既に街のそこら中に配備されていた警官達の間で騒ぎになっていたため、道案内など不要だった。
噂する警官を辿って東街区の商店街に滑り込むと、小さな警官の人集りが二つ。
一つの集る理由は直ぐに分かった。


「アビー・テイラー…っ」


そこには四肢を失った体が仰向けに転がっていた。横に青果店の木箱が幾つか積まれており、その物陰から大きな血溜まりが地面を侵蝕する。恐らく其処に切り離された体があるのだろう。

ブローカーが連続して殺害されてしまった。しかし今回は死体の状態が違う。切り裂きジャックとは違う者が現れたのだろうか。


エクソシスト達に続いてリンクが、まもなくしてシーが、多少遅れてサイモン警部が到着した。
サイモンは遠くにアビーの亡骸を視認すると黙礼し、別の警官の人集りをかき分ける。その中心にはガタガタと体を震わす老婆が一人座り込んでいた。
サイモンは彼女を見るやいなや血相を変え、彼女は彼女で警部を目にした途端に彼に抱き付き、わんわんと泣き出す。

知り合いなのかと首を傾げていれば、困惑したサイモンが答えた。


「この人はミネルヴァ・ノーゼル、私の母です」

「母…!?」


呆然と両者を交互に見比べる中、ミネルヴァが叫ぶように言った。


「あいつだよ…ッ血まみれの…!」

「血まみれ…?」


この場にいた全員が、もしやと思った。
深呼吸をした息子は歪む表情に力を込めて無理矢理繕うと、母の皺の走る手を無骨な手で優しく包んで目をしっかりと見る。


「母さん、落ち着いてからでいい。見たこと、覚えていることを話してくれ」
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墮天の黒翼

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