聖騎士の卵 | ナノ


▼ 5 騎士Aの卵

今日は妊娠した二人目の聖騎士、キリアンのもとを訪れる日だ。

別館にある騎士たちに与えられた部屋は、自由に外出こそ出来ないものの、豪華な設備やプライバシーも完備で過ごしやすい住居といえる。

しかしキリアンは家でじっとしているのが好きじゃないらしい。

俺はその日、燦々と日の当たる大きなバルコニーの長椅子に、騎士がTシャツとショートパンツ姿で寝そべっているのを発見した。
小麦色の肌が美しく、ちらっと見えるへそが色気を醸し出している。

「キリアン、お昼寝中か? よかったら俺の相手もしてくれないか」

気配を消して近づいたが、全て言い終わる前に騎士はすぐにバッと体を起こした。

「し、神鳥王。驚かせないでください。……なぜここにいるんです?」
「ん? つれないなぁ、お前。大事な騎士と子供に会いに来たんだろう

にやりと笑って告げると、キリアンは赤くなった顔をうつむかせ、明るめの茶髪を掻き上げた。

ていうかちょっと待て。
なんかこの騎士、よそよそしくない?
この前まで弟のように慕ってくれてたのに、俺のお兄ちゃん設定どこいった。

焦りながらもそばに膝をつき、顔を覗き込むと、キリアンは身じろぎして後ずさった。
眉間に皺をよせ、冷たく目を逸らされる。

がーん。
もしかしてあれか、男でも妊娠した途端にホルモン的なあれで、夫が近づいてきたら嫌になるとかいうやつか。

「おい。なんだよ、俺のこと嫌いになっちゃった? 兄ちゃん寂しいぞ」
「ち、違います。あの俺、あなたが来るって知らなくて、……まだ風呂入ってないから、あんま近づかないでください……」

真っ赤になって告げる騎士を前に、一瞬時が止まった。
二人で汗べっとり交わった仲だというのに、そんなことを気にしてたとは。
すげー可愛いんだけど。

「あの、俺……匂いませんか? なんか、その……身ごもってから、自分の体質とか、匂いが変わった気がして」

俺は速攻で騎士の両肩を抱き、首にすんすん鼻をくっつけた。

「いいや。良い香りしかしない。というかエロい。あれだ、フェロモンが増してんじゃないか」
「……何言ってんですか。俺は真面目に聞いてるんですけど」

容赦なく呆れの混じった鋭い目を向けられてしまう。でも隠してるけどまだ顔が赤い。

そういえば医術師も妊娠中は体質や食の好み、気質なども変わる可能性があると言っていた。
産後に戻る可能性もあれば、そのままだったり、人によるという。

しかし若干うざがられたとしても、伴侶として父親として、騎士に寄り添うという俺の意志は変わらない。

騎士はすくっと立ち上がり、「風呂行きます」と言って室内へと戻ってしまった。
後をついていくと騎士に凄い勢いで拒否されたが、一人にするのは心配だと俺も譲らなかった。


広々とした浴室で、俺たちは裸になった。
日に焼けた筋肉質の裸体に水が滴ると余計に色っぽく、つい見惚れてしまう。

「な、なんで王まで入ってくるんですか、俺一人で平気なんで、病気じゃないですから」
「分かってるよ。なにお前、ずっとツンツンして。どうしたの?」

逃げようとする騎士を落ち着かせながら、上からお湯をかけて体を流してあげていた。

ん?
騎士のほどよく割れた腹筋を眺めていると、あることに気がついた。

「あれ、キリアン。お腹ちょっと膨らんでる? ……あ! 俺たちの卵、ここにいるぞ!」
「や、やめっ、触んな……っ」

二人目だということもあり、俺は嬉しいあまりちょっと調子乗っていたのかもしれない。
優しく撫でると騎士の体がびくぅっと震えた。

「あ、あぁぁ……」
「かわいいー、早く会いたいなぁ。すげえ楽しみじゃね? なぁキリアンーー」

顔を起こすと、完全に恍惚の表情ではぁはぁ息する騎士と目があった。
しかもいつの間にか下腹部にピンク色の綺麗なちんぽが反り立っている。

「……あ、あんたのせいで勃っただろッ!」

案の定怒られてしまった。確かに俺が悪いと思い反省する。

「ごめん、ほんと。でも俺父親だから確認したかったんだよ。ああ、どうしようお前の。触ったらまずいよな?」

本気で困ってると騎士は俺の手をがっしりと掴んだ。
何やら恥ずかしそうに目を伏せる。

「……別に平気ですよ、俺、一人でもしてるし……」

なんだって?
顔を上気させながら教えられ、はっきり言って俺も勃ってしまった。
しかし強靭な精神力で自分を抑え、掴まれた手をそろりと騎士の逸物へと伸ばした。

「じゃあ少しだけ、ゆっくりな? ちょっとだけ気持ちよくなろう」
「ん、んあ、な、ぁ……ッ」

泡をたくさんつけた手の中で上下にしごき続け、やがて騎士をたっぷりと射精させた。

それ以上の刺激を与えないように、くたりと寄りかかってくる騎士の体を優しく洗い、風呂から出たあとはタオルで包みこんで休ませた。



それからはまた二人きりの日々が始まった。
出産の日を迎えるまで部屋で平穏に過ごすだけだが、意外にも料理好きだという騎士が色々作ってくれたり、俺も一人暮らしの自炊が役に立ち、体に良さそうなものを作ったりした。

何となく落ち着いたのか、騎士のツンツンした感じは日に日に薄れていった。
しかしキリアンはあまり自分のことを話そうとしなかった。
気になることはあったが、心と体を労るのが最重要だと思い、俺も何も聞かなかったのだ。

その夜、二人で寝台の上に横たわり、うつらうつらとしていると、仰向けで寝ていたキリアンが俺の方に寝返りをうった。

「あの、卵産んだら、……俺たちは、王はどうなるんですか」
「え? どういう意味だ。一緒に子育てするんだろう」

普通に答えると、騎士は呆気に取られたような顔をした。
ああ、そうか。
神官が運命の子がどうのと言ってたから、騎士たちは皆行く末を気にしているのだ。

「その子もお前のことも、面倒見るつもりだよ。駄目か?」
「……いえ、駄目じゃないです。嬉しいです。……スグルさん。俺、自分のことまだ話してませんでしたね。……俺は親父が大工で、男手ひとつで育てられたんです」

呼び方がさん付けになってて一瞬びびったが、静かに話を聞くことにした。

教会に所属する聖騎士として要人の警護をしているキリアンは、もともと都市部の出身だという。

幼少時に母を亡くし、生活に困ることはなかったが、周りは父の職場の大人達ばかりで、あまり心を開ける相手も居なかったと教えてくれた。

「子供の頃は一人で過ごすことが多くて、ちょっと寂しくても、別に慣れてると思ってたんですけど……最近おかしいんです。……スグルさんと過ごしてから、俺、一人で寝るの……嫌になって」

声が段々か細くなり、俺の手に自分の指を絡ませてきた。
思いもよらぬ告白をされ、心臓がドキドキしてくる。

「今は一緒にいるだろ? 寂しい思いはさせないぞ」
「はい。……あの、キスしてくれませんか」

そんな風に上目遣いで誘われたら、断れるわけあるか。
俺は騎士の体に触れないように、細心の注意を払いながら口づけをした。

しかしキリアンは俺の背に手を回してきた。
自然と熱いキスになってしまう中、だんだん騎士の目がトロついてくる。

「よし。このへんにしとこう。な?」
「……嫌です、もっと、して、」
「何言ってるんだ、駄目だよ。悪い子だな」

頭を撫でると、騎士は顔をくしゃりと歪ませ、抱きついてきた。

「……スグル兄ちゃん、して、お願い」

再び俺の中で時が止まる。
この騎士は状況が分かってるのだろうか?

仕方がなく頬や口にちゅうちゅう続けていると、明らかに騎士の様子が変わってきた。

「あ、あぁ、ん、あ」

身を震わせて、下半身をわずかに揺らしだす。
ぎゅっと眉を寄せ、苦しげな表情だ。

「おい、キリアン。どうした? 大丈夫か」
「……ぅ、ぁ……う、なんか、あ、熱い……」

騎士はお腹に手をやり、体を丸めだした。
うそだろ。まさかあれがーー来たのか?

だからやばいと思ったんだって……!
しかし反省してももう遅い。
俺は起き上がり素早く温かいお湯を準備した。
タオルもろもろの物はすぐに出産に対応できるよう、ベッド脇に用意してある。

「さぁキリアン、いつでも大丈夫だぞ。あ、どんな体勢がいい? 俺が支えたほうがいいかな」
「……後ろから、抱っこして、ください」

えっまじで?

驚愕しつつ言われたとおりにすると、騎士は俺の胸にぺたっと頭をつけ、背中を預けた。
ちなみにすでにショートパンツなども脱がせた。
折り曲げた足の下に手を回して抱えると、いわゆるM字開脚ポーズになってしまった。

「あ、ぁ、はぁ、だめ、あぁぁ」

騎士は息を荒げて胸を上下させ、産気づいている。
一人目の経験からいくと、これはかなり近い感じだ。

「はぁ、はぁ、前、触って、兄ちゃん」

ほら来たか。
予想通り騎士のちんぽはまた勃起している。
しかしどうしよう、この体勢のままだと難しいんだが。

「キリアン、兄ちゃんお前の足持ってるから、ちょっとやりづらいんだけど……あ、そうだ。お前自分でやってみな?」
「んん、できな、い、そんなの、やだぁ」
「大丈夫。見ててやるから。ほら、手で握ってみて」

俺の説得が効いたのか、騎士はおずおずと手を触れさせ、扱き始めた。
苦しさが和らいできたのか、寝室中に色づいた吐息と喘ぎが舞う。

「う、あ、もう、だめ、にいちゃ、いく、ああぁッ」

一生懸命手を動かしていた弟が声を上げ、同時にあっけなく先端から白い液を迸らせた。
腹筋にぴちゃぴちゃっとかかり、だらん、と体の力が抜けたーーその時だった。

「あぁ、あ、んや、ぁ、ま、まって、出る……!」

え、もう出たのに。
いやそっちじゃねえ。
直感的に悟った俺は、開いた騎士の足をしっかり抱えた。

「ん、んぁぁっ、俺もう、出ちゃう、兄ちゃんっっ!」

キリアンは頭を俺の胸にぐっと押し付け、背中を仰け反らせた。
その時、コロコロっとシーツの上に光り輝く黄金色の丸いものが転がった。

「あぁー! キリアン出た! ほら俺達の卵生まれたぞ!」
「え……うそ……生まれた……?」

小さな声で尋ねる騎士の頭を撫でて祝福する。
汗だくになったキリアンは穏やかな顔で俺を見上げてきた。

騎士を後ろから抱えたまま、タオルに包んだ卵を胸の上に置いてみせた。

「すごい……兄ちゃんの卵、俺、生んだんだ……」
「そうだよキリアン。二人の子供だ。よくやったな、偉いぞ」

ありがとう、と感謝を述べて頬を撫でた。
顔を俺の方に寄せてきたので、今度はしっかりと頬を包みキスを与える。

しばらくして腕の中の騎士はもぞもぞと動き出した。

「あ……なんか変だ……俺の顔、見ないでください」

騎士は赤褐色の瞳を潤ませ、顔を背けて手で目を擦っていた。
きっと緊張が解けたのだろう。

一緒にいる間は騎士の寂しさを取り除き、安心を与え、そばについていてやりたい。
二人目の卵を迎え、自分が彼らを守るのだという自覚がいっそう強まった気がした。



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