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館内に入ると、妙なオーラを放つ美術品が目に入った。 高い天井に二人分の靴音が反響する。休館日を選んだため、来館者は他にいない。 館内図で確認していた鏡の展示室に真っ直ぐ進む彼女の背に、探索部隊は躊躇いがちの声を掛ける。 「何故私を連れて行くのですか?」 『外にいれば戦闘に巻き込まれる。まだ生きていたいだろう?』 一瞬彼女の言葉を図り損なうところだった。この後襲撃が必ず起こるということだ。 「御一人だけでよろしいのですか?」 『何がだ』 「あの、ラビ様だけで…」 『構わん。“この程度”の奴で死ぬほど弱くはないだろう。なぁAKUMA、貴様はどう思う?』 え、と声を上げた探索部隊の後ろに掛けられていた貴婦人の肖像画から瓜二つの姿がズルリと抜け出し、その顔に似つかわしくない下品な笑みを浮かべる。 [何故気付いたのかしら?] 『殺気が隠しきれていないんだよ』 [チッ、まぁいいわ。この人間を守りながらでは私の遊び相手など出来ないでしょう!?] 転換し、恐怖に身を強張らせた探索部隊に襲いかかろうとした。だがその凶器が血に濡れることは無かった。 【動くな】 [なっ、何!?] 【そのまま館内から出て行け】 ギャーギャーと喚き叫び、何故か自分の意思にそぐわないボディにAKUMAは混乱している。 探索部隊が呆然としながらその後ろ姿を見送る。暫くしてラビの声とアクマの絶叫・爆発音が聞こえてきた。 彼が我に帰って辺りを見回したとき、既に月精の姿は無くなっていた。 |
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