鑑識が現場検証をし、カイルの飛び散った体を一つ残らず回収し始めた頃に漸くシーが追い付いた。彼女はこの光景を予想をしていたのか、一瞥すると顔を伏せたまま何も言わなかった。
現場が見える反対側の路地で各々の思いを巡らす。
「…今まで通り犯人の証拠は無し。犯行は時間以外ほぼ変えず、か…」
「恐らくAKUMAの可能性は、低いです。左目はずっと何も、反応はしなかったから…」
俯き、様々な感情が捻れ暴れるのを必死で抑え込む彼らの顔は歪んだまま。
「やっぱり…伝えませんか、残りの四人に…」
「そうだよな、いくらブローカーでも命は同じさ」
此処に長居している場合ではない。
「待ちなさい」
ブローカー達の元へと走り出そうとした二人をリンクが留めた。
「…彼らは、加護対象外です。連絡の必要はありません」
「…何を、言っているんだ…ッ」
静かに抑えた怒りをアレンは彼にぶつける。ラビは此処で言い争う暇は無いといいながら彼を宥める。
その間もリンクは一切視線を巡らすことは無かった。
言い合う二人を余所に横目で鑑識の行動を見ていた神田が気紛れに視線を正面に戻すと、視界に俯いたシーの頭が見えた。
ふと一瞬、微かな違和感を覚える。
初めは気のせいかと思ったが、偶々顔を向けたラビも感じたらしい。
「…シー、何か雰囲気変わった…?」
『え…?』
きょとんとした彼女は首を傾げるが、シャワーを浴びたからではないかと理由づけた。
そうかと納得する彼に僅かな余裕が生まれたのだろう、堅いものの小さな笑みが零れた。
まだ張り詰めた空気を感ずる呼吸のしにくい鉄のように重苦しかった空間に風が流れ始めたとき、路地の入り口辺りが騒がしくなった。
何事かと此方にやって来たサイモン警部と共に五人が顔を覗かせると、野次馬と同僚をかき分けた一人の警官が路地に転がりこんできた。
「また…っまた東で犠牲者が…!」
「っ…!」
エクソシストは最後まで聞くことなく路地を飛び出した。
既に見づらくなってしまった背を追うために走り出したシーは立ち止まった。
先刻から同じ所に立ったまま俯くリンクが気にかかったからだ。
『どうなさいましたか?』
「…いえ」
先に行きます、とリンクは伝えるとシーを見ることなく走り出した。
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墮天の黒翼