「うわ、本当にいるさ…!」
『とりあえず成功ですね…』
レイガンの店は路地に位置するというからさぞかし薄汚れたものだろうかと思っていたが、想像に反してレトロな趣の洒落た酒場だった。
地面からかなり高い所に位置した小さめの窓から中を覗くラビの視線の先には、街で殺人鬼がうろついているという割には多くの人が相席しながら酒を手にしている。その中には既にすらりとした風貌に色気を漂わすアビー・テイラーと、背の丸まった黒髪に白髪が混じるカイル・エドモンドがグラスを傾けている。二人が離れた席に座っているために見辛いのが難点だが、この窓からはカウンターで別の客と談笑している恰幅のよいレイガンも見える。
宿で顔写真は記憶していた。本人達であることは間違いない。
「どうやってあの二人を此処に来させたんさ?」
『彼らは同じ曜日に夜明けまでそれぞれの行きつけのバーに行くんです。ちょうどそれらのバーは教団のサポーター達が経営していたので、ちょっと誘導してもらいました』
「すっげぇ…、下調べ万端じゃん」
彼らの行動範囲どころか習慣まで調べていたとは、頭の下がる思いだ。
「あ、三人に通信を入れんの忘れてたさ」
ごそごそとゴーレムを取り出すとヘイゼルを見張るアレンとリンク、ギネヴィアを見張る神田に電波を飛ばす。だがゴーレムは彼らに繋げることなく小さなノイズを発するだけ。
『ここは電波が入り辛いようですね。私が通信を代わりに入れてきますね』
「いや、でも」
『ラビさんは見張りを続けて下さい。私は中を覗けませんから』
確かにシーの身長では店内を見られない。窓はちょうどラビの顔の高さなのだ。
「ん…、じゃあ悪いけど頼むさ」
お気になさらず、と笑ったシーは足音をたてないように気を配りながら開いた場所へと路地を抜けていった。
ラビが店内に視線を戻すと、ちょうどレイガンが店の奥に行こうとしているのが見えた。アビーとカイルはまだ酒を煽っている。
このまま戻って来なかったらどうしようかという彼の心配をよそに、レイガンは直ぐに現れた。
片手には琥珀色のウイスキーの入った大きなボトル。
どうやら補充をしにいっただけのようだ。
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墮天の黒翼