彼女の反応に首を傾げていればその視線の先の暗い路地に何かが動くのが見えた。
発動出来ない左腕を構える。


「急がなければならないというのに何故油を売っているんですか」

「あ、リンク!」


そこにいたのはリンクだった。呆れた顔でアレン達を見るやいなや、シーに先に行くように促す。彼女は一礼をするとギネヴィアの家へと走って行った。
その背を見送ったリンクがアレンへと視線を戻し、イノセンスの左腕に眼が止まる。


「コートを脱いで左腕を見せなさい」

「え?あ、うん」


再度呻きながらコートを脱いで右手に持つと、リンクに向かって激痛の走る手を伸ばす。彼は痣の場所を確認するとマッサージを始めた。


「〜っ!!ちょっ、痛いって!」

「これくらい我慢しなさい」


ピシャリと言われたアレンは仕方なく我慢して大人しくする。
だがその我慢もほんの僅かな間だけ。一分もすれば痛みが無くなってしまった。


「凄い、全然痛くないや」


感心しながら左腕の感覚を確かめる。どんな動きをしても違和感は無い。


「リンク、監査官辞めてマッサージ師になれば?科学班とか喜ぶよ」

「あり得ません。私は今のツボへの刺激に対処するやり方しか知りませんから」


リンクは目を合わせない。


「…何か僕らに隠しているよね」

「……」


この任務についてからぎこちない彼の反応を極力流すようにはしてきたが、どうしても気にかかるのだ。


「…恐らく、直に分かります」


どういう意味かと問えばまた黙り込む。話す気はないらしい。
仕方無い、直に分かるというなら今は待とう。レイガンの身が心配だ。

再び走り出すアレンの後をリンクが無言で追う。その走り出した先に小さな光るものが宙に浮いていた。


「ティム…?」


パタパタとその場に留まりながら飛ぶティムキャンピーは、静かにアレンの元へとやって来た。
そして口をまごつかせると無数の歯を剥き出しにしてホログラムの映像を映し出す。

そこに映し出されたのは砂煙の立ち込めた場所に立ち、顔をしかめるラビ。後方に神田もいる。


《ティムキャンピーにはこの映像をアレンと監査官にしか見せないように言ってある》

「僕とリンクだけ…?」

静かな街にラビの声が染みていく。


《アレン、今すぐギネヴィアの家に行くんさ。俺の言うことは走りながら聞け》


レイガンのことが心配だがわざわざティム越しに伝えて来たのだ、それなりの理由があるはずだ。
訳の分からないままとりあえずティムを掴んで走り出した。
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墮天の黒翼

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