俺の呪いをといてくれ | ナノ


▼  100 俺だけを見て ※

男娼館での任務を終え、俺達教会の魔術師は司祭に労いの言葉をかけられ、騎士団領内への帰還を許された。
魔族を風俗店に従事させるという違法行為の摘発を受け、店の首謀者や顧客らも騎士団によって捕獲され、今頃きつい尋問を受けていることだろう。

もちろん騎士団長である弟も中心となり、忙しなく働いているに違いない。
現にもうすぐ深夜だというのに、奴はまだ部屋に戻って来ていなかった。

(早く帰ってこないかな……でもあいつ、まだ怒ってるかな)

クレッドは男娼役で潜入した俺を助けに来てくれた。けれど、緊縛された客と一緒にいるところを見られ、誤解されてしまったのだ。

弟の部屋で待っているように言われた俺は、とりあえず勝手に風呂に入り、寝間着に着替えてソファで本を読んでいた。
夜も更けてくると飽きてきて、寝室のベッドへと潜り込んだ。

布団に顔を埋めると、弟の匂いがした。あいつはいないのに近くに感じて、不思議な気分になってくる。
……今日もここで、するのかな。いや、もう遅いし眠るだけだろう。
でも大人になってからは、ただ寄り添って寝るということをした事がない。

ああ。俺はまた何を考え始めてるんだと急に恥ずかしくなり、頭から布団をかぶった。
すると余計に二人の情事を思い出し、息苦しくなってきた。

「っはぁ、」

布団を剥ぎ取り、浅い息を吐く。少しの静寂の後、俺はおもむろに腹に手を当てた。するすると指を下のほうに滑らせていく。
駄目だ、あいつが今帰ってきたらどうするんだ。
けれど理性とは反対に、刺激が欲しくなってきた。弟のことを思い出し熱くなった体に、手の動きが急かされていく。

「……んん、……う、ぁ」

硬くなりつつあるそれに指の腹を這わせ、少しずつ動かした。わずかな摩擦でも気分が昂ぶってきて、腰がびくびくと揺れる。
時折クレッドの名前を呼んだ。すると余計にあいつの温もりが恋しくなった。

「はぁ、ん……んあぁ……っ」

動きが抑えられなくなってきて、汗がじわりと滲んでくる。
早く達したい。出してしまえば、高まってしまった欲求から解放されるだろう。

その時だった。ドン、と乱暴に扉の開閉する音が聞こえた。
ーーうそ、弟が帰ってきやがった。またこんなタイミングで。

一気に血の気が引いた俺は、慌てて下着と寝間着を元の位置に戻した。
焦り過ぎたのか、意味もなく再び布団の中に潜り込み、扉に背を向けて体を丸めた。

クレッドは足音を鳴らし、すぐに寝室に入ってきた。
息を殺して背後に神経を集中させていると、ばさりと服が床に脱ぎ捨てられる音がした。
ベッドの軋む音が聞こえ、驚いた俺が反応する前に、突然体の上に奴の重い体がのしかかってきた。

「んぐぅッ」

いつもと違い遠慮なく体重をかけられ、思わず変な声が出た。

「んぁあっ重い! なにしてっーー」
「兄貴こそ何してたんだ。これ、なんだよ」

腰に巻き付いた弟の手は、いつの間にか俺の寝間着のズボンを這っていた。
上からソコを指でなぞられ、背中をぐっと仰け反る。
なんで? すぐバレてんだ。

「やめろ……っ、触んなっ」
「もう硬くなってる。興奮するようなこと、あったのか?」

容赦のない声に苛立ちが含まれている。
さっぱり意味が分からない。なんで開口一番責められてるんだ。
普通帰ってきたら、ただいまのキスぐらいしてくれてもいいんじゃないのか?

振り向こうと思っても、後ろから羽交い締めにされて動けない。

「興奮って、なんだよ。お前とくっついてたら、そりゃこうなっちゃう事もあるだろ……」

腕をぎゅっと手で掴んで呟いた。本当はその前からだけど……
半分嘘ついたのを見抜かれたのか、クレッドは俺の下着をずりおろし、勃ち上がったモノを手のひらで押すように撫でてきた。

「ん、んぅっ」

さっき求めていた刺激より強いものが与えられ、腰を震わせる。
厳しさをまとう弟に怯えながらも、もっと触って欲しいと考えてしまう。

「違うな、兄貴。……身体が汗ばんでるぞ。服も濡れてるし……一人でしてたんだろ?」

責めるような冷たい言い方に、羞恥以上に急激に反抗心が込み上げる。

「うるせえなっしてねえよっ」

見え透いた嘘だが素直に認めたくない。すると後ろに強く腰を押し付けられた。
俺を抱く腕にも力が入り、奴の荒い感情が伝わってくる。

「今日何があったんだ? 何をした? 正直に話せよ」
「な、何もしてない……客にも尋問したんだろ、なんで……信じてくれねえんだよ」
「兄貴の口から聞きたいだけだ。だって……すぐにこんな風に、なってるだろ」

焦燥と怒りが入り混じった口調で、さらに強い刺激を与え始める。
先はもう濡れて、卑猥な音が響いている。抵抗したい気持ちと、もっと弟に触れてほしい思いが重なり、開いた口からはただ喘ぎが漏れてしまう。

俺が答えないことが気に食わなかったのか、そのまま執拗に責められ続けた。

「クレッド、もう、いく」
「……俺の手、気持ちいい? ……いいよ兄貴、いけよ」

突き放すような言葉に胸がずきりと痛む。けれど体は抑えきれなかった。
下から込み上げるものを感じ、数度腰をしならせると、全て吐き出してしまった。
横向いた体から、シーツに白い液がぽたぽたと流れ落ちる。

弟は、今度はその精液をすくい取り、俺の尻にあてがった。真ん中に塗り込み、指を中に入り込ませていく。

「んん……なに……やだ、まって」

俺の腰を抑える弟の手首を掴み、制止しようとする。けれどクレッドは無言で中を掻き回した。

「あ、ん、あぁ」

いつもの愛のあるやり方ではない。一方的に複数の指でただ中を押し広げていく。
こんなの嫌だ。まだこいつの顔も見てない。口づけだってしてないのに。

クレッドはそんな俺の意思もどうでもいいかのように、寝間着を下着ごと全部脱がし、片足を持ち上げて自身を尻にあてがった。
断りもなくズブズブと挿入し、性器の先が奥まで達してくる。

「んああぁっ」

俺は咄嗟の衝撃に耐え、すぐに深く息を吐いた。強引にされても弟を受け入れようと必死の気持ちで、奴の腕をぎゅっと掴んでいた。
そのまま何度も揺さぶられ、下から突き上げられる。
その度に声を漏らし、弟の名前を呼び続けた。

「は、あぁっ、んん……クレッド……!」

名前を呼ぶと、わずかに動きが鈍る。
けれどすぐにまた自身を打ち付けてくる。

俺がいつものように文句を言ったりせず、ただ受け止めていることに苛立つかのように。
その執拗な動きは段々と激しさを増した。

「兄貴……そんなに気持ちいい? いつからこんなに、いやらしくなったんだ?」

問い詰められて、少しカチンと来た。
俺は喘ぐのを堪えつつ、すぐ後ろにいる弟を睨みつけようとした。
すると唇を強く塞がれた。突き上げはまだ止まない。
わずかに開いた口から息が漏れ、反論がただの情けない喘ぎに変わる。

「んんっ、ん……ふっ……」

だらしなく開いた口元を指でなぞられ、そのまま長い指を差し入れられた。
俺はその指を咥えて、丁寧に舐め始める。
こんな事を素直にしていたら、弟が怒るのも無理はないかもしれない。
でも俺がこうするのは、こいつの事が好きだからだ。

弟に、飢えている。
キスも、口も、体の中も、クレッドを欲しがっている。
無理やりされても自分の欲求を抑えきれず受け入れてしまうほど、理性を手放しても弟が欲しい。

「んふっ、ふむっ、んんっ」

ちらりと見えた弟の顔は焦燥を募らせていた。
俺のことをどう思っているんだろう? こんな俺のこと、やっぱり嫌だろうか。

激しく打ち付けられ、背中を大きく揺さぶられる。
口から指を引き抜かれ、再び言葉を発するのを許される。俺はすぐに弟の名を呼び求める。

「クレッドっ、ああっ、もうだめ、いくっ」
「……後ろもイキたい? じゃあもっと俺にお願いして」

耳に舌を這わされ、ぞわっとくる低音で囁かれた。
戸惑う俺に対し、急にわざと腰の動きを弱める。ぬるっとした感触がゆっくり伝わってきて、刺激の形が変わってしまう。

「あ、あぁ……」
「ちゃんと言って、兄貴。……兄貴は、何が欲しいんだ?」

腰に回された腕を掴む。本当は全てを繋げて求めたい。優しい顔を見て、甘い言葉を囁き合って、深い口づけをして。
でもこいつの不安な気持ちが痛いほど伝わっていた。俺はそれに答えたかった。

「お前が、欲しい、お前だけだ、クレッド」

息も絶え絶えに告げると、弟の身体が強張った。俺は構わず言葉を続けた。

「他には、何も要らない、俺には、お前だけ……っ」

我慢が出来ず、再び顔を後ろに向けた。弟の唇に視線を合わせ、自分の口を寄せる。キスをすると、動きを止めていた弟が舌をきつく絡ませ、俺に応えてくれた。
口づけは深いものに変わり、再び下から強く突き上げられる。

「ん、ンンっ」

やっぱりキスしながら繋がっているのは気持ちいい。自分の思いを告げたことにも胸が熱くなる。
俺は縋るように背を弟の胸板にぴたりとくっつけて、動きを合わせた。
やがて口を離され、目をじっと見つめられる。
浅く息づく弟が、何か言いたげな切ない瞳をしている。俺はさらに弟を求めつづけた。

「あああぁっ」

下腹部が何度も痙攣し、中が達したのを悟る。
けれど弟はすぐに自身を引き抜こうとした。とっさに手を握って阻もうとする。

「なんで……やだ、そのままにして……」
「兄貴の顔が見たいんだ。大丈夫、すぐにまた一緒だ」

打って変わって優しい声で告げられ、心臓がどきりと高鳴る。
弟は宣言どおり、俺を仰向けにして上に覆いかぶさってきた。足を持ち上げて再び中に自身を挿入させる。
いったばかりで敏感すぎる体だ。普段なら拒んでいるのに、俺は弟を待ち望んでいた。

クレッドは眉を寄せて俺を見つめてくる。

「ごめん、兄貴。俺また……余裕が無さすぎた」

ぽつりと呟き、深い色を映した蒼い瞳が、どこか後悔と申し訳なさを滲ませているように見えた。
俺は弟の頬に手を触れ、親指でゆっくりと撫で上げた。

「俺の体、そんなに心配なのか……?」

静かに尋ねると、クレッドはこくりと頷いた。
元気のなさ気な様子に、俺は両手で弟の顔を挟んで、真っ直ぐに自分へと向けさせた。

「大丈夫だよ。俺はお前しか欲しくないって、言っただろ」
「……本当に? 俺だけを、見ていてくれる?」

子供のような不安顔で尋ねられる。久々に見せた弟の表情に、鼓動がドクンと脈打つ。

こいつは一体何なんだろう。荒々しく激情に身を任せたかと思えば、こうして昔のように縋る表情で確かめようとしてくる。
でも俺はそんな弟が、愛しくてたまらない。

「本当だよ、クレッド。これからも、お前のことだけ見てる。何度でも確かめていいぞ、答えてやるから」

安心させるように真剣に言うと、弟は突然俺に抱きついてきた。
中に入っている弟のモノが急に奥を突いてきて、刺激に大きく腰をビクつかせてしまう。

「んあぁぁ! いきなり動くなバカッ」
「分かった、兄貴。俺……ごめん。いつもこんな風になって……」

快感に震えながら、俺の頬にすり寄せてくる弟の髪を撫でる。
肌を隙間なく密着させ、弟の熱が伝わってくる。
ああ気持ちいい。やっぱり心を通じ合わせないと、本当の気持ち良さは胸の奥まで届かないんだ。

「別にいいよ。でももうちょっと、優しくしろよ。俺は優しいお前のほうが好きだ」
「……うん。もうあんな事、しない。たぶん……」

たぶんなのかよ。唖然とするが、とりあえず聞き流した。
しばらくあやすように頭を撫でていると、クレッドがゆっくりと顔を上げた。
もう余裕を失った険しい顔はなく、頬を赤らめながらも、真剣な表情をしている。
けれどちょっと信じられないことを言ってきた。

「兄貴、さっきみたいに、そういう気持ちが抑えられなくなったら、絶対にすぐ俺のとこに来て。いつでもいいから。俺が全部受け止めるから」

……それは嬉しいが、さっきみたいって何だろうと考えてしまう。
しばらくして、俺が汗だくになってしてしまっていた自慰のことを思い出した。
急激に顔が火照ってきて、思わずサッと目を逸らす。

でもやっぱり、こいつが勘違いしてたら嫌だから、正直に話すことにした。

「おい。俺はいつでもどこでも盛ってるわけじゃないぞ。……さっきはお前のことベッドで待ってて、色々匂いとかも思い出して、そういう気分になっただけだ。だ、だから全部お前のせいなんだよ、お前は俺のことやらしいとか思ってるかもしれないけど、本当に全部お前が悪いんだからな!」

何故かもの凄い長文になったあげく、語気が強まり、若干逆ギレの姿勢になってしまった。
弟は俺の告白に対し、目を丸くした。完全に驚きの表情で固まっている。

「そうなのか? 兄貴、俺のこと考えて、したりするのか……?」

こいつは俺を何だと思っているのだろう。普通ではないかもしれないが、俺だってただの男だぞ。

「なんか悪いかよ。好きな相手なんだから、したっておかしくないだろ」

開き直って告げると、弟は瞳を潤ませ、感動の面持ちで震えていた。
「兄貴……ッ!」と言って再び抱きつかれ、さらに奥深く侵入してきた弟のモノに腰が跳ね上がってしまう。

「ああぁっ! ……っもう、なんだお前! 動くなら早く動けよッ」

弟が身動きする度に意図せず焦らされてる感じになり、俺はなんのムードもなくそう言い放った。
さっきまでの殺伐とした雰囲気が嘘のように、気がつくといつもの俺達になっている。
クレッドはまだ熱に浮かされたような、嬉しそうな顔でじっと見つめてきた。

「動いていい? ……今からもっと、してもいい?」

馴染みのある柔らかい笑みを向けられ、俺もどこか温かい気持ちで頷いた。

俺が自分の中に感じる変化に戸惑うように、クレッドも色々な思いと不安に晒されているのだ。
俺たちは二人で、その感情をどうにかしていかなければならない。無事に呪いがとけて、心置きなく互いを求め合うことが出来るまで。



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