『あーあ、やっぱり先に来てたんだ』


倉庫の扉を閉めると同時にギィッと鳴る入り口の扉がゆっくりと開いた。
かけっこに負けて悔しいと言わんばかりの子供じみた言葉とは裏腹に、感情の篭らない切り裂きジャックの姿。
神の道化を纏ったアレンとリンクにゆっくりと歩み寄る死は、レイガンのいる倉庫を一瞥するとニコリと微笑む。「退け」と言っているのだ。その手のブローカー達の血を吸った刃が鈍く煌く。
ふとその行動に彼は疑問に思った。彼女の力なら、瞬時に間合いを詰めて自分たちの首を刎ねるくらい造作も無いのではないのか。少なくともヘイゼルの襲撃で実力は分かっているのに。

「(そういえば何で僕は殺さなかったんだ?)」

続けざまに過ぎった、無傷だったミネルヴァの姿。

水蒸気のような憶測が急速に冷やされて氷の粒のように形を成していく。やがて大きな塊となったその答えが命を持ち、囁いた。

この引き千切られそうな心を伝える手段は、一体どれ程あるのだろう。
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墮天の黒翼

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