『此方になります』


広場から伸びた無数の横道の一つを進むと、可愛らしいが寂れた空気を纏う煉瓦造りの建物が現れた。扉の前には警官二人が立ち、此方に気付くと鋭い敬礼をよこした。


第一の被害者ダーナ・ライエルは自宅で花屋を営んでいた老媼。彼女は夫と十年以上前に死別し、娘が一人いたが隣町に嫁いだためにダーナは一人暮らしだった。

音もなく開く扉は五人と共に外気や日光を真っ暗な室内に招き入れた。

既に死体など無いのに室内はむせかえるような死臭に満ちていた。

成る程、ここに少しいるだけでシーのように臭いがついてしまいそうだ。

パタパタと飛んでいたティムキャンピーがアレンの髪に顔と思われる部分をうずめて静かになった。

口と鼻を覆いながら中に入ると、一人暮らしには広く馬車が二台程入りそうな室内を見渡す。日当たりはそれほど悪くはないのにこの暗さは何だろう。そう疑問に感じた理由に気付き、息をのむ。

配置される家具や壁などは部屋の入り口辺りに向いた面だけが全て、酸化した血液によって黒く塗り潰されていた。

先刻読んだ解剖資料にあった状景が否が応でも描き出される。

よく見れば床や壁には、無惨な肉片があったと思われる至る所にチョークの印がある。入り口に一番近い所に配置された机の上には他より大きな印。そこに首が置いてあったのだろう。この現場検証をした鑑識の忍耐には心服する。

誰も何も言わず、言えず、嫌な沈黙が流れる中で現場を隅々まで観察する。と言っても幸か不幸か実物が無いため収穫など皆無だろう。


「ここはもう用無しだな」

「そ…さね…」

「残りの二人も…」


『はい、同じような状態です』


シーはもう見慣れてしまったのか、表情を曇らせながらも淡々と肯定した。
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墮天の黒翼

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