん進む。
季節はもうすぐ初夏で日差しが強いが、ラームは元気いっぱいだ。

茶狼の召喚獣は二時間近くも走り続け、ようやく次の教会へと到着した。
午前中に出発して、なんだかんだでもう午後三時だ。

「着いたぞ。中から音楽が聞こえるな。人もたくさんいる」
「本当だ。礼拝の最中みたいだ。外で待ってようか」

ステンドグラスが綺麗な白い教会の窓際で、僕らは少し休憩した。
茶狼は毛繕いをして半身を寝そべらせる。

「ねえねえ、僕ちょっとトイレ行きたくなっちゃった。ここで待っててくれる?」
「いいぞ。帰ってきたらご飯をくれるか? たくさん走ってお腹が空いた」
「うん、わかった。そうだ、ラーム人化しててね。人が出てきちゃうから」

かなりの大きさの狼を見られたら驚かれるため、そう言いつけて教会の玄関口にこっそり入った。
聖堂の奥から讃美歌が聞こえてきて、僕は誰もいないお手洗いに行き、用を足した後出てくる。

そういえばラームはトイレも行かないし、やっぱり召喚獣なんだよな。でも、どうして精液は出るんだろう。

教会内で不埒なことを考えてしまった僕は、頭を振り外に戻った。
建物の外壁前に姿勢よく立っていたのは、長めの茶髪に肌の焼けた大柄な男性だ。

「レニ。大丈夫か?」
「うんっ。お待たせ。あ…でもラーム、かなりお腹空いちゃったよね。ここでエッチなことしたらまずいよな」

慣れのせいだが自分でも何を言ってるのかと思ったけれど、彼の瞳がぎらりと一瞬光る。僕は彼が伸ばしてきた両腕に捕まり、ふわっと抱っこをされた。

「ちょ、何してるんだよっ、こんなとこでダメだって!」
「あっちにいい小屋を見つけた。そこでしよう、レニ」

すでにそういう気分になっているのか、甘い声を出され連れて行かれる。こんなところを教会関係者に見つかったらおしまいだ、そう思ったけれど召喚獣の今日の働きぶりを考えたら抗えなかった。

どこで見つけたのか、少し離れた場所にある物置小屋に入った。

暗がりの中でラームはさっそく床板に座り、僕を膝の上に招く。
魔力を与えているのは主の自分のはずなのに、傍目から見たら大人の男にリードされている少年にしか見えない。

「んっ、んむぅ……ふ、ぁ……」

舌を入れられて長いキスをされる。
完全に身をまかせて脱力してしまうのは、正直気持ち良さもあるのかもしれない。
ラームがそれに気づいてないといいけど。

「……レニ、美味しいぞ」
「そうなの…? ならいいけど……んっ、今はキスだけだよっ」
「ああ……そうしよう」

素直に言うことを聞いたと思ったが彼の口づけは中々やまず、しばらく貪られてしまった。

「ごちそうさま。レニ、お前もお腹が空いただろう? ほらこれを食べろ」
「え? これ果物じゃん! どうしたの」
「お前がトイレをしてる隙に探した。旨いぞ」

そう言って僕にオレンジ色のフルーツを与えてくれ、彼もむしゃっと口に頬張った。
主に食べ物を見つけてくれた獣にはすごく感謝したが、目の前で普通に咀嚼していて度肝を抜かれる。

「うそっ、ラームってご飯食べれるの!」
「食べれるぞ。必要はないが。でもこれは安全か確かめるために食べた。それにレニの精液も食べただろ?」
「ばかぁっ、食べ物と一緒にしないでよ!」

僕に怒られてきょとんとしていた彼だったが、一緒に果物を難なく食べていた。
そうだったのか。主のくせにこんな驚愕の事実も知らなかったなんて。
ラームの体が今更になって謎めいてくる。

「でもトイレも行かないよね? おしっこ出ないでしょう? なのにどうして精液は出るの? っていうか本当にラームは射精できるの? 僕すごく気になるんだけど」
「……うっ、レニ、どうしたんだいきなり。俺のぺニスが気になるのか? 今はだめと言われてるのに、そういう気分になってしまうだろ」

彼の顔が赤らみ、なぜか僕が迫った風になってしまう。
いや別にえっちな雰囲気にしようと思ったわけではなく、魔術師としての好奇心なのか気になるのだ。

「だって主の僕がラームの体のこと全然知らないっておかしくない? 僕はそんなのいやなんだ。全部知りたいよ」
「……レニっ! それは嬉しいがっ……まだ出したら駄目だと思う。きっとレニはびっくりする」
「えっ?」

びっくりってなんだ。
僕は大きな疑問に包まれたけれど、話を変えようとしたのか、茶狼に「あ。教会が静かになった。もう行こう、レニ」と言われてしまい、その場はお開きとなった。

彼の言う通り礼拝は終了しており、信者や聖職者らが周辺に集まっている。僕らは彼らが去ったあと、聖堂に入って無事に書類への署名をもらえた。

聖職者の男性は一人目と同様労ってくれたが、任務中の僕らのことを心配してくれた。

「ご苦労様です。道中疲れたでしょう。どの教会も人里離れた辺鄙な場所にありますからね。三つ目の教会へはどう向かう予定ですか?」
「ええと、一旦街に出て、そこから森を抜けていこうと思ってます。彼は召喚獣なので走ってもらうつもりでーー」

ほぼラーム任せなのはどうかと思ったが、まずは一度転移魔法で訪れたことのある市街地に出る予定だった。

「なるほど。いい案だと思うのですが、私から見ますと彼、かなりお疲れのようですよ。君の魔力が少し足りてないようだと老婆心ながら推察できますが…」

優しい司祭の男性の指摘に、僕ははっとなる。さすが教会関係者の人だ、そんなことまで分かるんだ。

確かに最後の教会は一番遠くて、ソラサーグ地方の外れに位置する大聖堂だ。僕の魔力量からして、夜遅くなってしまったら一泊していこうかとも考えていたのだが。

「俺は大丈夫だ。心配するな、司祭」
「そうですか? しかし消費量が凄まじく思えますが。食事をしたら数時間でさっぱり体力が消え去ってしまうほどに」
「え!? 本当ですかっ? 実はさっきあげたばっかりなんですけど」
「ほほう、それはまた由々しきことで…。私は以前使役獣を多く飼育していたことがありましてね。所詮人間ですから直感にも近いですけれど、今日は街で大人しく一泊したほうがいいと思います。そして明日三つ目の教会へ向かっては。君達の任務内容はイヴァン司祭から我々に連絡されてますから、一日ぐらい大丈夫ですよ」
「わ、わかりました。アドバイスありがとうございます!」

経験豊かな聖職者の方に教えて頂き、僕は素直に従うことにした。本当は自分が召喚獣の状況をすべて把握し、決断と行動をしなければいけないのだが。

司祭と別れたあと教会の外に出て、人型の彼に向き直った。

「ラーム、僕また気づかないでごめんね。けど無理しちゃだめだよ、二人の任務なんだから。……ってラームに働いてもらってばかりだけど…」

しょんぼりして話しかけると、彼はじっと僕を見下ろしたあと、なんと正面から抱きしめてきた。
獣の行動に驚きながらも、見上げると真面目な顔と目が合う。

「レニ。力がない俺のせいだ。俺がもっと大きなタンクだったら、レニの魔力をしまっておける。でも大丈夫だ。二人でこれからもっと成長するぞ。だからくよくよするな」
「……んっ? タンクってなに? ……ええと、でもありがとう。ラーム。うん、頑張ろうね、二人で」

彼の抱擁で励まされた僕は、笑顔で頷いた。

「じゃあ街で宿屋探さないとな。行こうかラーム」
「ああ。もうすぐ日が落ちる。宿でゆっくりレニを癒すぞ」

僕らは手を繋いで、そこから転移魔法で市街地へと移動をした。



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