短編集 | ナノ



兄ちゃんにお願い


中等科一年の夏、ジェスは水泳の授業のあと、更衣室で着替えていた。運動神経もよく活発で明るい少年だが、下半身にはあまり自信がなく、水着を脱ぐ際もさっと下ろして素早く下着を履こうとしていた。

しかしクラスのボス的存在の大柄な男子が、素っ裸のまま自慢げに話している声が届いた。

「ほら見てみろよ、俺のつるつるだろ」
「うわっ、ほんとだ。お前剃ったのかよ」
「当たり前だろ、男はな全部ちん毛剃るのがマナーなんだぜ? ぼうぼうだと女の子もびっくりさせるし、モテなくなるからな〜ははっ!」

そんな話は聞いたこともなかったジェスは、呆然と手を止め聞き入っていた。周りの皆もまだそんなに多くはないが、普通に毛が生え始めていたからだ。

でも自分より背もぺニスも大きく、スポーツ万能で女子にもモテている男子の言葉には説得力がある。他の男子達も「すげえ〜俺もやろう!」と納得して称賛していた。

よし、俺だって。
ジェスはひとり心の中で決めるものの、そのやり方には頭を悩ませたのだった。



学校が終わると、自転車を飛ばして家に帰った。
リュックを玄関に置き、手を洗って、一段抜かしで二階に駆け上がる。
自室の斜め向かいにある扉をコンコン叩き、返事を待たずに開けた。

「兄ちゃん! ちょっとお願いがあんだけどさーー」

煙草の匂いが充満するくもった部屋の中はカーテンが閉まってて薄暗く、兄とその友人がソファとベッドにそれぞれ寝転がり、テレビゲームをしていた。

「あー? お前開ける前にノックしろ。やべえことしてたらどうすんだよ」

視線は画面に向けたまま表情を変えずに言うと、友人も笑い声をあげる。
二人ともだらしない服装で耳にはピアス、高校生なのによく飲みよく吸う不良そのものである。

「やばいことってなんだよ? まあいいや。だからちょっと相談が…」
「なんだよ。今言え」
「いやそれはちょっと……恥ずかしいことだからさ…」

声が小さくなりもじもじするジェスを、兄が怪訝そうに見上げた。
友人の「えっ?なにエロいこと?」と面白がる顔をクッションで潰し、自分はコントローラーを投げて気だるそうに起き上がった。

「お前の部屋行くぞ」
「うっ、うん。サンキュー」
「え! これ続きどうすんだよヴィリー、ミッション中なんだけど!」
「しばらくソロプレイしてろよ」

あっさりとした兄のヴィリーは後ろから弟の服の襟を引っ張り、自分の部屋から連れ出した。
ジェスは一人ほくそ笑む。後ででもよかったが、あの友人はいつも夜までたべっているのだ。この問題にはなるべく早く取りかかりたかった。

廊下を挟んですぐの部屋に入り、なぜかヴィリーは鍵を閉める。
兄のよりも狭い子供部屋の絨毯に、兄弟そろってあぐらをかいて座った。

真向かいに座る兄にじっと見られ、少し緊張する。ジェスはつんつんした黒髪で色黒の元気な男の子だが、兄のヴィリーは長めの金髪をたらした、目力のある男前な不良だ。まったくタイプが違うし似てもいない。

こうやって優しいとこもあるが、普段は粗暴で言葉遣いも荒い上に、身長も自分の頭が胸にくるぐらい高く、凄まれるとビビることもある。

「で? わざわざ兄貴に相談ってなんだ」
「あ、うん。……シェイバー貸してほしいんだけど」

単刀直入に言うと眉間に皺を寄せられた。

「シェイバー? なんに使うんだそんなもん」
「……なにって……ひげ剃るんじゃないの普通」

明後日の方向を向いた弟の頬がぐっと掴まれ、無理矢理兄の方に戻された。

「うぐっ。にゃにすんだよ離せよぉっ」
「ひげだと? 嘘つけ。お前一本も生えてねえだろうが」

大きな手に捕まり、じろじろ見られてジェスに反発が芽生える。「一本ぐらいある!」と吠えても「あー? それ産毛だろ。13才」と馬鹿にされた。

この時点でこの兄に尋ねたことを若干後悔したジェスだが、使命のためにもう一度頭を振る。

「じゃあほんとは脇に使いたいんだ。いいだろ」
「……へえ? 脇ねえ。どれ見せてみろ」
「な、なにっ、やめろってばぁ!」

前に乗り出した兄の手にTシャツを一気にめくられる。容赦のないヴィリーは弟を上半身裸にし、両腕を真っ赤な顔の横まで上げさせて無遠慮に脇を眺めた。

「うーん。ほぼねえな」
「うるせーバカ兄ぃ!」

涙目のジェスは敗北感を味わう。さっさと貸してくれればいいのに、いつもヴィリーは五つも下の弟を大人げなくからかってくるのだ。

「泣くなよ。んで本当は何目的なんだよお前。まさかちん毛か?」
「……うっ。なんで分かったんだよ。別にいいだろ、早く貸してくれってばっ」
「マジか。でもお前この様子だと下も全然生えてねーんじゃねえか?」

逆に心配気な声でヴィリーの手が弟の半ズボンに伸びる。「んやああっ」と悲鳴を上げたジェスだったが、問答無用でぺニスが出されてしまった。

小さい頃に共に風呂に入ったこともあるといえど、年頃のジェスはまだ発展途上の性器を兄に見られるのが恥ずかしかった。

「おー。お前、可愛いちんこしてんな。まあそれはいいが……確かに思ったより生えてるわ。かーわいい」

わざとらしく声を高くして似合わない言葉を使う兄が憎たらしくなる。「あんまじろじろ見んなよばかあっ」と身をよじっても腰を強い力で固定されてはなす術もない。

ここから兄の尋問が始まった。真面目な顔でなぜそんなことを考え出したと問いただされ、ジェスは正直にプールの更衣室でのことを話した。兄は呆れ気味に笑う。

「くっだらねえな、周りに流されやがって。そんなすぐパイパンにしてどうすんだ、ジェス。お前まだガキだろ、必要ねえよ」
「あるんだよっ。……なあ兄ちゃんもつるつる?」
「当たりまえだろ。男の身だしなみだぜ?」 

人には禁止するくせに自分のことは棚に上げてニヤリとする。
他にも衛生的にきれいだとか、毛がチャックに挟まれないとか、夏は涼しいとかメリットを教えてくれた。
聞けば聞くほど、ジェスの中でさらに積極性が増す。

「俺もやる! 俺もやる! 貸してくれよ〜いいじゃん早く!」
「わめくな。やり方わかんねえくせに」
「分かるもん! ネットで動画みるから」
「載ってるか、お前エロサイトでも見るつもりかよ」

こういう時だけ子供扱いされる弟のジェスだが今回は引かなかった。ぺニスを出したままなのも気にせず兄の長袖に掴まってせがむと、ようやくヴィリーは重い腰を上げた。

「くそっ、しつけえ野郎だ。ちょっとまて。お前はここにいろ」

部屋を出てってしまい、ジェスはぽつんと取り残される。
期待半分で律儀に待っていると、兄は浴室まで行っていたのだろうか、手にシェイバーとスプレー缶を持って帰ってきた。

「今やってやるよ」と床に腰を下ろし、腕まくりをする。

「ちょっと、自分でできるよっ」
「いや無理だろ。怪我すんぞ。タマとかできんのか?」
「ええ! タマにも毛はえんの?」
「微妙にな。お前はまだかな」
「ひぅんっ」

下から包むように撫でられて腰がすくむ。知識が足りなくて混乱したジェスは黙った。
まさか今始まってしまうとは。やはり初体験だからドキドキしてきた。

「兄ちゃん、風呂場のほうがいいんじゃねえ…っ?」
「親がいんのに二人で入ったら怪しいだろうが」

淡々と準備するヴィリーの後頭部を落ち着かない様子で見る。

「でも兄ちゃんの友達がっ」
「あいつは何も分かってねえよ、ゲームの爆音聞こえるだろ」
「……ん、んあ……でも、……やだぁ……変な格好させんな……」

手慣れた手つきで半ズボンごとボクサーパンツを下ろされたジェスは、兄の前で膝を立てて開脚した。

まるで医者の眼差しのごとく、ぺニスとその周辺を指の腹で確かめるように触り、「よし」と言うと取り出したスプレー缶で患部に泡をふきつける。

「わあぁっ、なにこれぇっ」
「動くな手元がくるったらどうする」

さっそく真剣な兄がシェイバーでじょりじょり短い毛を剃り始めた。クリームのせいか思ったより痛くなくて、ジェスは腹がちら見えする自分のTシャツを掴みながら、恐る恐るその処理を眺めた。

「兄ちゃん、すげえ真面目な顔してる……珍しい…」
「おい、笑わせんな。初めての経験だ、なかなか楽しいわこれ」

思わぬ趣味を見つけたかのように鼻歌を鳴らす。うまくいってることにジェスは安心したものの、ヴィリーが剃るときにやたらぺニスを立てたり倒したりして触ってくるのが我慢できなかった。

「や、やあっ……あんまいじんないでよっ……ちんちんっ」
「あー? しょうがねえだろ根元もちゃんとやんねえと……ん?」

そんな恐れはしたが、ジェスのぺニスが段々硬くなっていった。
大きさこそ控えめとはいえ、立派に二人の前でぴん!と立ち上がる。

「やだぁ、ばかっ、勃っただろ!」
「なんで俺が怒られるんだよ。仕方ねえ、気持ちよくなっちまったか?」

笑いをこらえた兄の台詞にかちんと来たが、暴れるわけにもいかず、「気にすんな。このほうがやりやすい」とまでフォローされて、終わるまで顔が沸騰しそうになりながら耐えに耐えた。

「おし、出来たぞ。じゃあ次はお前のここな」
「……えっ? やだやだ、兄ちゃん、そこ触んないでえ!」
「おら動くな、せっかくだ、大人に近づいたお前に一段上の快感を教えてやるよ」

指で亀頭をつんっと弾かれて「んあぁっ!」と腰が跳ねた。あろうことか泡のついたぺニスを大きな手に包まれ、ぬるぬる上下にしごかれる。

「あっ、あぁ、それ、だめえ」
「ん? ちんぽ気持ちイイか?」
「ひぅっ、やぁあ、知らないよぉ」

足をだらしくなく開いて、その間にヴィリーが身を乗り出してくる。

「知らないわけねえだろ、オナニーしてんだろ?」
「んっ…んぅ……し、してる…ぅ」
「くくっ。素直なやつ。でも俺のほうがいいか」

なあ、と笑いながらくちゅくちゅぺニスを擦られ、ジェスの息が上がっていく。自分でするのとは比較できないほど、確かに刺激がすごかった。兄の口調は強引なのに大きな手は巧みでソフトな優しさがあり、なんとなく弟への思いやりすら感じた。

「んっ、んふ、出る、兄ちゃん出ちゃうよっ」
「おう出せ、いいぜ」

つい頼りたくなる兄の声音にジェスは甘え、ぺニスを震わせてあっという間に達してしまった。ぴゅるぴゅると白い液が平らなお腹に飛び散り、力が一気に抜けていく。

「はあ、ん……ごめん兄ちゃん……俺…」
「んだよしおらしいな。謝るのはこっちのほうだ。ほれ」

ん?と促されて見ると、真上にいた兄がズボンをかちゃかちゃ下ろす。そして何の抵抗もなくトランクスを下げ、大きな逸物を弟に向けた。

「わりい。お前が可愛くてたっちまった」

詐欺のようなはにかんだ笑顔を見せられ、ジェスは漫画のように叫ぶ。しかし兄は不良の本領発揮なのか、今の言葉がただの本音だったのか、興奮した雄の様相で迫ってくる。

「な、なな、なにすんのっ、そんなおっきいの、怖いよおっ、狂暴すぎるっ」
「何もしねえよ。お前がすんの」

ヴィリーは反り返ったぺニスを弟の小さな手に握らせ、お礼のつもりでしごけ、と命じた。
一瞬怯む弟だが、剃ってもらった上に快感も与えられた。
だから仕方ない、と妙な男気を見せて言うとおりにする。

お腹を綺麗に拭き取られたジェスはなぜか裸のまま、足を投げ出して座る兄の上にまたがった。このポーズはおかしいと思ったが、きっとヴィリーの趣味なのだろう。

「はあ、はあ、でけえし……兄ちゃんも気持ちいいの?」
「んー、下手だけど気持ちいいぜ……」

両手でがんばっていたが、一言余計だと火がついたジェスはさらに一所懸命しごく。その間尻をもまれたりもしたが、不本意ながらも黙って奉仕していた。

「もっと体寄せろよ、ジェス」

頬に兄の金髪が触れる。じょりっとした髭あとでこすられたあと、唇があたる。ほっぺたを少しずつ湿った舌と唇で吸われてビクビクした。

「ん、んん〜っ、にいちゃっ」

刺激に肌が粟立ち身をすくめるが、ヴィリーの唇が耳に移動する。耳たぶを舐められて耳の穴に舌を入れられた。

「や、やぁんっ、ひぅ、んあぁ〜っ」
「あー…声えろ……」

興奮して頭がおかしくなったのか、そのあとも耳をなぶられ続ける。
涙目で我慢していると手がとまり、兄の手によってぺニスを握り直された。

「んぅ、イタズラすんなばかぁ」
「しょうがねえじゃん、お前無防備すぎてよ、ムラムラしちまった」

兄の自由は止まらない。半開きになったジェスの口が分厚い唇に塞がれる。キスされたと知ったときにはもう遅く、抵抗する間もなく舌をねじ入れられた。

「ふっ、ん、ふ……なんでえ……はじめてなのにぃ…」
「だからか? すげえ美味えな」
「……ばかやろーっ」
「お前知らねえのか、ちんぽ擦ってるとき舌吸うと気持ちいいんだよ」

勝手に小言を挟む兄の手に抱かれ、キスに夢中になる。
兄弟なのに。自分の部屋でこんなことまでしてしまうとは。

「おいどうしたエロガキ。んな顔しやがって」
「んっ……俺のちんちんも触ってよお……」
「……おう、いいぜ。じゃあもっと足開いてここに乗っかれ」

ヴィリーに抱っこされたジェスは太い首に腕をまきつけ、膝の上で唇をむさぼる。
いやらしいリップ音が響く中、サイズの違う二本のぺニスが兄によって一緒に擦られた。

「あっ、あんっ、ふっ、むっ、んぅっ、んあぁっ」

誰かにされるのは初めてで、とろけそうになる。兄なのに不思議と嫌悪感がなく、知ってる匂いに抱えられて安らぎすら広がっていった。

「やあっ、にい、にいちゃ、気持ちいいよぉ、出る、出るっ」
「あー……俺も出そうだ、すっげえ興奮するわ、お前の声」
「ん、んう、もっと、してえっ、いく、いくっ、イク〜〜っ」
「……あ、あ……ぃ……くぞ……ッ」

二人は腰をしならせ、ほぼ同時に果てた。だらりと倒れこむ弟の細い体を、兄が抱き寄せる。
腹の間で絡み合った精液は、ほとんどヴィリーのものだったが量の多さにジェスは密かにびっくりした。

やはり兄にはすべての面でまだまだ敵わない、と頭を肩につけてうなだれた。



「はあ……どうしよ兄ちゃん、こんなことしちゃったね」

自然に掴まっていた胸から顔を見上げる。兄は涼しい表情で互いの下腹部を掃除してくれていた。

「別によくねえ? こんぐらい」
「なにそれ。まさか、誰とでもこういうことしてるのかよ?」
「やんねえよバカ」

世間知らずだなと頬を柔くつねられた。
文句は言ったが、結局至れり尽くせりのジェスは下半身を改めて見下ろし、喜びの拳を作った。

「でもすげえ、ほんとにつるつるだ。よっしゃー!」
「昔に戻っただけだろ。まあまた生えたら言えよ。俺が剃ってやるわ」

腰に手を回したまま、ヴィリーが頬に鼻をすりつけてなぜかベタベタしてくる。気を許したと思われたのだろうか。
そうだとしても、さっきまでの行為を思い出すと恥ずかしい。

「こまめに剃んないとちくちくして痒いぞ。兄ちゃん助けて〜って泣きついてくんぞお前」
「泣かねえもん。自分でもいつか出来るようになるんだ」
「いーや、自分ではやるな。お前不器用だしあぶねえだろ」

本気でそう思ってるように、優しく抱いた頭に口が押しつけられた。
変なの。なんだかいつもより暖かい兄の懐から、離れがたくなってくる。

「まいっか。そんなに兄ちゃんがしたいっていうなら。特別だぜ!」
「……くくっ、単純なやつ。まあそういうことにしといてやるよ、少年」

ヴィリーが弟の頭をくしゃくしゃと触る。珍しく素直になった兄弟は友人のことも忘れ、しばらくその場でお喋りをしていた。

その後ジェスは希望通り、兄の部屋や風呂場でこっそりしてもらえることになった。
時々むりやりパンツの中をのぞかれてチェックされるのは、恥ずかしくてたまらなかったが。

誰にも言っていない秘密の時間は、いつも近寄りがたかった不良の兄との距離を、急速に縮めてくれたのだった。



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