▼ 29 いつか来る別れ、約束 後編
父に抱っこをされたまま、大きなベッドに二人で潜り込んだ。昼間はここで今日一緒に過ごせるなんて、思わなかったな。
久しぶりに分厚い胸に顔を埋め、腕の中に閉じ込められる。所有を示されてるようで嬉しかった。
でも、父は疲れてると思い、僕も目をつぶるようにした。
ドキドキして眠れなかったから、薄明かりの中、眼鏡を外した父に話しかけた。
「お父さん、今日もお疲れさま。疲れたよね、毎日すごいよ、忙しいし大変なのに。いつもありがとう」
普段から思っていることだけど、感謝の気持ちとともに労りの言葉を伝えた。しかし父は瞳をゆっくり開けて、僕のことをほの暗い眼差しで見つめた。
「俺は少しも立派じゃないよ」
そう小さな声で呟かれて、はっとする。父らしくない反応に戸惑った僕は咄嗟に見上げた。
「どうして?」
胸に触れて問うと、その右手が反対に大きな手にぐっと握りしめられる。
「……お前を抱きたい、ロシェ」
低く感情を絞り出すような声が降った。
急激な鼓動の高鳴りのせいで、返事をする前にキスをされる。
父の唇が押しつけられ、僕は胸と腕の間に押し潰されそうになりながら、その熱い口づけを浴びた。
「…んっ、んぅ、…お、とう…さっ」
激しめの振る舞いで、感情をぶつけられているように感じる。抱きたいなんて言われたのは初めてだし、言葉の意味を考えて頭がぐるぐるした。
でも僕は大好きな父のことを100パーセント受け止めたいから、力いっぱい大きな体に掴まっていた。
布団の中で、服を脱がされていく。父は無言で興奮気味に僕に覆い被さってきて、自分も肌をさらして体を押しつける。
首を長い指先がなぞり、柔らかい唇が耳にはわさる。そのまま舌先で耳たぶを舐められた。
「ひゃっ…んあぁ…っ」
そんなところを愛撫されたのは初めてだった。頭の芯に直接響くような刺激に悶絶していると、耳全体が父の唇のせいでコントロール不能に陥る。
それだけじゃなくて、目が合うとキスで塞がれる。深く口づけられている間、僕の自由なはずの右腕が父の手に捕まって、頭の上へと押しつけられた。
力は優しいけど拘束を受けたまま、また鋭く視線を捕らえられ、性急に唇を重ねられる。
「んっ…ふっ……っん、んうぅ」
息苦しさと戦いながら必死に受け止めていると、父が起き上がった。布団がぱさりと落ち、肩幅の広い筋肉質な上半身に目を奪われる。
欲情を滲ませる赤みを帯びた目元で、男らしく髪をかきあげる様は色気すら浮かばせていて、僕は息を呑んだ。
しかし何も話さないで呼吸だけする父の視線は、僕の胸元に、そして太もものほうへと移り行く。
「……お父さん…?」
僕はドキドキが止まらず、たまらず声をかけた。すると父は両手を僕のわきにつき、体を近づけて見下ろしてくる。
息を吐きながら見つめ合い、僕の頬をいとおしそうに指の背で撫でる。
何か考えてるのかな、そう感じた僕は沈黙がもったいなく感じて、少し淫らなポーズのまま口を開いた。
「ねえ、好き……お父さん」
甘えた声を出してまたキスをねだる。すると父は喉を鳴らした。
また覆い被さってきて、僕の耳元に口を寄せる。「俺も好きだ」と短く言われて僕は馬鹿みたいに舞い上がった。
それから父の甘い口元はどんどん僕の下半身へと向かっていく。胸や脇腹に吸い付かれたあと、優しく太ももを開かされ内側にも唇が這う。
僕はなんでも父にされることなら喜んで受け入れたい。でもそこをまた口でされてしまうのは、抵抗感があった。
「や、やあっ、だめ、だってば…!」
僕のすっかり勃起してしまったおちんちんを指先に撫でられ、父が口づけついでに口に含む。大きさの違う舌に弄ばれ、唾液を絡ませきつく吸い上げられる。そんな快感に敵うはずもなかった。
「あっ、あん、ぅ、い、いく」
枕から顔を上げ、恥ずかしかったけれど父がしていることを見る。僕の片足だけ立った太ももの隣で黒髪が動き、なんて淫らなことをしているのだろうと目が眩んだ。
「や、もう出る、お父さん…っ!」
声を上げたとき、自分の意思に関わらずおちんちんが震えてしまった。あふれでる液の行方が父の口の中だと知ったときは、初めてされた時みたいに頭が真っ白になった。
「ばかあ……」
涙声で父を責める。足元でようやく顔を上げた父は、口を拭ったあと、やっと僕の近くに来てくれた。
「どうして? 約束だっていったのに」
「……今日は許してくれ」
それだけ言うと、僕の隣にどさりと体を倒し、また向き直ってきて長い腕で抱き締めてきた。
でも僕はそんな言葉でごまかされない。順番のはずなのに、父だけもう二回目だと反論した。
「次は僕もするって言ったよね」
じっと目を見つめて確かめると、困り顔を向けられる。ここで引いたら負けると思って、僕は今回こそは意見を汲んでもらおうとした。
「いいでしょう? そこに座ってよ、お父さん…」
父はいつものように「駄目だ」と即答しなかった。逆に本当に元気がないのかと心配になってくる。
言い出した僕が戸惑い始めてると、父は少し体を起こした。肘をついて、横向きに寝そべる僕を見下ろす。
そしておもむろに僕の唇を親指でなぞった。両唇をたどったあと、ゆっくり下唇だけをなぞる。その行為に鼓動が加速し、自然に唇を開いた。
すると父の人差し指が中に入ってきた。突然のことにびっくりするが、じっと見られながら、舌の上に長い指先がすべり乗る。
「ん……っ」
「……そのまま、舐めてみろ、ロシェ」
言われたことのない言葉を低い声音で囁かれ、舌が熱く灯るのを感じながら、僕は言うとおりにした。
「……っは、…ん……ぅ」
たどたどしく指をくわえてゆっくりと口を動かす。逸らされない視線と悪いことをしている気分に、頭がくらくらした。
でも父は、指を徐々に動かして僕にしゃぶらせる。
「いいぞ、ロシェ」
褒められたとたんに、僕は太ももをきゅっと擦り合わせた。なぜか下半身が熱くなってしまう。
きっと父は練習のつもりで僕にこんなことをさせてるのだろう。指が出来なかったら、おちんちんなんて大きいもの、もっと大変だからだ。
一生懸命していると、父が僕の顔の横に口を寄せた。息がかかり、今度は何をされるのかと警戒してしまう。
口を解放され、父が僕の右手をそっと握った。抱き寄せたまま、力強く自身を握らせる。
「分かるか、硬くなってるだろう? お前のせいだ、ロシェ……本当に出来るのか?」
問われた途端、全身がカッと熱くなる。
でも僕はもう父のことで頭がいっぱいで、早くしてみたいなって、父のを気持ちよくしたいってそればかりになってしまった。
出来るよ、と小さく答えると、父はやがて僕の答えを受け入れた。
体を完全に起こし、シーツの上に足を投げ出して座る。うつぶせに寝そべる僕も少し体を起こしてもらって、近くに身を乗り出した。
大きく反り立つぺニスを目にして、心臓がうるさく高鳴る。
父は呼吸するだけで何も言わなかったから、僕は指を伸ばし、触ってみた。
「ん…すごい……大きいね」
いとおしい気持ちがわきながら、父のやり方を真似して、手で握ってしごいてみる。上から聞こえる息づかいが僕の興奮を煽り、すぐに口づけたくなってしまった。
好きな人のだから、大切で愛しくて、触れたくなる。
最大の緊張をもって、先っぽの部分に唇をつけてみた。キスするように、上唇と下唇で挟む。
ちゅっ、ちゅって表面を吸ってみたら、父が低くうめく音が聞こえた。勇気を出して、もっと口内に導いてみる。
「んっ…んむ……ぅっ、んっ、む」
口を大きく開けてみて分かった。お父さんのって、すごく大きい。
僕の小さな口ではくわえるのも一苦労だけど、頑張るって決めた。
「…ふ、ぁ……っぅ、む……っ」
最初から全部奥までするのは難しいから、焦らないで半分ぐらいまで頬張り、吸ってみる。父がさっきしてくれたことを思い出して、ちゅぱちゅぱ吸い付き、口をつかってぺニスに刺激を与えようとした。
「……ああ、……ロ、シェ……」
初めて父が反応を示してくれる。嬉しくなって上目遣いで見上げると、父はずっとこっちを見ていたことに気づいた。
すぐに恥ずかしくなり、視線を戻す。
すると父の手が僕の髪の毛を優しくといて、邪魔にならないように耳にかけてくれた。
部屋になんだかえっちな音がずっと響いていて、自分がしてるのかと思うとたまらなかったけど、僕はぺニスをくわえながら興奮して、いつしか夢中になってしまっていた。
「……ロシェ、待て」
「ん、んぅ?」
突然止められて顔を上げる。
「大丈夫…? 気持ちいい? お父さん…」
「いや、……良い、すごく。……上手だな、ロシェ」
今度はやけに優しい声でそう呟いた父が、僕のほうに背を曲げる。何かと思ったけど、僕の唇を見つめ「キスしたい」とだけ告げて深く口づけをされた。
離されて目眩がする。僕はもとの場所に戻り、また快く父のぺニスを口で愛撫した。
好き、好き、好き。
お父さんのこと大好き。
頭の中がそんな言葉で埋め尽くされていく。おちんちんを口の中に頬張っているだけで、幸せな気分になってしまった。僕はおかしいのかもしれない。
でも父にまた止められる。今度はキスの中断じゃなかった。
「ロシェ、もう出る。口を離せ」
「…ん、んぅっ? や、だ」
「やだじゃない、だめだよ、おい」
強めに言われたけど、子供のように駄々をこねてぺニスを離さなかった。お父さんは飲んだのに、なぜ僕だけダメなの?
予想はしてたけど、反論する前に僕は口の動きを強めた。
その時だった。
「……くっ…!」
口の中のぺニスがびくびく波打つ。父の短い喘ぎが降ってきて、とっさに無理矢理腰を引かれてしまう。
驚いた僕はまばたきをする。離ればなれになってしまった、そう悲しむ前に、目の前に白い液が舞い散った。
ぴゅるぴゅる飛び出る精液が、開けっぱなしの舌先と顔にべちゃりとかかる。一瞬の出来事に驚いたが、父がイッた時の色気ある苦しそうな表情が目に入り、僕はそちらに目が奪われた。
「っは……あ、……」
硬い腹がまだ動き、濡れたぺニスを押さえ、胸で息をしている。
僕がぼうっと見とれていると、父は急に我に返ったように、起き上がった。
「悪い、大丈夫か、……ああ、顔に……」
僕を起こして座らせたあと、父が半分動転した様子で、僕の頬を手のひらで拭った。お父さんのを最後まで飲めなかったのは残念だけど、僕は明らかに満たされていた。
「大丈夫だよ。ねえねえ、僕のも気持ちよかった?」
「……ああ。見ただろ、早くイッたの…」
少し気まずそうに頭を掻いていたけど、僕は結構長く感じた。何にせよ、僕が父をいかせたのだという達成感と多幸感はすごかった。
「ロシェ……」
父に優しいキスをされ、また温かい腕の中に包まれる。でも切なげな雰囲気に見えたから、僕はまた少し気になってしまった。
父のことだから、もしかして僕に悪いことをさせたとか、考えてるかもしれない。
けれど、予想外なことに、父はこう語った。
「……ああ、こんなことをしたら、俺はもう、余計にお前を離せなくなるぞ……」
ぎゅうっと抱き締められて、父の独り言のような台詞に返事をしたくなる。
「どうして駄目なの? 離さないで、お父さん……。それに、してもいいんだよ、なんでも。だって僕たち、特別な関係でしょう?」
言い方は分からなかったけど、言おうとしていることは伝わってほしかった。
父は体を僅かに離し、揺れる瞳に僕を映す。
「そうだよ」
たったその一言が、僕を十分幸せにした。
「じゃあ、……お父さんはずっと、僕のそばにいてね」
突拍子のない言葉に聞こえたかもしれないけど、最近ずっと思っていた気持ちだ。
皆、僕のそばから離れていってしまうんじゃないか。そんな不安な思いを、今になってぶつけてしまった。
父は一瞬言葉に詰まったが、「ああ、ずっといるよ」と言ってもらえた。なぜか消えそうな声だったけど、腕に込めた力の強さで伝わってきた。
「ロシェ」
名前を呼ばれて、父を抱きしめる。
「俺は……お前を俺のものにしたいと、思ってるんだ」
「すべてだよ」
連続して、まっすぐに落ちてきた声に誘われ、瞳を見つめる。
目が勝手に潤んできて、優しく目元に触れられて。父の決意が伝わってきて、胸がいっぱいになる。
ーー本当に、信じてもいいの?
「うん。いつか、僕を全部お父さんのものにして」
僕の声は嬉しくて震えていた。
「約束して。お願い」
頬に添えられていた父の手を握る。上から指をからませて、きつく手を繋ぐ。
僕はもう小さい子供じゃない。身も心も、早く父のものになりたいって、ずっと願っていたんだ。
「ん……」
それから、夢のようなキスをされる。二人の心が今までで一番通じ合ったみたいな、一番甘いやつだ。
「ああ。約束する、ロシェ」
僕の瞳をまっすぐ見て、今度は一片の迷いなく、父はそう告げてくれた。
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