愛すべきもの | ナノ


▼ 29 通じ合うまで

クローデとやっと一緒に眠れる日が来たというのに、興奮していた僕はベッドの上で中々寝つけなかった。
それでも旅の疲れがあってか、目覚まし時計が鳴る一時間ほど前には眠りに落ちたらしい。

しかし時計は鳴らず、横になった僕は長い尻尾をふわふわ撫でられる優しい手つきで目覚めた。
だが、同時にとんでもない事をしでかしてしまう。

「……すぅー……ん、う……ジオ、先に起きてていいよ……」

何気なく呟いた台詞により、心地いい大きな手がぴたりと止まった。
まぶたをゆっくり開けると、クローデが気まずそうな顔で見下ろしている。僕は青ざめて飛び起き、口をぱくぱくさせた。

「あっ、……違うんだ今のは、僕寝ぼけちゃって…!」
「……ん? ああ、だよな。すまん……起こして」

元気のなさそうな様子で微笑み、彼は僕の頭を撫でてベッドから起き上がる。
血の気が引いたままの僕はそんなクローデの背中を呆然と目で追った。

どうしよう。彼とジオを間違えるとは。
絶対に怒ったよね。それに悲しそうな顔だった。
僕はなんて馬鹿なんだ。

後悔に苛まれながらもその後二人で朝食を取った。
クローデは普段通りに話しかけてくれて、僕も失敗を取り返そうと率先して後片付けなどをした。

彼はこれから仕事だ。僕はとくに予定はないが、身だしなみを整える長身の男を興味深く見ていた。

「オルヴィ。昨日はよく寝れたか?」
「えっと、うん。大丈夫だよ」

心配させまいと嘘をついてしまった僕に、クローデは「そうか?」と聞いて顔を寄せる。
以前と違う広い木造住居の玄関で、僕は彼に見送りの前のハグをされる。
フェロモンたっぷりの匂いを吸い込んで至福のひとときだ。

「…あれ? 今日はハンターの革服着てないんだね」
「ああ、そうなんだ。ちょっとセンターに用があってな」
「ふうん。珍しいなぁ。私服のクローデも素敵だけど」

すっきり短めの黒髪に浅黒い肌は野性的だが、体格のいい彼はシャツにジャケットというお洒落な服装ももちろん似合う。
まとわりついて褒めるとクローデは照れた様子だった。

「ーーそうだ。昨日も話したが、自由に家は出入りしていいからな。お前の好きなように過ごしてくれよ、オルヴィ」

彼は一段と気を使った様子で優しく告げてくれる。僕も「うんっ」と元気よく返事をした。
というのも、なんとクローデは獣のカエサゴになった僕のために、小さめの扉も用意してくれたのだ。

ちょっと犬とか猫みたいだけれど、人型になって鍵も開けなくていいし、とてもありがたい。

それにここら一帯の森は、僕が前いた所より範囲は狭いが、私有地なのだという。持ち主はこの家を売ってくれた人で、厳重な設備により密猟者達が侵入する心配もないようだ。

クローデは少し大きな庭ほどのサイズだと言っていたが、僕は探索するのが楽しみだった。
もちろん油断は怠っていない。本当は前にいた森に行き、あの日も大変な経験を共にしたノルテとドニの兄弟に挨拶もしたかったが、それはまた今度クローデと二人のときにしようと決めた。


こうして朝、彼を送り出してから僕はしばらく人型のまま家の片付けをしようとした。
だがこの家、やっぱりかなり大きい。それにまだ、クローデの匂いがそこまでついていない。

一人だからかなんとなく落ち着かなくて、段ボール箱の片付けも少ししか集中出来なかった。

「はぁー。外に行ってみようかなぁ」

僕はカエサゴの成体になって、家を飛び出した。
春の陽気で天気もよく、風に揺れる木々のささやきが気持ちいい。
自然の中にいると解放感もあった。

私有地というのは本当で長く歩いた端と端に頑丈なフェンスや看板もある。センター長の話では、ここだけでなく森全体の保護対策強化を行っているらしい。

走り回れる範囲は狭まったが、成熟したジオのように長距離が大得意な雄というわけでもない僕には十分な、素晴らしい拠点だと思った。

日中もクローデが一緒にいたら、もっと最高だけど。
そんな贅沢な願望は胸にしまい、その後も森を満喫した。

狩りもしようかなと思ったが、夕食はクローデと食べたいし、乱獲するつもりもない。
カエサゴとして週二日ぐらい出来れば上出来だろうと考えた。

だが外にいるのが楽しくて、僕は基本的に獣としてなら何時間でも一人でさまよえるようだった。
気づくと日が暮れていて、お腹がすいた僕は家に戻った。

五時ぐらいだろうか。
僕らの家、二階建てのログハウスの明かりが灯っていた。
驚いた僕が走りよると、玄関前の短い階段にクローデが座っていた。膝の上に腕をのせ、遠くを見つめている。
僕が「クローデ!」と叫ぶと彼は気づいてすぐに立ち上がった。

朝と同じ格好で、胸に飛び込んだ僕のことをしゃがんで抱き止める。

「オルヴィ、おかえり。今帰ったのか?」
「うん! ごめんね、遅くなっちゃった? クローデもすごく早かったね」

僕は嬉しくてすぐに人型になって抱きつく。彼は焦った風に上着を脱いで僕の体をくるんだ。

「そうだな、最近早いんだ。ああ、夜はまだ涼しいな。中に入るか」

促されて僕らは室内に戻った。それから夕食を取り、団欒の時間を過ごす。
寮のアパートにいた時よりも、ゆったりくつろぐことが出来ている気がして心が安らいだ。

ただひとつ気になったのは、夜のことだ。
僕達はまた同じベッドの中で密着して眠ったのだが、交尾はしなかった。
僕は表には出さないけど、しょんぼりする。クローデは平気なのかな。二人は好き合う番なはずなのに。

キスや抱擁は小まめにしていたから、余計に彼の考えがよく分からなかった。

その夜もあまり深くは眠れず、深夜を過ぎたころにふと目を覚ます。
ベッドを抜け出して、僕は寝ぼけたまま外へと通じる小さな扉に向かった。そのまま出て、いつの間にか獣の姿になって草木の茂みで用を足した。

全て無意識の出来事だ。何事もなかったかのように寝室に帰る。
そしてあくびをして、ベッドの下の木の床板に寝そべった。

朝起きると、カエサゴ姿の僕の上に、薄い毛布がかかっていた。
僕はまた飛び起きる。クローデは隣にあぐらをかいて座っていた。

「あ、起きたか。オルヴィ。お前こんなところで寝てたら風邪ひかないか」
「……えっ。あ、……ごめんクローデ、僕…っ」

また良からぬことを連続でしてしまったと、僕はもう顔面蒼白になる。
しかしクローデは穏やかな顔つきで、僕の茶色の毛並みを撫でてくれていた。

「謝るなって。いいんだよ、どこで寝たって、どっちの姿になったとしても。お前の自由なんだからな? 無理したり、変な気つかったりするなよな」

安心させるように、彼は優しい声音で笑みを向けてくれる。
けれど僕は自身のマナーの無さと無神経さに、絶望していた。
こんなの自分が望むことじゃない。勝手に体が動いてしまったのだ。
まるで自然の中の生活が忘れられず、それを僕に思い出させようとするかのように。

僕は、何も人間になりたい訳じゃないけれど、クローデの生活にできるだけ合わせたい。
一方で彼は以前よりもさらに僕に自由を促した。


彼が仕事に向かったあと、ひとり落ち込んだ。
なんだか思っていたのと違って、僕には寂しい感情が湧き出ていた。
まだ慣れない、広い家に一人でいるからじゃない。少しだけ彼と距離ができてしまった気がするからだ。全部自分のせいだけど。

塞ぎこみそうになった気持ちを発散させようと、外に出て森に向かう。狩りもしてみたし、食事も取った。
夕方になる前に帰宅し、人化してクローデを待っていると、その日も彼は早く帰ってきた。

また革服に着替えていないし、小綺麗な私服姿だ。
そんな日が数日続き、僕は疑問に思うようになる。
考えてみたら、クローデから前みたいに血や汗の匂いがしない。ずっと事務仕事でもしてるかのような雰囲気だ。

どうしてだろう?
彼はハンターのはずだけど。……もしかして、まだ怪我が治ってない?
いや、そんなことはない。まだ裸は確認できていないが、元気そうに見える。

僕は悩みに悩んで、ある日仕事へ向かった彼に内緒でついていくことにした。車を発進し、姿が見えなくなった瞬間に獣化して、私有地を抜け出しセンターへと向かう。

全速力で駆ければ保護局へは十数分で、わりと早く着いた。
クローデの匂いを慎重にたどり、建物の中の様子を窓の陰から伺う。

彼はある部屋に他の数人の人々といた。皆ばらばらに座り、ボードの前で喋るおじいさんの話を聞いてメモを取っている。

なんだろうこれ。テレビで見たことある、学校の授業みたいだ。
真面目な顔でお勉強をするクローデを興味津々で覗き見る。
彼は全然僕に気づかなかったが、僕はやっぱりこの雄は格好いいなぁと、ぽーっと見つめて影ながら応援していた。

ハンターに関わる授業を最近受けてるのかと思った僕は、しばらくして邪魔をしたら悪いと思い踵を返した。もう帰ろうと考えつつ、冒険が楽しくて周囲を散策する。
すると保護局の外にある渡り廊下から、知っている匂いが漂った。
ピンときて尻尾を振り、僕はその人達の近くに向かった。

「……ミハイル! ベック!」

前足と後ろ足で駆けていくと、金髪を結わえたすらっとした青年と、金髪坊主頭の大柄な男が振り向く。
ミハイルはすぐに瞳を潤ませ、しゃがみこんで僕を迎えいれてくれた。

「オルヴィ! ああ、よかった……本当に帰ってきたんだね…! 会いたかったよ、心配したよ」

ぎゅっとカエサゴ同士のハグをして、僕も涙目で頷いた。

「うん、ごめんね僕、突然いなくなっちゃって。でももう大丈夫。ずっとこの森で暮らせることになったんだ。クローデと一緒に」

腕の中で伝えると彼もうんうんと喜んでくれた。
クローデとセンター長から僕のことはすでに聞いていたらしいし、また休みの日に皆で会おうという話はしていた。
彼は僕の修行のことや体もかなり大きくなったことに驚き、嬉しがってくれていた。

「ったくよお、心配させやがって。お前がいない間こいつらのどす暗い空気を明るくするのに、どんだけ俺が苦労したと思ってんだ、チビ」
「うっ。ごめんなさい、ベック。あとありがとう…! 色々お世話になったのに。……クローデも、大変だったよね…?」

彼には中々面と向かって聞けなかったことを、問いかけてみた。
するとベックはしかめっ面で腕を組み、大袈裟に頷いて見せる。

「おうよ。仕事に復帰してからは毎週のように別の管轄区まで行ってお前を探し回ってたぜ。あのおっさんが相手なら見つかるとこにはいねえだろって、俺達も言ったんだけどなぁ。あの野郎聞かねえし」
「……えっ……」

初めて明かされる話に僕は愕然とする。
クローデがそんなことをしていたなんてーー。僕を見つけるために。

「そうだな。でも気持ちは分かるよ。それだけオルヴィが大事なんだからさ。番を求める雄ならそれぐらいするよ」

ミハイルはさらりとそう言ったが、隣のベックは目をぎょっとさせていた。

「僕、何も知らないで……やっぱり馬鹿だね。優しいクローデならそんな風にしてくれるって、想像できたのに」

この半年間、自分が強くなって帰ることに精一杯で、どんな思いで彼が待ってくれていたか思いが足りなかった。
不甲斐なくてうつむいていると、ベックに毛並みをくしゃくしゃと触られる。

「落ち込むんじゃねえって。終わりよければ全てよしだ。これから仲良くやってきゃいいだろが。チビ」
「……うぅ。……ありがとう、ベック。そうだよね。……でも僕、もうチビじゃないでしょう? 少しは大きくなったよね」

彼の励ましに元気を出そうと思った僕は、くるくる回って、この強い雄に成長を見てもらった。
彼は不敵に笑っていたが、地面にしゃがみ「まあまあな。お前も頑張ったじゃねえか」と認めてくれた。

とにかく、今日ここに来てよかった。知らなかったことも教えてもらえたし、久しぶりに大切な友達にも会えた。
しばらく皆で話をしていたが、僕は帰り際クローデのことを再び尋ねる。

この二人のハンターは、今日はたまたま保護局に用があって来ていたらしいが。

「あのね。そういえば、彼は最近違う仕事してるのかなって思って、ここまでついてきちゃったんだよ。でも、クローデってまだハンターなんだよね?」

問いに対して彼らは顔を見合わせ、やや言いづらそうな顔をする。

「あっ、そうか。まだ教えてないって言ってたよな」
「なにを?」
「いや。えっと……そうそう、特別な授業があるみたいでね。クローデも頑張ってるよ」
「おう。奴はまだハンターだから安心しな。つうかそれしか出来ねえだろあいつ」

がははと大きな声で笑うベックと隣で微笑むミハイルの話に、僕も安心する。

「そっかぁ。教えてもらえてよかったよ。ーーじゃあ僕はそろそろ行かないと。二人ともまたね! ここで会ったことは内緒だよっ」
「えっ。オルヴィ、気を付けてね! まっすぐ帰るんだよ!」
「うん! ありがとう!」

二人にお礼を言って早いとこ帰宅することにした。
ひとつ疑問が解けて体も軽くなった気分だった。



そしてその日の夜。帰ってきたクローデのために、僕はかなり久しぶりに料理をしてみた。
焦げた卵焼きと生のキャベツサラダ、暖かくしたパンというめちゃくちゃくな夕食だったが、彼はたいそう驚き、喜んで食べてくれた。

でもまた、僕が慣れないことをしていると思って、気遣ってくれているようだった。

「美味かった。ありがとうな、オルヴィ。でもくれぐれも無理はーー」
「もう。僕別に無理してないってば。したくてしてるんだよ。……だって、クローデにも喜んでほしいんだもん」

夕食時。甘えるように隣に座り、上目使いで見つめた。
彼は少し照れた様子だったが、にこりと微笑んで抱き寄せてくれる。
クローデの匂い。やっぱりこれが近くにあると安心する。

そのまま腕の中に掴まっていると、彼は口を開いた。

「あのな。お前に言ってなかったことがある。……今日、センターに来たんだろ?」

僕はすぐに頭をあげ、目を瞬かせた。
あの二人、内緒だよって言ったのに…!

まずいと思いつつ認めるが、クローデは怒る様子もない。
それどころか衝撃の事実を告げられた。

「実は俺は、今いつものハンターの仕事をストップしてて、講習を受けてるんだ。追跡隊の、な」

鼻をかいて、僕のことをちらっと見やった。僕は大きな声を出して驚いたが、すぐに嬉しさが胸の中に広がり、興奮した。

「本当に!? すごいよクローデ! 追跡隊って、僕もなりたかったやつだよね? じゃあ、いいの? 僕達が将来、それを目指すの!」

わくわくして彼に問いかけると、僕の勢いに驚きを見せた彼も、ゆっくりと頷いた。

「ああ。このことも、お前の意思を聞く前に俺が勝手に始めたから、本当にいいのかどうか、最近も考えてはいたんだ。……楽な仕事ではないし、危険だって付き物だからな。……でもお前は、本当にそうしたいか? もしそうなら……俺も一緒に、お前とともに働きたいと思っている」

彼が真摯に気持ちを伝えてくれた。僕は感動で体を震わせる。
離れていた間に、こんなことまで考えてくれていたクローデに。

「うん……! 僕もだよ。ここに帰ってきてからも思ってたんだ。いつもクローデと一緒にいて、どんなことも分かち合いたいなって。仕事の大変さはまだまだ分からないかもしれないけど、僕もカエサゴの雄だよ。絶対に頑張る! クローデと助け合うんだ!」

はっきりと主張し、立ち上がって胸を張る。
僕は彼となら、どんな困難だって乗り越えられる気がした。
クローデは目元をだんだんと柔らかくする。安堵したような、気の抜けたような表情だ。

「そうか。分かった。……俺もお前と助け合いたい。そうやって生きていきたいよ」

彼も立ち上がり、大きな体ですっぽり僕の体を包み込む。
それは二人の目標が新たに見つかった、最高の瞬間だった。僕は仕事のパートナーとしても彼と一緒に過ごせるんだ。

広がる未来に興奮していると、クローデが僕の手を繋ぎ、居間のソファへと連れていった。
僕は彼の隣に腰を下ろして、ぴたりと腕に寄り添う。
話がまとまって、安心していた。でもクローデは、まだ話したいことがあったようだった。

「オルヴィ。本当は、少し不安を感じていた。お前がいなくなってから、色々なことを考えたんだ。そもそもお前が俺のもとを去ったのは、俺があんな情けないところを見せて、幻滅したのかもしれない……とかな」

彼が突然打ち明けたことに、僕は唖然とする。
そしてぶんぶんと首を振って否定をした。

「なに言ってるんだよ、クローデ、そんなことあるわけないよ」
「そうか…? でも考えたんだ。お前をひとり守ることも出来ない弱い雄よりも、あいつのほうが、ジオのほうがふさわしいんじゃないか、ってな」

彼は落ち着いて話をしてくれたが、表情には翳りがあった。
お互いが離れていた時に弱気になっていたのはあるかもしれないが、僕はそこまで彼が深く考え込んでいたことに気がつかなかった。

「それは違うよ、クローデ。クローデはとっても強いし、あの時だって、勇敢な雄として戦っていた。一人で敵を三人もやっつけた。自分が足手まといになったんだって、僕はそう強く後悔もした。……だから強くなろうと思ったんだよ。クローデに守ってもらうばかりじゃなくて、肩を並べて、いつか頼ってもらえるぐらいになるまでって……」

話しながら、僕はジオの過去のことも彼に伝えた。
どうしてジオがああいう行動に出たのか。僕とクローデに、何を教えたかったのか。

「そうだったのか……。あいつが亡くしたのは、番だったんだな……それはつらかっただろうな」

彼は視線を落とし、ジオに対して思いを馳せていた。
そして僕のことをじっと見つめて、確かめるように頬を親指で触ってくる。

「俺も、理解してはいたんだ。大事に大事にしまいこむことは、本当に守ることにはならないと。だが、こんなにも大切な存在が出来たことがなくて、……どうすればいいのか、分からなかった」

彼は率直にそう語り、また静かに続けた。

「あいつはたぶん、『お前にそれほど力はないんだから、全部背負い込むな』って、そう言いたかったんじゃないかと思う。……それにオルヴィ、お前はちゃんと強い雄だ。俺は、誰よりもそう思うぞ。苦しい思いもたくさんしたはずなのに、半年間も、よく頑張ったんだからな」

クローデは僕の頭を撫でて、自分の胸に抱き寄せた。
そう言われた瞬間、また僕の涙腺が崩壊する。
たまっていたものが溢れだしたのか、ぐずぐずと涙が止まらなくなった。

「ありがとう、クローデ……っ。僕もクローデに、同じこと思ってる、……半年間待っててくれて、ありがとう…っ」

抱きついて、彼に強く抱き締められ、僕達の心はようやく完全に通じ合った気がした。

お互いにうまく伝えられなかった思いが、今明らかになって大切な相手に届いた。それが僕は、一番嬉しかった。

「また泣いてる。そこは変わってねえな」
「……うっ、……だって、クローデのせいだ…!」

からかわれて上げた顔に、彼の優しい口づけが落とされた。
僕はしばらく彼の温かい腕に囲われて、じっとしていた。

すると彼はわざとらしく「あー」と切り出した。

「そういやお前、ジオに会いたかったら、いつでも会えよ」
「えっ?」
「俺に気使ったりしなくていいからな。その、大事な仲間なんだからな、お前の」

彼は別の方向を向いて、僕をぎゅっと抱きながら提案してくる。いきなりどうしたのかと思ったが、僕は今朝のことを思い出して焦った。

「う、うん。でも大丈夫だよ。またいつか会えたらなとは、思うけど。たぶん彼も簡単に捕まらないだろうし」

僕の力じゃ、と何気なく笑って尻尾を触っていると、クローデの青い瞳には簡単に捕まえられた。

「そうか。まあ、どっちでもいいんだが。……これだけは覚えておいてくれ。お前は、俺のだからな。俺ももちろんお前のものだ。……俺達は、番……なんだからな」

クローデは言いながら耳まで赤くしていった。
僕は彼の台詞にすぐ反応出来ず、凝視してしまった。
すると彼はさらに恥ずかしそうに染まっていく。

「なんとか言えよ。すげえ勇気出したぞ今」
「……えっ! ごめん、ありがとう……!」

彼は今自分から僕達のことを番と言い、お互いはお互いのものだ、とまで表明してくれた。
もう、嬉しすぎて、思考が一瞬止まってしまったのだ。

「嬉しいよ、クローデ。本当に? 夢みたいだ……」

ぽわんとして脱力し、体を倒して彼の胸板に沈みこむ。
真上にきたクローデの顔もまた柔らかく笑んで、僕の口にちゅっとやった。

そうしてその夜は、幸せなことの連続……のはずだった。



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