08


今回の任務は某美術館の展示品であったイノセンス、鏡の回収だ。

「こちらになります。イノセンスは最奥に展示されています。館長とは既に譲渡交渉を済ませてありますので、回収をよろしくお願い致します」
「サンキュー。じゃあ少しここで待っていてさ」
「はい」

探索部隊との会話がやけに耳に残る。独特の話し方のせいなのか、不快感が募るばかりだ。
何故こんな嘘つき兎と任務なのだろう。

(いっそのこと、AKUMAの巻き添えにして殺そうか…)
(…何か寒気がするんですけど?)

ラビが身震いした間に月精は扉に手をかけていた。それに慌てて続こうとした彼を刃のような目で睨み制す。代わりに探索部隊に手招きをした。

『お前は私と来い』
「え?あ、はい」
「ちょ、新藤?」
『兎は黙れ』
「だからラビだって」
『そんなモノどうだっていい。どうせ仮の名だ、本当のお前じゃない』
「…まぁそうだけど」
『初見で言ったはずだ。“張り付いた笑みは嫌いだ”と』

そうだった。
自信のあった“笑顔”を初めて見破った女(ユウにもバレたけど)。

「あの頃も今も変わってないって言いたいんさ?」
『さぁな』
「…で、御用件は?」
『外にいろ』
「…ハイ?」

この方は何をおっしゃる、エクソシストである自分はイノセンスの回収のために赴いたのに。
探索部隊もどうしたものかと困惑気味だ。

『美術館を全壊にしてみろ。流石のヴァチカンも悲鳴をあげるぞ』
「あ…」

言われてみれば確かにそうだ。館内には億単位、もしくは値のつけられない逸品が腰を据えている。

『“いる”アクマは寄越してやる。それで遊んでいろ』
「嫌な遊び相手さ…。まあいいけど。二人とも気をつけるさ」

ラビの声を無視して館内に入る背中を、一礼した探索部隊が慌てて追っていく。気配が遠退いていくのを感じながら、彼は盛大な溜息を吐いた。

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