▼ 10 秘密の逢瀬 ※
店長の甥っ子が同じアパートに住み始めて、一週間になる。
高校三年生であるそいつは少年というにはガタイがよく、あまりに横柄な奴だった。
「……ああっ。うるせえ、毎日毎日大音量でラップ流しやがって……寝れねえじゃねえかよ!」
午後11時すぎに布団に入っている俺の耳に、真向かいの部屋から騒音が響き、イラつきが最高潮だ。
そんなとき、開けていた窓から車の音と玄関扉が開く音がした。
店長が帰ってきたのだ。
今日は水曜日で本来なら喜び勇んで出迎え、熱い夜も過ごせたはずなのに、俺は我慢していた。
まだ、彼の甥っ子に関係がバレたらまずい。
レオシュさんが帰宅すると、ちょうど騒音も静かになった。
一応伯父の言いつけを守っているらしい。要領のいい奴だ。
俺はベッドに突っ伏しながら、スマホのアプリを開いた。
いつもの夜のメッセージを送る。
『レオシュさんおかえりなさい。お疲れさまです』
文面は簡素だが心の中ではハートが乱舞している。
何分かして、返事が帰ってきた。
『ただいま、ロキ。君もお疲れさまです。何も変わりはありませんでしたか?』
優しい彼の気遣いに心が温まる。
だがまさか甥っ子の愚痴を言えるはずもなく、「全然大丈夫です!しいていえば店長が恋しいです」と打つ。
しかし考えたあとに、後半部分は消した。今はあまりわがままを言うべきではないだろう。
正直最近二人の時間が取れなくてかなり寂しかったが、バイトのときは会えるし、今はアパートに他の住人もいる。
だから身を切る思いで耐えていた。
その日はおやすみなさいとメッセージを送り、終わろうとする。
店長と付き合うようになり、朝夜はこうしてやり取りをするようになった。
俺はもともとトークアプリの類いが面倒で嫌いだったが、レオシュさんは別だ。
恋人というのは少しでも繋がっている感覚があると、こうも幸せなのかと身に沁みていた。
今店長は着替えている最中なのだろうか…そんなことを考えていたらムラムラし始め、俺は最後にまたスマホを開く。
『店長好きです!!』
想いが抑えきれず、送ったあとに唐突だったろうかと少し後悔したが、ほどなくして返信がきた。
『ありがとうございます。とても嬉しいです。私も君が大好きですよ。ロキ』
そう書いてあったのを見て、俺は感動で震えた。
その日はもちろん、画面を見ながら抜いた。
ああ、早く店長に抱かれたい。
俺はもう彼なしではいられない人間になってしまったのだーー。
しかしそれからも腹立たしいことが起こる。
喫茶店のバイトが終わり、夕方すぎに一足早くアパートに帰ってきた時だ。
俺はTシャツと半ズボンでタオルを肩にかけ、階下の風呂場へ向かおうとしていた。
廊下に出たら、なんと高校生のギャル二人と出くわした。
スカートの短い、今時の女子が甥っ子のニコルの部屋に入っていく。
「やだ、かっこいい〜。こんにちはあ」
「……はっ? こんにちは……」
なぜか二人にきゃあきゃあ言われながら、俺は通りすぎた。
すごく嫌な予感がしたが、風呂でなるべく長い湯船に浸かった後、自室に戻る。
すると案の定、聞きたくなかった淫らな騒音が響いてきた。
ありえねえ。あいつ、ガキのくせに何をやってるんだ。
勘弁してくれと思いながら、ちょうどヘッドフォンが壊れてて使えないことに絶望し、俺はジョギングに出ることにした。
せっかくシャワー浴びたのにふざけんなと憤りながら、しばらくして戻る。
ようやく女子達は帰ったようだった。
しかし我慢の限界に来ていた俺は、とうとう奴の部屋の扉を叩いた。
中から出てきたのは、スウェット姿でポケットに手をつっこみ、チャラい金髪を揺らすすらっとした若者だ。
「ああ、なんだよ。あんたか」
「こんばんはニコル君。ちょっと言いたいことがあってな。君ね、今女の子連れ込んでなかったか? しかも二人も。高校生の分際でまずいんじゃないかなぁ」
一応俺のほうが6つほど年上なため、青筋を浮かべながらも冷静に諭す。
しかし奴はタバコを取り出して口にくわえ始めた。
「あ? 関係ねえだろ。なんだ嫉妬か? あんたもまざりたいなら今度誘ってやろうか」
にやにやした整った顔立ちを前に、俺は無言で奴のタバコを取り上げた。
「っにすんだてめえ!」と声を荒げられて奴の胸ぐらを握る。
「おい。俺はそういう趣味はねえ。ガキはガキらしく大人しく宿題でもしてろっつってんだよ。それが出来ねえならな、せめて静かにしろ。お前の作り出す騒音で毎日頭がかち割れそうなんだよ、こっちはよ」
ドスの効いた声で恫喝した。
大人げないとは思ったが注意だけで済ませたかった。
「……はあ? あんた、ロキっつったっけ。おじさんの前と随分態度ちげえな。いつもの爽やかな好青年面は猫かぶってんのか?」
物怖じせず舐めた口を聞く奴を見据える。
確かに猫はかぶっている。店長の名前を出された俺は少しひるんだ。
「れ、レオシュさんは関係ないだろう今。あっそうだ。君こそ伯父さんが悲しむぞ、こんな性に乱れた甥っ子の姿を見たら。分かったらこれからはもう少し気をつけなさい。いいね」
「あ? うぜえな、何様だ。……ちっ。お前の意見は聞くつもりねえけど、おじさんには言うなよ。分かったな」
「言わねえよ。んなショッキングなこと」
彼の名前の効果があったのか、わりと素直に退いた奴に呆れつつ、俺はその場を去る。
ったく、生意気で弁の立つ野郎だ。
結局フラストレーションは溜まったままどこにも行かなかった。
◇
そして次の日曜がやって来た。今週も我慢の週末か…とどんよりしていた俺に、なんと店長から直々にお誘いがあった。
あいつは友達の家に行くらしく夜遅くなるのだという。
レオシュさんとしっぽりお家で過ごすチャンス。
歓喜した俺は夕方ニコルが出かけるのを見計らって階下へ向かった。
やましい気分にはなったが背徳感も手伝い、店長への想いが爆発しそうになる。
「んっ、んん、レオシュさん……っ」
最初はリビングのカウンターでまったり酒でも飲んでたのだが、俺は気づいたらソファの上で彼を押し倒していた。
隣に座っていた彼の黒シャツがややはだけていたのが色っぽく、キスを仕掛け、膝の上にのりあげてしまった。
「はあ、ロキ、今日は積極的ですね……こんな風に、唇を吸ってきたりして…」
頬を撫でる指が、俺の口をたどりそこに今度は彼から口づけられる。十日ぶりのキスが全身をびりびりと駆け抜け、もう股間が破裂しそうだった。
「う、うぅ、苦しいです、店長」
「……どこですか? ここですか」
「はい……そこの膨らみです、あ、ああッ」
ズボンの上からぎゅっとされて悶える。店長は俺の下のボタンをはずし、勃起したちんぽを撫でてくれた。
「はっ、はあぁっ」
「すごく硬いですね……また我慢していたのですか」
「いえ、してないです、店長に会えない間、すげえ抜いてました」
間髪いれずに白状した。彼の命令ならばいつでもオナ禁してみせるが、今回は寂しすぎて無理だった。もう彼の味を知ってしまったからだ。
そう告げると店長は眼鏡を外し、瞳を柔らかくした。
「本当に可愛いですね、君は。私のことを思って一人でしていたとは」
「当然です、いつもあなたのことばっかり考えてますから…!」
シャツを握って伝えきれない気持ちを告げると、レオシュさんは目元をうっすら赤くする。照れてるようだ。
ムラついた俺は気になってることを尋ねた。
「あの、不躾な質問かもしれませんが、店長はどうなんですか?」
「えっ?」
「いや、自分でしたりするのかな、とか思って…」
生唾を飲み込み答えを想像すると、まばたきを返される。
「私ですか。……そうですね。お恥ずかしいですが、します」
「ま、マジですか!」
「はい。それは、男ですから。君ほどではないと思いますが……前よりはしてますね。ロキがいるからですよ」
にこりと微笑まれたら意識が飛びそうになった。
信じられない。あの清廉潔白な店長が俺をオカズにオナニーを……!
「ありがとうございます。ちなみにどこで、どんなシチュエーションでするんですか?」
「……ロキ。顔が近いです。それと、君のここが、さらに苦しそうですよ?」
はぐらかされたかと思えば、手のシゴきが再開する。
すぐにでも出そうな俺のちんぽに向かって、店長は身を屈めた。
もしやと思った俺は背をぴんと伸ばす。
「あっ、ちょ、待っ、口でするんすか?」
「ええ。ダメですか?」
「いや全然いいっす、店長のお口の、中……っ、ああ!」
いつもより性急にくわえられて、腰をがしりと持たれる。
ズボンを下着ごと脱がされ、太ももの間に彼の顔が埋まる。
「ひっ、あぁっ、ぅ、いく、店長、店長っ」
「……んっ……イッてください、ロキ、飲んであげますから」
丁寧なフェラの間に優しく言われて、俺はすぐさま限界になった。
手よりも口のほうがやばい、それも好きな人の口と舌が這うのだ。
「あ、あ、あぁッ」
出てしまった。あまりの射精感に自分でTシャツをたくしあげ、腹筋がびくびくと反応する。
一瞬眉をひそめた店長の喉元が動き、飲んでもらったのを確認する。
「レオシュさん…!」
感極まった俺は抱きつき、唇を奪った。
彼も俺の頭の後ろをもち、男らしくキスに応える。
そのまま俺は店長に馬乗りになり、興奮状態のまま自分もお返しをしようと考えた。
「俺もします、店長の、口でイカせたいです」
「だ、だめです、ロキ。ちょっと待ってください」
「なんでですか、待てませんよ、早くちんぽ出してください」
つい品のない誘い方をしてしまうが、真下にいる店長がやんわりと俺の尻を掴む。
「もちろん君のフェラチオは気持ちがいいですし大好きなのですが、今日は、たくさん君の中でイキたいんです。……いえ、当然、君のこともそれ以上にイかせたいですが」
紳士な店長が正直に気持ちを聞かせてくれて、俺は動きを止めた。
この人は、どれだけ俺のことを感動させたら気がすむんだ。
「そうだったんですか、すみません店長、何も気づかなくて。……俺も、レオシュさんにすっげえイッてほしいです、何回も出してほしいです…!」
今日の自分は少しおかしかった。彼への気持ちがあふれでて、遠慮が消え、俺は上も全て脱いだ。
そして彼のシャツをはだけさせる。浅黒い、がっしりと鍛えられた胸板が現れ、全身がうずく。
「ロキ、何をしてるんですか」
「もう、ほしいんです、俺、ちゃんと準備してきましたから、いれてください…っ」
ソファに押し倒して迫り、驚く店長の前でポケットからゴムを取り出す。
興奮の最中「つけていいですか?」と聞くと一瞬考えた店長は「はい」と赤らむ顔で頷いた。
俺は勝手にレオシュさんの前をくつろげさせ、大きくなっているぺニスに出会う。ああ、久しぶりの雄々しい逸物を前に、愛しい思いが膨らんでいく。
「……くっ、ロキ、もう、大丈夫です、私の上に来てください」
手を引かれ、彼によってあてがわれると、中に挿入されていく。
久しぶりの熱い質量を感じ、すでにとろけそうになる。
「あ、んあっ、んあぁ」
「ああ……そんな風に腰を揺らして、淫らですね、君は……」
見上げるレオシュさんから褒め言葉を受け取り、下半身が止まらなくなる。
「んっ、くっ、だって、レオシュさん、気持ち、いいっす…っ」
「ええ、分かりますよ、君の奥に、ぺニスが当たっています、好きなんでしょう? これが」
腰をぐっと抱き、彼は起き上がった。目線が下のまま、対面座位になってしまう。
店長は腰を揺らしながら、俺を抱きしめ、優しい瞳で見つめてくる。
「あ、ああっ、そんな、店長、やべえ、ちんぽいいですっ」
「そうですか。嬉しいです。君の中も、とっても気持ちが良いですよ」
こんなに近くで見つめ合い、店長をめいっぱい感じられるとは。
未だ慣れぬ恋人のイチャイチャセックスに翻弄されてると、彼が俺の胸を触りだした。
鍛えてるため張っている胸筋を、ときどきこうして揉まれるのだが、俺はそこが弱い。
「んあぁっ、ちょ、そこ今舐めないでくださいって!」
「ですが、君はここがよく感じますよね。吸ってあげると、中もよく締まるんですよ」
笑顔でとんでもない事を言う店長。
もっと理性を保ちたかったのに、俺はその一言と口の刺激でイッてしまった。
「あっ、ああ〜〜っ、いく、イクっ、イキますレオシュさんっ!」
びくんびくん背がのけぞって達する。
離れないようにとっさに支えられるが、彼のぺニスがさらに奥に入ってきた。
「くっ、ほら、すごく締まってます、ああ、今イッてますね、ロキ……こうなると私も限界です」
掠れ気味の声で律動を深めてきて、俺の下半身はぐっと離されなくなる。結局そのまま彼が長い射精をし終えるまで、快楽は持続した。
◇
「…んっ、ふっ、ぁ……」
「可愛いです、ロキ……今日はこのへんにしておきましょうか」
「は、はー、はい」
数時間後。落ち着く照明がともる彼の寝室で、俺はへろへろになっていた。
何度かした後も今までずっとレオシュさんにキスをされていて、シーツに押しつけられていた。
というか店長、普通に絶倫だ。
別に口でしても全然よかったのではと思えるほど、まるで年齢差を感じさせないセックスに俺は毎回足腰がたたなくなる。
「何か飲みますか。今持ってきますから。君は休んでいてくださいね」
優しい店長が俺の頭をそっと撫でて、ガウンを羽織る。
お言葉に甘えて、精魂尽き果てた体でベッドに横たわっていると、玄関から扉をドンドン!と叩く音がした。
こんな時間に誰か来たと思い、緊張した俺は息をひそめる。
寝室は廊下の奥だが、声が聞こえてきて耳を澄ました。相手は彼の甥っ子、ニコルだった。
「もう帰ったのか、おかえり。ニコル」
「いや、まだだけど。つうかおじさんもう寝てんの? まさか誰か連れ込んでたりして」
「いやーー」
「まあいいや。俺今日ダチんとこ泊まるから。明日そのまま学校行くわ」
「え? ちょっと待て、誰のとこに」
「いつもつるんでる奴だよ、心配しなくていいから。じゃな」
軽い口調で去る甥に、レオシュさんは引き留めようと声をかけた。しかし奴は行ってしまったようだった。
しばらくして、少し浮かない顔の彼が飲み物を手に戻ってくる。
ベッドに腰を下ろし、「ニコルでした」と微笑みを浮かべていたが、俺は一気に頭が冷静になった。
「あの、すみません。俺ここにいるべきじゃなかったですよね、やっぱ…しばらくは…」
「え? いえ、何を言ってるんですか、ロキ。……私はもっと君のそばにいたいですよ」
肩を抱きよせられて、すぐに考えを翻し甘えそうになる。
俺達はまたベッドに入り、ピロートークの続きではないが、二人で話をした。
「あの、そういえば店長はニコル君と会うの久しぶりだって言ってましたよね」
「ええ。以前にも預かっていたことがあって、しばらくアパートに住まわせていたんです。彼の両親が同じ職種で、普段は海外を飛び回っているので……私も含めて、あまり構ってやることが出来なかったんですよね」
心苦しそうな彼の話に聞き入っていると、レオシュさんも喫茶店を始める前は国境警備局という大きな国家組織の職員であり、かなりの仕事人間だったせいで、プライベートの時間があまり取れなかったらしい。
だから家族や甥っ子との交流は、皮肉にも弟が離婚して遠くに行ってしまい、自分も店を持ってからのほうが増えたようだった。
大事な身内である彼らから頼られるのは嬉しいというが、そこには少なからず負い目も存在しているようだ。
「弟は自由奔放な人間で、家族にもかなり寂しい思いをさせていたと思います。ニコルもとてもいい子なんですよ。ただ、少々やんちゃな所がありまして……年頃でもありますしね。……ロキ、君のことも心配だったんです。急にこのような事になり、申し訳ありません。隣に住んでいて、何か問題などはありませんか?」
俺は彼の真摯な眼差しに対し、すぐに首を振った。
あいつの身の上やレオシュさんの思いを知ったら、自分の不満なんて微々たるものだ。
「いやいや、全然ありませんよ。それに俺は、結構思ったことすぐに言っちゃうんで。まだかわいい高校生ですし、お兄さん的目線で仲良くしたいと思ってますから」
調子よく胸を張ると、店長は少しの間のあと、ふふと笑みをこぼした。
「君は優しい人ですね。ありがとうございます。遠慮なく言ってあげてください。もちろん私もきちんと目を配りますから」
そうして俺達は互いに頷き合った。
家族になりたいとか簡単に思ってたけど、結婚って相手の身内とかも関係あるんだよな。
俺なんてとくに同性だし、簡単にいかないよな…。そう現実を目の当たりにする。
「それと、ロキーー」
「はい、なんですかレオシュさん」
将来を考えていたら心細くなってきて、彼の広い胸板にもぐり込む。
すると頬に指が触れ、見上げた瞳を見つめられた。
「……いえ、なんでもありません。さっきも言いましたが、もし困ったことがあったら、すぐに言ってくださいね。遠慮しないで」
あります。もっと触れ合いたいです。
でもそんなわがままは言えなかった。とりあえず、また辛抱の日々だ。
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