▼ 4 騎士@の卵
俺と交わった二人の聖騎士がめでたく妊娠した。
内診した医術師の話によると、体内にひとつずつ卵を宿し、すでに安定期に入っているという。
俺は初めて彼らに会いに行くことを許された。
足取り軽やかに、護衛の騎士を引き連れて洋館を出発する。
騎士たちが滞在する別館の建物へは、馬車での移動だ。
黄金の翼をもつ伝説の神鳥王として威厳を忘れず振る舞うが、心の中は父となる喜びに浮足立っていた。
その思いは、一人目のワンコ系騎士セアムの顔を見るなり、さらに強まった。
「うわっ、スグル様……!」
扉から出てきたのは、驚きの表情をぱっと明るくした背の高い茶髪の健康的な男子だ。
お堅い制服ではなくTシャツに短パンで完全に部屋着だった。
「す、すみません。こんな格好で。うあ、俺頭もボサボサだ」
「気にするな、セアム。でも温かくしなくていいのか? 大事な体に障るぞ」
すかさず部屋の中へ押し入り、騎士の背に手を回した。
騎士よりも高い目線から優しく見下ろすと、顔がさぁっと赤くなる。
「お腹はどうだ? あれ、全然膨らんでないな」
「……えっ。あの、鍛えてるんで、あまり目立たないらしいです」
気恥ずかしそうに頭を掻きながら教えてくれる。
なるほど、腹筋バキバキだと身ごもってもそれほど変化ないようだ。
俺たちはとりあえずセアムの部屋のリビングで休み、話をすることにした。
身体のことは隅々まで知り合えたが、子供まで作ったというのに互いの素性をほぼ知らなかったためだ。
しかし俺には前世の記憶しかなく、フィーリング的に感じる不死神鳥としての生態しか教えてやれなかった。でも騎士は楽しそうに聞いてくれた。
「ーーそれで、俺はここみたいな大都市じゃなくて、地方の騎士団出身なんですけど」
驚くべきことに、騎士達は預言者のお告げにより、全国からバラバラに集められた者達だという。
セアムは元々生まれ育った田舎で小規模な騎士団に所属していたが、例外的に聖教会から加護を与えられた後、聖騎士に叙任されたと話してくれた。
なんか、こうした出会いも運命を感じてくるな。
騎士は兄弟が多く両親は広大な農地を持っていて、帰省の際は農業を手伝っているらしい。
素朴ながら元気なイメージの騎士にぴったりで微笑ましくなった。
「じゃあ親御さんに挨拶しないとなぁ。いつ行く?」
「……す、スグル様、俺の両親に会ってくれるんですか? 王なのに」
なぜかぶるぶる震えながら驚愕の目で見返された。
ん? なんか変だったか?
まぁさすがに親の気持ち考えたらアレだろうか。
しかし責任取るって決めたし。
考えこむ俺をよそに騎士はどことなく嬉しそうだったので、とりあえず頭を撫でて、いずれ一緒に実家に行くことは伝えた。
「ところで、今こんなことになっちゃってるけど仕事に影響ないのか?」
「……あの、産休取ったんです。上司に喜ばれて凄い恥ずかしかったです」
産休あんのかよ、すげえ。
万全な体制に感心する俺の前で、騎士は耳まで真っ赤にしてうつむき、すぐにハッと焦った様子で顔を上げた。
「あ! 違いますよ、スグル様の子を宿したことがじゃなくて、それはあり得ないぐらい嬉しくて、自分でも不思議なんですけど……いやあの、……すみません。俺何言ってんだ」
表情をくるくる変えた末に、はぁ、と肩を落とした。
こういう可愛い振る舞いを見せられると、俺は自分の欲望を抑えるのに必死である。
「俺もお前に赤ちゃん出来て嬉しいよ。二人で素直に喜ぶべきことだろう?」
耳元で囁き抱き寄せると、びくっと震えながらも、セアムは力が抜けたように肩を預けてきた。
「スグル様、他の騎士たちは、その……」
「ん?」
突然そわそわし出して何を聞きたいか想像はつく。
止むを得ないとはいえ、いじらしい顔をされると心が痛んでくる。
「すみません、つい気になってしまって………あの、俺、ずっとあなたのこと……考えてました」
騎士はお腹をさすり、恥ずかしそうに告白した。
やばい、急に抱きしめたくなってきた。
そうだよな、童貞だったのにいきなり俺の子供を生むことになって、心細くないわけがない。
柄にもなく胸がきゅっと掴まれる。
「今は俺とお前だけだ。あとその子もな。そばについててやるから、何も心配するな。……なあ、体には触れないけど、キスしてもいい?」
「あ……俺も、ずっと、したくて」
セアムは自分から体を寄せてきた。
お腹に気をつけながらそっと抱きかかえ、唇を塞ぐ。
こいつはガタイの良い筋肉質な騎士なのに、俺一人しか経験がないせいか、細かい仕草があどけなくて可愛い。
一人にしたくなくなってしまう。
その後は数日間、二人きりで過ごした。
神官や医術師を交えた話し合いにより、出産の日まで俺がつきっきりで見ていいことになったのだ。
これは俺自身が騎士全員に対し行いたいことで、きっちり取り付けた約束だった。
体内に宿った卵が産まれるのは、交わりから約二週間後。伝説の神鳥規格なのか、かなり早い。
産卵の後は卵を温める抱卵期間がある。それから再び二週間を経て、雛が孵るという。
俺が緊張してもしょうがないのだがどうしようもない。
細かい流れを聞き、その日を迎え撃つ。
それは二人で大きな寝台に横になって眠った時だった。
セアムから「うーー」といううなり声が聞こえてきた。
もしや……
俺はばちっと目を開け、そっと布団を開いた。
セアムが体を丸くして額に汗を滲ませ、苦しそうにしている。
「どう、どうしよう。おい、何をして欲しい?」
騎士は答えずに喘ぎながら俺にしがみついてきた。力をこめて準備をしている。
何度もイメトレしてたのに俺はオロオロするばかりで、情けないことになっていた。
「あああッ」
うそ。何が起こった。
お腹を抱えた騎士の動きが激しくなり、俺は即座に体を包み込むように労った。
「はぁ、はぁ、スグル様ぁ……」
段々セアムの顔が変化してきた。
心なしか苦しげな様子から解放され、恍惚がちらついている面持ちだ。
「痛くないか? 大丈夫か」
「……痛く、ないです、でも俺、ん、ああぁッ」
優しく背をさすり、頭も撫でてやる。
ぎゅっと掴まっていたセアムが泣きそうな顔で俺を見上げた。
「体、変だ、うぁ、あ、なんか、へん」
「俺の勃って、あぁ、はぁ、はぁ」
えっ。
まさかと思い股間にそっと触れると、確かにセアムの大きなモノはギチギチに勃起していた。
どういう事だ? これ普通?
男の妊娠なんて初めてだから訳がわからない。
でも騎士はつらそうに俺に縋ってくる。
こんなことお医者さんも教えてくれなかったぞ!
「……セアム、弄ってほしい? もしかしたらリラックス出来るかな?」
いやでもやっぱ影響出たらまずいよな、そう思いつつ尋ねると、ワンコ騎士は恥ずかしそうに頭を頷かせた。
濃茶色の瞳に涙をため、助けを求めている。
「さ、触ってください、ああ、俺我慢、できない……っ」
「分かった分かった、よしよし、力抜いて」
肩を抱きながら下着の中に手を滑り込ませ、騎士のちんぽを優しく包みシゴき始める。
自分の欲望と葛藤しながら、気が紛れるようにと頑張っていると、セアムは気持ち良さそうに喘ぎ始めた。
「んあっ、あぁぁ、きもち、いぃ、なんでぇ」
「うあ、スグル様ぁ、もっと、んぁああぁ」
もうすぐ出産だというのに騎士は乱れている。
もしかして陣痛の痛みに対し自己防衛本能が働き、快感によって和らげようとしているのかーー
もっともらしく考えてみるが、目の前の騎士をイカせる以外ただの父親の俺に出来ることはない。
「あ、あ、どうしよ、スグル様、生まれそ、う」
「え! ほんとか、いいぞ大丈夫だ、えっと、俺がほら、受け止めてやるから」
騎士の短パンを脱がせ、ほんのり熱いお尻を優しくさすった。
嫌がられないのを見て懸命に続けていると、腰がガクガク震えてきた。
来るのか、初めての卵がーー
「あぁぁぁ! だめだ、も無理、で、出てくる……ッ」
すごい強い力で抱きつかれ、騎士が体をぐうぅっと縮こまらせた。
ほんの一瞬のあと、待ち構えていた俺の手元に、コロンと生温かいものが触れた。というか落ちてきた。
「ん、ああぁぁっっ!」
しかしそれだけでなく前の方からもびゅるるっと騎士のとろついた精液が放たれた。
はぁはぁ息をつく色めいた姿に目を奪われるが、慌てて視線を手元に戻すと、そこには手のひらサイズの黄金色の卵が眩い光を放っていた。
「え、あああー! セアム見てみろ、俺達の卵だ、すげえぞ!」
自分の子を持ちながら子供のようにはしゃぐと、セアムは細かい吐息を漏らし、ゆっくりと笑みを作った。
「ほんとだ、スグル様の…卵だ……あー、やべえ、嬉しい……」
ぽつりと呟いた騎士は、安心感に満たされた優しい青年の顔をしていた。
「よく頑張ったな。俺もすげー嬉しい。ありがとうセアム」
感動的な瞬間を二人で迎え微笑みあった。
すぐに卵をタオルで包み、俺達の間に置く。
隙間なく温めておかないとだめだ。
セアムの体を拭いてやり、汗で張り付いた髪を梳いていると、ぎゅっと手を握られた。
「あの、もう少し、一緒にいてくれますか」
「当たり前だろう。お前たちと一緒にいるよ。ほら、休んだ方がいい。寝てる間、俺が温めとくから」
セアムは安心したように卵を撫でた後、俺の腕の中に入り込んできた。
目元に薄っすら出来たクマに優しく触れ、目を閉じさせた。
命を生むとは凄いことだ。感謝の思いと愛しい気持ちが込み上げる。
卵の宿命とかもう、頭から抜け落ちていた。
ただひとつ願うばかりだ。一つ目の卵、無事に育ちますように。
prev / list / next