ビチャッ、ベチャッ、と嫌な水音が狭い路地に木霊する。その合間に響く、ぶちぶちっと耳を塞ぎたくなるような肉を引きちぎる音も。
ぐちゃぐちゃとまだ生暖かい肉に片手を突っ込むと飛び散る紅。
骨を避けて弄れば、手のひらに辛うじて乗る大きさのモノに行き着く。柔らかいが、ある程度備え持つ筋肉の硬さが紡錘形に近いその形を保つ。丁重にもてなすように、体内で重力に従うそれの下に手を差し入れ、外界と遮断する肉壁を切り裂いた。
もう機能を失ってから多少の時間が立ってしまった塊は大きく鮮やかな華を咲かすことはない。ただ紅がだらしなく石畳を濡らしていく。
障害の無くなったそこから余興を招いた。
さぁ、お前の舞台は其処に用意してある。
多少形が乱れてしまったのは冷やかしのネタにでも使ってもらおうか。
お前は此処で後から来るゲストを迎えるのだ。
あぁ、不安なのかい?
“一つ”では寂しく、緊張もするだろう。
大丈夫、今から其処に“一人”加えてあげるから。
真っ赤に染まった手に光る刃。
ヌルヌルと滑る手で握り直す。
ゆっくりと焦らすように腕を上げ、それに振り下ろした。
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墮天の黒翼