召喚獣と僕 | ナノ


▼ 14 歓迎される二人

初任務が終わり、僕らは数日お休みをもらった。教会にて本契約を交わし、司教の任命のもと無事に専属魔術師となってからのことだった。

その日は家でゆっくり過ごしながら、送られてきた封筒を開封し、証明書や詳しい契約書などを穴が開くほど見つめていた。

「うわぁ〜、信じられない。ほんとにリメリア教会で働けるんだね、僕たち。見てみて、さっそくお給料明細も送られてきたよ。……え、なにこれ!?」
「なんだ? どうしたんだ、レニ」

茶狼のラームが毛づくろいの足を止めて、僕の頬にふわっと毛並みを寄せてくる。
僕はその金額に目を疑った。同時に背後から聞こえてきた声にも。

「うおっ、そんなに貰えるのか新人で。トマスんとこ潤ってるなぁ。こっちは雀の涙で頑張ってるっつうのに…」
「お父さんっ。そんなことないと思うけど、確かにこれゼロが一個間違ってるんじゃない? 問い合わせてみようかな」

何かの手違いだと冷静になるが、父は「いや合ってるだろ」と笑った。
任務の手当はでかいと先輩のセラウェさんには聞いていたものの、僕らはまだ一か月目だ。

「本当にいいのかな…。あっ、ラームはすごく頑張ってくれたよ。その分が加味されてるのかも!」
「……レニ。そんなことないぞ。もっと自信を持て。それはレニの賃金だ。俺のじゃない」
「え! 違うよ、ラームの名前も書いてあるし。ほらここ」

書類には確かに二人分の連名があり、前に署名もした。けれど召喚獣は遠慮してるのか素っ気なく首を振る。
卑屈になってるわけじゃなくて、きっと彼がいなければ僕が働けないのは事実だろう。
だからこそもっと魔術師として強くならなければと最近感じていた。

とはいえ今は、ゆっくりしよう。任務は結構大変なものだったからだ。

「ねえねえラーム。何か欲しいものある? なんでも好きなもの買ってあげるよ」
「……好きなものか?」
「うんっ」

僕もこのお金の中から彼が喜ぶものを与えられると嬉しく思っていると、茶狼はひとり考えこんでいた。どうやら候補はあるらしい。

「おい俺には? レニ」
「あ、そうだったね。もちろんお父さんにも今までお世話になったし、何かお礼しないとな」
「冗談だよ。いらないからそんなの。ちょっと寂しくなる言い方やめてくれるお前」

快く返したつもりなのに何故か父は目が潤んでいた。
あの教会での襲撃事件があり、さらに内緒にしていた任務から帰ってきてどうなるかと思ったが、父は多くは言わず僕らを待っていてくれた。

おそらく伯父さんに聞いていたのかもしれない。心配症の父だけど、今は二人を応援してくれてるようで有難い。

「とにかく、頑張れよ二人とも。ラームも頼んだぞ。協調性もってな」
「ああ。もう問題ないぞ。レニの周辺も俺が気を配る」
「それは安心だが、もうってなんだ。…まいいや。そうだ、もうすぐお前達の歓迎会も開いてもらうんだろ? 楽しんでくるんだぞ」
「うん!」

僕は元気よく返事した。そうなのだ。数日後に勤務終わり、夕食を兼ねた歓迎パーティーが開催されるという。職場の先輩も来てくれるらしいし、ちょっと緊張するけど今からワクワクしていた。

皆さんと仲良くなるチャンスだし、そこでもまた、ドジをしないように頑張ろう。





数日後、約束通り僕らは教会近くの酒場にいた。この店は大衆的だが騎士団の人々はほとんど来ないといい、落ち着いて飲むのにちょうどいいとエブラルさんのお勧めらしい。

「では、レニさんとラームさんの所属を祝して、乾杯しましょう」
「「おーっ、乾杯!」」

木彫りの長机を囲み、私服の魔術師らがグラスを打ち合わせる。同時におめでとう、これからよろしくと声をかけられ感極まった。

「こちらこそよろしくお願いします、皆さん。僕ら精一杯頑張りますので…! ええと、エブラル先輩に、セラウェ先輩にーー」

正面に座るシックな装いの大人の呪術師と、黒髪跳ねっ毛の魔導師に視線を移していく。そして角にいる赤髪の男性にドキドキしながら挨拶しようとすると、彼は酒を口に含んだあと爆笑した。

「ははは! エブラル先輩ってなんだよお前。そんな呼び方してる奴見たことねえぞ」
「いいじゃないですか、イスティフ。私は嬉しいですよ。一応勤続15年ですからね、この教会。それなのに皆さんお前だのあんただの誰も敬ってくれませんから」

ふふ、と色っぽい笑みをこぼす銀髪の男性だが、僕はそんな凄い人にやはり馴れ馴れしかったかもと焦った。
しかしセラウェさんが興味深そうに首を突っ込む。

「えっ、じゃあお前最初から美少年の姿だったのか?」
「そうですよ。あなたの師のせいでね。だから私の青年期もめちゃくちゃにーーいえその話を思い出させるのやめて頂けますかセラウェさん」
「すまんすまん、トラウマだったよな。んでどうやって採用されたんだ?」

司祭である伯父すらも凌駕してそうな彼の膨大な魔力量から、皆も関心高く聞いていた。
すると彼はさらっと「縁故採用ですよ」と告げた。

「マジで? 俺らと同じじゃねーか! なあレニ!」
「あっはい。驚きますねえ、エブラルさんまでそうとは…」
「私はあなたの伯父、イヴァンと古くからの知り合いでね。ぜひと誘われたんです。魔術師の世界は最初から信用できる人と中々出会えませんから。身元は大事ですよ」

経験豊富な呪術師の話に皆相づちを打つ。
彼の能力はずば抜けてるし例え縁故でなくてもすんなり採用されていそうだとも思ったが。

ちなみに先程のくだりは、なんとエブラルさんは呪いを受けて一年前まで若い少年の姿だったというのだ。この教会、色んな人がいて面白い。

僕はまだ一ヶ月しか経ってないけれど、今日初めて会った赤髪の黒魔術師が気になっていた。見た目は派手で顔立ちもきりっとした男前だ。落ち着いた感じの先輩二人とは違い、明るく活動的な雰囲気をまとっている。

「んで、イスティフ。お前も若いのに偉そうな奴だが、いつ教会に入ったんだ? またコネか」
「違うよ兄ちゃん。俺はちゃんと採用試験受けて入ってるからな。17の時にな」
「ええ。私も覚えていますよ。あなたかなり粗削りな少年でしたね、いつも周囲に突っかかってきて」
「お前もいけ好かない少年だっただろ!」

呪術師と黒魔術師が今は楽しそうに話している。イスティフさんは20代前半でまだ若いのだが、その華麗な経歴に圧倒された。

「す、すごい。そんなに若くしてリメリア教会に合格するなんて。……あれっ、というか兄ちゃんって、まさかあなたもセラウェさんの弟さんなんですかっ?」
「違えよ。名字イスティフだろうが。お前天然ぽいなー、おもしろいわ。セラウェはなんとなく兄ちゃんらしいだろ? だからだよ。……そうだ、お前は俺より年下だし弟にしてやろうか」

突然イスティフさんは酒を持って立ち上がり、僕の近くに来た。びっくりしていると隣のラームとの間に無理矢理座ろうとしてくる。

「ちょっとお前、岩のように動かないが退いてくれよ。俺は後輩の隣に座りたいんだ」

赤髪の魔術師が挑発的な顔つきで僕の召喚獣に話しかけた。焦って見ると、案の定ラームはぎりっと瞳を鋭くして彼を睨む。
それだけじゃなく、なんと僕の体を背中から抱き抱えるようにしてきた。

「誰に言っている? レニの隣はいつも俺だ。間に入るな。それにレニはお前の弟じゃない。俺の家族だ」

不機嫌な面構えで今にも唸りそうな茶狼に僕は頭を抱えた。
イスティフさんは面白がっているのか、腕を組んで僕らを見下ろす。

「ははっ。いいのかその卑猥な絵面。大柄すぎる屈強な成人男が華奢な金髪色白少年を独占してやがる。……おかしいと思わねえのかよ、あんたらも!」

彼は大袈裟に同僚二人に問いかけるが、セラウェさんもエブラルさんも「別に」という顔でむしろ彼に呆れ顔を向けていた。

確かに僕らの関係は端から見たらおかしいだろうけど、ラームは外では人化してないといけないし、これがいつもの彼なのだ。

もしかして新しい先輩の洗礼を受けるのだろうか……そう緊張していると、イスティフさんはまたひとり爆笑した。
もう酔い始めているみたいで、とくに好戦的な様子ではなく、反対側の僕の隣に腰を下ろす。

「お前なぁ、すぐに絡むなよ。可哀想だろう。まだ16才なんだぞ。……あっ、レニ。今日は出張でいないけど、もう一人眼鏡のローエンってやつがいるんだ。そいつは一番まともに近いからさ、安心しろよ。俺達グループだから」
「おいおいなんだ俺達グループって。もう派閥作ってるのか? 俺のグループはどこだよセラウェ」
「さあな。陽気な騎士団派閥に入りゃいいじゃねえか」
「嫌だよあんな脳筋なやつら。俺もわりと肉体派だが所詮魔術師だからな。一緒にすんなよ」

しかめっ面のイスティフさんが急に面白い。騎士団と教会の関わりはまた何かありそうだ。

「えっと、まだ初めてであれですけど、僕、他の先輩方とも会うの楽しみです!」

色々教えてくれる先輩に感謝する。二人には「騎士団には気を付けろ」と不穏なアドバイスをもらってしまったものの、僕はまだまだ新人だし、皆さんから多くを学ばないと。

……でも、今日はちょっと変な雲行きになりそうだった。

食事が届き、皆で美味しく賑やかに食べる。
ラームは前もって魔力を与えたため、大人しく座っていてくれていた。

食べ盛りの同僚男性達はあっという間に皿を空にし、飲み物も次々注文し、あとはまったりツマミで歓談をしていた。
僕は年齢的に軽いお酒なら飲めるけれど、飲んだこともなかったのでジュースで乾杯をした。

「ふふ、今日は楽しいですね。イヴァンも来たがっていましたが、抜けられない会合があるようで残念です」
「あ、僕も聞きましたけど、伯父さんは忙しい方ですから全然ーーいえ皆さんがそうじゃないってわけじゃないんです!」

焦って弁解すると皆は笑っていた。僕はついよからぬことを言ってしまう気がする。

「お前ほんと真面目だよなぁ、俺らが暇なのは事実だしいいじゃん別に」
「いや暇なの兄ちゃんだけだろ。俺らは普通に忙しいぜ。っていうかさ、イヴァンなんかいないほうがいいよなー、上司と飲んで楽しい奴なんかいんのか?」
「ちょっと皆さん。失礼ですよ。まったく……甥のレニさんの前なんですから」

ため息を吐くエブラルさんに気を使われ少し困る。なんとなく感づいてはいたが、トマス伯父さんってもしや結構煙たがられているのかな?
父が愚痴るほど伯父の仕事能力は凄いし、性格は少し空気が読めないというか、あれかもしれないけれど。

イスティフさんが僕のことを横目でちらっと見る。

「確かにお前、あの司祭とほんとに血繋がってんの? よっぽど親父さんが出来た人なんだろうな。あと母ちゃん」
「あはは。なんて返せばいいのか…」
「そうそう。魔術師にありがちな不気味な負のオーラがないよな。俺はレニ好きなんだ。同じく獣も飼ってるし」

ほろ酔いのセラウェさんが言ってくれた言葉に、僕は感涙しそうになった。

「僕もセラウェさんのこと好きですっ、ありがとうございます!」

興奮して頭を下げると、皆の笑い声が聞こえる。
でも隣が気になった。ラームはやっぱり何か言いたげだ。

この茶狼は、珍しく「違う雄」であるセラウェさんのことを敵視していない。きっと僕の柔らかな友愛が伝わってきているからだろうとも思う。

「もちろんラームのことも好きだよ。一番だよ」
「それは嬉しい」

こくりと頷き顔を見合わせ、僕も微笑みがこぼれた。
前までは職場で恥ずかしかったけれど、これからは二人ともどもお世話になるのだ。迷惑にならない程度に素を出していかないと。

「なあ、ラームだっけ。お前召喚獣なんだよな。俺疑問なんだけどさ、召喚獣って普通中に入ってるもんなんじゃないのか? ほら、主の中に」

突然イスティフさんに指摘され、僕はどきりとなった。

「兄ちゃん、あんたの白虎も外に出っぱなしだよな。あれなんで? あいつ問題行動起こすし仕舞っといたほうが楽な時あるだろ」
「ふむ。私も知りたいですね。あなた方の獣達はかなり自主性が高いですよね」
「あー。そうだよ。俺もポケットに仕舞えるもんならそうしたいわ。でもロイザは使役獣だからな。しかも俺より格上の能力あるし。……まあなんだ、俺の師匠ならそこまで操れるが…まだ俺にはな……くっそ言わせんなよッ!」

悔し涙を飲むセラウェさんに皆の同情の目が注がれる。
僕も彼も、召喚師ではない。そもそも皆それぞれ、形態や契約によって主従の在り方も異なるのだ。

「ええと、僕はですね。仕舞えるんですが、出し入れも魔力使うし、ラームは外のほうが好きなので……いつも一緒にいて守ってくれるっていうんです」

照れながら告げると、周りはほんわかした空気になった。茶狼も獣化していたら尻尾を振っているだろうというくらい、蜂蜜色の瞳を輝かせて頷く。

「ほーん。でもさぁ、ぶっちゃけるとな。年頃の少年が一人になりたくなったときどうすんの? 色々あるだろう、ほら」

赤髪の魔術師がいやらしい笑みで尋ねる。
恥ずかしながら、結構すぐにぴんとくる。赤くなってしまった僕は身ぶり手振りで説明を試みた。

「それはそのう、僕もたまには一人でお風呂入りたいなぁとか言って、召喚獣には外で待っててもらったり、あとは言いつけを頼んでいる間に別室でーー」
「ちょっ、正直に答えなくていいからレニ!」
「わああ、すみませんはしたない話を!」

止められて平謝りをした。てっきり先輩の質問には誠心誠意答えなきゃと思い込んでいたのだ。

「イスティフ。お前な、そういうプライバシーを暴こうとするのやめろ。色々苦労してやってるもんなんだからよ、なあエブラル」
「は? なぜ私に言うんです。私はもう大人ですし。落ち着きのない若い皆さんとは状況が……」
「なんだと? お、おおおお俺のどこが落ち着きないってーーってかもうそんな若くねえからな俺も」

二人が口論を始めてしまい止めようとするも、イスティフさんの関心は止まらない。

「とはいえレニ。お前も彼女とかほしいんじゃないか? そうだ、初めての手解きはこの俺が合コンでも見繕ってーー」

ぺらぺら難しいことを話す彼に僕は急にどんよりと沈む。
確かに奥手の僕は彼女なんて出来たこともない。小さい頃から魔術の教育を受けさせてもらったのに、学校でも落ちこぼれだったし。自信もなく、とくに異性からモテた経験もなかった。

そう話すと、男の先輩達はしんみりと聞いてくれた。

「そうか…俺も似たようなもんだったが、お前はまだこれからだろ。可愛い顔してるしさ。それにこんなやつ気にすんな、女たらしは住む世界が違うんだよ」
「でも童貞早く捨てたくなるじゃん。それが男ってもんだろ」

余裕の笑みを浮かべながらイスティフさんが言い放つ。
その言葉に最も鼓動が跳ね上がったとき、突然ラームが食いついてきた。

「レニ。童貞ってなんだ?」
「え、ええっ!」

静かにしていた茶狼に、過剰に反応してしまったが、教えにくい。
なんて言えばいいのだろうと思いながら、こっそり彼に耳打ちをした。

するとラームは頷きながら、やがて顔をあげて「おい」と先輩達を見据えた。茶髪のガタイのいい男の勇ましい顔立ちに、皆も注目する。

「なら俺も童貞だ。何が悪いんだ? まだ愛する者を手にしていないだけだ。それに早さも遅さも関係ないだろう」

ラームははっきりと言った後、なぜか僕をちらっと見た。
その何かを求めるような視線も気になったが、大人達の感情入り交じる眼差しにも戸惑う。

「え? あなた未経験なんですか? そんな厳つい体格をして。いったい何歳なんです。興味あるな」
「お、おいエブラル。急に食いついてやるなよ…」
「俺はほぼレニと同い年だ。獣の時はまだ若い狼だったから」

いつもは過去のことを濁す彼が、僕のことを柔らかく見つめて答える。大体の年齢は知っていたけれど、彼は僕が幼少の時からこの姿だったため、あまり実感は湧かない。

「なるほどなー、じゃあ聞いてた通り、若いときに親父さんに見つかったんだな。偉いな、その時からレニのこと大事にして」

セラウェさんが獣の忠誠心に感嘆を示す。エブラルさんも瞳を細めて同意してくれた。

「その通りですよね。自分のことよりも主を一番に思う。なんて出来た召喚獣なのでしょうか」
「そうそう。何も悪くねえよ。獣なのに貞操守るって素晴らしいことじゃねえか。ヤリチンの何百倍もいいわ。そうだろイスティフ」
「いや俺をそうみたいに言うなよ。……あー、まあそうだな。男は皆元童貞だ。お前らもいつか捨てられるって、はは」

どういうわけかイスティフさんにも励まされ、なんだか奇妙な空気を作ってしまった。
でもひとまず話がまとまって安心した僕は、隣の堂々とした召喚獣を見る。

「ありがとうね、ラーム」
「何がだ? 本当のことを言っただけだ。貞操は大事だ」

先輩の言葉を真似して、胸を張る茶狼にはにかむ。
ていうかラームって童貞だったんだ。意外だな。てっきり経験済みなのかと思っていた。狼の仲間……とかと。

もし、この成人男性の姿で彼が誰かと性的関係を持ちたいって言ったら。
彼は人間じゃないから、そんなこと可能なのかも分からないけど、ちょっとショックかもしれない。

僕はそんなことをこっそり考えながら、歓迎会の終わりまで先輩たちとのお話を楽しんだ。

そして夜も更け、お開きの時間がやってくる。
外に出た男五人は、それぞれお疲れさまと別れの挨拶をする。

「じゃあな、今日はお前らと色々話せてよかったぜ。俺はこんな感じだが、任務ではビシバシ鍛えてやる。心しとけよ」
「はい、今日はありがとうございました、イスティフさん!」

心を開いて話が出来たからか、彼も優しく僕らを見送ってくれた。
教会の魔術師達は、日々それぞれの任務が忙しく、単独行動や騎士団と一緒なのも珍しくない。

だから皆が集まるのは貴重なことで、ほんとうに今日は感謝でいっぱいだった。

「では私達もこれで失礼しますか。ラームさんもお腹を空かせてるでしょうしね」
「そうだな。でもあんまりがっつくなよ、ラーム。二人とも、また職場でな!」
「はい! お疲れさまでした先輩方、お気をつけて!」

隣にいる茶狼と共に頭を下げ、歩道から手を振る彼らに別れを告げた。

「は〜楽しかったね、ラーム。皆によくしてもらっちゃったなぁ。僕たちも帰ろっか」

静かに佇む召喚獣を見上げると、なぜか彼の眼差しはぼうっとして、こちらを見つめていた。

「大丈夫? やっぱりちょっと疲れちゃったかな、初めての人もいたし。それに際どい話題もあったりして、はは」
「いいや、疲れてない。楽しかった」
「ほんとうっ?」
「ああ。レニの喜びも伝わって嬉しいぞ。……俺はただ、自分の欲しいものを考えていたんだ」

彼の言葉に目をぱちくりする。
そうだったんだ。ラームもご褒美を楽しみにしてくれてるのだと温かい気持ちになった。

「もう決めたの? じゃあ家に帰ったら僕にも教えてね」
「わかった。教える」

ラームは少し頬を染め、こくりと頷いた。そうして僕らは手を繋ぎ、転移魔法によって我が家に移動をした。



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