愛すべきもの | ナノ


▼ 30 最終話 愛すべきもの ※

クローデは僕のことを番だと言ってくれた。
離れてしまっていた距離も再び縮まって、もっと深いところで繋がった気がした。

それなのに。
どうして僕とクローデはまた、同じベッドの中で服を着てくっついているんだろう。

僕がわがままなのかな。そんなことないはずだ。
むくりと夜中起きて、トイレに行く。
そして帰ってきたあと、僕は窓からの月明かりだけある寝室で、寝間着を脱いだ。

寝息を立てる彼をそばでじっと見下ろすが、なぜかムッときて裸のまま居間へ向かう。そこで脱ぎ捨てられたクローデの長袖の服に首をくぐらせ、自分が着た。

ぶかぶかだけど、彼の良い匂いがたっぷりついていて満悦する。
それを着こんだままベッドに戻り、また眠りについた。

ああ、これだこれ。
全てがうまくいった後でも、僕に足りないものは彼の匂いと存在。
近くにいるのに、もっともっと必要なのだと確信する。

クローデのバカ。
大好きな雄の背中にくっつき、文句を隠して眠った。

しかしまたもや、彼に起こされる。朝ではなく夜の真ん中に。

「おい。オルヴィ? なんで俺の服着てんだ? 大丈夫か」

肩を揺すられて閉じそうになっていた瞳をこじ開ける。
眠れそうだったのに、そう思って僕は枕を抱いたまま、クローデをじろっと見上げた。

「別にいいでしょう。僕の勝手だよ。ここに来てから、クローデが全部僕の自由にしていいって言ったんだ」

そう言うと、彼は「えっ?」と何も分かっていない声を上げた。

「なんか怒ってるか、お前。ええと……教えてくれ。分からねえ」

戸惑った様子で寝癖のついた短い黒髪を掻いている。
僕は起き上がって背を丸めた。確かに眠る寸前まで機嫌もよくたくさんキスもし合ったのに、おかしいと思うのは当然だろう。でも彼は鈍感だ。

「……どうして交尾してくれないんだよ。僕、番なのに。さっきもそう言ってくれたのに。……僕のこと、好きじゃないの?」

頑張って低音を出してじっと見据えてみる。
彼は珍しく肩をびくりとさせ、やたらと弱い眼差しで僕を見返した。

「あー……そのことか。何言ってんだよ。好きに決まってるだろ」
「じゃあどうして? おかしいよね。帰ってきてもう一週間以上経つのに、全然裸でいちゃいちゃ出来ないのはっ」

興奮して声が上ずる。僕だって雄だ。文句を言う権利はあるだろう。
別に自分で尋ねたり誘えばいいだけなのだが、今日までは正直勇気がなかったのだ。

その弱さを隠すためにも僕は精一杯態度を大きくした。
クローデは観念したようだった。そして潔く理由を明かす。

「悪い。お前がそこまで考えてるとは知らなかった。俺のはただの……あれだ。なんとなく、がっついたら良くないと思ってな……」

決まりが悪そうに彼は話す。 

「だから……俺も反省してたんだよ、勝手にな。今までお前を、こう、欲望のままに抱いて……自分の気持ちをぶつけすぎたんじゃねえか、とかさ。……とにかく、久しぶりの緊張もあって、中々キス以上出来なかった。すまん」

彼は僕に頭を下げた。謝るほどのことじゃないとは思いつつも、僕はその理由にとても驚き、慌てて反応した。

「ええっ……? クローデの気持ちがたくさん入ってるの、僕嬉しいよ。たくさん相手に触りたくて、いっぱい交尾しちゃって、どうして駄目なの? 分からないよ僕」

首をかしげて考えたが、やっぱりぴんとこなかった。僕が獣だからだろうか。
とにかく彼は自制したりしていた、ということらしいが僕と同じく、少し緊張もあったようだった。

「クローデが嫌じゃなかったら、僕は交尾がしたいな。だって好きなんだもん。あと、足りないものに気づいたんだ。クローデの匂いだよ」
「……えっ?」
「最近僕は変な行動してたでしょう、あれはたぶん、僕がこの家にまだ慣れてないからじゃなくて、本当はクローデと前みたいにたくさん触れあえてなかったからだと思うんだ」

ちょっと都合のいい解釈だとは思うが、色々なことが解決した今そうとしか考えられなかった。

「だからね。僕の肌にまたクローデの匂いいっぱいつけて。そしたら安心するんだ。この家の匂いだけじゃ足りないんだよ。僕はもう、クローデがいないとダメなんだからね」

彼の首に腕を回して、めいっぱい甘えた声を出して求愛する。
すると彼はしばらく反応しなかった。
気になって体を離そうとしたとき、反対にどさりとシーツの上に押し倒される。

そして突然、唇を奪われた。
ここに来て以来、一番熱い、くらくらとくるようなもので、体の芯まで一気に熱が広がっていく。

「んっ、んんっ」
「……オルヴィ」

僕の名を合間に呟く彼の熱烈な口づけは、しばらく続けられて、途切れた頃には僕は唇を半開きのまま放心していた。

「あ、ああ、……もう……気持ちいいよ、クローデ」

ベッドに押し付けられてがっちりと腕に囲われたまま、両足を彼の腰に絡ませる。
身をよじって早くほしいと訴えると、クローデは僕の肌に口を吸い付けてきた。

首筋、胸、お腹にそえられるキスにびくりと反応し、足を開いていく。
いつもは正面を向いて受け入れるのは恥ずかしかったけれど、今日はずっと彼の顔を見ていたかった。

「もういいよ、クローデ、クローデのおっきなぺニス入れて」

彼と繋がることしか考えられなかった僕は浅い呼吸でお願いする。
すると彼は小さく頷いてまた僕にキスをした。

「あ、んあ……っ」

上半身がはだけたクローデが、僕の太ももを開かせてその間に入ってくる。自然に濡れたそこに硬くなったぺニスをあてがい、ゆっくり挿入していく。

「ん、や、ぁ、はぁっ」

先っぽから太い根本までぬぷぬぷ奥に進み、入りきらないほどの大きさとすぐにもたらす快感に腰が砕けそうになる。

「ひぅっ……あ、ぁあ…っ……だめぇっ」

ずっ、ずっと浅いとこから奥深くまで隈無くこすられて、ぺニスの気持ちよさが全身を敏感にさせていく。

「オルヴィ……ああ、……ずっと、お前が欲しかった」

クローデの甘い声が寝室に響く。外の自然の音に混じり、僕の心の中までとろけさせていった。

「好きだ、オルヴィ……お前が好きだよ」

甘美な言葉とともに、クローデが僕の唇にまた重ね合わせる。
口を優しくはまれながら彼の勇ましい体に抱かれ、僕は夢を見ているようだった。

「僕も好き、クローデが一番大好き…っ」

覆い被さる背中に掴まって、一生懸命伝える。
彼は嬉しそうに微笑んだが、やがて真面目な顔つきになった。そして視線を動かし、僕の目を再び見て口を開く。

「……それ以上だ。俺は、お前を愛している。心からーー」

そう言って、彼は顔を隠すように僕を上から抱きしめ、首筋にちゅっとキスをした。
そのまま腰を動かして、僕の体は歓びの悲鳴を上げる。

「ん、ええっ? クローデ? 僕のことっ、愛してるって言ったの?」

交尾をしながら僕は嬉しさと驚きで思わず尋ねた。
恥ずかしがりやの彼は耳元で小さく「そうだ」と答えた。

「そうなんだ、嬉しいよぉ……僕、そんなこと言われたことないや」

自分は間違いなく互いへの愛情を感じているのだが、言葉にされるとこんなに幸せなものなのかと思った。
クローデはようやく顔を見せてくれた。

「そうか? そんな風にお前のことを思ってる奴は、たくさんいると思うぞ」

まだ肌を少し染めながら彼は僕の頬を触って教えてくれた。
もっともっと幸福を感じるが、やっぱり僕は彼による気持ちが最も嬉しいと感じた。

「へへっ。僕もクローデのことすごく愛してるよ。……うわぁ、なんか照れる、この言葉」

なぜだか好きよりも、大人が使う更に上級のような言葉に響いて、自分で言ったら熱くなってきてしまった。
クローデはくくっと楽しそうに「そうだろ」と笑っていた。

彼の笑顔がまた僕に幸せをもたらす。
僕は油断してしまっていたが、そのあとすぐ彼に肉体的にもとろけさせられてしまい、すべてにおいて完敗だった。



そうだ。僕はこの雄には勝てない。
強くて、たくましくて、心が優しくて、大好きなクローデには。

久しぶりの交尾は長く長く続いた。でもしょうがない。
それほど僕達は求めあっていたし、ずっと抱いていた愛をぶつけたがっていたから。

「ん、んぁ……うまく出来てるかなぁ。これ、難しいなぁ」

僕は裸体で寝そべる彼の上に乗り、腰を揺らしていた。
こんな破廉恥な体勢、はじめて挑戦したが、クローデはしっかり僕の腰を持って支えてくれている。

「オルヴィ、上手だ。だがあんまり、強く振らなくてもいいぞ」
「えっ? どうして? 気持ちよくない?」
「いや……気持ちいいから言ってるんだろ」

ここから見ていると、クローデの日に焼けた肌は筋肉質な肉体をさらにくっきり映し出していて、すごく色っぽい。
腰はきゅっと引き締まり、とても魅力的な体つきだ。

彼の裸を見れるのはとても嬉しかったけれど、脇腹と足の傷跡にはとても胸が傷んだ。色々な思いと記憶がよみがえるからだ。
けれど同時にいっそう彼のことが愛おしくなり、僕が彼を守りたいとも思った。

「……くっ……オルヴィ、こっちに来い」
「ん、あぁ、クローデっ」
「ふふ、一生懸命で可愛いぞ、お前」

下から慣れない言葉で褒められて体が赤く染まる。
僕がリードしていたはずなのに、体をぎゅっと抱きしめられて、下から彼のペースで突かれ始めてしまった。

こうなると僕はまたお手上げで、降伏の状態に入ってしまう。
尻尾は大きく上下に跳ね、クローデに「可愛いし気持ちいいな」とささやかれ混乱する。

僕の獣耳は襲い来る快楽の波に対し、びくびくと動いて反応するだけ。

「あ、ああっ! だめだよクローデ、もういっちゃうってばぁ!」
「いいぜ、オルヴィ、俺もイキそうだ……ッ」

腰をがしりと抱えられて勢いが増し、僕もクローデも一緒に達することが出来た。
最後まで彼の放った雄の源が僕の中に注ぎこまれ、揺らぐ意識の中僕は彼の胸元に倒れこんだ。

「んあ、ぁあ……すごおぃ……」

全身を包み込む彼の熱い体温と、自分は彼のものであるという至福。
こんなことが出来るクローデは凄い雄だと、ただただ思い知らされた。

汗で濡れた前髪をなぞられる。優しい大きな手のひらが、僕の肌を愛情深く撫でてくれる。
そして彼は僕の肩に鼻をくっつけ、まるで獣みたいに匂いをかいだ。

「ひゃあっ。どうしたの、くすぐったいよ」
「いや、俺の匂い、もうついたかと思ってな」

真面目な表情で答えるクローデに僕は笑いをこぼす。

「はは。そんなに早くつかないよ。もっとたくさん、肌をくっつけないと駄目なんだよ」
「そうか。じゃあもっと頑張らないとな。……お前が俺の番だって、他のやつらに分かるぐらいにな」

そう言ってまた密着して、僕に唇を重ねる。
交尾をしたあとは、彼は彼らしい、本来の雄の姿を取り戻していた。
僕はかなりドキドキしてしまったものの、体を丸めてクローデに包まれた。

今日は久しぶりによく眠れそうだ。
安心と、深い愛情と、大好きな匂いを手に入れて。

これから先もずっと僕らは、こんな風に甘く、穏やかで、時にはスリリングな日々を二人で過ごしていくのだと思う。

僕とクローデは出会ったとき、一人だった。
でも今はもう、お互いに愛すべきものと出会ったのだ。



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