疲労困憊でも全力疾走で案内してくれた警官を疎らな野次馬の制御役に残し、到着を待っていた顔色の悪いサイモン警部が敬礼をする。
彼の計らいで西街区十一番の路地の入り口に張られた黄色いテープをくぐった。
警部の側で同じように顔色を悪くして今にも吐きそうだと言わんばかりの警官達も、いきなり現れた黒づくめの一行に戸惑いながら敬礼を寄越した。

路地を入って直ぐに鼻をついた血の臭い。一つ角を右に曲がると、そこにあの狂気が具現化される。


「っ…」


悔恨に歯軋りをすれば、口内に鉄の味が広がった。

人が二人並んで歩けるかどうかという狭い路地。形成する壁が高く薄暗い。

どす黒い赤に侵蝕された空間に点在する肉塊と骨に、切り裂かれた衣服。あれは腸だろうか、細長いものが歪な丸い額縁のように一角に枠を描く。
そこには綺麗な形を保った心臓が一つと、


「…カイル・エドモンドさ、間違いない…っ」


最早人間としての形から遠のいてしまった首が添えられていた。
下顎は右側から骨ごと切り外され、皮一枚で左側と繋がった顎が有り得ない方向に向いて頭の横に立て掛けられていた。
切り裂かれた頭部の皮膚が捲れて頭蓋骨の一部が見える。右目はくり抜かれ、辛うじてぶら下がる左目がゆらゆらと揺れる。

原型は最早無かったが、その一部一部は写真とラビの記録にある 彼そのものだ。


「畜生…っ」


握り締めた拳で壁を殴ることしか出来なかった。
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墮天の黒翼

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