店長に抱かれたい | ナノ


▼ 30 甘えていい

「ーーとまあ、店長の実家でこんなことがあったんだよ。すごくねえか? 俺もいよいよ店長ファミリーの一員に食い込んできたかと思うんだが、お前らはどう思う?」

店のカウンターでグラスを磨きながら、俺は男客二人に得意気に話していた。今は夜の部までの休憩中で店内はがらんとしている。

「いやマジでやるなぁあんた。あの強情な爺さんに自分からつきまといに行くとは、たいしたタマだよ。んでちゃっかり気に入られてんだもんな。あんたおじさんキラーなんじゃね?」
「ふふっ。まあそれは故意じゃねえから何とも言えないが、お父様の雰囲気がレオシュさんに似てて自ずとやる気が出たっつうのはあるかもしんねえなぁ…」
「ーーえっ? 似てませんよ、ロキ」
「うわぁッびっくりしたぁ! 店長!」

突然斜め後ろから制服姿のレオシュさんが現れ、心音がばくばくになる。
彼は穏やかなオーラをまといつつも、やや心外そうに首を傾げていた。

「あ、すみません店長。お父さんと似てるの嫌なんですか?」
「いえ別に、そういうわけじゃ……まあ嫌ですが。どこらへんですか?」
「ええと、顔ですかね。あとは全然別物です」
「そうですか……少し安心しましたが。まだちょっと複雑ですね」

真面目に思案する店長にずっこけそうになる。実家での出来事以来、親子の仲直りは果たしたのだが、実の父にまだ少し苦手意識があるようだ。
そんな彼を見て、この高校生の甥は爆笑していた。

「分かるぜ、似てるって言われたくないよなーおじさん。とくにロキには」
「ああ。そうなんだ、ニコル。分かるだろう」
「ええ! それどういう意味ですかっ。……あっ、もちろん素敵度は店長がナンバーワンっすよ! それは全世界の男の中でそうっすからね!」

必死にすがりつくと彼はくすくすと微笑む。俺はその姿を見て許された…と顔が瞬く間に緩んだ。

「ありがとうございます、ロキ。冗談ですからね。……本当に、君には感謝してるんです。今回のこと。私は何度も君に助けられてますね」

優しく隣で声をかけられて、俺はとんでもないと首を振る。
もう何度もお礼を言われてしまったのだが、自分は何もたいしたことはしてないのだ。

俺の家族を大事にしてくれたレオシュさんへのせめてもの恩返しでもあり、だが本音は俺達の未来がわずかでも明るく照らされるようにとのーー

「へへっ。……二人の未来が……どこまでも一緒に……」
「おい。ロキ。また飛んでんぞ、お前」

鋭い突っ込みに正気に戻ると、それはカウンターの一席開けた所に座るクレイだった。
大柄な黒髪短髪の男が、また煙草をスパスパやりながら寛いでいる。

親友のこいつもニコル同様、なんだかんだこの店に顔を出してくれるのだ。

「わりぃわりぃ。んな幸せオーラ出てたか?」
「おー。普通の店だと思ったら長時間男同士の痴話を聞かされる俺の身にもなってみろお前」

だらしなくはだけたシャツ姿で凄んでくるが、まったく俺には効かない。聖なる店長シールドに護られているからだ。

「すみません、クレイ。珈琲サービスしますよ」
「おう。分かってんじゃねえかおっさん。サンドイッチも頼むわ」
「はぁ? お前それは自分で払えや! また俺のツケにすんなよ!」
「ずるい俺も〜、おじさんメロンソーダもう一杯ね」
「ああ。君のおかわりもな、ニコル」

三人はなぜか和気あいあいとしている。まったく、レオシュさんは優しすぎてこいつらの溜まり場になってる気もするが、仕方がないか。
俺らの話を分かってくれる、ある意味とても有り難い存在だからな。

けど問題はこの二人長くだべって中々帰らねえんだよな。

「もうさ、二人とも結婚しちゃえばいいじゃん。あんたもそう思わねえか、クレイ」
「あぁ? あーそうだな。まあ別に好きにしろとしか」
「そうなの? 親友がすげえ年上と一緒になっても気にしないんだ」

面白がるニコルにより、そういう話題になってしまい俺は密かに背汗が出る。
普段はのらりくらりとしているクレイの奴もじっと俺と店長を見てきた。

「気にするしないじゃねえんだよ。こいつは基本止められねえからな、なあおっさん。まあ、保護者が増えるのはいいことだろ」

奴は意味深に笑って煙草を吹かした。応援されてるのかよく分からないが前向きな言葉をかけられ不意にじーんとくる。
一応ありがとうと言っておいたが、店長もどこか感極まった様子だった。

するとクレイもニコルにちょっかいをかける。

「お前こそ普通に馴染んでるが、伯父さんなんだろ? いいのかよ若い男に目つけられちまって」
「ハハッ。いーよ別に。だってこの二人真面目だしな。あんた俺の親父知らないだろ? 不純異性交遊のオンパレードだぞ」

お前もだろという突っ込みは置いといて、クレイは俺が真面目と言われたことについて爆笑していた。
でも俺は店長の甥っ子にもそう言ってもらえたことに感激する。

「ニコル君、お前まじでイイ奴っ……になったなぁ! ほんとその通り! まああれだ、将来のことはまだアレだけど二人とも真面目に添い遂げるつもりだからよ、ですよね店長っ」

勇気を出して隣に立つ彼をうかがうと、彼はとても和やかな微笑みですでに俺を見ていた。
あれ、気まずい話題だと思ったのに、なんだか安らぎのムードだ。
それどころか、店長はこう言った。

「はい。それは私達二人で考えることなので。……ですよね、ロキ」

店の中なのに低く甘い囁きに包まれる。
俺は混乱しながらも赤面して返事をするが、俺達の特別な雰囲気そっちのけで男客二人は談笑していた。







店長と帰宅した後、彼はいつも通りだったが、時々立ち止まって考えている様子にも見えた。
どうしたのだろうと若干ドキドキしつつも、仕事後の休息タイムが訪れる。

二人で居間のソファに座っていると、レオシュさんが何気なく話しかけてきた。

「ロキ。君はクレイやニコルといる時、なんというんでしょうか、とても砕けた調子ですよね」
「えっ? …そうですか?」
「はい。父ともそうでしたが、打ち解けているというか。なので年のせいではないのかと思いまして。……いえ、だからどうというわけでもないんですがーー」

珍しく言い淀む彼が気になるが、俺は思い当たることがあり若干冷や汗である。

「つまり、どこか私には遠慮がち……なような気がして」

彼の言葉にギクリとする。いよいよ俺の猫かぶりがバレたか、と内心焦った。

「ええと、確かに態度が違うのは認めますが、それはあいつらが失礼な奴だからですよ。…あっ、すみませんお父さんは別として。だってレオシュさんは全然失礼じゃないし優しいし、……っていうか近くにいるだけでドキドキしてしまうんですよね……」

話せば話すほど恥ずかしくなっていく。
どう弁明すればいいのか分からなくなってしまい、彼の胸板に抱きついた。

図体のでかい男がする絵面は気になったが、彼は自然としっかり抱き止めてくれる。

「俺があなたに見せているのは、あなただけに見せている自分です。こんなわがままで甘ったれの姿なんて、レオシュさんにしか見せられないっすよ」

かあぁっと顔が火照るのを感じながら本心を告げた。
前に店長に言われた事と通じるが、きっと彼なりに俺の普段の素の態度もさらけ出してほしいと、あいつらとのやり取りを見て思ったのかもしれない。

「ロキ……ありがとうございます、そう言ってくれて」

頭の近くで囁かれる声に顔を上げた。
店長こそ恥ずかしそうに、笑みを見せる。

「少し羨ましくなっただけなんです。でも、そうですよね。君はわがままなどではありませんが、こうして甘えてくれるのは、私だけなんですよね」

髪をそっと撫でられてすでに溶けそうになる。
本当に、俺の粗暴な素がさっと影を潜めるのは、何もかもこの人のせいだと分かってるんだろうか。

「ところで。君は、ドキドキしてしまうんですか? 恋人同士になって、しばらく経つのに?」
「……はいっ。レオシュさんはしないんですか?」
「もちろんしますよ。ただ、君より大人なので隠せているかもしれません」

その笑顔が眩しすぎて俺は言葉が奪われる。
彼の攻めはまだまだ続いた。ぎゅっと抱きしめられて胸が苦しい。

「ロキ。もっと甘えてください。私も君のために何かしたいです。……そうだ。お願いごとはないですか?」

お願いごと……だと?

せっかくレオシュさんが申し出てくれたのに、変態的なことしか思い浮かばない。
でも、そういえば俺はそこから始まったのに、彼を知れば知るほど、最近いい子に見せたがっていたかもしれない。
でもこれが俺なのだ。

「じゃあ遠慮なくーー。店長にお仕置きしてもらいたいです」

久々に願望を吐き出すと、彼には意外なことのようだった。

「お仕置き? でも君は悪いことしてないでしょう」
「いやしてますよ。いつもエロいこと考えてます。もう恋人同士なのに、あなたで妄想しちゃってます」

至近距離でたたみかける。するとレオシュさんは大人の余裕で笑いをこぼした。

「いいですよ。ちょっとやそっとのことじゃ驚きません。えっちなお願いでも、なんでもどうぞ」

俺に合わせてくれたのか、砕けた調子で言われるともう下半身が揺らぐ。
一瞬で思考を回転させ、俺はいくつかあるうちの原点とも言えるお願いをした。

「えっ? 君のオナニーを見るんですか?」

眼鏡を思わずかけ直した店長の眼差しが痛い。同時にムラムラきて頷いた。

「それはまた、予想外のことでしたね。本当に君は、淫らというか、変態というか……全然構いませんが」
「え !いいんすか? 引いてません?」

念押しすると彼は微笑み「恋人ですから、心配無用です」と首を振ってくれた。
そしてなんとこのソファの上で、早速始まってしまう。

部屋を薄暗くして寝そべった俺を囲むように、レオシュさんは手をついて見下ろしてくる。
彼はあらかじめ、自分は何もしませんよと告げた。その涼やかだがセクシーな目線でもう俺はガチガチになる。

「はあ……はぁっ……レオシュさん…っ」
「はい。ちゃんと見ていますよ……ロキ」 

俺がTシャツをまくって腹を出しおっぱじめると、彼は口は出してくれるようだ。
俺には最初の店長との性体験が強烈に脳裏に残っていた。

彼のを初めて口でした後、我慢できなくなった俺が自分のを抜こうとしたら、一緒に彼の手で覆って射精させてくれた。

あの時から信じられないことに今や、俺は店長とソウルメイトにまで上り詰めた。

「あぁ、店長、ちんぽ気持ちいいです」
「ええ、よく見えます。とても硬そうで、ビクビク震えていますね。……おや、もうすぐでしょうか。まだ早いですよ、ロキ。もっとしたいでしょう」
「……は、はい、永遠にしたいですぅッ、……キスして、レオシュさん…!」

もうだめだ。
こんな状態で一秒も我慢できるわけない。ただでさえ彼に見つめられるだけで俺は早漏状態なのに。

「んっ、んぅ、きもち、いい、店長の口…っ」

レオシュさんは俺に密着してきて、口づけを施してくれた。頬を撫で、手で覆ってねっとりと舌を絡められれば、下半身がうずき腰が跳ねる。

「んんっ、んーっ、出る、もうイク、いッ、んぅう…ッ」

キスをしながらちんぽを無惨にもガクガク震わせる。
俺の露になった腹筋にはもちろん、彼の部屋着のシャツにまでべっちょりついてしまった。

「……ああ、すみません店長……あなたの服まで、汚れちまった……」
「いいんですよ、ロキ。そんなこと気にしないで。汚してください」

頭を抱えて、そこにちゅっと口づけを落とされる。
彼はマジで優しい。粗相をしたのに嬉しそうな表情にも見え、俺の上半身まできれいに拭ってくれた。

その後俺は、流れで店長のもしゃぶらせてもらった。
彼は慈愛の瞳でそれを許してくれ、俺は半ばやりたい放題であった。

甘える方向がたぶん違うし、どう思われたかちょっぴり不安でもあったが、レオシュさんの前では俺はこのように正常ではいられないのだ。




ようやく場面は寝室に移る。
二人とも服を着替え、仲良くベッドに入って寄り添っていた。
レオシュさんももう遠慮しないで俺を抱き寄せてくれている。

「あぁ〜店長にはなにかお礼しないとな。そうだ! これから毎日朝フェラで起こします!」

さっきまでの興奮状態が抜け切らず、ぎんぎんの目で隣の彼に告げる。
すると眼鏡のないレオシュさんが柔らかい瞳になった。

「なるほど。とてもそそられる妙案ですね。けれどそれ、君が喜んでいませんか?」
「鋭いですね。だめですか?」

何のためらいもなく尋ね返すと、彼にいとおしそうに抱き締められる。

「いいえ。いいですよ。かなり刺激的に思えますが」

許しをもらえて嬉しくなった俺は、彼と抱きしめ合って眠ろうとした。

「あの俺、変態でごめんなさい。いつか店長のこと、夜襲っちゃうかもしれません」

明日が楽しみで興奮して寝られない。冴えた目で話しかけていると、眠そうなレオシュさんに頭をぽんぽんと触られる。

「ふふ、とても可愛いな。好きにしてください、ロキ」
「嫌いになりませんか?」
「なりません。もっとわがままでもまったく構いませんよ」

あふれ出る年上の包容力を感じ、改めて店長が好きすぎると夢うつつになる。

「やっぱりレオシュさんじゃないとだめだなぁ、俺」
「私もそう思います」

くくっと笑う声がそばから聞こえた。肝心の幸せな答えを受けて、安心した俺はようやく大人しく眠りに誘われたのだった。



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