お父さんにお世話してもらう僕 | ナノ


▼ 38 未来への道

手首の骨折から四ヶ月が経ち、ようやく父は現場仕事へと復帰した。プレートの除去手術まではしばらくかかるが、日常生活や車の運転は可能で、激しく使用しなければ問題ないと主治医の判断が下ったためだ。

バス停での出来事があって以降、僕はしばらく介護タクシーを使っていた。でも今では行動にもっと気をつけるという約束のもと、週の半分は父の送迎、もう半分はバス通学をしている。

今日は支援学校の終わりに父が迎えに来てくれて、帰りに経営する電気屋の事務所に向かった。受付のコルネさんと挨拶をし、僕はそのまま父のオフィスに入らせてもらった。

ファイルが収まった棚に囲まれ、事務机にパソコン、テーブルを挟む客用のソファなどが置いてあり、こざっぱりとしていて明るい室内だ。
ここに入ったのは小さい時に両親の仕事の様子を見にきて以来で、不思議な気分になる。

「わあ、すごいなぁ。お父さんちゃんと仕事してるんだね。片付いてるし」

前に二人で選んだ、きちんと手入れされている窓際の観葉植物を眺めて呟く。すると書類を漁る父から「当たり前だろ」と笑い声が届いた。
電気技師の作業着は見慣れてるけれど、職場を目の当たりにすると父が余計に働く男の人っていう雰囲気をまとっていてドキドキした。

もう少しで終わるから、という父に従い車イスで待っていたときのこと。扉が大きく叩かれて、外から男の人が顔を出した。
父よりもがっしりとして大柄な、同僚のセルヴァおじさんだ。

「おおっ。ここにいたのかよ。ロシェ、元気してたか?」
「うん、久しぶりおじさん!」

短い茶髪がトレードマークのおじさんに、がばりとハグをされる。仕事場では引き締まった顔立ちで、父同様なんだか格好よく見えた。
でも笑って僕の頭を昔みたいにくしゃくしゃ弄ってくる姿は、いつもと変わらず安心する。

「ああ、良かったなぁロシェ。こいつが元通りになって」
「うん、そうだね。セルヴァおじさん、僕もだけどお父さんがお世話になって、本当にありがとう」

自分が言うのは変かなと思ったけれど、仕事の面では父もかなり助けられたと話していた。事故の時もそうだったし、おじさんにはいつも親子そろってお世話になっているのだ。

ぺこりと下げた頭を上げると、目を丸くしていた彼だったが、やがて「ははっ!」と大きな声で笑った。

「何言ってんだロシェ、こんなの世話のうちに入んねえよ。いいか、俺が言ってんのはな、デイルがいつも通りお前に構うことが出来るようになって良かったなぁ、ってことだ」

片眉を面白そうに上げて腕を組みながら、父に意味ありげな視線を移す。作業をとめた父はじろりと見返したあと、眼鏡を触って「余計なこというな」とぼやいていた。僕はそんな二人を交互に見やる。

セルヴァおじさんはソファに回り込み腰を下ろし、僕に目配せした。

「だって酷かったぜ、ああ今の俺は役に立たない、あいつを助けてやれないだの、終始どんよりしてな。この前だってお前が時間通りに帰って来ないからって大騒ぎしてーー」
「おいセルヴァ! 喋りすぎだ!」

親友で幼馴染みのおじさんの胸ぐらが上の方に引っ張られた。両手を上げて笑いながら降参しても、父は顔が赤くなって怒り半分のように見えた。

「そうだったのお父さん、ごめんね僕っ」
「いいんだよ。俺が勝手に弱気になってただけだ。もう治ったんだから、何も心配するな」

そう断言されてしまうけれど、僕は気になった。しかしセルヴァおじさんは父をからかうスイッチが入ってしまったようで、仕事そっちのけで上機嫌にくつろぎだす。

「そういやロシェ。お前卒業したらうちで働くんだってな。楽しみだなぁ俺も」
「……ええっ! なんでそれっーー」
「お、お前な、その話はまだ決まってないって言っただろっ」

急な話題に度肝を抜かれた僕の台詞を父が遮り、今度は本気で怒り焦っていた。
お父さん、セルヴァおじさんに話してたんだ。話が僕の将来に移り途端に緊張する。

「でもおじさん、僕ね、まだ自信がないんだ。やる気はあるけどさ……」
「おお? それで十分だよ。お前は真面目だし、努力家だって俺達は知ってるからな。まあ言っとくが、俺は最初は厳しくするぜ? たぶんこいつは激甘だろうからな」

にやりと笑むおじさんに背筋が張る。ちらりと目が合った父は「俺だって厳しくーーいや、やっぱりお前に任せる」と言ってきておじさんに「降参早えよ!」と突っ込まれていた。

それからもまだ全然気が早いのに、二人の間で僕に何をやらせるかと盛り上がっていた。本当にいいのかな、と思う反面、嬉しい気持ちや好奇心が湧き始めてくる。

「ああ、すぐに帰る予定だったのにお前のせいで延びた」
「それは悪かったな。あーそうか、今日父の日だもんな」
「なんで知ってるんだ」
「そりゃ知ってるわ、毎年羨ましいからな」

二人は最後まで仲の良い小競り合いをしながら、やがて僕らはセルヴァおじさんに見送られる。同年代と喋っている父はいつもより喜怒哀楽が出たり可愛らしさみたいなものがあって面白い。怒りそうだから言わないけど。

おじさんが言った通り、今日は父の日だ。本当は僕がなにかご馳走を作りたかったのだが、平日であまり時間がなかったため、ケーキを買って帰ることになった。僕が店頭で勝手に選んだから、普段より非日常感はある。

帰宅して、簡単に夕食を取ったあと、デザートの時間になった。お気に入りのお店のだが、父は「お前が買ったやつだからうまい」と言ってぱくぱく食べてくれた。

父はそれで終わりだと思ったのだろう。僕はその前に車イスを自室に走らせ、プレゼントを取りに行っていた。
正直、ちょっと苦い思い出になってしまったものだが、恋人になってから初めての贈り物だし、勇気をこめて贈った。

「ん? 俺にくれるのか」
「そうだよ。はいっ、お父さん」

包み紙を渡して、開けた父はみるみるうちに瞳を柔らかくする。中に入っていたネイビーのシャツを見て驚き、自分に当てて、「格好いいな。センスあるなお前、ありがとう」と喜んでくれた。

抱き締められて、頬にちゅっとキスをもらったあと、本題が始まった。

「でも、どこで買ったんだ? このシャツ」

僕はぎくりとしてから、正直に話すことにした。また怒られるかと思って父の顔色をうかがっていると、父の瞳が大きく揺れ動いた。

「お前な、そういうことは早く言えって。……俺の、ためだったのか……」
「……えっと、ごめんねお父さん。だって僕、びっくりさせたかったんだ。失敗したけど……」

恐る恐る告げると、父は何か言いたげな困り顔で見つめてきた。

「失敗じゃないよ。本当に嬉しいぞ。ありがとうな、ロシェ。……だがもう無茶するな」

ぎゅうっと肩が父の両腕に抱き寄せられる。僕は「はい」と素直に返事をしたあと、大人しく反省をしていた。

ところが父が体を離し、まっすぐに向き直る。どうしたの?と聞いたら、黙って唇にキスをされた。食卓前だといつも恥ずかしいから沈黙が生まれる。それを破ったのは父の思わぬ提案だった。

「ロシェ。俺が治ったらお前に言おうと思ってたんだが」
「……なあに?」
「旅行に行かないか、今度」

突如発せられた単語に、目を剥く。

「え? 皆で行くの?」
「いや俺は二人で行きたい」

即答されて、膝に置いた手が父の手で覆われた。
二人でお父さんと旅行ーー。てっきり家族とか友達同士でいくのかと思ったから驚いた。

前にした父とのデートを思い出す。あれからも二人でのお出掛けはあったけど、泊まりがけは初めてだった。

「うんっ。僕も行きたいな」
「どこがいい? お前の好きなとこに連れてってやるよ」

父は僕が行きたがるか分からなかったみたいだけれど、すぐに返事をすると身を乗り出して尋ねてきた。
僕は車イスで、観光地をめぐったりするのは色々と準備がいるし、まだ難しいかもしれない。

考えた矢先にあることを閃いた。

「えっとね……海がいいなぁ。すごく久しぶりだし。お父さんと広い海が見たいんだ」

素直に告げると父は意表を突かれた様子だった。でも、二人ともきっとまだ山に行くのはつらくて厳しいと思う。しかし元々自然が好きな僕達家族だから、いい案だと考えたのだ。

「よし。そうしよう。じゃあ海な」
「お父さん泳ぎうまいもんね、見せてね」
「えっ。泳ぐのか?」
「うん、僕も泳ぐんだー」

冗談を言うと父は焦っていた。
もうすぐ夏が来るし、気温的にもちょうどいいかもしれない。
その日から僕は父と二人きりの旅行が楽しみになっていた。

でも実はその前に、父も待ち遠しくしていることがあったみたいだった。



その日の夜の出来事だ。僕は父に一緒に寝ようと誘われた。
正直、もしかしてと思った。こっそり期待はしていた…けれど。

「ねえねえお父さんっ、父の日にこんなことしちゃっていいのかなっ?」
「いつでもいいだろ別に。俺達は恋人同士だろ?」

眼鏡を外した父の目が据わっている。なぜか目つきが鋭く、ベッドに寝そべる僕の上で、息づかいを荒くしていた。
こんなお父さん珍しい。興奮を隠す素振りもない。

僕は身体中に愛撫を受けて、もう素っ裸だ。風邪を引かないように父と布団が覆い被さってはいるものの。

「ん、んぅ…あっ…あ…っ」

そっと片足を折り曲げられて、気持ちのいいところに指を這わされている。ジェルで中を行き来し、優しくほぐされていたところ、父が僕の耳にささやく。 

「いいか…? もう少し柔らかくしような、ロシェ…」
「…んっ、んぁ……平気、お父さん…もういれて……」

二人とも息を上げながら視線が合う。だが僕の言うことを信じなかった父は、しつこく細かな刺激を与えてきた。
じんじん擦れてきて、疼くのが我慢できずに僕はいやいやをする。 

「大丈夫だってばぁ…っ」
「だめだって、何ヵ月ぶりか知ってるのか、俺がどれだけ我慢したとーー」
「平気なの、僕、自分でしてたから…!」

耐えきれずに白状すると父の動きが止まり、僕を驚愕の目つきで見下ろす。しかしそれは事実だった。

「自分でって……お前、いつの間にそんないやらしいことを……なんで俺に言わない!?」
「……ごめんなさいっ……だって、お父さんと早く、結ばれたかったの……!」

本当のことを言って父に抱きつく。僕は別にやらしい目的で準備してたわけじゃない。動く方の手でそこに手を伸ばすのは難しかったし、父のように気持ちよく出来るはずもない。ちょっとは感じたけど。

でも父が求めてくれたように僕も何かしたくて、そっちの努力はこっそりしていた。そう話すと父は急に「……ロシェッ!」と言って大きな体でのしかかってきた。

「んうっ」

完全には乗っていないけれど、重い体重が心地いい。筋肉質な腕にすっぽり僕の体が包まれ、父のペニスが僕の中に進んでくる。

ああ、気持ちいい……やっぱりお父さんだ。
じわじわと覚えのあるあつい熱が二人の体を侵し、夢みたいな世界へと誘われた。

「んあっ、あぁっ、はあっ、お父さん!」

ぎゅううっと抱きしめられたまま、腰を合わせて揺らされる。
視界も体も心も、全てが熱の霧に覆われて、父しか感じられなくなる。
二人とも待ちに待った瞬間だったからか、その時は間もなくやって来た。

「ロシェ、……ロシェ……ああ、だめだ…ッ……い、く……ッ!」

ビクビクビクッとペニスが動いたあと、僕も内側でいってしまい、快感に身を委ねた。「あっあっあぁっ」って叫んでから腰が自動的に震え、合わさった二つの体の隙間が瞬く間に濡れてしまった。

「あ、あぁ、やぁ……」

父がゆっくりと起き上がる。そして気がついた。僕のおちんちん、触ってないのに射精してしまっていた。
知らずに父の腹筋で擦られたのだろうか、恥ずかしくて急に昔を思い出した。

「違うのお父さん、これは……」

片手で顔を覆うと、その手に唇が触れてきて、そっと外された。
顔を見られてしまい、余計に赤くなって爆発しそうになる。

「恥ずかしい?」
「……そうだよっ」
「平気だよ、ロシェ。たぶん気持ちよすぎたんだろう」

さらりと言ってのける父が、黒髪をかき上げて眼鏡をかける。
僕はお腹を綺麗に拭き取られて、仕方なくじっとしていた。
シーツにひざをつき、ゴムを丁寧に取り、結んでいる父を眺める。

「お父さんはもう恥ずかしくないの? 前はずっとおちんちん見せてくれなかったのに」

指摘すると父は手の動きを止めて、ゆっくり顔を上げた。少し顔が染まっている。図星だったんだ。
すると突然僕の上にまた体ごと迫ってきた。怯えたふりをした僕は半身をくるりとひねり、ベッドにうつぶせになる。

「わあぁっ」
「こら。お前がそういうこと言うんなら俺もいじめるぞ」

裸の僕の上に馬乗りになり、耳元で忠告してくるお父さん。
実際は怖くなくてドキドキしてしまったのは秘密だ。
でも本当のことだった。父は驚くほど変わったし、僕達二人ともかなり大胆になった気がする。

「お前だからだよ、ロシェ。こんなに愛してるからだ……」

どきっとするような声音でくっついてきて、背中にぴたりと胸板が合わさる。

「お、父さんっ、おちんちんが…っ」
「ああ。仕方ないだろう。久しぶりだし、お前の可愛さには抗えん」

開き直った父が深いため息を吐きながら、僕のお尻に押し付けてくる。僕は枕に埋めた横顔を上げて、「もう一度して」ってねだってみた。
しばらく考えてから起き上がろうとした父の手を握る。

「そのままでいいよ、お父さん…」
「馬鹿を言うな」

案の定怒られたけれど、意図したことがすぐに通じたことに、さらに胸が高鳴る。 
今までの経験からそう言われるってことは分かっていたけど、僕にも考えがあった。

「お父さん、でも僕いつか言っちゃうと思うよ。だってわがままなんだもん。知ってるでしょう?」
「わがままなのはいい。俺に対してならな。だがなーー」

言葉を濁す父を振り返る。お父さんの顔が赤い。それに目をそらして、照れている。
もしかして……。

「お父さんも中で出したいの?」
「……ロシェ。お前はいつになったら言葉に気をつけるようになるんだ」

後ろからほっぺたをつつかれて、僕は顔が緩んでしまった。
すごく嬉しかったのだ。親子だけど何かが越えて、二人の感情がもっと一致したという感覚があったから。

父は長く迷っていたけど、じりじりと近づくお互いの気持ちがあふれるのを止められなかったのか、僕を後ろからぐっと抱え込んだ。

「あとで全部掻き出してやる。だから……お前をこのまま抱かせてくれるか?」

うなじから背の真ん中の線にそって、父の唇が下りていく。返事をしたいのに集中が途切れた僕は、そのまま直に父を受け入れた。

「……んあっ…あ…っ…はぁぅっ」

僕と父の間を何も隔てていない。熱くなったペニスが中を擦るたび、頭の芯からとろけそうになる。
後ろにいる密着した体がゆさゆさと揺れ、太ももも父の膝にがっしり固定され、枕を抱えた片腕も大切に上から握られた。

「ロシェ、可愛いぞ、好きだよ」

こんな体勢で後ろから甘い言葉を囁かれて、身動きが取れないまま僕もだよ、と必死に答えた。
すると手のひらで撫でた顔を横に向かせられて、口づけをされる。深く中まで絡め合い、全てが繋がった状態で僕らは重なりあった。

「ふっ…あぁっ…んぁ…あぁっ」

だんだん激しくなる律動に吐息をもらしながら、シーツに押し付けられたペニスとお尻の刺激に追い立てられる。

「お父さん、僕もういっちゃう、またイクっ」
「いいよ、一緒にいこうな、いつも一緒だ……」

きゅうぅっと胸がときめくのと同時に僕は自由を失い、腰をがくがく震わせる。そのとき最大限に抱きしめられ、耳元で父がうめく音が聞こえた。

「……っく……!」

繋がった場所の奥深くでペニスの脈動を感じる。どくっどくっと流れ込むお父さんのものがいとおしくて、最後の最後まで全身で感じ入ってしまった。

全て出されたあとに二人はくっついたまま、シーツの上でだらりと力が抜けていた。後ろで僕を抱えている父の心臓の音が聞こえる。
生きてるって感じて心地よく、あたたかな愛しさが身体中を循環した。

「……もうだめえ……」

つぶやくと、父は上体を起こそうとする。でも僕は離れたくなくて、右手で父の腕を手繰り寄せた。

「やだ、行かないでお父さん、もうちょっとだけ…」
「……ん? ……分かった、ロシェ。このままな……」

お願いを聞いてくれた父の体に包まれ、僕は二人の繋がりがもう離れないようにと、静かに祈り続けていた。



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