ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 56 カボチャ売りの兄

騎士団領内に建てられた俺達の仮住まいには、本来の自宅と同じく、大きめの地下空間が存在する。
そこは何も怪しげな違法行為を行なう場所なわけではない。洗濯をしたり、物置スペースだったり、ひんやりと涼しい場所なのでちょっとした食物倉庫として使ったりしているのだ。

夕食の頃合いに晩酌をしようと思い、貯蔵してある酒コレクションをチェックしに、俺は地下へと向かった。

明かりをつけ、短めの階段を降りていく。行き当たった木の扉を開けるとすぐ、俺は愕然とした。

「うわっ!! なんだこの、大量のカボチャは……」

俺の酒の他に、棚をびっしり埋め尽くす、オレンジ色のカボチャ達。
持ってみると両手に収まりきらないほどの、ずっしりとした重みがある。色艶はよく新鮮そうだ。

「ったく、誰がこんなもんを……」

ぽつっと呟いたがこんな事をする奴は、この家にあいつしかいない。
すぐさま文句を言ってやろうと踵を返した時だった。

「あっ、マスター! 見ました? このカボチャ、凄いでしょう。実家から送られてきたんですよ〜」
「……オズ。お前なぁ、やっぱそうだとは思ったが、こんなにたくさんどうすんだよ! 何考えてんだお前の親っ」

目の前には大きな茶目をぱちくりさせる、童顔の弟子が立っていた。
こいつの実家は田舎に広大な農園を所有する農家で、こうして季節ごとに色んな野菜を愛する息子に送ってくるのだ。
弟子の親を悪く言いたくはないが、毎回量が多すぎるのだ。

「あはは、すみません。両親に聖騎士団にお世話になってるって言ったら『皆さんにもよろしくどうぞ』っていつもより大量に送ってきちゃって」
「……はあ。そうかよ。それは良い話だけどさぁ……どうやって配んだよ、こんなにたくさん」
「そうなんですよね。あのう、よかったらマスターも手伝ってくれません? ロイザに配るの頼もうかと思ったんですけど、あいつ社交性ないし、騎士さん達に戦闘ふっかけでもしたらまずいんで…」

オズがやけに可愛げのある顔を作って頼み込んでくる。
俺がそんな面倒なことすると思ってんのか? そう言いたくはなったが、このままじゃ俺の酒の置き場がない。

溜息を吐きつつ、イイことを思いついた。

「しょうがねえな。俺に考えがある。お前は俺の言うとおりに準備しろ」
「えっほんとですか、分かりましたマスター!」

途端に顔色を明るくしたオズと二人、いそいそと地下からカボチャを運び出した。


***


俺達は騎士団本部から少し離れた場所にある、大きな正門に近い地点に立っていた。
長テーブルを用意し、大量のカボチャを並べ、後ろには大きく「新鮮カボチャあります」と書いた看板を立てた。

頭に鉢巻を巻いた俺は、稀に見るやる気を発し、大声を張り上げる。

「さあ騎士の皆さん、こちらは知る人ぞ知る青果物の名産地、サンメリア地方で収穫された今が旬の高級カボチャですよ! 今ならなんと、何個持って帰ってもタダ! ハイいかがですか〜」

俺が道行く屈強な男達に声をかけながら頑張っていると、隣に突っ立っていた弟子に服の袖をくいっと引っ張られた。

「……ちょ、マスター、声でかいですよ。なんか凄い恥ずかしいんですけど」
「はぁ? 俺だって恥ずかしいわこんなんもん。誰の為にやってると思ってんだ、お前も声出せや」
「ええ…やだ…」
「早くしろよっ。つうか、くそ、皆遠巻きに見てるだけで誰も近寄って来ねえ。なんでだ? こんな美味しそうなのになぁ」

俺達がぶつぶつ話していると、ガシャリ、と重々しい鎧の音が近づいてきた。
仮面をつけ剣を携えた長身の騎士が立ち止まり、俺は興奮気味に顔を上げた。

「あっお客さんですか? よっしゃぁ。何個いります? 待ってください、今袋入れますから」
「……い、いえ。私は騎士団の警護及び門番をしている者なのですが。貴殿は団長の兄上様でいらっしゃいますね? 申し訳ありませんが、領内での売買行為は禁じられておりまして…」
「え、客じゃないのか、残念。あーいや、このカボチャぜんぶ無料なんすよ。全部はけたらすぐ退きますんで。見逃してもらえませんかね?」
「ちょっとマスター、柄悪いですよ、そんな言い方」
「だってこれしか方法ねえだろ、ここの騎士団全部で100人近くいんだぞ。全員に配ったり集めたり無理だろ」

俺が弟子と揉み合っている場面を、門番は静かに見ていた。

「そう、ですか。ではあの、もう少し壁際のほうに寄って頂いてもよろしいですか? この後団長が隊を連れてお戻りになられるので、場所の確保が必要なのです」

えっあいつもうすぐ帰ってくんのか? それはまずい。こんな恥ずかしいとこ見られたくない。

焦った俺は「あーマジすか、じゃあ今すぐ片付けます」と態度を180度変え、せっせと店じまいをしようとした。「えっそんな」と慌てて俺を制止しようとする弟子を振りきったその時。

分厚い鋼鉄の門が重苦しい音を立てて開いた。
奥から黒い馬に乗った何人もの騎士達が、ぞろぞろと領内へ入ってくる。

なぜこんなタイミングで。
固まる俺の前に居た門番は、すぐさま姿勢を正し敬礼する。その視線の先には、同じく馬に跨る鎧姿の団長の姿があった。

一瞬こちらを見て動きを停止したかのように見えた団長は、当然のごとく真っ先に俺達のほうに向かってきた。

それにつられるように、後続する騎士達がわらわらと迫ってくる。どうしよう、怒られるかも…!
鎧の男共の迫力にびびり背筋を凍らせると、頭上から優しい声が降ってきた。

「兄貴、こんな門の前で一体何やってるんだ? なんだこの大量のカボチャは……美味そうだけど」
「えっ……。そう? ごめんごめん、実はこれ全部オズの実家から送られてきたものでさ…」

恥をしのんで事情を説明すると、すぐに馬から降りたクレッドは自らの仮面を脱ぎ去った。
いつも通りの穏やかな表情を見て安心するものの、変なとこ見られちゃったなぁと目を泳がせてごまかした。

「そうだったのか。よし分かった、俺に任せてくれ」
「へ?」

クレッドは即座に背後を振り返り、待機している部下達に対し大声で指示を始めた。

「お前達、これは教会の魔術師オズの実家から送られてきた、地方特産の大変美味いカボチャだ。我々への労いの品として有難く頂こう。ここにいる全員で分配した後、周りの者にも分け与えてくれ」

もっともらしい事を述べてくれた弟の言葉に、門番も加えた屈強な騎士達が「はッ!」と仰々しく返事をして、カボチャのテーブルへと群がった。

俺と弟子は慌てて袋に入れつつ対応し、あっという間に全部を配り終えることが出来た。

ぺこぺこ頭を下げ満面の笑みでクレッドに礼を言うオズが片付けを行っている間、俺もやっと一息ついたのだった。

「ああ、マジ助かったよクレッド。ありがとな。あんなにたくさん、どうしようかと思って絶望してたんだ」
「平気だよ、このぐらい。困ったことがあったらいつでも言ってくれ、兄貴。それに本当に美味しそうだし、奴らも喜ぶはずだ」

にこりと笑うクレッドに、俺も微笑みを返す。ああそっか、最初からこいつを頼ればよかったのか? けど忙しい弟の手を煩わせるのも……。それにしても団長の鶴の一声って凄えなぁ。

一人頭の隅でつらつら考えていると、クレッドが間近でじっと目を見つめてきた。

「兄貴。まだカボチャ残ってる?」
「もちろんあるよ。地下にうち用のが十個ぐらいあるんだわ」
「そっか、良かった」
「なんだ? もしかしてお前も食べたいの?」

何気なく聞くと、弟はなぜか照れたような、ちょっとわくわくしたような顔で頷いた。
ひょっとして。またアレか?

「何がいいんだよ、クレッド」
「何でもいいのか?」
「いいよ。つうかお前どうせリクエストしてくんだろ」
「うん。俺、かぼちゃパイと、かぼちゃプリンがいいな」

あどけない無垢な表情で告げられた注文に愕然とする。……またこいつ、やたら面倒くせえもん頼んできやがった。
でも俺はどうせいつもの答えをしてしまうのだ。弟が可愛いから。

「はぁ。……まいっか。分かったよ、挑戦してやるよ、その二つ」
「ほんとか? ありがとう兄貴!」

鎧姿の弟は、さっきまでの団長の堅苦しさとか全てを取っ払い、俺に喜びいっぱいの顔を見せた。



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