▼ 閑話2 燃え上がる二人 ※
部屋に戻ってシャワーを浴びた後、俺たちはレースに包まれたベッドの中で、激しく絡み合っていた。
明るい時間から、こんなことをしてーー。
そう思いつつ、とくに性急なクレッドの勢いが凄まじい。
「はぁ、はぁ、兄貴……ッ」
「ま、待って……もっとゆっくり…!」
正常位で抱き締められ、弟が腰を打ち付ける度にギシギシ全体が揺れる。
はしたない喘ぎを止められず、めくるめく快感を享受していると、予期せぬことが起きた。
「あ…ッ、……くそ、……あ、兄貴……やばい…っ」
珍しく焦るような弟の声に気をとられ、俺は視線を合わせようした。すると、よりいっそう力強く、クレッドが俺の上半身を抱き寄せた。
「……ああっ、出る、イク……!」
色づいて掠れた声が耳の奥に届く。その瞬間、突然奥に注ぎ込まれた大量の液体を感じた。
そう、弟が射精したのだ。
「んあぁんっ」
出した直後から始まる体内への責めに、腰がびくびく跳ねる。
一方、弟はなぜか黙ったまま、息を切らすだけで顔を伏せていた。
「あ、あ、……クレッド…?」
俺の肩に汗ばんだ額を乗せ、微動だにしない弟が心配になる。
しばらく背中をさすっていると、ぎゅっと手に力が込められた。
「……ご、ごめん。先にいっちゃった、兄貴……」
ためらいがちに告げてきて、そんな弟の恥ずかしそうな様子に、俺は一瞬で胸がほんわり温かくなってくる。
「いいよ。……可愛いお前」
愛しいあまり口からぽろっと出た。
あっ、やべぇ。男として言うべきでないタイミングで言ってしまったかも。弟がまだ顔を上げてくれない。
「……兄貴、にやついてるだろ」
「い、いやそんなことねえよ」
焦りながら取り繕った。けれどやっぱり好きな奴が達するのは、嬉しいものなのだ。
「なぁこっち見て」
弟の顔が恋しくなり、金髪をときながら話しかける。
気まずそうに言うことを聞いてくれたクレッドは、耳まで真っ赤にして、眉を寄せていた。
「ごめん。すぐ回復するから、待ってて兄貴」
「ゆっくりしろよ、大丈夫だから。お前の、今もすげー気持ちいいし」
頭を撫でて率直に伝えた。
いつもは自分ばかり余裕がなくなるから、たまにはこういうのも良いんじゃないか?とか余裕ぶって構えていたのだが…。
なんか急にムクムクと大きくなり、びくん、と動いた。
「……ぁあっ! はえーよ、何してんだっ」
「だからすぐだって言っただろ。……ていうか、兄貴がそういう事、言うから…」
すでに目つきを鋭くして、雄々しい表情をした弟に怯える。
だが何故か、入っていたものがずるりと抜かれた。かと思ったら、いきなり体を反転させられる。
「んあぁっ!」
まずい。また奴を本気にさせたか?
そのままバックで犯されるのかとビクビクしていると、抱き上げられた。
シーツに腰を下ろす弟に、背を預けて座らせられるが、まだ挿入はしていない。
あれ…もう、しないのかな。
不思議に思いながら身をよじろうとすると、後ろにいる弟にがっちりと腰を持たれ、阻まれてしまった。
ふと気がついた。投げ出した俺の太ももの間に、弟のがあるんだが。この光景、卑猥すぎて戸惑いが隠せない。
「なんだよこの格好。へ、変なことすんなよ」
牽制するつもりで文句を言うと、後ろからくすりと笑う声が聞こえた。
「変なこと? 本当は繋がってる方がやらしいんだよ…?」
また思わせぶりに、おかしな理屈を述べている。
目線を落とした先にある、弟の勃起したモノを見てしまった。
太く長さのある性器の血管が浮き出て、男らしい。
さっきまで自分の中に入っていて、気持ちいいものだということを知っているから、余計にむらっとした気分になる。
弟の意図がまだ分からない俺は、おずおずと手でしごくことにした。太ももを少し開いて、両手で触れていく。
「あ、あ……っ、兄貴の手、気持ちいい」
細かく脈打つのを感じながら、自分の心臓もうるさく音を立て始める。
「……でも待って、また先にいったら、俺かっこ悪い…」
浅く息づく弟にやんわりと止められ、反対に奴の手が俺の足を撫でてきた。
両足を徐々に開かされる。内股を長い指にたどられて、付け根をさすられて。今度は自分の勃ったものに触れられた。
上下に優しく擦られてるうちに、弟のもう片方の手が尻の部分に伸びてくる。
「や、……ん、ぁ」
「動いちゃだめだよ、兄貴。もっと足広げて……見えるように」
後ろに弟を感じながら、足を折り曲げて開き、両手で愛撫を受けている。濡れたそこをぐるぐると指の腹で撫でられ、声が漏れてしまう。
「ほら、さっき出したやつで、いっぱいだ。中擦ったら、もっと良くなるかな…?」
ゆっくり差し入れられた指が増やされていく。
焦らすようなやり方に耐えかね、俺は必死に弟の腕に掴まった。
「んあ、あぁ、だめだ、クレッド」
「うん? ……だんだん欲しくなってきた?」
恥ずかしいのを堪えて頷く。
「じゃあ、俺にキスしてくれる?」
言うことを聞いて、顔を寄せた。そっと重ねて離すと、頬をほんのり染めた弟と目が合った。
「もっとしよ、兄貴……口あけて」
今度は弟が顔を迫らせ、舌を重ねてきた。
やらしく絡めとられ、びりびりと舌先がしびれていく。
キスに夢中になっているうちに、中を探っていた指がそろりと引き抜かれ、代わりに硬くなったものが宛がわれる。
「んん……!」
「……入れるよ兄貴、……ほら……中、ああ、良い」
はあ、と色づいた吐息を聞かせ、奥まで徐々に弟が挿入してくる。
じわりと満たされると、今度は緩い動作で揺らし始めた。
「あっあっ、はぁっ、んあっ」
内壁を擦るように動き、だんだん速度を速めてくる。出されたもののせいで、ぴちゃぴちゃと水音が部屋に響く。
考えないようにしていても、弟の精液が入ってると、もっと気持ちいい。ぐちゅぐちゅ中をかき回され、声が止まらなくなってしまう。
「あぁっ、だめ、クレッド、いっちゃうっ」
訴えると、腰を強く抱かれた。耳元で響く息づかいすら感じてしまう。
「気持ちいいの? もうイク?」
「うんっ、良いっ、もうだめえ……!」
下からの突き上げも激しくなり、がくがく腰を揺らす。顔を後ろに向け、キスを交わし、強く唇を吸われる。
濡れて腹にくっついた性器が弟の手に包まれ、上下に動かされていく。
もう限界だ。
全てが一気に気持ちよくなって、体を包み込んでくれるクレッドのことしか、考えられなくなる。
「んあっ、いく、出る、……クレッドっ」
「ああ、俺も、イキそうだ、……一緒にいこ、兄貴…!」
後ろからぎゅうっと強く抱き締められた瞬間、それはやってきた。
奥を何度も突かれ、中が切ないくらいに締めあげる。びくん、びくんと腰が波打ち、背を大きく反らす。
「…あっ、ああぁ……んッ」
絶頂とともに、胸の辺りまで白濁色が飛び散った。
下にいる弟が最後の瞬間まで腰を入れ、全身がびくつく。
再び奥で受け止めたものに、心まで満たされていくようだった。
「はぁ、はぁ、っあぁ、……兄貴、……」
力強く抱かれたまま、俺はただ弟の胸にぐったりと体を預けた。快感は深まるばかりだが、もう力を使い果たしたみたいだ。
ぼんやり視点をさまよわせながら、余韻にひたっていた。
「クレッド……」
「……ん…? 大丈夫、兄貴」
優しい声で問いかける弟も、まだ心臓がドクドク鳴っている。
俺を抱え直して、指の背でほっぺたを撫でてくる。
そんな仕草が、再びじわりと幸福を感じさせる。
「お前、やばい……マジで…」
ぽつりと漏らすと、一瞬黙った弟が、急に俺の顔を覗きこんできた。
「……え? なんで? 俺やばかった…?」
か細くなった声音に驚いた俺は、視線を合わせたまま首を横に振る。
「ちげえよ、気持ちよすぎて…って意味だろ。普通に」
正すと途端にクレッドが目を丸くした。
「そ、そっか。良かった……」
「おい。なんでそんなに慌ててんだよ」
変な奴だなと思いながら聞いてみる。
弟は顔を赤らめさせた。
「だって……また我慢出来なかったから。もっと、もたせようと思ってたのに」
恥ずかしそうに明かされ、俺は若干面食らってしまった。
さっきのことを、こいつはまだ気にしているらしい。
やっぱり、今日の弟はやたらと可愛い。
「そんなこと気にすんなよ、つーか十分過ぎるだろ。俺なんかお前に触られただけですぐイキそうになるぞ」
けっして自慢にならないことを笑って話す。今だって入ったままで会話してるが、実は必死に耐えているのだ。
「兄貴はすぐイッちゃっていいよ、すっごくかわいくて、大好きだよ俺」
うっとりした笑顔で告げ、唇にちゅっとキスをされるが、おい馬鹿にしてんのかお前。
「じゃあお前だっていいよ、俺が何度でもイカせてやるから。ほらほら」
ヤケになった俺は、ふざけて腰を揺らしてみせた。
だがすぐに後悔する。こういう冗談は、弟の上でやっちゃいけないのだ。
「あ……っ、兄貴、ちょっと……やめ……!」
また覚えのある質量が体内を満たしていく。
すっと冷静になった俺はすぐに動きを止め、ふるふると奴に振り返った。
「おま、早すぎだろ! 少しは休めよ、ゆっくりしろよ!」
「だから誰のせいなんだよ、兄貴がかわいすぎるから悪いんだろ!」
クレッドが真っ赤になって逆切れしてくる。
少し前まで熱々だったのに、ちょっとした兄弟喧嘩になってしまった。
それからしばらく、俺たちのいつもの押し問答が始まったのだった。
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