『残念だったね、邪魔されちゃって』

『うん、血塗れた刃って奇麗なのに』


エクソシスト達を出し抜き、目覚め始めた街を走る。先刻ヘイゼルを殺したときに襲撃してきたAKUMAやエクソシストの戦いの痕という種は順調に芽吹いたようだ。そのまま大輪の花を咲かせるといい。しかし、じっくりとその花を愛でてやりたいが、生憎そんな暇も無いのが口惜しいところ。だがそれも致し方ないのだ。


『もう、終わっちゃうね』

『うん、終わっちゃう』


名残惜しそうに呟くと、それに自分が呼応する。その声を風が弄ぶ。
双子であることを気付かれてしまった以上、投降してしまったギネヴィアの所在を知るには手間がかかる。恐らく始末することはもう不可能だろう。
そうなれば残るのはこの先にいるレイガンのみ。

ふと、探索部隊の姿のシーの顔に不安が過ぎる。隣を走るもう1人のシーが気付き、首を傾げた。


『これで認めてくれるかな…』

『大丈夫だよ。だって私たちは“ユダ”を“世界”のために殺し続けるんだって、証明しているじゃん。それにエクソシストにも負けない。教団は“世界”のために強くて有益な人材は認めるし』

『“世界”…、』

「僕達エクソシストの中にも、教団のいう“世界”のためにと戦っていない人もいますよ」


足が重みを増していく。地面から生えてきた見えない糸に絡み付かれる。
気付いたときには、もうそこに縫い付けられていた。
もう1人の自分が心配そうに覗き込んでくる。


『どこか怪我をした?』


小さく否定を返せば、訝しそうな瞳が瞬く。そんな目を向けられても困ってしまう。自分でも何故だか分からないのだ。


『…私たちにとっての、“世界”は…』


暫く黙り込み、漸く浮かんだ問いかけ。一瞬意味の分からなかったらしい片割れだが、すぐに険しい顔つきになる。


『何を言われたの?』

『…エクソシストにも、教団のいう“世界”のために戦っていない人もいるって』


驚きに見開かれたその瞳は、きっと先刻の自分のもの。


『嘘だよ、それ』


その声は震えていて、


『ねぇ、私たちの選択は…間違っていないよね?』

『…うん、間違っていない』

『教団は認めてくれるよね?認めてくれたら…、私たちの“世界”は、』

『ッ!』


ドンッと大きな衝撃が大地を揺らす。
気を取られていて気付くのが遅れてしまった。ザザッと石畳を擦りながら体勢を整えきる前にさらに後方に飛び退く。片割れも上手くかわせたようで、土煙越しに一点を睨み付ける姿。それに心中で安堵したのも束の間、靡いた漆黒のコートに見覚えの無い裂け目が一つ。


「よぉ、道端で井戸端会議か。随分と余裕だな」


不適に口元を歪める男に舌打ちをする。
届かせてしまった、エクソシストの刃に。


「何に苛つく?切り裂きジャックっつっても只の人間と分かった今、俺がお前らに劣るわけ無いだろ」


カチャッっと刀を構えたエクソシストが踏み込む瞬間を見たときにはもう既に反射でしか対応できなかった。弄んでやった先程とは明らかに違うその動きに即座に判断し、二人でその刃先を弾き流す。コイツ、AKUMAかどうか、何の能力を持つか懸念して本気ではなかった、とでもいうところか。自然と漏れそうになる舌打ちを辛うじて飲み込む。
痺れを覚えるその攻撃を受け続けるのは得策ではない。


「楽しいのか?」


ギリギリと見えない刃を擦り合わせながら男のそれを受け止めていれば降ってきた言葉。眉根を寄せるとその鋭利な眼が鋭さを増す。それに湛えられた思惑が計りきれない。


『楽しいって、何に対して?』

「殺すことが」

『何、急に』

『楽しいに決まっているじゃん』

「本当か?お前らの刃には躊躇いがあるぜ」


キィッと不快な音が立つ。男は何もしていない。音を立てたのは何なのか。


『残念。思い違いだよ』

『そんな面倒なもの、持ち合わせていないし』

「気付いていないんだな。まぁ、俺には関係無いが」


耳障りなほど鋭い金属音を立てて横薙ぎする攻撃の威力を利用し、わざと後方に吹き飛ばされる。そのままそれぞれ建物の隙間に転がり込むと、互いに背中を向けて走り出した。
今は二手に分かれるしかない。


『邪魔されて堪るか』


毒づいたのは、はたしてどちらの声なのか。



再び逃走した双子のうち、探索部隊の方を追跡する神田の後ろに鉄槌の伸で追いついたラビが半ば転がりながら着地し、彼を追う。


「レイガンの方にはアレンと監査官が行ったさ。間に合うとは思うけど」


神田は一瞥するだけで何も言わない。ふとその無傷と思われる体を見たラビが一つの疑問に行き着く。その疑問を投げかけられた彼の眉間には新たな皺が深く刻まれた。


「ユウ、あの双子って攻撃してきた?」
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墮天の黒翼

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