短編集 | ナノ



不感症の俺は兄弟に攻略される


不感症の少年、青年を集めた風俗専門店で、18才のフィルは今日もウリをしていた。

入って一ヶ月の新人ではあるが、さらさらした黒髪細身であどけない顔立ち、なのにセックス中も無言・無表情をつらぬき、何をしても感じないという点で、一部のマニア達に人気を博していた。

フィルは広いホテルの一室で、白シャツだけをまといベッドに腰かけていた。
今日の客は一度に二人で、3Pを所望だ。複数の相手をしたことはなく密かに落ちつかなかったが、どうせどんなプレイでも刺激がないのだから同じことだった。

「おっ、いるいる。可愛いね〜君がフィル君? 俺はガーゼル。ちょっと年上だけどよろしくね」

まず扉から現れたのは肩ほどの金髪を結わえた、がっしり体躯の日焼け男だった。ふいと顔を背けると「無視かよ!」と嬉しそうに笑っている。

続いて扉をくぐったのは金髪よりもさらに大柄でたくましい、黒髪を短く刈り上げた男だった。目付きも鋭く見るからに狂暴そうだ。

「ったく、今日はそいつか。不健康そうなガキじゃねえか。とっとと終わらせろよ」
「うるせえなぁ。お前はいつものようにそこで見てろや。今から俺はこの子とイチャイチャまぐわうんだもんねー」

寒々しい台詞を甘い声で吐いたガーゼルは、ちゅっ!とフィルの耳にキスをする。一瞬ぞわりとしたものが走ったが、表にはでない。 
生来のもので、くすぐられても舐められても、めったなことでは反応しなかった。

その後、フィルは身ぐるみ剥がされ、上半身裸のマッチョな男に全身を舐められる。男は愛撫が上手だった。刺激は別として、技能的な面はトップクラスだ。

しかし予約では3Pのはずなのに、もう一人の黒髪は近くの椅子で新聞を広げ、参加してこない。時おりじろりと様子を見られるが、監視されてるだけだ。

そういうプレイか。
二倍の料金で相手をする労力が減るなら、幸運である。
しかし思いもしないことが起こる。 

「……ん、ふっ……」

ガーゼルの裸体にシーツに押し付けられ、後ろから乳首をこねられていた時のこと。ふと、声が漏れてしまった。
そんなことは初めてで、フィルは焦って口を塞ぐ。

「……うん? なんだ今のは。君、今声出した?」

後ろから怪訝な様子で指摘され、急いで頭を振る。
別に、感じてなくても突発的に声ぐらい出るだろう。
心の中で反抗しつつ無表情をつらぬいて愛撫を受けた。だがまた、男のごつごつした手に乳首とぺニスをいじられてる際、吐息以上のものがでた。

「……ぁ、うっ……んんっ…

しかも、語尾が上ずってしまい、意図せず色っぽくなった。
顔面蒼白のフィルが枕に顔を隠そうとすると、後ろから強めに顎が持たれる。

「やっぱり。今あきらかにエロい声を出したな、お前。どういうことだ、全然感じないんじゃないのか? え?」

男のフェチが裏切られ憤慨した様子で凄んできた。
確かに落ち度を感じたフィルだが、自分でも理由がわからず、このままだと料金も支払われない恐れがあったため、だんまり決め込んだ。

「おい、スヴェン、ちょっとこっち来いよ! 問題発生だよ!」
「なんだようるせーな。さっきから。新聞が頭に入ってこねえだろうが…」

舌打ちをして吸っていた煙草を灰皿で消し、黒髪の男が立ち上がった。
正座をしてしおらしくする少年のフィルを覆うほど、おおきな図体の男二人は、しかめっつらで腕を組む。

「この子、ぜってえ感じた、今! おかしいだろ、詐欺だぞ詐欺! いくら俺がうまいからってなぁ、期待裏切られちゃ困るんだよ!」
「ああはいはい、たまにはそういうこともあるだろうよ。いたわしいフェチに罰が当たったんじゃねえの、兄貴」

黒髪の男は初めてにやりと笑って見下ろした。兄、と呼んだことに驚く。美男子風の金髪と強面の黒髪、まったく似ていないが兄弟だったのか。

「か、感じてない。今のは事故だ。許してくれ」

事態を重く感じたフィルが声を発すると、二人は目を丸くした。兄のガーゼルは「喋ったぞ! おい世界観どうしてくれんだ!」とわめき始める。

「ほら謝ってんだろうが、かわいそうに。いいから最後までやれよ。料金俺が払ってんだぞ」

なぜか味方についてくれた弟のスヴェンが、頭をくしゃりと撫でた。調子よく会釈したフィルも仕切り直しと言わんばかりに、サービスで四つん這いになり、尻を揺らして見せた。

「あ、そういうのいいから。萎えるんで」

冷めた声が聞こえたが、兄のほうがカチャカチャと無機質にズボンのベルトを外す。あらかじめしこんであるローションで中は準備万端だ。
早くこの男をイカせて、もう仕事を終わらせよう。

覚悟を決めたフィルはいっそう無表情を作り、仕事人の顔になった。
しかし。

「ひあぁあぁああんっっ」

聞いたこともない喘ぎ声が喉の奥から出る。

質量のあるぺニスが侵入した瞬間に、腰がくだけそうになった。
ずちゅずちゅと無遠慮に行き来する長大な逸物に、全身が性感帯のようになったフィルは枕にしがみつき悶えた。

「やあぁっ だめ、だめ、だめえっっ や、そこ、んやあぁっ

声が漏れる漏れる。
ありえない。今までどんな男に犯されても出し入れされてるだけで無感覚だったはずが。

ピストンと同時に男の文句と苛立ちが、ぱしん!と尻をはたかれる振動になって伝わる。

「ひゃあぁっん!」
「おいおい、なんだこいつは、俺は違う店に来ちゃったのかな? なんでお前感じてんの? 確かに気持ちはいいけどさぁ、ざけんなよこのエロ顔美少年がッ!」
「やっ ああっ んあぁっ ごめんなさっ いぃいぃ

その後も「何気持ち良さそうにしてんだ淫乱!このプレイ誰得だ?お前得なだけだろうが!」などと罵られ、フィルは声がかすれるまで休みなしでガン堀りされた。

ベッドの上で容赦ない兄を見かねた男が近づいてくる。

「兄貴、もうちょい優しく抱いてやれって。喜ばしいことだろ、男なら」
「ああっ!? てめえかっこつけてんじゃねえ、こいつの指名料高えんだぞ、元取れねえでどうすんだ!」
「だから払ってんの俺だからな。あんた腰ふってるだけだろーが」
「ひっうう 感じちゃってすみません もうタダでっ 俺なんかタダでいいからぁっ

あまりの快感にフィルがプロにあるまじき台詞を口走る。
「いいのか?」と一転動きをとめる現金な兄を見て、大人な弟はため息をつく。

いったんガーゼルの逸物を抜かせて、二人を引き離した。
真ん中にどさっと腰を下ろすスヴェン。
いまだとろけた顔立ちの少年を優しく見やり、語り始めた。

「悪いな小僧。この男は見てのとおり巨根でな、大袈裟に喜ぶ女どもに飽きてこんな残念なフェチになっちまったんだよ。……でも俺は違うぜ? 素直に感じまくるやつは大好きだ」

見とれるような人なつっこい笑顔に、フィルは胸が無意識に高鳴った。
横から「何俺のもん口説いてんだてめえ!」というガーゼルの横やりが入ったが、気づけば少年の身軽な体は、このガチムチの黒髪の膝の上に座らせられていた。

「あ、あの……もうすぐ時間の二時間経つんで……」

なにやら不穏な空気を感じとり、我に返ったフィルが主張すると、弟のスヴェンは自らのシャツを脱ぎ、その誰もがうらやむ肉体美をさらした。

そしてズボンから大きなぺニスを取り出す。
「三時間に延長な」と笑顔を浮かべたあと、頬にむちゅっと分厚い唇を押し付けてきた。

さて、役割は交代する。
それからフィルは今度は弟に、シーツに正常位で押しつけられ、激しい種づけを余儀なくされていた。

兄弟そろって巨根な予感はしたが、スヴェンは兄よりもさらに立派なものをぶらさげていて、なによりその引き締まった巨体から激しいピストンで突かれると、もうどうしようもなくなった。

「あ、っ、あぁーっ んやあっ やあっ! だめえっ激しいよおっっ!

開いた太ももの間に男が覆い被さり、汗をにじませながらフィルの腰を揺さぶる。

「へっへ、可愛いぜ、んなとろけた顔しやがって、そんなに気持ちイイか? 俺のおっきいちんぽは」
「んあぁっ きもち、いいっ 好きぃ 好きなのっっ

スヴェンは返事に満悦し、頭を撫でてベットリとしたキスをする。
兄とは違い優しさに包まれるような濃厚セックスに、こんなの初めてだ……と半ば放心状態で身を投じていた。

それを同じベッドの上で、全裸であぐらをかき冷ややかな目で見る男がいた。兄のガーゼルだ。

「お前ら楽しそうだな。なに俺の目の前でイチャイチャ甘々セックスしてんだよ」
「なんだ? まだいたのか兄貴。俺こいつ気に入ったわ。すっげえ可愛い、持って帰ろっかな」

挿入しながらあやすように愛撫するスヴェンに、理性が飛びまんざらでもないフィルは「帰るっ帰るっ」と同調していた。
変わり果てた二人に呆れる兄ではあったが、欲求不満の逸物がまだ硬いままなのを弟が気にかけてやる。

「ったくしょうがねえな。俺の兄貴のちんぽまだ満足してねえみたいだ。フィル、お前好きだよな? 俺たち兄弟のちんぽ。よし、くわえてみろ」
「ひゃ、ひゃい

また四つん這いになったフィルは、後ろから弟に奥を突かれながら、兄のを喉の奥まで飲み込む。
フェラは得意ではなかったが、中の気持ちよさに全身から口の中まで敏感になり、美味しく感じた。

「ふっふむぅっ はふ おいひ おちんちんうまい
「……あーっ…いい……やっぱスケベだわフィル君。でももっと嫌そうな顔でやってくれる? ねっ?」

甘く悶える声で請われるもののもう無理だった。
快楽に落とされた少年はすでに、不感症ではなくなっていた。この兄弟の前では。

「おい、やっぱ変われよ、もう一回俺も掘るわ」
「ああ? やだよ、まだ二発しか出してねえんだから俺」
「十分だろうが! お前のほうが若いんだから兄に譲れこの野郎!」
「んああっ 喧嘩しないでっ どっちのちんぽも好きぃっ

渋々兄のガーゼルに譲ったスヴェンは、しばらくまた激しめに犯される少年を見ていた。その瞳はこの店では珍しく、なにやら思案げで魅惑的な視線だ。

「おい、スヴェン。支配人呼んでこい」
「……ええっ なんでですかっ やだ、やだっ クレームしないでっ
「そうだよ、俺達十分楽しんだだろ、諦めの悪い奴だな」

事後の煙草を吹かしながら、スヴェンはそれでもしつこい兄の言うことを聞いてやった。
店の人間を呼びつけるのは初めてのことじゃないからだ。

しばらくして黒ずくめの制服を着た男が現れる。
湿気に満ちた部屋の大きなベッドでは、まだガーゼルがこれみよがしにフィルを抱いていた。

「あっ、あっ 見ないでください支配人っ
「これは……どういうことでしょうか」
「見てわかんねえか! 不感症風俗なのにこの子めっちゃ感じてるよなぁ!? どういうこと? 詐欺だよな詐欺!」
「……申し訳ございません! 私にも何がなんだか……どうしちゃったのかな? フィル君…?」
「お、俺もっ わかりませんっ だって この二人っ 気持ちいいからぁっっ

色づいた悲鳴を上げ、背面座位でびくびくと腰がしなり、ついでにペニスの先から無意識の射精を行ってみせるフィル。

唖然とした支配人の男は観念し、即座に床で土下座をした。

「申し訳ございません……!! きっと警部補の逸物がすばらしすぎてこうなったのでしょう、どうかお許しを……!」
「ほほう? 俺のちんぽが最高品質なのは認めるが、客のニーズを無視したやり方は困るんだよなぁ。いままで大目に見てやってたが、お前ら全員逮捕すんぞコラッ!」

裸体の金髪男が本気の形相で凄みだし、支配人が固まる。ついでにフィルも目をぱちくりさせていた。

「え。あなた、刑事なんですか……?」
「おお。それがなんだ? 刑事だって男だぞ。風俗にだって来るさ」

爽やかな供述におびえたフィルは尻を振ってペニスから離れた。
勢いあまって近くに立っていたスヴェンに抱き留められる。

黒髪の弟は「実は俺もなんだわ。黙っててごめんな」と優しい顔でおでこにキスをした。
内心阿鼻叫喚のフィルは急いで頭を下げ服を着て逃げようとしたが、スヴェンの長い腕に絡めとられ傍らに捕まってしまう。

支配人とガーゼルはその後もぶつぶつやり取りをしていたが、今回の料金は無料ということで方がついた。しかも不幸はそれだけではなく、フィルは支配人から「君もうクビね」とあっさり切られてしまう。

「そんなあ……進学資金ためてたのに……仕事なくなっちゃったよ。……どうしてくれるんだ! あんた達のせいだぞ!」

全裸で憤り、すでに服を着こんだ兄弟に詰め寄る。すると一瞬憐れみの目を向けた弟のスヴェンは、優しく上着をその細身にくるんだ。

「まあそう怒るな。もう俺は決めたぞ。俺達の家に来いって。さっきお前もいいって言っただろ? 仕事見つかるまで世話してやるからよ」

頬にいたずらするように指でつんつん突っつき、スヴェンの笑みに見下ろされる。
愕然としているフィルの肩を、仏頂面の兄が強引に引き寄せる。

「は? お前なに勝手に決めてんだよ。完全に美少年の体好きにしようと思ってんだろ。俺のお得な取り分は? 減るよなぁどう考えても」
「別にいいだろが、順番で。……な、お前他の男じゃ感じねえんだろ? 俺らなら毎日イかせてやるぜ?」
「……えっ

男達の甘い視線と囁きに、自動的に声が出てしまった。
この時点でフィルの処遇は決まる。

二人はそもそも店の経営を見逃す代わりに、指名や内容を優遇されていた悪徳警察官だった。
だが幸か不幸か、抜群の体の相性によってフィルを不感症から救い出し、その年にふさわしい生活も与えてくれた。

フィルは今や、おおむね幸せを感じている。
夜毎兄弟のどちらか一方、または両方に愛され可愛がられ、ときには喧嘩の種となりつつも。



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