短編集 | ナノ


▼ 君に必要な手

俺は週に一回、障害者向けの性介助を行うセックス・ボランティアとして働いている。
とはいっても実際に彼らと性行為をするのではなく、そこに至るまでの過程を手助けする、無償の奉仕活動だ。

「いつも悪いねえ。でもエミルくん、君一体なんでこの仕事してるの? 今大学生でしょ、忙しいんじゃないの」
「はは。まあ、やりがいがあるんですよ。前に言いませんでしたっけ。高校の時スポーツで怪我して、リハビリとか介助の世界を知ったんです。それで色々調べるうちに、こういう活動もあるんだってーー」

運転をしながら後部座席に座る中年の男性に、表向きの理由を話す。彼は下半身に麻痺があり、自力での性行為が難しい。なので今日は一緒に風俗店へ向かう途中だ。
「偉いねえ」と感心され、「いえ」と微笑み謙遜するのが日常的だった。

店の予約から女性に送り届けるところまで自分が介助し、終わると時間通りに迎えにいき、また家まで送っていく。
一人暮らしのアパートに着き、帰り際、車椅子を押してベッドそばに寄せた。

「今日もありがとね。はい、これチップつき」
「いや、いりませんよ。いつも言ってますけど」

代金は一時間で40シリン。なのに彼はいつも50シリンを紙幣で払う。ボランティアなため運営会社から交通費以外は出ないのだが、断っても「いいからいいから。ご飯一回分ぐらいだけど」と言って手に握らせる。

俺は礼を言って、家にあるガラス瓶のチップがまた貯まるのを想像しながら、近いうちにと次を約束した彼と別れた。
客の九割は男性客で、ほとんどの人が感じよく、優しい人が多い。

彼らは最初は緊張からかぎこちなく、堅い態度なことも多いが、住んでいる県内でもう二年この活動をしている俺には、慣れ親しんだ指名客も多かった。

この日、夕方にまた一件予約があったため、俺は車でそこに向かった。


今度の客は、大きな一軒家に家族と住む二十歳の男子だ。
俺より四つ年下のルイ君は、手足に力が入らないという神経の難病を抱えている。

玄関先で母親に迎えられるが、俺は医療施設で知り合った同年代の友人という設定になっているため、二人の行いは知られていない。
彼の部屋に入ると、すぐに鍵を閉めるように言われ、その通りにした。

「こんばんは。体の調子はどう?」
「いつもと同じ。……起こしてくれる?」

素っ気なく言い介護用のベッドに横たわったまま、俺に頼んできた。ラフな部屋着で、家族やヘルパーによる24時間介護を必要とする彼は、ゆっくり体を預けて俺の腕に支えられ座る。

しばらく世間話をしていたが、「寝る?」と尋ねると頷いた。
筋力が衰えていて細身の体を優しくベッドに戻し、俺も一緒に布団に入る。

彼の目的は添い寝で、俺達はいつも言葉少なく、二人でベッドで過ごすことが多かった。
性介助ではなく、こうしてスキンシップを求めてくる人も珍しくない。

「温かいな。抱きしめて、エミルさん」
「うん。おいで、ルイ君」

横向きの彼を腕の中におびき寄せ、片腕でしっかりと抱き、もう片方の手で後頭部を撫でる。
するとやがて胸元から落ち着く呼吸が聞こえた。寝息をたてて、安心しているのが伝わる。

彼と月二回、こうしてゆったり一時間を過ごすようになってから、半年ほどが経つため、互いにリラックスしていると思う。
本当にこれだけでいいのか、相手が男の俺でいいのか尋ねたこともあるが、彼は自嘲気味に「誰でもいい」と笑っていた。

その後で「エミルさんは一緒にいて苦痛じゃない」とルイ君に言われ、嬉しかったことも覚えている。
家族はいても人恋しくなった時に、二十歳の男が抱擁を求めるのは難しい思いもあるのだろう。

俺はただのボランティアだが、実家は離れていて恋人もいない。
日々病気と共存しなければならない彼の気持ちが全て分かるわけでもないが、心細いときに感じる人の温もりというものが、どれだけその人の助けになるかということは、段々と理解していた。





次の週、新しい客の予約が入った。
運営から教えられた情報は、二十代後半の男性で、事故により片足と両手に中度の麻痺があるということだった。
内容は自慰の性介助だ。

俺は休日の夕方頃に、彼のマンションへ向かった。きちんとそれ用の道具も揃えている。

玄関では杖をついた男性本人に迎えられた。短い黒髪で背の高い、顔立ちの整った青年だ。名をヴィレさんという。
彼は人当たりのいい柔和な笑みで「よろしくお願いします」と挨拶をしてきた。

外出時にはヘルパーと車椅子が必要というが、部屋の中では普段歩行用の杖を使用し、移動はなんとか自力でできるという。

問題は手の麻痺で、利き手には物がつかめないほどの麻痺が、もう片方には軽度の症状が残っている。
なので自慰をするのが物理的に困難なため、予約をしたということだ。

「あの、道具ってどんなものがあるんですか」
「はい。色々持ってきたんですが、要望があれば遠慮なく教えてくださいね」

俺は彼にベッドに座ってもらい、事前に購入したローションや数種類のオナホを見せた。自分は慣れたものだが、それまで朗らかだった彼の表情が一瞬固くなる。

「こういうものを使ったことはありますか?」
「いや、実は初めてで……」
「そうですか。大丈夫ですよ、準備しますから。じゃあ……何か写真とか動画とか、見たいものはどうしますか?」

同じ男だから分かることだが、自慰の際にオカズにするものを尋ねた。しかしヴィレさんは、「大丈夫です」と首を振った。
本当に何もいらないのかと思いつつも、勃起していないと用具の装着が出来ない。

ひとまず体勢ややり方などの希望を聞き、俺は彼を背もたれになるクッションに預けさせ、念のため上半身のシャツをはだけさせた。

初めての人は、ここからがとくに恥ずかしく感じるようだ。
ズボンの前をくつろげさせ、下着を下ろしてペニスを取り出す。

よくある反応として、押し黙ってされるがままになるか、反対に気まずさから口数が多くなる客に分かれるのだが、ヴィレさんは前者で、恥ずかしそうに目をそらし胸を静かに上下させていた。

「最近のオナホって、こんな感じになってるんですよ」

俺はなるべく彼の情緒を邪魔しないように、しかし少しは興奮を促すように、肌色のオナホールを持ち上げた。
事前に洗ったオナホに、手袋をした手で膣の部分にローションを塗り込む。

ひろげて見せたり、指でゆっくりいじっていると、それを見ていた彼も興奮したようだった。
形の良い立派なペニスが頭をもたげていく。

俺は心の中でほっとし、「じゃあ入れますね」と優しく声をかけてオナホの小さな穴に彼のペニスを挿入させていく。
彼は「うっ」と小さくうめいた。希望は自慰の準備であるため、なるべく振動を起こさないように、彼の麻痺の少ない手で握らせ、テープで固定する。

これで準備完了だ。
やや事務的な光景に思えるだろうが、あとは彼が行為を終えるまで別室で待機している。

俺は広いマンションのリビングでひとり、いつ声がかかってもいいように静かに待っていた。
うまくいくといいのだが…そう思っていると、15分ほどで名前を呼ばれた。

寝室に戻り、目を見張る。
彼は浮かない表情で、「すみません、ちょっと出来ませんでした」と申し訳なさそうにしていた。

不手際があったかとこちらが謝ったが、やはり麻痺した手の握力が足らず、満足に動かせなかったのだという。

「オナホが太かったですかね。でも、ヴィレさんの大きいので、これしかサイズ合いませんよね…」

神妙に見下ろしつつ、掴んで動かす。
すると彼の腰がびくびくっと震えた。

「……あっ……! ……す、すみません、待っ……」

片目をぎゅっとつむり、赤らんだ顔で快感に耐える表情をした。
それを見た俺は予定を変え、彼にそっとこう告げた。

「このまま、やってみましょうか? ヴィレさんが嫌じゃなければ」

こういう事はそれほど少なくないが、本人の感情もあるため、一応の問いだ。
せっかく予約してくれたのだから、可能なら達してすっきりした思いをしてほしかった。

「……えっと、……いいんですか、そんなことをさせても…」
「もちろんですよ。利用者さんによっては、直接手ですることもありますから」

気を紛らせるために教えると、彼は俺の手を見て赤面し、また顔に視線を戻した。
そして「お願いします」と小さく声にしたのだった。


「あっ、あぁ…っ…く、……あっ…はぁ…っ」

それからしばらく、俺はオナホで彼のペニスを刺激した。中にしこんだローションが、上下に動かすたびにくちゅくちゅとリアルな音を生む。

「んんっ、はぁっ、あぁっ、んあっ」

彼の声も反応もだんだん大きくなっていき、ペニスを擦られる行為もかなり久しぶりだったのだろうと、乱れ具合から想像できた。

「気持ちいいですか? してほしいこと、言ってくださいね」
「……は、はい…っ……あ、ああ、エミルさん、もっと、早く、動かして…ください…!」

男らしい腹筋が波打ち、腰が一心不乱に快感を求めている。
自分の名を呼ぶ色気に満ちた姿に、俺はあってはならないことだが、魅せられ始めていた。

言われた通り速度をつけて強めに握ると、彼はやがて「んあぁっ!」と艶がかった声をあげて達してしまった。
ドクドクと流れでる長い射精が、痙攣する腰つきから分かる。

「っはあ、ああ……」

遠い目で天井を見る彼が落ち着くのを待ってから、オナホを抜く。
すると中からどろりと大量の精液があふれ出た。

「すげえ、いっぱい出ましたね」

思わず仕事を忘れ呟くと、彼は「すみません」とまた羞恥に満ちた顔をしていた。
その表情は、なぜか自分の体にもビビッとくるものがあり、俺はなるべく深入りしないように目を伏せた。

ともかく、奉仕は果たせた。それが何よりだ。

別れ際、全てを綺麗に整頓し、彼と少し会話をした。
ヴィレさんも今回の行為に満足してくれたようだ。

「すごく良かったです。ありがとうございました。……また、お願いしてもいいですか?」
「はい。またうちの会社を利用して頂ければ嬉しいです。いつでもどうぞ」
「いや、……出来れば、エミルさんに、頼みたいんですが」

杖をついて照れくさそうに告げられ、一瞬目を見開いたものの、俺は頷いた。
初めての人の自慰介助で次も指名されることは、なんとなく働きを肯定してもらったようで、嬉しいものだ。

普段はそこまで強く思わないのだが、やや苦労があったヴィレさんの状況から、役に立てたことをより感じたのだと思う。





二週間後、俺はまた彼の家を訪れた。
内容は以前と同じで、オナホを使った自慰の介助だ。二度目だからか彼はよりリラックスした状態で、体を預けてくれた。

またもオカズは必要ないらしい。
俺が準備をすると、彼はいつの間にか呼気を浅くし、自然に勃起するようになっていた。

この前よりもっと気持ちよくなってもらいたいと思い、感情をこめて丁寧に行う。するとヴィレさんは思ったよりも早くイってしまった。

「くっ……あぁぁ!」

目をとろんとさせたまま、俺のオナホの中で激しく果てる。
この達成感は何なのかと思いながら、俺は優しく声をかけて見守った。

「すみません、早かったですね。恥ずかしいな…」
「いやいや、それだけ気持ちよくできたってことですからね。嬉しいです」

励ましつつも、自分の気持ちをさらっと告げてしまったことを若干後悔した。だが彼は照れたように、屈託のない笑みを見せた。

時間は一時間で多めに取られていたため、俺達はまたベッドに並び、会話をした。そのときヴィレさんは自分の体について話してくれた。

「この体の麻痺は、会社での事故のせいなんです。機器の点検中に、建物から転落してしまって。リハビリでここまできましたけど、まだ二十代半ばで若かったし、ショックでしたね」

悲痛な面持ちの彼に、俺は静かに耳を傾けていた。
日々ボランティアとして接してはいるが、突如身にふりかかったその辛さと困難は、健常者の俺には計り知れないことだ。

彼は事故の当初自暴自棄になり、生きる意味も分からなくなっていたという。男として、自慰すら出来なくなったことに相当消沈したようだった。

「でも、だからこそ、エミルさんに助けてもらって、本当にありがたいです。……こんなこと言うの恥ずかしいけど、ひとつ悩みが消えたかな」

また微笑まれて、どきっとした。
俺は大したことはしてませんからと、恐縮する。

「エミルさんはどうしてこの活動をしてるんですか?」

真っ直ぐな瞳に尋ねられ、一瞬答えに窮する。普段と同じ答えを告げればいいだけなのだが、それは本当の理由ではなかったためだ。
迷っていると、彼が察したのか「立ち入ったことをすみません」と言って焦ったため、俺はすぐに口を開いた。 

「いえ、大丈夫ですよ。俺は……身内に要介護の叔父がいて。今はもう亡くなりましたけど、両親が寝たきりの叔父を介護してたんです。それでーー」

初めて人に話すことだが、なぜかヴィレさんには本当のことを言おうとしていた。
幼少期から家の一室にいた叔父は、家族から大切にされ、親切なヘルパーも常駐していた。

俺は医療機器に囲まれた叔父が子供ながらに馴染めず、いつも遠巻きに見ていた。
しかしある日、父の弟である彼の自慰を目撃してしまう。

ふすまの隙間から、布団の部分が動いていて、荒い呼吸も聞こえる。
心配になった子供の俺は、体の動かない叔父を怖いと思っていたにも関わらず、戸を開けて駆け寄った。

「大丈夫? どうしたのおじちゃん」
「……ぅわっ!」

目だけこっちにやり、見下ろされた。当時は分からなかったが、一生懸命動かない手で頑張っていたのだと思う。

「み、見た? 何も見てないよな」
「うん。平気? どこか痛いの?」
「痛くないよ。ごめんな。大丈夫だから、皆に秘密にしといて」

頭ははっきりしている叔父に優しく言われ、俺は素直に聞いた。
布団の下から落ちてきた手がぶらぶらしていたから、撫でたいのかと思い頭を下に置いた。
叔父は笑っていて、そのとき珍しく機嫌がよさそうだった。

大きな思い出といえば、それだけだ。
当時は分からなかった彼の行為も、成長するにつれて気がついた。

あのとき子供の自分ができることは何もなかったと思う。
でも、心にしこりのように残り続けていた。

「だから、ですかね。たぶん直接の原因ですね。そういう困ってる人がいるんだと思って……」

指を組んだりほどいたりしながら、重い話だったかと心配になり顔をあげると、なぜかヴィレさんは目が赤くなっていた。
口を結び、大の大人の彼が今にも泣きそうになっている。

「えっすみません泣かないでください」
「泣いてないよ。ごめん、なんか、胸にきちゃって」

手の裏でぬぐおうとする彼の姿を見ていると、この人温かい人なんだなと感じ、俺は無意識におかしな行動に出た。

隣に座る彼を抱きしめる。
不安そうな人を見ると、担当している添い寝のルイ君を思い出すのか、そういう気持ちに駆られた。

ヴィレさんに対しては、それだけじゃないかもしれない、とも考えたが。
彼はまた小声で「ありがとう」と呟いた。
だから俺は、してよかったことなのだと、胸を撫で下ろした。





彼の指名を毎月得てから、ヴィレさんはもう俺の常連となっていた。月に二、三度、マンションを訪れ、数ヵ月が経った。

俺達は年が近いこともあり、互いに慣れて距離も縮まったと思う。
ヴィレさんは敬語を使うのをやめて、友達のように接してくれていた。

そして、彼は別れ際ではなく最初に代金を払った。そのほうがいいのだという。
他の人にも時々いるように、チップつきだ。
俺はお金を払われるたびに、少しだけズキリとした。自分はただのボランティアで、彼は客の中の一人だというのに。

不可思議な気持ちは彼に接するごとに、次第に大きくなっていった。

「ヴィレさん、違うオナホ試してみます? 新しいの買ってきたんですよ俺」
「えっ? いいよ、同じので。エミルくん、君俺で遊んでない?」

こんな風に笑いながら軽口を叩くまでの仲になり、介助をする側としてもやりやすい。
それに彼のペニスを扱っているうちに、表情や仕草から、俺はどうすれば彼が感じるのか分かるようになっていた。

そんなある時、魔が差した。

「ねえ、いつも同じやり方でいいんですか。それに、俺男だし。飽きませんか」

行為の前に尋ねてみると、彼は言葉に詰まった。杖を迷うように触り、ベッド脇に立てかける。

「俺は、飽きないけど。男でも大丈夫というか……君だったら」

ぼそぼそ言う彼が気になり、俺は身を乗り出した。

「あの、素朴な疑問なんですけど、どうして最初に女性を選ばなかったんですか?」

うちの運営会社には男女半々のスタッフがいるため、さりげなく理由が気になっていた。

「ああ、いや、なんというか……正直に言うと、女性の前だと情けなく感じるかなと思ってさ。同じ男のほうが気分が軽いかなって、変な言い分かもしれないけど。……まあ、エミルくんみたいな若い子が来ると思ってなかったから、逆の恥ずかしさはあるけどね」

落ち着いて話す彼に対し、俺はわりとすんなり納得した。
実際に利用客の半数以上は異性を希望するが、色々な理由や嗜好から男性を選ぶ人もいる。

「そうだったんですね。じゃあ、俺でもいいってことか」
「だから、そう言ってるだろ? どうしたの、そんなこと気にして」

くすくすと笑う爽やかな口元をじっと見てしまう。
ヴィレさんといると、なぜか自分の我が出てきて、子供っぽい言動になる気がする。あんな過去話をしたからだろうか。

「ヴィレさん。そろそろしますか」
「……あ、そうだね」

時間が気になったからではなく、俺は欲求につられて促した。
その上さらに付け加える。

「道具使うのもいいんですけど、手でするのはどうですか。嫌じゃなかったら」

とくに意味もなく利用者に勧めるのは、よくない。分かっていたのに聞いてみたかった。
彼はまるで行為中のように頬を染め上げ、こちらを見上げた。

「手で…? エミルくんの?」
「はい。ああ、ヴィレさんの手でもいいですけど。助けますよ」

日和った俺は代替案も出す。どちらでもよかった。完全に下心のある私欲だ。
彼が無言になった時間がきつくなってきて、謝ろうとした。のだが、俺はまた馬鹿なことを言ってしまった。

「口のほうがいいですか?」
「えっ?」
「……すみません、冗談です。忘れてください」

俺はテンパっていた。奉仕中に、何を考えているんだ。ボランティア失格だ。そう思っていたら、強い眼差しが突き刺さった。

「君、そんなこともしてるのか」
「……い、いや、してません。手だけですよ。それでも稀ですけど」

事実を告げると彼は明らかにほっと息をついた。「そっか……よかった」と呟いて、俺の手を悩ましげに眺めてくる。
自分のことを気にされてるようで、勘違いをしそうになった。

「手でしてほしい気持ちはあるんだ。けど、そうしたら、もっと君のことを好きになってしまう気がする。だから、まずいよな?」

彼は柔らかい顔で笑った。その姿がいたずらがバレた子供のように無邪気で、瞳が奪われた。

「まずく、ないです……俺は、好きです。ヴィレさんのことが……」

敗北した気分で、俺は視線を落とし、小さく告白した。
ボランティアなのにすみませんと、縁がなくなる可能性も覚悟して言ってしまった。
彼から伝えられた気持ちに舞い上がっていた。

「じゃあ、手でしますね」

反応を知るのが恥ずかしく、俺は勝手に彼をゆっくりとクッションに押し倒した。
彼は自分の手を持ち上げて、震えを抑えようとしながら、俺の頬に当てた。

体温を感じ、じっと瞳を見つめられて、俺は抑えきれなくなってしまった。
首の後ろに手をまわし唇を押しつける。強引にキスをした。

「んっ……は、あ…っ」

夢中で唇を奪って、シーツに押し付けて、舌をねじいれた。
彼の舌はやわらかくて、口内はとろけるように甘くて、脳がしびれた。

吸いついた口を離せないまま、服を脱がせる。
手を下半身に滑らせて、ズボンに手をかけた。
中に忍ばせてペニスを撫でる。下着を暴くと、すぐにそり立った。

「ヴィレさん、もう硬くなってます、どうして?」

彼は荒い息をついて、精一杯俺の腕を掴んでいた。

「君の、キスが、気持ちいい」
「…本当ですか? もっとする?」
「ああ、もっと、してくれ、……触ってくれ…っ」

興奮する彼の上を覆うように、俺はベッドに膝を乗り上げた。
キスを落としながら首に、鎖骨に、胸に手を滑らせる。
そのあとでペニスをようやく掴み、上下に擦りあげる。

「あっ、ああっ」
「……可愛い、ヴィレさん」
「ん、くっ、ぅ!」
「直に撫でるの、好きみたいですね、もうこんなにおっきいよ」

亀頭をいじりながらローションを垂らし、ねちょねちょになったペニスをしごく。彼の裸になった上半身がしなり、なまめかしくペニスが揺れる。

自分の下半身もきつくなった。興奮を静めようとしたが、彼に見抜かれてしまった。

「あ、あぁ、君も脱いでくれ、一緒にしてくれ」
「だめ、だよ、そんなことしたら」
「いいから、俺の上に乗ってくれ、一緒に、しごいてほしい」

赤らむ目元に懇願されて、俺は上を脱いだ。
彼の上に跨がり、もう止まらないという思いで自分のペニスを出し、前屈みになって彼のと一緒に擦りあげる。

「ん、あっ、きもち、いい」
「…はい、すげえ、良い、ヴィレさん…ッ」
「あ、ああ、……い、イク、…出る…っ!」

彼のきれいな腹筋の上に、白濁液が飛び散る。
いつもはオナホの中だったから射精を生で見るのは初めてで、感動した。

つられて俺も腰がビクビク上ずってしまい、いってしまう。
彼の体の同じ所にかけるという失態を犯したが、それ以上に心身が満たされ過ぎて、倒れこんだ。

「…え、エミルくん……大丈夫か?」
「あ……はい……だめです、すみません」
「いや、こちらこそ……抱きとめられなくてごめんね」

ぎこちない手の動きが背中に這わされるが、その仕草がたまらなく幸せをもたらした。
なんてことをしてしまったんだと思う気持ちはありつつも、俺はゆっくり顔をあげた。

「……ヴィレさん、俺のこと、好きですか? もし好きだったら、許してもらえますか。こんなこと、したこと」

自分を支配する感情を全て伝えきれず、素直な思いを告げた。
下げた頭を、ふんわりと優しい手に撫でられる。懐かしい感触だった。

「好きだよ。だから俺のことも、許してほしい」

誠実な彼の言葉に顔を上向けた。俺はまた距離を詰め、穏やかに鳴る鼓動を感じながら、唇を合わせる。
こうして俺達は結局、二人で許しあうことにした。

これから、どうするか。
彼はもう、自分にとって一人の利用者ではなくなってしまった。

その後、いつものように俺は彼の体を綺麗に拭き、身支度を整えた。
時計はギリギリの時間になっていたが、もう気にする必要もなかった。
隣に腰かけて、ぽつりと話しかける。

「ヴィレさん、俺、どうしたらいいですかね」
「……そうだな。今度、俺とどこかに出掛けてほしいな」
「え?」
「ほら、いつもうちで、俺がしてもらってるだけだから。君のことも、楽しませたい。俺のほうが年上だし」

至近距離で、真面目に提案をされた。
さっきまで俺がリードしていたのに、起き上がるとやはりドキッとするような大人の男の人だ。

「分かりました。今でも十分楽しいですけど。……でも、またこういう事もしていいですよね?」

聞かなくてもいい無粋なことを聞いてしまう。
彼は一瞬目を丸くしたあと、楽しそうに笑った。

「いいよ。なに、君は俺をイかせるの好きなの?」
「はい、好きです」

そこは迷いもせず頷くと、ヴィレさんは再び「正直だな、エミルくん」と笑いながら、俺の頭を撫でてくれた。



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