結局この日は犠牲者を二人出しながら犯人を捕まえることは出来なかった。ただ目撃証言という光が警官達に活力を与えたようである。

犯行が日中にも起きてしまったため、反対したリンクも折れた。アレン達はブローカーらを終始見張ることになった。

レイガン・バルドーをラビ、ヘイゼル・キースをアレンとリンク、ギネヴィア・ホフマンを神田が担当し、シーは食事の配給や街のサポーターへの聞き込みに走った。


《いきなり陽の高い時間に八つ裂き、しかも二人同じ日に殺すってやっぱり妙さ。急過ぎるだろ》

「ですよね…」

《アビーの殺害自体もそうだけど、目撃者の警部の母ちゃんに一切危害を加えないなんてなぁ…。切り裂きジャックは何を考えてんだろうな…》


一抹の不安も杞憂で、ミネルヴァはAKUMAではなかった。
切り裂きジャックはある程度殺戮衝動などを制御出来る、理性の高いAKUMAなのだろうか。しかしAKUMAなら無作為に攻撃をするはず。証言してしまう危険性のある人間を残さないだろう。
仮にノアであるなら、時間がかかって目撃されるリスクの高い手段で殺害する必要はないのではないか。もし人に見せるための殺人が彼らの娯楽だとしたら話は違うが。


《ん〜、一般的には規則的に犯行を繰り返す犯罪者はその規則に執着する傾向があるんさ。でもアビーは殺された。もしかしたら切り裂きジャックに心境の変化とかがあったかもしれないさ》

《エクソシストが来たことが刺激になったんだろ》

《そうかもしれない》


一貫性がアビーの事件から崩れてしまった。
犯人像も朧気にゆらゆらと輪郭を保てない。
悶々と無線越しに唸る彼ら、特にアレンは昼間からずっと眉間に皺を寄せたまま。目を伏せてじっと左手を見つめる。


(僕は、人間とAKUMA…、両方を救済すると誓ったのに…)


狙われているのを知っていながら、助けられなかった。たとえブローカーであっても人間は人間、命の重みは同じだ。

左手の平に爪が食い込むのも構わず、アレンは力一杯握り締めた。

その様子を横目で見ていたリンクは視線をターゲットのヘイゼルに戻す。病院の窓から見える白衣を纏わない彼は丁度帰宅準備を済ませたらしく、同僚の医師や看護師達に挨拶をして院内から出て来た。

それに気付いたアレンも気持ちを切り替えた。
予めシーから訊いていた帰路をヘイゼルは変えることなく進んで行く。万が一のための距離を保って尾行をすれば、ヘイゼルは灯りの点く街灯が照らせない闇に入る度、周囲を警戒するように見回すことを繰り返しながらそのまま帰宅した。
[*prev] [next#]
墮天の黒翼

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -