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完璧な降参の意志を示したリーバーの口から出てきたのは護衛という単語。それを目で新藤に確かめれば肯定の意が返ってきた。
リーバーがわざわざ危険を承知で街に出てきたのは、昔から彼のみに情報を提供してくれるサポーターから連絡が来たからであるらしい。一個人を、しかも班長を指名してその希望が通る辺り、そのサポーターは教団に重宝されているのだろう。その情報取引の後の帰路で買い物をしていたときに俺に見つかったというわけだ。
大切な教団の頭脳の一部を守るため、AKUMAを退かせることしか出来ない鴉ではなく、エクソシストに護衛を任せた。そこまでは理解できる。しかし、よりによって何故新藤なのかが腑に落ちない。

「リーバーさんの護衛には鴉が付くんじゃないんですか?」
『本当は、な』
「うっ…、すまん新藤…」

何故か呆れた目で口を挟んだ新藤にリーバーはげっそりとした顔で詫びをする。
その彼女は紙袋を大事そうに抱えて歩きながらさりげなく周囲を警戒していた。(荷物を持とうとしたら『任務帰りの奴には渡せない』と押し切られてしまった。)

「なんでお前が護衛を引き受ける」
『私でないと無理なんだってリーバーが必死の形相で直接言いに来たんだよ。それに事情を聞いたら不憫に思えてな』
「どういう意味だ、それ」
『このまま何事も無ければ教団で説明する』

声を潜めて問うたことに有無を言わさぬ答えが返ってくる。
任務に就いているときの声音とともに白い吐息を零す彼女から感じる適度の緊張感は濁りが無い。体調に関しては憂いが無いようなのは嬉しかった。だが今はそれを正直に喜ぶことよりも勝る感情が俺の奥で煮えたぎっている。それを(何かは分かってはいないようだが)感じ取っている彼女からの心配そうな視線が一度だけ寄越された。悪いとは一応思ってはいるが、今は応えたくない。
周囲にどす黒い感情が溢れているのは自覚しているが圧し留める気は更々無い。最初は何故か分からなかった原因も視界に入る彼女に意識を向けてみれば否応無しに理解できた。
普段滅多に見られない任務以外の彼女。今日の服は初めて見るし、髪は珍しく簪を使って結い上げられている。それを俺より先に見た奴が教団だけで一体どれだけいるのか。

『少しの間持っていてくれ』
「あ…?」
『瓶が入っているから落とすなよ』

人込みが丁度途切れている通りにさしかかった時、唐突に苛立ちに水を注されて理解するよりも前に受け取ってしまうと彼女は踵を返す。何事かと振り返った瞬間、

ドゴッ!
「ぐえっ!」
ベシャッ!

大男が一人吹っ飛んでいた。

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