ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 13 兄のわがまま※

深夜を過ぎ静まりかえった騎士団領内を、クレッドに背負われて歩いていた。
弟の足取りは、俺の弟子と使役獣が待つ仮住まいへと向かっている。
けれど俺はまだ、こいつと離れたくなかった。

「クレッド。俺、今日お前のとこ泊まりたい。……駄目?」

弟はぴたりと足を止め、顔を半分こっちに向けた。
驚いた様子だった弟の目元が、すぐに笑みの形を作る。

「駄目なわけないだろ。じゃあ一緒に帰ろう、兄貴」
「うん」

その言葉に安心した俺は、首に回した手にぎゅっと力を入れ、再びクレッドの肩に頭を埋めた。


本部の最上階にある、弟の部屋にたどり着く。
俺はそのまま寝室のベッドへと運ばれた。弟は俺が着ていた黒いスーツに手を伸ばした。
どうやら脱がしてくれるらしい。でもちょっと眉間に皺が寄っている。

「兄貴、今日はオシャレだな。そんなにあいつのとこ行くの、楽しみにしてたのか?」
「……えっ。そうかな。いや、別に……」

鋭い指摘にぎくりとする。
呪術師の家に行くことを、クレッドには言ってなかった。
まあ、すでにバレてしまったのだが。

「この服変かな? オズが着てけってうるさいから……」
「変じゃない。似合ってるよ、格好いい」

弟はにこりと笑ってそう告げた。
かっこいい? そんな事を言われたのは初めてで、一気に酔いが覚めた気がした。
本当に格好いい人間に言われるのは、なんとなく照れるものだ。

ぼうっとしていると、いつの間にか下着姿になったところで、弟が俺の寝間着を手に取った。
俺はとっさに弟の腕を強く掴んだ。

「寝間着、いらない。……お前も脱いで」

こんな大胆なこと、酒が入ってるから言えるんだ。そう自分に言い聞かせつつ、俺は半ば開き直っていた。
別にどうこうしようという下心まではいかないが、弟の肌が恋しかったのだ。

「兄貴……?」

クレッドは頬を赤らめて、俺の顔を覗き込んできた。
自分で言ったくせに、湧き上がる恥ずかしさを隠すため、すかさず奴の胸に抱きつく。
するとやんわり引き剥がされた。

なんで? こいつ、俺を拒否するのか?

若干恨みがましく見ていると、弟は無言で服を脱ぎ始めた。
素早く下着一枚になり、ベッドに入ってくる。
横たわり、俺を腕の中に抱き寄せた。

「ああ、お前あったかい……」
「兄貴のほうが温かいよ。やっぱ飲みすぎだ」

ちくりと言われ、俺は口を閉ざして奴の胸に顔を埋めた。
気を紛らわせようとするが、心地よい熱に触れていると、自然と体がもぞもぞ動いてしまう。

「……なあ、キスして」

頭を上げて弟の目をじっと見る。少し困ったような表情で見返される。
やがてゆっくりと顔が近づいてきて、柔らかい唇に触れられた。
でもそれだけだった。

「……?」

俺が疑問の目を向けると、クレッドは俺の頭を撫でながら、微かな息を吐いた。

「兄貴、もう寝て。休まないと駄目だ」
「……そうだな。お前明日早いし」
「俺は全然大丈夫だ。兄貴のことを言ってるんだろ」

厳しめにたしなめられるが、諦めきれない俺はもう一度顔を迫らせた。
期待をこめて見つめていたら、また弟にちゅっとキスをされた。

そのまま腕にしっかりと包みこんできた弟が、静かに目を閉じる。

「おやすみ。兄貴」
「クレッド、もう一回は?」
「……なんで今日はそんなワガママなんだ?」

はあ、と今度は聞こえるように深い溜息が吐かれた。
困らせていることは分かっている。でももうちょっとぐらい、いちゃいちゃしたって良くないか?

沸々とこみ上げる思いを脇に置いて、俺は諦めて白状することにした。

「だって、今日……あいつらといた時、なんかお前に会いたくなって……寂しくなったっていうか……」

支離滅裂に聞こえるだろうが、正直な気持ちを告げた。

「またそういう、かわいい事言って……俺だって我慢してるんだ。もう寝るぞ、兄貴」
「なんで我慢するんだよ。やっぱ眠いのか?」
「違う。兄貴酔ってるだろ。いいから寝ろよ」

言葉尻が苛つきだしている。怒ったのか。
再びさっさと目を閉じている弟をじっと見る。
確かに俺はわがままだが……もういい。このバカ野郎。

「おやすみっ」

俺は弟に背を向けて横になった。
クレッドは後ろから包み込むように腕を回してきた。

「おやすみ、兄貴」

肩にそっと口づけを落とされ、子供に言うように優しく告げられる。

なんだよ。もうちょっと触れ合いたかったのに。
子供じみた態度のまま、自分も寝ようと努めた。
でもあんまり眠くない。目が冴えている。

しばらくじっとしていると、腰のあたりに違和感を感じた。
あれ? なんか硬いものが……

「クレッド?」
「……なに? まだ寝てないの?」
「お前の、勃ってる」

何気なく呟いた言葉に弟はガバッっと体を起こし、真っ赤な顔で俺を見下ろしてきた。

「兄貴……そういう事は気づかないフリしろよッ」
「え、だって気づくだろ、男同士なんだから」
「うるさいぞ! もう寝ろって!」
「何怒ってるんだよ。なあ、こっち来て」

俺は両手を伸ばして、ベッドに座っている弟を招こうとした。
すると弟は脱力したように、俺の体の上にドサっとのしかかってきた。

「ぐぅッ」
「……もうイヤだ……兄貴」
「は? なんだよお前、お兄ちゃんに向かって嫌はないだろ」

重いのを我慢して肌の気持ちよさを確かめながら、大きな背中を撫でる。
するとクレッドがむくっと体を起こした。
深い蒼色の瞳が、珍しく揺らめいている。

「嫌じゃないよ。……すごく好きだ」

何故だか諦めたような声音で、愛おしげに頬を指でなぞってくる。
その言葉を聞いて、さっきまで胸を占めていた寂しさが、瞬時に消え去る感じがした。
ふわりと幸せな思いが広がっていく。

「ほんと? 俺も好き……」

胸をときめかせながら口にすると、もっと心が温まってきた。
抱き合い、口付けを交わす。
最初のとは違い、ゆっくりと弟の舌が挿し入れられ、体がじんじんと疼き出す。

「んぅ……む……」

息をつくのも惜しむように、優しく深いキスをし合った。
上にのしかかっている弟の熱が気になり、もっと体を密着させようとする。
すると弟はまた体を起こし、俺の隣に横たわった。

なんでだよ。このままの体勢でいいのに。

「クレッド、お前の……したい」

本当は自分のもすでに昂ぶっていたため、二人で体を重ねて気持ちよくなりたかった。
けれどクレッドはぎゅっと口を結んだ。

「……駄目だ。俺がする」
「へ?」

ぽつりと呟いたかと思うと、弟は突然俺の首筋に吸い付いてきた。
手のひらで胸や腰を撫でながら、口は上半身に触れさせ、首や鎖骨付近を愛撫していく。

「んあぁぁ……」

弟の舌先に翻弄されながら、びくびくっと何度も肌を震わせる。
なんで俺が一方的にされてるんだ?
焦りながらも、気持ちが良すぎて抵抗する気がおきない。

でもクレッドの口が俺の太ももまで及び、そのまま上体を起こし両膝をぐいっと割られた瞬間、抗議をせずにはいられなくなった。

「なに、してっ、やめろよッ」
「どうして? 口でしちゃダメ?」

さっきは怒ったり焦ったり忙しかった弟が、今は楽しそうに微笑みを向けている。
くそ。こうなったら、どうせされるがままになってしまう。

「んあっ、あぁぁっ……や、やぁ……」

口に咥えられて腰をガクガク震わせる。
まだ酔いが残ってるせいで頭がほわんとしてくる。
舌のぬるりとした感触が、いつもより直に響いてくる。

「……んっく、あぁっ、まって、クレッド……っ」

頭に手を置いて腰を揺らす。弟の口の動きは止まらず、俺を執拗に追い上げていく。
駄目だ、すぐにでも達してしまいそうだった。

クレッドにされているということが、恥ずかしいのに愛しさがこみ上げてきて、快感と混じり合ってわけが分からなくなる。

「ん、んぁぁっ、だめ、あぁ、いく、もう、あぁぁっ!」

弟の口の中で果ててしまった俺は、ぼすっとシーツに頭を埋めた。
はぁはぁ息をつき、おさまらない心臓の音を静かに聞いている。

クレッドは起き上がり、優しい顔で俺を見下ろしてきた。
なんとも言えず愛しい気持ちになり、俺は弟の頬に手を添えた。

「……俺もお前の、する……」
 
息も絶え絶えに告げると、弟は首を横にふった。
体を近くに寄せて、頭を撫でてくる。

「駄目だ。いいから目閉じて」

有無を言わさない言葉に、反抗心が募り出す。
またそれか。なぜこいつはこうも頑ななんだ?

俺は半分ムキになり、手を弟の腰に添えた。
目をじっと見つめながら体を触り始める。

「じゃあ手でしていい?」
「ちょっ……兄貴ッ」

下着の上から膨らみを撫でていく。
だって俺だけ気持ちよくされて終わりなんて、おかしい。

クレッドは早く寝たいのかもしれない。
でも今日の俺は、最高にわがままだった。

「……んッ……」

弟が堪えるように喘ぎを漏らす。
布を隔てて触れていることがもどかしくなり、下着をずらして弟のモノを直に手で包んだ。

優しく握って扱き始める。手の中の温かいものが愛しくなり、弟の反応を見ながら丁寧に指で擦らせた。

「う、ぁ……あに、き」

吐息を漏らしながら目を伏せている。俺の愛撫を間近で感じている様子に、どきどきする。

「手でするの、良い?」
「……うん、気持ちいい」

二人で横になり向かい合っていたが、こすり続けていると、弟がもっと体を寄せてきた。
だんだん呼吸が荒くなり、ぐっと抱きしめられる。
首筋に色っぽい息がかかり、弟が急速に上り詰めていくのが分かる。

「あ、あぁ、……もう、イキそう、だ」

つらそうに告げて、更にぎゅっとしがみつかれた。
心臓がドクドクと伝わってきて、弟の愛らしい仕草にも強く惹かれる。

「可愛い、クレッド……いいよ、いって……」

俺が呟くと、びくりと弟の体が震えた。
優しく声をかけながら、丁寧に愛撫を続ける。
時折先の濡れた部分を指で擦り、反応をみる。

俺がしていることは、全部こいつにされて気持ちよかった事だ。
俺も弟に同じくらい感じてほしい。そう思っていた。

「……ん、ぁッ、だめだ、兄貴、く、ぁ……出るッ」

突然グッと抱きつかれ、弟が腰を何度か揺らした。
弟の上半身につけていた俺のもう一方の腕に、生温かい液体がかかる。
とろっとしたものにたくさん濡れたが、クレッドが達したことが嬉しくなった。

「っは、ぁ……」

弟は珍しく力が抜けたように、頭をうなだれた。
やがて、とろんとした表情で俺を見つめてくる。

こういう時、なんて言えばいいのかあまりよく分からない。
なぜかクレッドもいつもの余裕の表情ではなく、ちょっと恥ずかしそうにしていた。

「お前、可愛い」

結局また、思ったままの事を言ってしまった。すると弟は無言で顔を赤くした。

俺はクレッドの髪を優しく撫でて体を起こし、サイドテーブルからティッシュを取り出した。
べたべたのままの腕を、綺麗に拭い取る。

こういう事態はあんまり無いため、新鮮な気分になる。
けれど何故か異様に、心の中が満たされている感じがした。

喜びを抱えながら、再び布団の中に入る。
クレッドはまだ力が抜けたように、ぼうっと俺のことを見ていた。

「大丈夫か? クレッド」

心配する俺の問いに、小さく頭を頷ける。
なんで何も喋らないんだろう。

「ほんとは、やっぱ嫌だった? ごめん俺、わがままで。だってお前のことも……したかったんだ」

正直に告げると、弟は目を丸くして体を半分起こした。

「何言ってるんだ。違うよ、兄貴。ちょっと……恥ずかしいだけで」
「そうなのか? お前、可愛いかったよ」
「……だからそういう事言われるのが恥ずかしいんだけど」

え?
こいつ、以前はあんなに可愛いって言われて喜んでたのに。
気が変わったのか。段々不安になってきた。

動揺から目を泳がせていると、弟は打って変わって、俺ににこりと笑いかけてきた。

「……兄貴の方がかわいいよ。かわいすぎて俺の余裕がなくなる」

突然の弟の言葉に、びたっと思考が止まる。
今度は俺のほうが情けないことに、完全に狼狽えていた。

「そ、そういう恥ずかしいこと、言うなよっ」

自分の発言は棚に上げてツッコむと、クレッドはふっと余裕ぶった笑いをこぼした。

「なんで? 言ってもいいだろ。兄貴かわいい」
「いやもういいから、早く寝よう、ほら」
「さっきまで寝たくなかっただろ、兄貴。俺もう全然眠くないぞ」

意地悪そうな笑みを浮かべ、弟がこっちに迫ってくる。
この野郎……なんなんだ。意味がわからない。

パニクった俺は、また弟に背を向けて布団をかぶった。
すると中にもぞもぞと入ってきた弟に、再びしっかりと抱きしめられた。



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