よん。



あれから2週間が経ったが大して変わったことはない。
いつも通り部活とは言わない部活をして、あいつの家に泊まったりいつも通り遊んだりして
前と何な変わらない生活をしている。
やっぱりそれは心地良いし、何ならそのまま変わらないで居てくれさえ思う。
ただ唯一一つ変わったのはあいつとお昼を食べることと一週間のうち2つある決まった時間にサボること。これと言っては内容はないが、何となく知りたいと思ったから。
無理にあいつを知ろうとも思ってもないし、単に泊まりが多いからよく弁当一つ大きめで作って二人で食ってたし、サボりたい時間が一緒でサボってるだけ。
それがやっぱり心地よくて、何だかんだこいつの隣は温かいなと思ってしまう。
あいつの気持ちに答えようとかじゃなくて好きだから居るっていうのはいいなと思ったんだ。

まあそんなこと思いつつも只今告白真っ最中なわけだが。
誰だっけ、確か隣のクラスの奴の妹だったか。
何ていうか顔を赤くさせおどおどしている姿は女の子らしいなとは思うが、
やはり何処か心が冷めきっていて、どうせこいつもお飾りが欲しくて俺に告白してるんだろうと思ってしまうわけで…。
我ながらスレてるなあなんて。じゃあ前と同じで付き合いたいかと思えばそんな気持ちにもなれないが鈍っている自分もいる。大体何で俺なんだよ、よそ探せばいくらでも俺の変わりなんて居るだろ…。

「先輩…?聞いてますか…?」
「あー…」

本当何で俺なんだよ。
告れば簡単に付き合えるから?それとも?

「ごめん、今は部活と受験で忙しいから」
「っ…!私本当に好きなんです…!」
「好きなら尚更理解してほしいんだけど」


グスグス泣いて去っていく女子生徒に悪いことしたかなあなんて思うが、そもそも俺はあの子を知らないわけだ。やっぱりスレてんのかな。
だけど俺偉いな、ちゃんと振ることが出来るってこともわかったし。
あーでも勿体なかったかな、暇つぶしは軽く出来たはずだし。
するとピコンとスマホが鳴る。画面を見れば夏貴からだった。
『今何処?』だけの文字。今日は別に一緒にサボる日でも無ければ今授業中だし、
そんな俺のこと気になるわけ。流石俺モテモテだわ。

『裏庭』
『えっちなことしてるんでしょ!エロ同人みたいに!』
『やだ夏貴くん、妄想がお盛んで』
『はじめ先輩の交尾活動なんてどうでもいいんだよ、早く調理室ヘルプ』
『????』
『われ、パン、焼いてる』
『待ってろ』

え、こいつ本当に俺のこと好きなの?って思ってしまうほど変わらない内容。
俺の交尾活動どうでもいいって俺もどうでもいいんだけど。
まあ夏貴の焼くパン美味しいし手伝いには行くけど何であいつ家じゃなくて学校でパン焼くんだよいつも。しかもホームベーカリー持ち込みだし。
調理室まで向かう途中ちらりと見えたさっきの女子生徒とそれを慰めてる友人らしい奴の姿。
そこまで自信あったのかね、俺が告白受け入れるとでも思うって確信が心底あったのだろうか。
あのままあの子と付き合ってたら?結局みんな一緒に見えるんだよ。
俺と付き合ってメリットでもあるのかよ、どうでもいいって俺は思ってんだよ?そんなんでもいいって思ってるってことはそいつらもそういう意味で関わってるんじゃねえのかよ。
あー女子ってわかんねえよ。

「夏貴さーん、パン焼けたか?」
「今!恨みを!込めてる!!」

調理室に着いて中に入れば只今全力でパン生地捏ねまくっている夏貴がそこに居た。
てか貴方床に打ち粉ばらまいてますけどきったね。それ掃除するの俺だろお前の魂胆わかってんだよ。
相変わらず綺麗に生地作る割には美味しくなる秘訣が恨みと執念という独特な愛情をお持ちなそいつは真剣な顔つきで目の前のものと格闘中だ。

「誰の恨み?」
「お前だよお前!おまっ今日パン作るって言ってたじゃん!」
「知らねえよさっき知ったわ」
「今日の朝急に桃浪さんからあっパン食べたい作ってって言われた気持ち考えて」
「御免遊ばせ」

げへへ、みんな不幸になあれ
多少なりとも可愛い部類な笑顔なのに言ってることは執念丸出しなのキモい。
それであんだけ美味いパンが焼けるんだからお前は魔女かなにかだよ。
別に今俺が手伝えることなんてないから隣でじいっと見ていれば楽しそうに作る顔。
そういえば俺こいつのこの顔好きなんだよなあ。
まあ考えてることクソすぎてこいつの頭の中には脳みそすら無いとは思ってるけど、
やっぱりこいつの笑顔は好きだ、見ていて暖かくなる。我ながらキモいな。
まああの親ばか玄兎が夏貴の笑顔は太陽みたいな感じっていうぐらいなんだからそうなんだろう。

「隠し味が執念な理由知ってる?」
「知らん」
「ムカつく、嫌い、こういうとこ嫌いって言いながらその人のことずーっと考えてるからだよ」
「?」
「嫌いとか言いつつずっとその人のこと考えてるなんて好きな裏返しじゃん?本当に嫌いならさ考えてたくもないぐらい嫌いなはずなんだよ。寧ろあー本当にこういう奴嫌いだなあって無関心にならない?それなのにずっと考えちゃうんだよ」
「あー…わかるかも」
「その人が嫌いになればなるほど考えちゃうってその人に考えが支配されるぐらい心の底から憎いほど好きなんだろうね」

だから俺は執念込めるんだよ。
歪んだ愛なのに言ってること聞いていればへーそういう考えもあるんだなあなんて妙に納得してしまう。まあ人には色んな考え方があるわけだがこういう考え方も面白いと思う。
俺には全く考えられない見方だ。そう考えると無関心になってしまうのが一番心に来るな。
言うて今まで別れた相手も俺が無関心だったわけだ。


何ていうか本当に人の心を動かすのが上手い奴。

「米粉パン面倒くせえなまじ。あいつふとしたきっかけで小麦アレ治んないかな」
「小麦アレなのにパンとかグラタンとか好きだからなあ」
「心の底から面倒くせえ」
「お前の執念見せてやれよ」
「俺の執念は安売りするほどお手頃なものじゃないのよ!」

じゃあそのパンの中に入ってるもの何なんだよ。
でも心底楽しそうに笑ってるの俺も楽しいよ。



prev next

 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -