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今回の任務はブローカーを捕獲し、その男に与えられたAKUMA達の掃除だった。捕獲はすぐに終わったのだが、雪のちらつく山中に逃走してくれたAKUMAのせいでかなりの時間がかかった。既に視界には朝日が見える。結局夜通しの任務になってしまった。

ブローカーは現地のサポーターに任せ、方舟のゲートを守る教会に足を向ける。薄っすらと雪化粧を施したこの街は丁度昨夜から収穫祭らしい。従来ある店舗以外にも出店が出され、この寒いのに活気溢れる市場が開かれていて人通りも多い。
時折俺の後ろで盛大な腹の虫の音と愚痴が聞こえてくるが、一切無視して人々の往来でシャーベット状になった雪を踏みしめながら帰路を急ぐ。奴の腹に付き合っていたらアイツと一緒にいられる時間が無くなるのは間違いない。まだ経過観察中で教団にいると分かっているとはいえ、ただでさえ会える機会が少ない境遇だ。そんな勿体無いことなんて誰がするものか。

ふと視界に入った人間に俺の視線は吸い寄せられて動かせなくなった。
ここから五軒程先のハーブを扱う出店。そこには店主らしき人物と談笑しているベージュのコートを羽織った金髪の男。その隣で紙袋を抱え、無表情で(いや、あれは物珍しそうな顔だ)多種多様のハーブを見ているのは…。見間違えるなんてあり得ない。
丁度俺に隠れて見えなかったのだろう。歩調を速めた俺の背に疑問の声を掛ける二人をそのままに向かえば彼女は、新藤は俺に気付いた。瞳だけで微笑んだ彼女を引き寄せたい衝動を抑え込む。どろどろとした感情が噴き出す俺に一瞬遅れて気付いた男はぎょっとして一歩後退した。

「か、神田…!?」
「言い残すことはあるか」
「は?ちょっ待て待てッ!」

冷や汗を噴き出す男 -リーバー- を斬り刻もうと六幻に手をかけたところで無言の新藤に止められてしまった。

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