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今回の任務は某美術館の展示品であったイノセンス、鏡の回収だ。 「こちらになります。イノセンスは最奥に展示されています。館長とは既に譲渡交渉を済ませてありますので、回収をよろしくお願い致します」 「サンキュー。じゃあ少しここで待っていてさ」 「はい」 探索部隊との会話がやけに耳に残る。独特の話し方のせいなのか、不快感が募るばかりだ。 何故こんな嘘つき兎と任務なのだろう。 (いっそのこと、AKUMAの巻き添えにして殺そうか…) (…何か寒気がするんですけど?) ラビが身震いした間に月精は扉に手をかけていた。それに慌てて続こうとした彼を刃のような目で睨み制す。代わりに探索部隊に手招きをした。 『お前は私と来い』 「え?あ、はい」 「ちょ、新藤?」 『兎は黙れ』 「だからラビだって」 『そんなモノどうだっていい。どうせ仮の名だ、本当のお前じゃない』 「…まぁそうだけど」 『初見で言ったはずだ。“張り付いた笑みは嫌いだ”と』 そうだった。 自信のあった“笑顔”を初めて見破った女(ユウにもバレたけど)。 「あの頃も今も変わってないって言いたいんさ?」 『さぁな』 「…で、御用件は?」 『外にいろ』 「…ハイ?」 この方は何をおっしゃる、エクソシストである自分はイノセンスの回収のために赴いたのに。 探索部隊もどうしたものかと困惑気味だ。 『美術館を全壊にしてみろ。流石のヴァチカンも悲鳴をあげるぞ』 「あ…」 言われてみれば確かにそうだ。館内には億単位、もしくは値のつけられない逸品が腰を据えている。 『“いる”アクマは寄越してやる。それで遊んでいろ』 「嫌な遊び相手さ…。まあいいけど。二人とも気をつけるさ」 ラビの声を無視して館内に入る背中を、一礼した探索部隊が慌てて追っていく。気配が遠退いていくのを感じながら、彼は盛大な溜息を吐いた。 |
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