I'm so happy | ナノ


▼ 19 合宿でチーム決め

「あーあ……。はあ……」
「マスター、明日から合宿なんですから、もう準備はしましたか? お風呂は? ……もう、さっきからため息ばっかりついてないで、ロイザの服も詰めてくださいよ」

騎士団領内の仮住まいで、家事と荷物をまとめるのに忙しい弟子が急かしてくる。だが俺は色々憂鬱で体が重く、ソファに寝っ転がっていた。 

もう三週間近くクレッドとまともに話をしていない。
あいつが任務や会合で時間がなかったのもあるが、そもそも喧嘩状態なのだ。

「ところでまだ仲直りしてないんですか? 今回は長いですね、クレッドさん可哀想。ていうかマスター、また合宿のときにそんなことになって」

好き勝手に言うオズに生返事をする。俺もやばいと感じ始めてるため反応できないのだ。

「あのさ……オズ。俺が教会辞めるっつったら、お前どうする」

天井を虚ろに仰ぎながら問うと、弟子が静かになった。おもむろに横目をやると、茶髪童顔の丸い瞳が俺を驚いて見ている。

「え? マスター辞めたいんですか? そこまでヤバいことになってるんですか、クレッドさんとの仲」
「いや、そういうわけじゃ……」
「待ってくださいよ。そんなに簡単に辞められませんし。上に話をつけないと。段取りもありますから、少し時間かかると思いますよ」

悩みながらではあるものの、想像よりもすらすらと口から出た言葉に俺は思わず体を起こした。
え、なにこいつ。なんでこんな落ち着いてんの。

「ちょ、おい。お前なんで反対しないの? 完全に教会の手下になったかと思ってたんだが」
「ひどいですよそんな言い方。俺はただマスターが仕事しやすいために調整役を買って出ていただけです。ロイザのこともあるし。俺にとって一番大事なのはマスターと一緒にいることなので。辞めるならまた元の暮らしに戻って仕事したり、一生懸命お世話します」

胸を張って述べ、俺ににこりと笑いかける弟子に俺は涙を浮かべた。

「うっ……お前っ……弟子の鏡じゃねえか……っ。そんないいヤツだったとは……もう完全に俺のもとを巣立ちやがったと勘違いしてて悪かった……!」
「巣立ち、ですかぁ。確かにそれも考えないといけないんですよねぇ……でも俺、まだマスターと一緒にいたいなぁ。なぁロイザ。お前もそうだろう?」

ふいにオズがソファの下で寝そべる白虎に話しかける。俺同様、奴も怪訝な顔を上げた。

「なぜ俺に聞く? 俺はセラウェと一緒じゃなくなるのか?」
「え! もしかして俺だけ別々ってことなのかな? やっぱりそうか……」

オズの顔が曇り、俺をじっと悲しそうに捕らえる。
まさか。こいつあの事に気づいているのか?

「な、なんの話だオズ。その泣きそうな顔に俺は弱い」
「とぼけないでくださいよ。俺もう最近感づいてますから。マスター、やたらとお金のこと気にするし。任務だって難しいのばっかり受けてるし。……クレッドさんと同棲するんでしょう?」

面と向かって言われると師匠のくせに熱で湯上がりそうになり言葉が出ない。

「それは俺も嬉しいんです。師の幸せだから。でも俺もっ……頻繁に遊びに行っていいですよね!? あ、そうだ! 近くの敷地に家借りて住んでもいいですかっ? もちろんクレッドさんの邪魔にはならないようにします! だってマスターだって話し相手いなかったら寂しいでしょう?」
「…………オズ!!」

気の早いこいつにつられ俺も芝居がかった涙目で奴を抱きしめる。こんな素直な人間は俺は二人ぐらいしか知らない。だからこの弟子は可愛い奴なのだ。

「あたりめーだろ。お前はもう俺の家族なんだよ、さすがに二世帯には出来ないかもしんないが、近くに住め! クレッドだって反対するわけねえよ、あいつもお前らに心許してんだからさ!」

誇らしく言うが俺はあいつと喧嘩中である。
だがそれを置いといても勝手に感極まっていた。しかしそんな二人をじろりと見つめる白虎がいた。奴はゆっくり体を起こし、俺の正面に行儀よく四足で座る。

「セラウェ。俺も入っているのか? 俺の居場所も、お前達の家にあるのか……?」

しおらしく問われるがこいつ絶対本心でそんなこと思ってねえ。何年使役獣飼ってると思ってんだ。灰色の瞳がギラついているのが分かる。

「ロイザ……当然だろうが。お前が大人しくしている限り、基本的に三人暮らしだ。それともオズのほうがいいか? お前と俺の絆はそんなもんなのか」

まあぶっちゃけこれまでと同じく俺らの間をうろつくのだろうが。この白虎は誰より自由人だからな。

「ふっ。難しい所だな。俺の縄張りが増えるのは悪いことではない。そこにお前の弟も加わるとなれば、緊張感がもたらされ、より楽しくなりそうだ。好きにしろ、セラウェ」

なんで上から目線なんだよと突っ込みたくなるが我慢する。予定外にも弟子と使役獣から同居の許可をもらって若干安心はした。

「とにかくな、同居はもう少し先なんだよ。住むとこも決めてねえし。その前にもっと金もふんだくってやらねえと、教会から。それまで頼まれたって辞めねえぞ俺は! はっ、ざまあみろ!」

吠えると弟子に眉をひそめられる。

「なんのことですか? もしかして、お金のことでクレッドさんと揉めてるとか?」
「ち、ちげえよ。そんなださいこと……」

口ごもるとオズがしつこく気になると言ってくるので、仕方なく俺は情けない喧嘩の理由を教えてやった。すると完全に呆れられる。

「はあ~もうマスター、子供ですか? 一緒にいたいからだって素直に言えばいいのに。別に恥ずかしくないでしょう」
「恥ずかしいだろ、仕事だぞ! 私情挟んでるのバレバレじゃねえかよ!」
「今更なんですか。格好つけたって、クレッドさんは弟さんなのに。喜ぶだけだと思いますけどね~」
「弟だから言えないんだろうが。それにあいつは喜んでなかったぞ。もしかしたら俺が離れたほうがいいと思ってるかもしれない、仕事では。最近はすげえ気遣い屋になっちまってるし」

言うはずのなかった愚痴が次々と出てしまい、もはや恥も外聞もない。だが弟子は文句も言わず、多少俺を憐れみの目で見て話を聞いてくれたのだった。

合宿で仲直り出来ますよ、しなきゃ駄目ですマスター! とかなんとか言いながら。





そしてとうとう翌日、ソラサーグ聖騎士団とリメリア教会の共同合宿が始まった。毎年騎士達は勝手にやってるらしいが、俺達教会の面々はそういう慣例はない。

一体何をやらされるのだろうと寒気がする中、奴らの計画は想像とは違っていた。

「う、うおおおお! こんな豪華宿に泊まっていいのかよ? しかもこの島俺等で一人占めって! さっすが司教主催だな~金持ってんねあのおっさん!」
「セラウェ君。一応僕も主催側なんだけれど。今回は奮発したよ、合宿と銘打ってはいるが、気楽に考えてくれていい。主な目的は騎士団と教会の懇親会だから」

まじかよ。特大ホールに集った魔術師らをまとめる司祭から、耳に優しい言葉を聞き心の底から安堵する。
舞台前には、線を隔てて青い制服に身を包んだ聖騎士らが規律正しく整列している。

天井にはきらびやかなシャンデリアが灯り、上司の言うように汗臭い合宿というよりはまるでどこぞのパーティー開始みたいな雰囲気だ。

その後司祭は壇上に上がり、司教とともにスピーチを開始した。俺の視線は自然に舞台下に並ぶ団長クレッドや四騎士らに注がれた。

弟はまっすぐに騎士らを見据えているが、スライドした視線はやがて俺とぶち当たる。しかし俺はサッと逸してしまった。別に他意はないのに引くに引けない雰囲気になっている。

クレッドのやつ、合宿に気合を入れるためか少し短く髪を切っている。美男子には変わりないが普段より男らしさが増しめちゃくちゃ似合っている。
ただそんな感想も自分のせいで言えないのを悔やんだ。

「ーーというわけで、我ら教会と聖騎士団に所属する諸君。十日間の日程のうち前半は、外での自給自足によって思いの限り自由に過ごし、騎士と魔術師混合のチーム協力により皆の仲を存分に深めていただきたいと思う。そして後半は待ちに待った豪華施設での優雅な時間を楽しみ、疲れた身体を仲間とともに癒やしてくれ」

…………はっ?

俺の聞き間違いじゃなければ、ビシっと白装束をきめた聖職者の司教が、不似合いな「自給自足」とかいう単語を発したんだが。
不審に思い、すぐ隣の面倒そうに突っ立っているイスティフに耳打ちした。

「おい。なんだこれ、まさか外でサバイバルすんのか? 嘘だろ?」
「嘘じゃねえよ兄ちゃん。三年に一回の風物詩だ。あんたは初めてだったな。まあいいじゃねえか、後半は贅沢三昧出来るんだし」

呑気にあくびする赤髪の男に愕然とする。周囲を見ても魔術師や職員らは平然としており、遠くの騎士らに至っては前半後半どっちが楽しみなのか「おおっ!」と歓声めいたものまで上がる始末だ。

やっぱりか。初っ端から嘘つきやがってあの司祭の野郎。ただの懇親会なんてもんがあるわけねーんだ。

すでに恨みぶしで見ていると、直後にさらに信じられないことが起こる。

「それでは皆、最初に騎士の面々に選択をしてもらおうか。君達には自分がチームを組みたいと思う魔術師のもとに行ってほしい。時間を取るから、まず興味のある者と話してみるのもいいと思うよ。これまでペアを組んだことがない者、また経験がありやりやすいと分かっている者など、各々の自由だ。原則的に魔術師一人か二人をチームに入れ、全体で七、八人の組分けをしてもらいたい。じゃあよろしくね」

司祭のイヴァンがすらすらと説明をし、俺の心臓が突然高鳴っていく。悪い意味で。
なんだよチーム分けって。しかもそれ、もう人気投票みたいじゃねえか。何故いきなりそんな酷なことしやがるんだよ。

「や、やばいやばい。俺絶対人気ねえし。一人でサバイバルなんて無理だよーー」

最悪の事態を想定し始めると、「よーい、始め!」という組分けが開始された。若くハツラツとした騎士らが向かってくる。

ひとまずオズとロイザを呼び、作戦会議を立てることにした。

「どうすんだよお前ら、俺と同じチームでいいよな? な?」
「いや駄目じゃないですか? ずっと前もグレモリーさんに身内で固まるなって怒られたし」
「バカ、んなの守んなくていいんだよ! とにかくオズ、お前は裏切りそうだからいいがロイザだけは俺のそばから離れんなよ!」

昨日までの師弟愛を忘れ、ブーブー言う弟子よりも使役獣の腕を掴んでおく。サバイバルならこいつが絶対必要だ。とりあえず狩りできるし食料には困らないだろう。

すると、オズに見知らぬ騎士二人が近づいてきた。

「オズ君、俺らと組まないか? あっちにも分担出来そうな奴らがいるんだ」
「あ、ぜひ! お願いします!」

そうペコペコして普段から教会の事務方として顔が広い弟子は騎士とどっかへ行ってしまった。俺に「マスターも頑張って! 誰も引き取りに来なかったらうちのチーム誘いますから!」とか抜かして。

ありえねえ。なにこの非情な光景は。
虚ろな瞳で皆の動向を追っていると、一匹狼的に見えたイスティフも結構騎士に声をかけられているし、眼鏡の結界師ローエンもそうだった。

剣士ユーリが囲まれてるのは分かるが、驚いたのは新人のルカと医術師ジスもその能力の高さが噂となってるのか騎士と話が弾んでいる。

エブラルは監督役のようで司教と司祭と共に舞台上から観察している。レニと召喚獣ラームも知り合いの騎士に声をかけられてて上手く行ってるようだ。

ああ。俺ももっと騎士と交流しとくべきだったか。

「ロイザ……俺らんとこ誰も来ねえよ。やば、泣きそう」
「泣くなセラウェ。騎士の手などいらん。それより奴らが自給自足に勤しんでいる間、不意打ちで決闘をしかけてやろう。そのほうが楽しめないか?」

腕を組み不敵に夢想している奴から遠ざかりたくなる。でももう俺にはこいつしかーー。

「セラウェさん」

…………えっ!?

顔を上げると、そこには柔らかい笑みで一人立つ、金髪長身の騎士がいた。

「ジャレッド! お前、来てくれたのかっ?」

こいつを見てこんなに嬉しかったのは初めてだ。でももうどうでもいいと奴の近くに行き俺ははしゃぐ。

「いや~、信じてたよ! お前なら絶対来てくれるってな!」
「え、うそ。本当ですか? そんなに歓迎されるとは、嬉しすぎますよセラウェさん。もしかして、今度こそイケる?」

何もイケないが調子を合わせてこいつを引き止めるしかない。弟のようなガタイの良さに戦闘能力も高そうだから必ず役に立つはずだ。
すると幸運が重なり、後からさらに若い騎士が二人俺らに近寄ってきた。

「あの、もし良かったら……私達もよろしいでしょうか?」

二人共筋骨逞しい青年らで初々しさがあり、二年目だというジャレッドの後輩らしい。こいつは第二小隊だが、彼らは第四小隊だそうだ。

「おーおー! もちろんいいって! いやぁ嬉しいよこの新興チームに入ってくれて、よろしくな!」

気を良くした俺は逃げられないように彼らも素早く囲う。

「お前達、俺がセラウェさんとこ来たから大丈夫そうだと思ったんだろ?」
「は、はは。そうとも言えます。でも一生懸命働きます、何でもご命令ください!」

二人に敬礼され俺も会釈する。ジャレッドによるとそもそも俺の弱さとか以前に、騎士らは俺のことを避ける傾向にあるらしい。

「なんでだよ、俺そんな問題児じゃないはずだが」
「なんでって、分かりません? ほら、視線を背中にピリピリと感じますよ俺だって。まあ今のセラウェさんは、なぜかまた団長と喧嘩してるみたいですけど」

こっそり背をかがめ俺に耳打ちして、奴は遠くのクレッドを見た。なぜ分かったんだこいつ、と焦りながら弟を確認すると、あいつは俺達のことを視界に入れていた。表情は固いがなんとなく複雑な面持ちをしている。

クレッドがいりゃあな……と一瞬思ったが、まさか団長がサバイバルなんてするわけないしと立場の違いを切に感じた。

これで五人か。あと何人か騎士が入ってくれれば。
そう思い見回すと、ルカが二人の騎士を連れて近づいてきた。

「よう、セラウェ。一緒に組もうぜ。こっちは三人だ。ちょうどいいだろ」
「おお、ルカ。いいぜ。助かったわ」

さっきまで裏切り者と陰でみなしていたのを忘れ、即座に受け入れる。だが隣にいる騎士とは折り合いがよくなさそうだった。

「あんた元罪人のアーゲン、だったよな。セラウェさんと名前で呼び合うなんて、仲がいいのか」
「まあな。学生時代からのダチだ。お前もこいつのことが好きそうだな」
「お前も? あんたもか? 参ったな。また歴史が深そうな奴が出てきたよ」

肩で息をつくジャレッドの会話が意味分からなかったが、こうして一応チーム分けは済んだと思っていた。壇上の司祭がパンパンと手を叩き、皆の注目を集める。

「はい、では大体決まったようだね。次は幹部クラスの隊長達に戦力調整としてチームに入ってもらおう。助っ人的なアレだよ」

司祭が彼らに目をやり騎士もざわつく中、四騎士がじっと選別し始める。俺は突然俺等のほうに歩んできた茶髪の男に後ずさりした。

「……げっ! お前なにこっち来てんだよ、いいよ来なくて! そういう枠もういっぱいだから!」
「ひどいな。まだ何も言ってないのに。君達をまとめる役が必要じゃないか? どうだ、ジャレッド。お前にはまだ荷が重いだろう」
「いや、そんなことは……大丈夫だと思いますが、ユトナ隊長。このメンツなら」

頭をぽりぽり掻く直属の部下のあとに、美形の騎士はルカを見つめる。奴の標的はどちらかというとこっちなのか。

「やあ、初めまして。君がアーゲンか。任務での活躍凄いらしいな」
「どうも。あんたは団長の腹心だろ? 俺を探りに来たか。自分で来りゃいいのにな。偉いやつはこれだからよ」

舐めきった感じで笑うルカだが、最初から喧嘩腰なのをひしと感じる。もう頭が痛い。こいつはこういう一見お高くとまった雰囲気の騎士が嫌いなのだ。

「おい失礼だろユトナさんに。お前は新人なんだから…」
「俺は構わないよ。彼の関心は団長のようだから、少し寂しいけどね」

余裕の苦笑がまたルカを苛つかせる。ユトナはさらに口を開いた。

「ちなみにセラウェのことに関しては、ハイデルは他人に任せたりしないよ。ほらやっぱり来たぞ」

奴の視線が俺の背後の高い位置に向かう。俺はドキリとし勢いよく振り向いた。すると弟がまっすぐ蒼い瞳を騎士へと向けていた。

「ユトナ。お前が入るぐらいなら俺が入る」
「ええ? 悪いけど団長、ここは譲れないな。セラウェと五日間濃密に過ごせるんだ。寝食を共にし、感動的な冒険を親密にーー」
「分かった。リーダーの兄貴に選んでもらおう。……頼む兄貴、俺を選んでくれ」

初めて今日真正面から見つめ合う。そんなことを弟にお願いされたら俺は嫌などと言えない。っていうか俺いつリーダーになったんだよ。

ルカ、クレッド、ユトナ、ジャレッドの四人の視線を浴びる。

「ええとな……じゃあ頼むわ、クレッド。ぶっちゃけお前が登場した時騎士の方々が一番どよめいたんだよ。団長と近くに過ごせるチャンスもあんまりないだろうし」

俺は普通に騎士に理由をなすりつけ我を通した。クレッドは明らかに嬉しさを抑えたような安堵感を出し頷く。

「そうか……残念だ、セラウェ。でもまだ二人枠があるな。ジャレッドより俺のほうがいいだろう?」
「いや……どうだろうな。お前がいるとちょっと濃い感じが……絵面的にも。美形が二人ってな……まぁ俺はいいんだが、騎士の皆さんはプレッシャーもかかるかもしれない、幹部クラスに囲まれたら。ルカは俺の友人だし、関係性的に」

ぶつぶつ神妙に断ると、ジャレッドが大声で喜ぶ。

「本当ですか? やったー! 隊長に勝った!」
「……なんだ、久しぶりにショックを受けたな。お前に負けるとは」
「す、すまんユトナ。消去法だよ」
「まあいいさ。じゃあ今度埋め合わせしてくれるか? 二人きりのカフェでいいよ」
「早く行けユトナ」

弟の厳しい声により、奴は苦笑しながらその場を去っていった。数合わせだといい、ルカといた騎士を一人連れて。

こうして長いやり取りの末、若い騎士三人と団長のクレッド、そしてルカ、ジャレッド、俺が残された。あ、もう一人いた。

「よろしくお願いします、団長! 光栄です!」
「ああ。よろしく頼む。これは任務じゃないから気負う必要はないが、いい鍛錬にはなる。皆で協力して乗り切ろう」
「「はい!!」」

もう熱いムードを醸し出す騎士らを横目で見る。戦力的には十分だが、俺と弟、そしてルカの三角関係みたいな問題は残っている。

「兄貴、ありがとう。出来れば、あとで話せるか?」
「お、おう。……俺もありがとな」

弟に話しかけられ、ぎこちなく答える。
ああ、俺が勝手に怒ってごめんと言えば済む話なんだがな。クレッドも当然気にしてるようだ。

「ーーあれ? そこのチーム。ハイデルが入ったのかい? 君は団長なんだからその必要はないのに。勤勉だねえ。まあいいけど。ひとつ問題がある。魔術師側が三人いるな。誰か一人出して」

うまくいってたのに、空気の読めない司祭が口出ししてきた。ルカが真っ先に口を開く。

「俺は抜けねえぞ。こいつを絞めるいい機会だからな」
「あのなぁ……つうかイヴァン、ロイザは魔術師じゃないって! 見逃してくれよ!」
「そういうわけにはいかないな。君のチームは戦力的に偏りすぎている。いくら君と若手の騎士が入っていたとしてもね」

なんだと?失礼なこと全員の前で言いやがって。
憎しみがわくがロイザは必要なのだ。魔力供給の問題もあるし。

「ロイザくん、君はどうしたい?」
「俺はどうでもいい。チームに入ろうが入るまいが自由に行動する」
「困ったねえ。じゃあ他のチーム、彼を受け入れてもいい者達はいるかい?」

司祭が壇上で問うと、場はしーんと静まった。
おいおいひどすぎだろ。こいつまで心に傷負うじゃねえか。

「ロイザ……お前俺より可哀想なことになってんぞ。まあ自業自得かもしれんがな。散々器物破損やってきたツケか」
「ふっ。臆病な奴らだ。俺の有用性に気づかないとは。……ん? 待て、誰か来たぞ」

急にロイザの声が弾み、俺はんなわけないと目を凝らす。すると本当に黒髪の騎士がやって来た。
それは涼やかな眼差しが光る第一小隊長ファドムだった。

「俺が引き受けよう。白虎、一度貴様の真の力を見極めたいと思っていた。自由に動け。俺ならばついていける」
「ふふっ。頼もしい騎士だ。加えて最もこの団で勇敢な男だな。いいだろう。俺と来い。新たな体験をさせてやるぞ」

おいなにこの二人また意気投合してんだよ。飼い主として焦るものの、こいつなら任せても大丈夫かなと思い始めた。

「本当にいいのか? 悪いな、ファドム。あ、つうかお前も元気か? あんま無理すんなよ色々」
「大丈夫だ。心配するな。俺もまだまだ己を鍛える必要がある。お前達の喧騒を近くで見れないのは残念だがな」

そう言って意味深に団長とルカを見やるが、俺は愛想笑いをしておいた。まあいずれにせよ、この間のことがあったから心配だったが、この騎士も前を向いているようだ。

その後、ロイザとファドムは特別にペアとなったが、魔力供給の問題もあるため、原則的にうちのチームとある程度の関わりが許されることとなった。

こんなメンバーに囲まれた俺はどうなるんだと今から動揺が抑えられない。



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